いつか出会うだれかのために(完結)
序章
「加藤君の事どう思うかって……?」
教室が夕暮れに照らされて茜色に包まれていた。加藤光一の耳に涼やかな声が耳に入ってきた。忘れ物を取りに戻ると、光一の事が女子数人の間で話題になっていた。光一は、妙に気まずく思い、入るに入れず廊下で立ち尽くしてしまっていた。
(早く終わってくれないかなあ)
テスト前のため部活もなく、放課後はシンとした静寂に支配されていた。しかし、そこだけ別世界のように、女の子特有の黄色い声が教室から漏れでてくる。光一ではなくとも、入りにくい雰囲気だった。
光一は良く言えば謙虚で包容力があるが、悪く言えば意気地のない情けない男だった。そんな男が女生徒だけがいるところにずかずかと入っていけるわけがない。特に自分が話題にされている時にはなおさらであった。光一は少しだけ開いていた窓から中を覗き込んだ。そこにはクラスメイトの京香と仲のいい女の子達が円を描くように集まっていた。
「昨日、コクハクされたんでしょ?」
ショートカットの子が河井京香の背にもたれかかり、茶化すように言った。その瞬間光一の胸が跳ね上がった。そう、京香は光一の憧れの人だった。亜麻色の長い髪、すっきりした鼻梁、雪のように白い肌、まつげの長いパッチリとした瞳。すべてが光一の好みにピタリと当てはまっていた。クラス替えで始めてあった時、一目で恋に落ちた。女神かと思った。もうこの人しか考えられなかった。
だからといって口説こうとか、そんな気持ちはさらさらなかった。ただ、友達にでもなってくれたらと淡い期待を抱いていた。だからこそ昨日、勇気を振り搾って友達になってくださいと書いた手紙を渡したのだ。渡した瞬間、心臓が口から飛び出しそうだった。緊張のあまり、相手の表情など見ずに駆け出してしまった。それでも満足だった。今まで、見つめる事しか出来なかったのに、気持ちを伝える事が出来たのだから。
「うん、そうなんだけどね……」
京香の声が教室から漏れ出てくる。光一の心に盗み聞きは良くないという考えが浮かんだ。それなのにその場から動く事が出来ない。彼女の気持ちが知りたい。友達になりたい。そして挨拶を交わしあいたい。些細な事のようだが光一にとっては夢だった。
「しかし、この『あなたの事、ずっと見ていました。あなたの笑顔の僕にいつも力を与えてくれました』っていうのストーカーっぽいー」
きゃはは、と少女の笑い声が聞こえてきた。それに合わすように教室の中の皆が笑う。光一の中に疑惑が生まれた。どうして、内容を知っているのかと。
「これも、笑えるよ。『朝に光に包まれているあなたを、毎日見るのが好きです』あははは、あーおかしぃ。一体ナニモノなのよ、あいつって」
少女達は目の涙を拭いつつ腹をよじっていた。おかしくてたまらないという風に。その女の子の手中には一枚の手紙があった。それは、光一にとって見覚えがありすぎる物だった。いつも渡そうと思っていたのに、勇気が出なくてカバンの中に眠っていた手紙。気がつけばカバンの主になっていた手紙。家に帰ってカバンの中身を見るたび自分の情けなさを再確認させられた。その度に思った。いつになったら僕は渡せるんだろうって、自分の勇気のなさを恨んだ。だから、渡せた時にすごく嬉しかった――その手紙が。
(回し読みされている……)
泣きたかった。少女の笑い声が聞こえてくるたびに胸を針で刺されたような痛みがはしった。喉がしゃくるように震えてくる。膝ががくがくとして力が入らない。それでも泣くわけにはいかなかった。これ以上みっともなくなりたくなかった。震える唇を思いっきりかみ締める。ぶつっという音がして血の味が口の中に広がった。
「しっかし、加藤って身の程知らずよね。あんなデブで不細工でバカなくせに、才色兼備の京香にちょっかいだそうっていうんだから、ほんとにバカよねぇー」
もう、聞いていられなかった。この場所にいたくなかった。光一は踵を返すと京香達に悟られなように静かに歩いた。夕暮れに照らされた廊下を歩きながら、光一の頬を熱い雫が伝う。滑るように落ちた雫は廊下にポツリとした水溜りを作った。それは、光一が歩く度に後から後から足跡のように残っていった。
教室が夕暮れに照らされて茜色に包まれていた。加藤光一の耳に涼やかな声が耳に入ってきた。忘れ物を取りに戻ると、光一の事が女子数人の間で話題になっていた。光一は、妙に気まずく思い、入るに入れず廊下で立ち尽くしてしまっていた。
(早く終わってくれないかなあ)
テスト前のため部活もなく、放課後はシンとした静寂に支配されていた。しかし、そこだけ別世界のように、女の子特有の黄色い声が教室から漏れでてくる。光一ではなくとも、入りにくい雰囲気だった。
光一は良く言えば謙虚で包容力があるが、悪く言えば意気地のない情けない男だった。そんな男が女生徒だけがいるところにずかずかと入っていけるわけがない。特に自分が話題にされている時にはなおさらであった。光一は少しだけ開いていた窓から中を覗き込んだ。そこにはクラスメイトの京香と仲のいい女の子達が円を描くように集まっていた。
「昨日、コクハクされたんでしょ?」
ショートカットの子が河井京香の背にもたれかかり、茶化すように言った。その瞬間光一の胸が跳ね上がった。そう、京香は光一の憧れの人だった。亜麻色の長い髪、すっきりした鼻梁、雪のように白い肌、まつげの長いパッチリとした瞳。すべてが光一の好みにピタリと当てはまっていた。クラス替えで始めてあった時、一目で恋に落ちた。女神かと思った。もうこの人しか考えられなかった。
だからといって口説こうとか、そんな気持ちはさらさらなかった。ただ、友達にでもなってくれたらと淡い期待を抱いていた。だからこそ昨日、勇気を振り搾って友達になってくださいと書いた手紙を渡したのだ。渡した瞬間、心臓が口から飛び出しそうだった。緊張のあまり、相手の表情など見ずに駆け出してしまった。それでも満足だった。今まで、見つめる事しか出来なかったのに、気持ちを伝える事が出来たのだから。
「うん、そうなんだけどね……」
京香の声が教室から漏れ出てくる。光一の心に盗み聞きは良くないという考えが浮かんだ。それなのにその場から動く事が出来ない。彼女の気持ちが知りたい。友達になりたい。そして挨拶を交わしあいたい。些細な事のようだが光一にとっては夢だった。
「しかし、この『あなたの事、ずっと見ていました。あなたの笑顔の僕にいつも力を与えてくれました』っていうのストーカーっぽいー」
きゃはは、と少女の笑い声が聞こえてきた。それに合わすように教室の中の皆が笑う。光一の中に疑惑が生まれた。どうして、内容を知っているのかと。
「これも、笑えるよ。『朝に光に包まれているあなたを、毎日見るのが好きです』あははは、あーおかしぃ。一体ナニモノなのよ、あいつって」
少女達は目の涙を拭いつつ腹をよじっていた。おかしくてたまらないという風に。その女の子の手中には一枚の手紙があった。それは、光一にとって見覚えがありすぎる物だった。いつも渡そうと思っていたのに、勇気が出なくてカバンの中に眠っていた手紙。気がつけばカバンの主になっていた手紙。家に帰ってカバンの中身を見るたび自分の情けなさを再確認させられた。その度に思った。いつになったら僕は渡せるんだろうって、自分の勇気のなさを恨んだ。だから、渡せた時にすごく嬉しかった――その手紙が。
(回し読みされている……)
泣きたかった。少女の笑い声が聞こえてくるたびに胸を針で刺されたような痛みがはしった。喉がしゃくるように震えてくる。膝ががくがくとして力が入らない。それでも泣くわけにはいかなかった。これ以上みっともなくなりたくなかった。震える唇を思いっきりかみ締める。ぶつっという音がして血の味が口の中に広がった。
「しっかし、加藤って身の程知らずよね。あんなデブで不細工でバカなくせに、才色兼備の京香にちょっかいだそうっていうんだから、ほんとにバカよねぇー」
もう、聞いていられなかった。この場所にいたくなかった。光一は踵を返すと京香達に悟られなように静かに歩いた。夕暮れに照らされた廊下を歩きながら、光一の頬を熱い雫が伝う。滑るように落ちた雫は廊下にポツリとした水溜りを作った。それは、光一が歩く度に後から後から足跡のように残っていった。
プロフィール
- ニックネーム
- ケイロン
- 性別
- 男
- 血液型
- A型
- 生年月日
- 19○○年5月23日
- 現住所
- 岡山のどこか
- 所在地
- 岡山のどこか
- 職業
- 教師っぽいこと
- 自己紹介
- 小説を読むのも書くのもすきなのでHPを立ち上げました。
お時間が許すのなら、作品を読み、感想でもいただけたら嬉しいです。
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