小説
暴れん坊
(三)
「この野郎!」
坂上が顔を朱に染めてその太い右腕で殴りかかってきた。吉田はそれを左にかわすと同時に手首を取り、勢いに逆らわずに坂上の手をぐいと引っ張ると、くるりと体を回して坂上の手指を極めた。合気柔術の三か条という技である。この技はかけられると体が爪先立ちに浮いてしまい、相手がはずそうとすればするほど、痛みが激しくなるという恐ろしいものだ。
(何の、このくらいの小手先技)
と思って坂上はその太い腕を捻ってはずそうとした。とたん、
「あ、痛!」
「おい、坂上、あまり動かんほうがよいぞ。自分で骨を折ることになるぞ」
吉田は逃げようとする坂上をぐいぐいと極め上げると、そのまま裏にある田んぼまで連れて行く。坂上は足をととっと爪先だって歩かされながらついていかざるを得ない。足で蹴ろうとか、もう一方の手で何とかしようとするのだが、その度に敏感に察して、吉田が力を入れて極め上げるので全く反抗できない。
「い、痛え!離せ!離しやがれ」
坂上は顔を真っ赤にして怒鳴るが、吉田は涼しい顔で連れ歩く。川を渡り、田の畦の脇にあった肥溜めの近くまでくると、その中に坂上を放り投げた。いや、それだけではない。汚物にまみれながら上がってこようとする坂上を、そばにあった竹竿で巧みにつつき、上がらせようとさせない。
「てめえ!こんなことしやがって、ただぁ済むと思うなよ!」
最初は強がっていた坂上だが、何度も何度も肥溜めに突き落とされると、もう叫ぶ気力もなくなってきたのか、泣くような顔をして、
「もう、わかった。わかったから勘弁してくれ」などと言う。
ところが、吉田はやめない。
これまでも、師匠の弟子たちが口ではいろいろと言っていたが、誰も直接手を出さないのを一本気の吉田は業腹に思っていたところだった。こんないい機会はない。
坂上が顔を朱に染めてその太い右腕で殴りかかってきた。吉田はそれを左にかわすと同時に手首を取り、勢いに逆らわずに坂上の手をぐいと引っ張ると、くるりと体を回して坂上の手指を極めた。合気柔術の三か条という技である。この技はかけられると体が爪先立ちに浮いてしまい、相手がはずそうとすればするほど、痛みが激しくなるという恐ろしいものだ。
(何の、このくらいの小手先技)
と思って坂上はその太い腕を捻ってはずそうとした。とたん、
「あ、痛!」
「おい、坂上、あまり動かんほうがよいぞ。自分で骨を折ることになるぞ」
吉田は逃げようとする坂上をぐいぐいと極め上げると、そのまま裏にある田んぼまで連れて行く。坂上は足をととっと爪先だって歩かされながらついていかざるを得ない。足で蹴ろうとか、もう一方の手で何とかしようとするのだが、その度に敏感に察して、吉田が力を入れて極め上げるので全く反抗できない。
「い、痛え!離せ!離しやがれ」
坂上は顔を真っ赤にして怒鳴るが、吉田は涼しい顔で連れ歩く。川を渡り、田の畦の脇にあった肥溜めの近くまでくると、その中に坂上を放り投げた。いや、それだけではない。汚物にまみれながら上がってこようとする坂上を、そばにあった竹竿で巧みにつつき、上がらせようとさせない。
「てめえ!こんなことしやがって、ただぁ済むと思うなよ!」
最初は強がっていた坂上だが、何度も何度も肥溜めに突き落とされると、もう叫ぶ気力もなくなってきたのか、泣くような顔をして、
「もう、わかった。わかったから勘弁してくれ」などと言う。
ところが、吉田はやめない。
これまでも、師匠の弟子たちが口ではいろいろと言っていたが、誰も直接手を出さないのを一本気の吉田は業腹に思っていたところだった。こんないい機会はない。