いつか出会うだれかのために(完結)
6章
それから一年が過ぎた――
光一は変わった。体重は70キロまで絞られ、筋肉質な体になっていた。イタリアはフィレンチェにあるダビデ像のように男性の理想体型と比べても遜色なかった。成績も上がった。一年間で急速に上がり京香に迫る勢いだった。最後のテストではもしかしたら抜いていたかもしれない。おかげでW大もK大も苦もなく合格できた。まあ結局、京香と同じK大に進学する事になったのだが。なぜ、京香がそこに行った事がわかったのはこんな事があったからだ。
大学入試の結果が出揃う頃、光一は洋介と二人で外食をしに出かけていた。街は冬衣装を早く脱ぎたくてうずうずしているようであった。二人はどこかいいところがないか捜していたのだが、不意に洋介が立ち止まった。なんだろうと前を見てみると、そこにはブラックスーツの体格のいいヤバゲな人がいた。しかも、なんかこっちを見ている。
(ひぃぃぃぃぃぃぃ――)
いきなりこんな人に絡まれるとは、なんてついてないんだ。大学は上手くいったと思ったらこんな所に人生の落とし穴が。やっぱりこんなものなんだよ、人生って奴は。光一は本気で絶望しかけた。
「洋介様……」
しかしそんな光一をよそに、男はいきなり跪いた。しかも、洋介の事を様づけで呼んでいる。
「はいぃぃぃぃ?」
思わず二人を見比べる。いかにもあっちの世界の人が洋介に向かって人目があるのに跪いている。そして、当の洋介はいつものように倣岸ともいえる表情を少しも崩していない。
「兄ちゃん…、いったい……」
「どうした、J?」
Jと呼ばれた男は恭しく立ち上がった。
「洋介様におかれましては、本日も―――」
「挨拶はいい。お前の悪い癖だ。――で、用件は」
洋介の言葉に本気で恐縮する黒ずくめの男。よく見れば、緊張でうっすら汗をかいている。
「は! 例のターゲットの調査が完了しました。詳しくはこのファイルをご覧ください」
そう言い持っていたアタッシュケースから茶封筒を取り出した。そこには丸秘のマークがついていた。
「おっと、失礼」
荷物を取り出す時、男の懐から何か黒っぽい物が落ちた。それを懐に何事もなかったように収める。しかし、光一はばっちり見てしまった。
(拳銃すかぁぁぁ!)
一人取り乱す光一。しかし、男と洋介は少しも動じていない。洋介はファイルを取り出しパラパラとめくった。次第にその眉根はよっていったが、読み終わる頃にはため息をついていた。
「ご苦労だったな…、J」
「は! 洋介様のためならいかなる事でも!」
男は本当に誇らしげに見えた。そんな彼に洋介はにやりと笑いかけた。男は一礼するとそれを合図のように闇に溶けるように消えていった。
なんだかとても見てはいけないようなものを見た気がする。ぎぎぎっと音が立ちそうなほどゆっくり洋介を振り返る。一体誰なんだよ。今の物はいったい? 聞きたいことは山ほどあった。
「河井京香の進学先がわかったぞ」
「えっ……?」
あいかわらすファイルに目を通したまま洋介は言った。
「主に一流大ばかり受けて、その半分に合格した。そして選んだのはK大学。お前も受かった所だ。よかったな」
どうやらファイルの中身は京香の情報だったようだ。しかし、先ほど人物は一体。穴があくほど洋介を見つめるがそのふてぶてしい顔からは何も読み取れなかった。
振り返ってみれば長いようで短かった一年間だった。光一は勉強だけではなく様々なことを学んだ。ファッションから始まり、芸術に関する基礎知識、会話法、政治経済、同じ年の18歳と比べたらかわいそうなほど、その知識量、教養は高まっていた。もちろん、死ぬような特訓の成果であった。
また整形にも成功した。その結果どこからどうみても光一はいい男になっていた。一年半前と比べたら、まさに変身だった。
レザーのジャケットをはおり、光一は鏡の前で最後のチェックをする。特におかしな所はない。今日の服装は、アルマーニデザインの黒のチト、細身の皮のパンツ。そして玄関で靴をはく。振り返り洋介に声をかけた。
「兄ちゃん…。俺、行って来るよ」
今日はこれから新入生歓迎コンパがあった。高校のほぼ半分の時間を費やした成果が今、試される。辛い事が多かった。投げ出そうと思った事も何度もあった。一時の悔しさなど行動のためのエネルギーとしては足りなかった。光一を支えたのは、兄の存在と自身のプライド。過酷な特訓は光一を一人の男として覚醒させていた。
「そうか…、行くのか…」
感慨深そうに洋介は目を細めた。ここまで歩んでこられたのは兄のおかげだ。光一は涙で潤みそうになる瞳を隠すように頭を下げた。
「最後に言っておく事がある。お前は、確かにいい男になった。しかし、道はまだまだ始まったばかり。これからは、自分で道を作っていくことを覚えなければならない。辛い事や切ない事も体験するかもしれない。それでも、お前なら乗り越えられると信じている」
「はい!」
「では、ここで計画の終了を宣言する。よく……がんばったな」
限界だった。涙が後から後から溢れてくる。感謝してもしきれなかった。本当にこんな兄を持って幸せだと思う。
「本当に…ありがと…う…ございました!」
うまく言葉が出なかった。涙が視界をぼやけさせる。そんな光一を洋介が苦笑を漏らした。
「門出に涙は似合わない。行って来い…。自分がどこまでやれたのか、それを確認して来い!」
相変わらずの力強い声に励まされる。この声と共に乗り越えてきたのだ。光一は再度頭を下げた。そして、玄関のドアを開けようとする。
「待て! 光一」
制止の声に振り向く。
「最後の教えだ。このことだけは覚えておけ。……いい男って奴はな、本当のいい女ってやつが分かるもんなんだぜ」
「えっ…?」
「今はわからなくていい。しかし、いつか必ずわかる時が来る!」
洋介が言ったことで真剣な時は間違った事はなかった。今、自分にわからないのは時期が来ていないだけ。その時がくればきっとわかるはずだ。
光一は大きく頷く。そして踵を返して、ドアを開ける。決戦が始まろうとしていた。
光一は変わった。体重は70キロまで絞られ、筋肉質な体になっていた。イタリアはフィレンチェにあるダビデ像のように男性の理想体型と比べても遜色なかった。成績も上がった。一年間で急速に上がり京香に迫る勢いだった。最後のテストではもしかしたら抜いていたかもしれない。おかげでW大もK大も苦もなく合格できた。まあ結局、京香と同じK大に進学する事になったのだが。なぜ、京香がそこに行った事がわかったのはこんな事があったからだ。
大学入試の結果が出揃う頃、光一は洋介と二人で外食をしに出かけていた。街は冬衣装を早く脱ぎたくてうずうずしているようであった。二人はどこかいいところがないか捜していたのだが、不意に洋介が立ち止まった。なんだろうと前を見てみると、そこにはブラックスーツの体格のいいヤバゲな人がいた。しかも、なんかこっちを見ている。
(ひぃぃぃぃぃぃぃ――)
いきなりこんな人に絡まれるとは、なんてついてないんだ。大学は上手くいったと思ったらこんな所に人生の落とし穴が。やっぱりこんなものなんだよ、人生って奴は。光一は本気で絶望しかけた。
「洋介様……」
しかしそんな光一をよそに、男はいきなり跪いた。しかも、洋介の事を様づけで呼んでいる。
「はいぃぃぃぃ?」
思わず二人を見比べる。いかにもあっちの世界の人が洋介に向かって人目があるのに跪いている。そして、当の洋介はいつものように倣岸ともいえる表情を少しも崩していない。
「兄ちゃん…、いったい……」
「どうした、J?」
Jと呼ばれた男は恭しく立ち上がった。
「洋介様におかれましては、本日も―――」
「挨拶はいい。お前の悪い癖だ。――で、用件は」
洋介の言葉に本気で恐縮する黒ずくめの男。よく見れば、緊張でうっすら汗をかいている。
「は! 例のターゲットの調査が完了しました。詳しくはこのファイルをご覧ください」
そう言い持っていたアタッシュケースから茶封筒を取り出した。そこには丸秘のマークがついていた。
「おっと、失礼」
荷物を取り出す時、男の懐から何か黒っぽい物が落ちた。それを懐に何事もなかったように収める。しかし、光一はばっちり見てしまった。
(拳銃すかぁぁぁ!)
一人取り乱す光一。しかし、男と洋介は少しも動じていない。洋介はファイルを取り出しパラパラとめくった。次第にその眉根はよっていったが、読み終わる頃にはため息をついていた。
「ご苦労だったな…、J」
「は! 洋介様のためならいかなる事でも!」
男は本当に誇らしげに見えた。そんな彼に洋介はにやりと笑いかけた。男は一礼するとそれを合図のように闇に溶けるように消えていった。
なんだかとても見てはいけないようなものを見た気がする。ぎぎぎっと音が立ちそうなほどゆっくり洋介を振り返る。一体誰なんだよ。今の物はいったい? 聞きたいことは山ほどあった。
「河井京香の進学先がわかったぞ」
「えっ……?」
あいかわらすファイルに目を通したまま洋介は言った。
「主に一流大ばかり受けて、その半分に合格した。そして選んだのはK大学。お前も受かった所だ。よかったな」
どうやらファイルの中身は京香の情報だったようだ。しかし、先ほど人物は一体。穴があくほど洋介を見つめるがそのふてぶてしい顔からは何も読み取れなかった。
振り返ってみれば長いようで短かった一年間だった。光一は勉強だけではなく様々なことを学んだ。ファッションから始まり、芸術に関する基礎知識、会話法、政治経済、同じ年の18歳と比べたらかわいそうなほど、その知識量、教養は高まっていた。もちろん、死ぬような特訓の成果であった。
また整形にも成功した。その結果どこからどうみても光一はいい男になっていた。一年半前と比べたら、まさに変身だった。
レザーのジャケットをはおり、光一は鏡の前で最後のチェックをする。特におかしな所はない。今日の服装は、アルマーニデザインの黒のチト、細身の皮のパンツ。そして玄関で靴をはく。振り返り洋介に声をかけた。
「兄ちゃん…。俺、行って来るよ」
今日はこれから新入生歓迎コンパがあった。高校のほぼ半分の時間を費やした成果が今、試される。辛い事が多かった。投げ出そうと思った事も何度もあった。一時の悔しさなど行動のためのエネルギーとしては足りなかった。光一を支えたのは、兄の存在と自身のプライド。過酷な特訓は光一を一人の男として覚醒させていた。
「そうか…、行くのか…」
感慨深そうに洋介は目を細めた。ここまで歩んでこられたのは兄のおかげだ。光一は涙で潤みそうになる瞳を隠すように頭を下げた。
「最後に言っておく事がある。お前は、確かにいい男になった。しかし、道はまだまだ始まったばかり。これからは、自分で道を作っていくことを覚えなければならない。辛い事や切ない事も体験するかもしれない。それでも、お前なら乗り越えられると信じている」
「はい!」
「では、ここで計画の終了を宣言する。よく……がんばったな」
限界だった。涙が後から後から溢れてくる。感謝してもしきれなかった。本当にこんな兄を持って幸せだと思う。
「本当に…ありがと…う…ございました!」
うまく言葉が出なかった。涙が視界をぼやけさせる。そんな光一を洋介が苦笑を漏らした。
「門出に涙は似合わない。行って来い…。自分がどこまでやれたのか、それを確認して来い!」
相変わらずの力強い声に励まされる。この声と共に乗り越えてきたのだ。光一は再度頭を下げた。そして、玄関のドアを開けようとする。
「待て! 光一」
制止の声に振り向く。
「最後の教えだ。このことだけは覚えておけ。……いい男って奴はな、本当のいい女ってやつが分かるもんなんだぜ」
「えっ…?」
「今はわからなくていい。しかし、いつか必ずわかる時が来る!」
洋介が言ったことで真剣な時は間違った事はなかった。今、自分にわからないのは時期が来ていないだけ。その時がくればきっとわかるはずだ。
光一は大きく頷く。そして踵を返して、ドアを開ける。決戦が始まろうとしていた。
プロフィール
- ニックネーム
- ケイロン
- 性別
- 男
- 血液型
- A型
- 生年月日
- 19○○年5月23日
- 現住所
- 岡山のどこか
- 所在地
- 岡山のどこか
- 職業
- 教師っぽいこと
- 自己紹介
- 小説を読むのも書くのもすきなのでHPを立ち上げました。
お時間が許すのなら、作品を読み、感想でもいただけたら嬉しいです。
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