小説
暴れん坊
(二)
竹芝道場は紹介者がなければ入門できない。信じるに足る人物が、これぞと思う猛者を送り込んでくるのだ。
かつては軍関係や華族の子弟が多かったし、武道の関係からも多くの門弟が紹介されて入門してきた。柔道の講道館館長、嘉納治五郎からの紹介者も数人いる。
吉田忠志は筋がよかったのか、道場でもめきめきと頭角をあらわした。そして今や道場でも有数の使い手となっていた。
入門して四年、ちょうど技も自在に扱えるようになり、怖いものなしという時期だ。
そして、そんな吉田が、とうとうある時、道場の離れから出てくる坂上三蔵とばったり出くわしてしまったのである。
一瞬、困ったような表情を見せた坂上三蔵だが、そこはやせてもかれても組長である。落ち着いて襟を直すと低い声で答えた。
「おう何だい、竹芝道場の若い衆かい。とんだところで会っちまったな。だが、このことはお前の先生の竹芝さんも先刻ご承知だぜ」
竹芝宗平が、坂上三蔵の所業を知っていると聞いて吉田の顔がひきつった。
「な、何!竹芝先生もご承知だと。ふざけるのも大概にしやがれ。お結さんは先生の大恩ある方のご令嬢だ。貴様みたいな下衆野郎が通うことを承知なさるものか!」
「ほう、下衆野郎ときたか」
坂上三蔵は元草相撲の大関を張った男である。身長六尺、体重は三十貫はあろうという巨躯である。対する吉田忠志は身長五尺四寸、体重は二十貫に満たない。その坂上がゆっくりと顎を下げ、吉田の側へ歩いてきた。さすがに隙がない。二人の間を、喧嘩する者同士の独特な、静かな緊張感が満たした。
「下衆で悪けりゃ、肥溜め野郎だ」
言うが早いか吉田は飛ぶように近づいて、坂上の足を思い切り蹴り上げた。坂上はとっさに右によけたが吉田の下駄の角が足に当たったのか、顔を曇らせた。
かつては軍関係や華族の子弟が多かったし、武道の関係からも多くの門弟が紹介されて入門してきた。柔道の講道館館長、嘉納治五郎からの紹介者も数人いる。
吉田忠志は筋がよかったのか、道場でもめきめきと頭角をあらわした。そして今や道場でも有数の使い手となっていた。
入門して四年、ちょうど技も自在に扱えるようになり、怖いものなしという時期だ。
そして、そんな吉田が、とうとうある時、道場の離れから出てくる坂上三蔵とばったり出くわしてしまったのである。
一瞬、困ったような表情を見せた坂上三蔵だが、そこはやせてもかれても組長である。落ち着いて襟を直すと低い声で答えた。
「おう何だい、竹芝道場の若い衆かい。とんだところで会っちまったな。だが、このことはお前の先生の竹芝さんも先刻ご承知だぜ」
竹芝宗平が、坂上三蔵の所業を知っていると聞いて吉田の顔がひきつった。
「な、何!竹芝先生もご承知だと。ふざけるのも大概にしやがれ。お結さんは先生の大恩ある方のご令嬢だ。貴様みたいな下衆野郎が通うことを承知なさるものか!」
「ほう、下衆野郎ときたか」
坂上三蔵は元草相撲の大関を張った男である。身長六尺、体重は三十貫はあろうという巨躯である。対する吉田忠志は身長五尺四寸、体重は二十貫に満たない。その坂上がゆっくりと顎を下げ、吉田の側へ歩いてきた。さすがに隙がない。二人の間を、喧嘩する者同士の独特な、静かな緊張感が満たした。
「下衆で悪けりゃ、肥溜め野郎だ」
言うが早いか吉田は飛ぶように近づいて、坂上の足を思い切り蹴り上げた。坂上はとっさに右によけたが吉田の下駄の角が足に当たったのか、顔を曇らせた。