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カサンドラの秘宝(連載中)

1章
2節


 城に戻ってきた透也とカトレアを迎えたのは、真夜中の暗闇を太陽のように照らす松明の明かりだった。
「おいおい……、大変なことになってるぞ……」
 呆然とした透也の声が城の喧騒にかき消される。煌々と照らされた城の付近を兵士が走り回っている。
「お姫さま、早く戻ったほうがよろしいのでは?」
「お姫様ではなくて、カトレアと、どうぞ呼んでいただけませんか。あと透也さまはこの国の人ではないのですから、敬語などお使いにならないでください」
 透也の微妙な敬語に対して、どこか憮然とした表情でカトレアは訂正する。
「んじゃ、カトレアさん。ああ、もうっ、わかった。カトレア。早く戻って皆を安心させてあげなきゃいけないね」
 カトレアの上目遣いに今度もまた透也はあっけなく陥落する。
「はいっ、でも……、その必要はないかもしれません」
「え……?」
 カトレアの視線の先にはものすごい勢いでこちらに進んでくる土煙があった。
「姫ええええええええええぇぇぇぇぇぇ!!!!」
 土煙の正体は騎馬隊。何十といった武装した中世の騎士めいた人物が絶叫しながら透也たちのところへ突進してきた。
 騎士たちはカトレアの目の前で下馬すると、透也とカトレアの間に割り込んだ。そして一斉に抜刀し、透也に相対する。
「貴様ぁぁああ!! よくも姫を!!!」
 隊長格らしき、ひときわ豪奢な姿をした壮年の男が息つく間もなく透也に切りかかる。
(あ……、死んだわこれ)
 完全に不意打ちだった。透也は目前まで迫る刀身に対して間抜けな感想を浮かべることしかできなかった。
 だが――
 あわやと思われた瞬間、また先刻の奇妙な現象と同じことがおこった。時の流れが急に遅くなり、透也だけがその中を普通に動く。
(なんとぉぉぉ!)
 のけぞる要領で、間一髪、剣をかわしきる。同時に後方に大きく跳び距離をとる。
「ぬぅぅうううう!! 賊の分際でなかなかやる! だがな、このミシェル・ハイルマン。このままおめおめと引き下がるわけにはいかんのだ!!」
 悪鬼の表情でミシェルは何度となく切りかかってきた。
 しかし、透也にしてみれば、最初の一撃こそ致命的かと思われたが、この不思議な状態になってしまえば、さして怖いわけではない。右に左に、斬撃をかわし続ける。
「お止めなさい!!」
 そろそろ反撃しようとした透也を止めたのは、カトレアの硬い声だった。同時に止まる両者。困惑したようにミシェルが刀身を下げる。
「し、しかし、姫……。こやつは姫の御身を…」
「お黙りなさい!! この方は囚われ身だった私を、解き放ってくれたものです。感謝してもしつくせないほどの恩を受けたと言うのに、危害を加えるとは何事ですか!?」
 カトレアはまさしく王者の雰囲気をまとっていた。はじかれたようにミシェルの身体は固まり、直立不動になる。自身が完全に誤解していたことに気づいたのか、ミシェルは青ざめた顔で透也に頭を下げた。
「申し訳ない! まさか姫の恩人とは思わず、このような無礼を……。平に、平にお許しくだされ!」
 武人らしく、無骨なあやまり方であったが、ミシェルの気持ちは透也にもわかった。
「いや、いいですよ。こんなかわいい子に変なやつがくっついていたなら気持ちもわかりますし」
 それに、大柄な男が身体を縮めている姿はあまりにもかわいそうだった。
「おおぉぉぉぉ、なんと心が広い!! このような無礼をおかしたわしを許してくださるのか!?」
 感極まったように、男泣きをするミシェルは、普通に暑苦しかった。
「じゃあ、姫をお届けしたということで、俺はこれで」
「透也さま……?」
 大げさな事態をさけるためにも透也は踵を返す。
 今夜の夢はひどく長く、奇妙だ。現実感がありすぎて、明晰夢といえどもこれは普通ではない。このまま、城に入ってしまえば、逃げられない夢の世界にとらわれそうな気がした。
 透也は、自分でも変に思えるほど危機感を覚え、制止の声に応えず、歩き出す。
「透也さま、少しでよいのです。ほんの少しだけでよいので……」
 しかし、今度もまた透也の行動を決定付けたのはカトレアの声だった。
「しかしなぁ、なんだか大げさなことになっているし、部外者の俺がお邪魔するのもなぁ……」
「部外者などではございません。透也さまがいなければ、今こうしてここで話すこともできなかったのです。どうか、お礼をさせてください。そうでなければ私の気がすみません」
 男とは美しい女性の言葉に弱いものだ。
 透也は直前までの考えとか、感情とか、色々どうでもよくなり、結局城に寄ることになった。

プロフィール

ニックネーム
ケイロン
性別
血液型
A型
生年月日
19○○年5月23日
現住所
岡山のどこか
所在地
岡山のどこか
職業
教師っぽいこと
自己紹介
小説を読むのも書くのもすきなのでHPを立ち上げました。
お時間が許すのなら、作品を読み、感想でもいただけたら嬉しいです。

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