楽天市場
[無料でホームページを作成] [通報・削除依頼]

短編小説


―雨―

 灰色の雲が町を覆っている。昼ごろから降り続いていた雨脚はいよいよ激しさをまし、一寸先の視界さえ定かでない。車のワイパーは前方を示すのに、少しも役に立とうとしなかった。
『東南海沖にて発生した台風12号は勢力を増し、本土に上陸する予定です。また……』
 備え付けのラジオが伝えてくる情報は、この状況をマシにするとは到底思えない。ただ、憂鬱な気分を焦燥へと変えただけだった。
 前方の信号が青に変わるか瞬間、アクセルを踏み込んだ。ひどく、イライラした。心が暴走し、体が乱雑に動く。それが、余計に俺をいらつかせた。まるで、この世の全てが俺を邪魔しているようにしか思えない。俺には急がなければならない理由があるのに。
クラクションを鳴らして、前に進もうとしない車を促す。シガーケースに吸いかけのタバコを突っ込もうとして、そこにタバコが溢れていることに気づく。一瞬躊躇する。だが、かまわずねじ込んだ。
前方に目的地が見えた。車を建物のすぐ前で横付けする。駐車禁止の標識が見えたが、気にする必要があるとは思えなかった。
車からでた瞬間、雨のカーテンが降りてきた。シャツが張り付く感触が不快だった。濡れ鼠のまま、俺はそこに入った。
 一瞬、中にいた人たちの視線が俺に集中する。普段なら臆してしまうところだ。だが、今は理由がある。
 エスカレーターのボタンを押す。8階からなかなか降りてこない。もどかしくて俺は階段に走った。部屋の番号は覚えている。
 二段飛ばしで走る。こんなに走ったのは学生時代以来かもしれない。それでも後から、後からわいてくる力が俺の体を支えた。
 7階に来た。目指す部屋はすぐそこだった。高ぶっていた気持ちが醒め、ひやりとするような緊張感が腹にたまる。そこは静かだった。普段なら何かしら音がしているはずなのに。最悪の予感が胸に広がる。つばを飲み込む音が、やけに大きく耳に聞こえた。
ドアノブに手をかけた。冷たい感触に掌の汗に気づかされる。大きく深呼吸して俺はゆっくりとドアを開いた。

「――あなた」
 妻がいた。小さな命をその手に抱いていた。濡れたまま入ってきた夫を何事かとベッドの上から眼を丸くして見上げている。看護士さんは俺をとがめる目つきでにらんでいる。
 俺はへなへなとその場に崩れ落ちた。

プロフィール

ニックネーム
ケイロン
性別
血液型
A型
生年月日
19○○年5月23日
現住所
岡山のどこか
所在地
岡山のどこか
職業
教師っぽいこと
自己紹介
小説を読むのも書くのもすきなのでHPを立ち上げました。
お時間が許すのなら、作品を読み、感想でもいただけたら嬉しいです。

ブログ

123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
282930

カテゴリー

QRコード
携帯用QRコード
アクセス数
ページビュー数