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カサンドラの秘宝(連載中)

1章
1節

出会い

 最初に感じたことは、何故自分の下に人がいるかということだった。御堂透也は自分が夢遊病ではないかと本気で疑った。足下の人物は全身黒ずくめで、頭には頭巾のようなものを被っている。足裏の感触で、かの人物が鉄を編み込んでいるかなり変な服を着ていることが分かる。何にせよ、このような状況にあるのだから、当然事後のはずである。口にすることもはばかれるような何らかの行為の後、足下の人物は踏まれることを選んだんだろうか。
 そこまで考えて、透也は我が身の不遇さを呪わずにはいられなかった。20代も後半になり、仕事もプライベートもそれなりに充実しはじめた矢先に、このような事態になってしまった。可愛い女の子が純粋に好きだったはずだったのにどうしてこんな遠いところまできてしまったんだろう。
「……あの」
 本気で黄昏れる透也を余所に、涼やかな声が呼び止める。
 呼びかけられて初めて透也は、自分と足下の人物以外に人がいることに気づいた。
「……あの、……どうか、この戒めを…解いてくれないでしょうか……」
 視線の先には、青き麗人がいた。サファイヤの輝きを集めたらこのような美貌の少女になるのだろうか。透き通るような白い肌、腰まで伸びた輝く蒼い髪、そして、深い光をたたえた蒼眼。まるで現世に舞い降りた妖精のようだった。ファンタジーな外見をしているのに、それがちっともおかしくない。まるで、彼女が存在するだけで一枚の絵画を見ているような気分になる。
 そして、そんな女性が縛られて、転がされている。
(これは、やはり夢か? こんな美味しい状況が現実にありえるわけがない。……っは! これはもしや仕事に疲れた俺に対するご褒美だというのか!!)
 いい感じで混乱していた透也はそういう対象として少女を見つめる。服の上からでも彼女のスタイルの良さは分かった。出るとこは出て、引っ込むところは引っ込むというナイスなスタイルだった。思わず親指を立てて感謝をしてしまいそうになる。あまりにもぶしつけな視線だったからだろうか、少女は何かに気づいたように顔色を変える。
(って、いかんな。いくら夢の中で、綺麗な子が相手だとはいえ、怯えさせちゃいかんな。まったく、夢ならもっと気をつかって積極的な妖艶な美女ぐらい登場させろよ)
 ぶつくさと内心ぼやく透也だったが、少女の希望通り、縄を外してやる。縄に触れた瞬間、少女の体が強ばったので、軽く罪悪感がわいてくる。
「あ~、お嬢さん。すまんが俺も男でね。あんまり綺麗な子が目の前にいたから、つい見とれてしまってね。別に危害を加えようというわけじゃないから安心してくれ」
 すこしでも、安心させようとぎこちなく微笑む。少女はこちらの意をくんでくれたのだろうか。同じくぎこちなく微笑みと、立ち上がった。
「ありがとうございます。見たところ旅人のようですが、本当に…助かりました。賊に襲われ、……もうダメかと…思いました」
 縄が解かれ、少女はようやく落ち着いたのか、ぽつりぽつりと言葉を絞り出した。
「本当に……もう……、ダメかと思っていました……。……本当に、……本当に、ありがとう…」
目を潤ませながら少女は我が身を抱きしめた。そして透也を見上げてくる。涙目で上目遣いだった。

【第1回透也の脳内会議】
『1番隊から司令室へ!』
『こちら司令室。1番隊どうぞ―』
『現在、敵から精神攻撃を受けている! 敵は「涙目で上目遣い」の攻撃をしてきた! もう持ちそうにない。早く救援を!!』
『もう少しだけ耐えるんだ! 犯罪者への道に進むわけにはいかん!』
『うおおおおおお!! まだだ! まだ終わらんよ!!』

 かなりの破壊力だった。脳内で緊急会議が招集されるぐらいだった。やはり、これはオッケーサインなんじゃないんだろうか。据え膳食わぬは男の恥とも言うし、屋外だろうが、なんだろうが合意の上なら何も問題ないんじゃないか。
透也の思考が危ない方向に傾きかけたとき、今まで忘れ去られていた、足下の影が動いた。
 バネ仕掛けの人形のように弾かれたように立ち上がると、距離をとった。そして黒く塗られた短刀を懐から取り出し、低い姿勢で構える。じわりじわりと、透也たちに距離をつめる。物語の世界から抜け出したアサシンそのものの姿だった。
 少女が男に気づき、喉の奥で悲鳴を上げる。彼女は正確に男の脅威を理解していた。彼の男に再び襲い掛かられたらどうしようもないことを、嫌がおうにも分からされていた。
 一方透也は、まったく見当違いのことを考えていた。
(こいつは……、最近流行のコスプレとかいうやつか。見たところいい年をしたおっさんのようだが……。痛い! 痛すぎる! さすが俺の夢の中。よくわからん展開になる。一回病院いこうかなぁ)
 若干、あまりのわけの分からなさに落ち込んでいたのだが、男が急に飛び掛ってきたことにより、思考が切り変わる。
 男は、まず邪魔者の透也に目をつけたのか、体勢を前かがみにとり、神速の踏み込みで短刀を突き出した。常人にはかけらでもその残像も捕らえることができたかというスピードだった。
 だが――
「見えるっ!」
 透也は、短刀を見切りかわしていた。お返しとばかりに男の胸に透也の拳が突き刺さる。ボゴンと車が障害物に当たってしまったような音を立てて男は吹き飛んだ。
「……えっ?」
 少女が驚愕した顔で透也を見上げる。彼の男の技量は相当なものだ。それをこうも簡単にあしらうなんて、この人はいったい何者なのだろうか。
 転がった男は、すぐさま体勢を立て直すと、透也から距離をとった。だが、痛みのためか、動きに先ほどまでのような精彩がない。
 透也は静かに男を見つめていた。傍から見たら、シリアスな場面だったかもしれない。だが、当然のごとく透也は混乱していた。
(何やってんだぁ!! 俺! アニメの主人公じゃあるまいし、「遅いっ」ってなんだよーー!? やっばい。これじゃあいろんな意味で痛い人だ。いい年して、ヒーローごっこかよぉ。ほら、少女がなんか呆然とした目で見てきてるぞ。俺もあいつも同様ってことなのかよ……。ああああ、視線が痛い……)
 盛大に勘違いだったのだが、発端は全て黒ずくめの男のせいだった。論理の当然の帰着として、彼に当たることは透也の中では正当化された。
「おいっ、おっさん! 遅すぎるぜ。それ以上ふざけたことをするっていうなら、俺にも考えがあるぞ!」
 事実、透也には男の動きがスローモーション芸のように遅く見えた。それまでは、どうということはなかったのだが、飛び掛ってきた瞬間、まるでスイッチがはいったかのように全ての行動が遅く見えた。種明かしをしてみれば透也の行動はなんということはない。ただ、変な芸をする男をかわし、気持ち悪いから殴っただけだ。
 だが、周りはそうは捉えない。
「クゥっ」
 男は低く呻くと、じわりじわりと後退し、ある一定まで下がると踵を返し駆け出した。男の姿が見えなくなるまで見つめていたが、ようやく変態が去ったので透也は安堵のため息をもらす。
「はぁ……。まったく、何なんだか。春は変態が沸くって言うけど、あれはすごいなぁ。最近は変態が出没しやすいから、お嬢さんも気をつけなよ。ストーカーも多いと聞くからなぁ」
 言外に俺は同類じゃないんだよとニュアンスを込めて、変態にさらわれかけた少女を励ますために、透也は口を開いた。だが、そんな透也を出迎えたのはまじまじとこちらを見つめてくる少女の瞳だった。
「……あなたは、いったい?」
 少女は、困惑していた。自分をさらったのは手練の暗殺者。それをいとも簡単に打ち破る存在など、この国では聞いたことがない。疑念と不信、そして感謝も入り交じりながら透也を見つめる。
 透也は少女の視線を受け、恐れていたことが起きてしまったことを理解する。
(やはり、やはりか! 俺もさっきの変態と同類に見られているということか!? やっぱりあぶないと思ったんだよ。ああ、もう鬱だ。どっか行こう……)
 透也は苦虫をかみ殺した顔で苦笑すると、踵を返した。
「……お嬢さん、こんな変なところじゃなく、早く家に帰りなよ。家族が心配するぞ」
 そう言い、透也は歩き出した。これで何の違和感もないはずだ。
「待ってください!」
 だが、そんな透也を止めたのは少女のあせったような声だった。
「恩人に対し、何のお礼もしないということはできません。是非とも当家にご逗留願えませんか?」
 だが、透也としては、そう言われても変態のレッテルを貼られるわけにはいかない。
「申し出はうれしいが、そう大したことをしたわけではないから。気持ちだけ受け取っておくよ」
 夢の世界だから、そのうち目が覚めると思うが、一刻も早くこの場を立ち去りたかった。
 少女は透也の行動を、本人以上に理解していた。まさに救国の恩人をこのまま帰すわけにはいかない。
「カトレア=フィア=カサンドラの名にかけて、この国の王女として、あなたに心のからの感謝とお礼をしたいのです。どうか、……どうか、城にお寄りください」
 懇願の意を込めつつ、透也を呼び止める。
「……王女さま?」
 透也は突然の出来事にどうしていいか分からず足を止め、振り返る。
「はいっ」
 少女―カトレアは、笑みを浮かべながら透也の問いにうなづいた。

プロフィール

ニックネーム
ケイロン
性別
血液型
A型
生年月日
19○○年5月23日
現住所
岡山のどこか
所在地
岡山のどこか
職業
教師っぽいこと
自己紹介
小説を読むのも書くのもすきなのでHPを立ち上げました。
お時間が許すのなら、作品を読み、感想でもいただけたら嬉しいです。

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