いつか出会うだれかのために(完結)
終章
季節は春を迎えていた。大学四年間はあっという間に過ぎ去り光一は社会人になっていた。就職したのは大手出版社。競争率が高かったが光一の熱意が認められ採用となった。
今日は新入社員同士の親睦も兼ねた社内の花見。周りには同期の奴らが既に出来上がった先輩達の話に付き合わされていた。
光一はそこからすっと立ち上がると、ひときわ立派な桜の方へ歩いていった。下から見上げると花の海に思えたからだ。もっと近くで見たい、そう思った。
在学中、光一は誰とも付き合わなかった。十分過ぎるほどもてたのだが、その誰にも心は動かなかった。コンパにも呼ばれたが興味がないと切り捨て続けた。その内誰も誘わなくなった。それでもいいと思った。近頃、光一は兄の言葉の意味を考えている。
『いい男って奴は本当のいい女ってやつが分かるもんなんだぜ』
洋介がどういうつもりで言ったのか、まだ、わからなかった。そして答えを聞く前に両親の元へ洋介は行ってしまった。ちなみに迎えに来たのは、いつか見たJとかいう黒ずくめ。他にも一杯やばそうな人達が来ていた。しかし、洋介が姿を見せると一斉に跪いた。そこを王様のように通る洋介。一種異様な光景だった。リムジンに乗る前に洋介は振り返った。
『いつかわかるさ。その意味がな』
そう言ってとてもいい笑顔を浮かべた。皮肉じゃなく心からの笑顔だった。黙って光一は頷く。それを見届けると洋介は車の中に乗り込んだ。それきりだった。
だから、光一は考えつづけている。洋介が何を言いたかったのか、それがわかればまた前に進めると思うから。
「桜、きれいですね」
考え込んでいた光一は現実に引き戻される。目の前にはとてもきれいな女性がいた。知り合いではなかったが、新入社員の一人なのだろう。
「ああ……、本当にきれいだ………」
光一がそう言うと女性はにっこり微笑んだ。とても温かい感じがした。
「わたし同じ部署になる田原美穂って言います。よろしくお願いします」
女性は律儀にも頭を下げた。光一もつられるように頭を下げる。
「俺は加藤って言うんだ。田原さん、こちらこそよろしくな」
光一が笑いかけると田原は嬉しそうに頬を染めた。とても感じのいい人だった、光一は久しぶりに心が沸き立つものを感じていた。ずっと昔に出会ったことがあったかもしれない。
(あっ!)
不意に昔の事が浮かび上がってくる。あのコンパで出会った人だった。あれから、学内でも会う事がまったくなかった。だから、忘れていた。でも、随分変わったものだ。田原の姿を見てしみじみと思う。まるで変身したみたいに。
――そう変身だ。
田原美穂は変身していた。あの時の光一みたいに。不意に兄の言葉がよみがえる。
『いい男って奴は本当のいい女ってやつが分かるもんなんだぜ』
美穂を見ておぼろげながら答えが出た気がする。人はいつか伴侶にめぐり合う。その人を見つけ出すことができる奴がいい男なのだ。たくさんの人に出会い、別れ、それでも自分を待ってくれている誰かのために前に進み続ける。ただ一人に愛をささげ、守りつづける。自分の全てをかけて貫き通す。そう、自らを変えてでも。
光一は美穂に振り返るといたずらっ子みたいな顔をした。多分ばれていないと思っているだろうな。
「なあ、知っているかい? いい女っていい男が分かるもんなんだぜ」
風が春を告げていた。桜の花が風に乗り、桃色の流れが二人を優しく包み込んだ。全てのものに出会いをもたらす暖かい季節。そんな陽だまりの中、光一はまどろむように目を閉じた。幸せに包まれて。
完
今日は新入社員同士の親睦も兼ねた社内の花見。周りには同期の奴らが既に出来上がった先輩達の話に付き合わされていた。
光一はそこからすっと立ち上がると、ひときわ立派な桜の方へ歩いていった。下から見上げると花の海に思えたからだ。もっと近くで見たい、そう思った。
在学中、光一は誰とも付き合わなかった。十分過ぎるほどもてたのだが、その誰にも心は動かなかった。コンパにも呼ばれたが興味がないと切り捨て続けた。その内誰も誘わなくなった。それでもいいと思った。近頃、光一は兄の言葉の意味を考えている。
『いい男って奴は本当のいい女ってやつが分かるもんなんだぜ』
洋介がどういうつもりで言ったのか、まだ、わからなかった。そして答えを聞く前に両親の元へ洋介は行ってしまった。ちなみに迎えに来たのは、いつか見たJとかいう黒ずくめ。他にも一杯やばそうな人達が来ていた。しかし、洋介が姿を見せると一斉に跪いた。そこを王様のように通る洋介。一種異様な光景だった。リムジンに乗る前に洋介は振り返った。
『いつかわかるさ。その意味がな』
そう言ってとてもいい笑顔を浮かべた。皮肉じゃなく心からの笑顔だった。黙って光一は頷く。それを見届けると洋介は車の中に乗り込んだ。それきりだった。
だから、光一は考えつづけている。洋介が何を言いたかったのか、それがわかればまた前に進めると思うから。
「桜、きれいですね」
考え込んでいた光一は現実に引き戻される。目の前にはとてもきれいな女性がいた。知り合いではなかったが、新入社員の一人なのだろう。
「ああ……、本当にきれいだ………」
光一がそう言うと女性はにっこり微笑んだ。とても温かい感じがした。
「わたし同じ部署になる田原美穂って言います。よろしくお願いします」
女性は律儀にも頭を下げた。光一もつられるように頭を下げる。
「俺は加藤って言うんだ。田原さん、こちらこそよろしくな」
光一が笑いかけると田原は嬉しそうに頬を染めた。とても感じのいい人だった、光一は久しぶりに心が沸き立つものを感じていた。ずっと昔に出会ったことがあったかもしれない。
(あっ!)
不意に昔の事が浮かび上がってくる。あのコンパで出会った人だった。あれから、学内でも会う事がまったくなかった。だから、忘れていた。でも、随分変わったものだ。田原の姿を見てしみじみと思う。まるで変身したみたいに。
――そう変身だ。
田原美穂は変身していた。あの時の光一みたいに。不意に兄の言葉がよみがえる。
『いい男って奴は本当のいい女ってやつが分かるもんなんだぜ』
美穂を見ておぼろげながら答えが出た気がする。人はいつか伴侶にめぐり合う。その人を見つけ出すことができる奴がいい男なのだ。たくさんの人に出会い、別れ、それでも自分を待ってくれている誰かのために前に進み続ける。ただ一人に愛をささげ、守りつづける。自分の全てをかけて貫き通す。そう、自らを変えてでも。
光一は美穂に振り返るといたずらっ子みたいな顔をした。多分ばれていないと思っているだろうな。
「なあ、知っているかい? いい女っていい男が分かるもんなんだぜ」
風が春を告げていた。桜の花が風に乗り、桃色の流れが二人を優しく包み込んだ。全てのものに出会いをもたらす暖かい季節。そんな陽だまりの中、光一はまどろむように目を閉じた。幸せに包まれて。
完
プロフィール
- ニックネーム
- ケイロン
- 性別
- 男
- 血液型
- A型
- 生年月日
- 19○○年5月23日
- 現住所
- 岡山のどこか
- 所在地
- 岡山のどこか
- 職業
- 教師っぽいこと
- 自己紹介
- 小説を読むのも書くのもすきなのでHPを立ち上げました。
お時間が許すのなら、作品を読み、感想でもいただけたら嬉しいです。
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