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短編小説


きつねの鳴き声

むかし、むかし、ある所に一匹のキツネが住んでいました。そのキツネは他のキツネとは違っていて、体毛がまるで雪のように真っ白でした。そして、瞳は血のように赤く濡れていました。村人は、珍しい事からそのキツネを神の使いと仰いで、里に姿を表すたびに大事にしていました。初めはおっかなびっくりだったキツネも次第慣れていき、里に頻繁に降りて来るようになりました。キツネは村人と仲良くなりました。
しばらくして、この村を飢饉が襲いました。それは木の根を食らわなければ生きられないほど凄まじいものでした。しかし、それは人間の世界だけの事。深い野山を住処とするキツネには関係有りませんでした。落ちてくる木の実の数などは減りましたが、いつものように人がこない場所で狩りを行っては、お腹を満たしていました。
ある日差しがきつい日、にキツネはいつものように村に降りていきました。しかし、そこは地獄でした。優しい人々の笑顔も、風に揺れるたおやかな草木も有りませんでした。ただ、哀れなほど痩せた土地に、下腹だけが出た餓鬼を思わせる奇妙なモノどもが跋扈していました。キツネは我が目を疑いました。自分はどこか別の場所に迷い込んだのかと思いました。その時、風を切って何かが飛んできました。キツネは反射的に身を竦めました。鈍い音をたてて、目の前に突き刺さったのは、大きな矢でした。驚きに真っ赤な目を見開きながら、キツネは矢が飛んできた方を見ました。そこには、他の餓鬼たちと同じ、やせ細っているのだが、奇妙に下腹だけ出ているモノがいました。キツネはその顔に見覚えがありました。それは、この土地の青年でした。元は姿の良い、優しい青年だったのですが、まるで、それまでが嘘だったように豹変していました。キツネは逃げようと身を翻しました。しかし、いつのまにか餓鬼どもに取り囲まれていました。キツネは恐怖で引きつりました。良く見れば、餓鬼たちは見覚えがある人ばかりでした。優しいおばさんや、威勢の良いおじさんでした。しかし、今はその目を血走らせ、キツネを睨みつけていたのです。キツネはなんとか逃げようと身をよじります。しかし、人々の力は強く捕まえられてしまいました。「供物だ」しわがれた声で青年は叫びました。人々もまた叫びました。「そうだ、神の使いを供物にするのだ。さすれば今度こそ雨が降る」人々はキツネを捕まえたまま、村の中央に移動してきました。そして、火を熾すとキツネをその中に放りこんだのです。キツネの最後に見たものは、黄色と赤が入り混じった、踊るような炎でした。
その数刻後、にわかに空が曇ったかと思うと、ポツリポツリと雨が降り始めました。人々は歓声を上げました。待望の雨です。雨は降りつづけました。人々はしばし、その雨に打たれながら喜びを噛み締めていました。しかし、その内困った事が起きました。雨が止まないのです。一日、二日と雨は降り注ぎ、天には雷雲が立ち込めたままでした。時折、雷が竜のように、キツネの尾のように光りました。「神の怒りなのでは、あの白いキツネを屠ったから」誰かがそう呟いた瞬間、村を洪水が襲いました。水は全てのものを洗い流しました。人も物も家も。後に残ったのは何もありませんでした。
水が引いた後、風がふきました。聞く人がいたのなら、その風の音はキツネの鳴き声に似ていたのに、気づいたのかもしれません。

プロフィール

ニックネーム
ケイロン
性別
血液型
A型
生年月日
19○○年5月23日
現住所
岡山のどこか
所在地
岡山のどこか
職業
教師っぽいこと
自己紹介
小説を読むのも書くのもすきなのでHPを立ち上げました。
お時間が許すのなら、作品を読み、感想でもいただけたら嬉しいです。

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