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キリ番 黒

『現代の魔法』

キリ番1400

出題者:P琢磨さん(二度目) お題  :『シリアス(ダーク?)』       『魔法』『少年少女』『現代』

 夕焼けに真っ赤に染まった教室で、オレは困っていた。 「##青木##君、好きです。私とお付き合いしてください」  今日の放課後、教室に来てくれと言われた時にこうなるだろうということはなんとなくわかっていた。  ##沙由美##のことは嫌いじゃない。どちらかと言うと好きだ。  クラスでは内気で地味な方だけれど、ちゃんと正面から顔を見ると結構可愛いことをオレは知っていた。  多分そのことは、クラスの男子では俺一人しか知らないはずだ。##沙由美##はいつもうつむいていて、顔を正面から見たヤツはほとんどいないだろうから。  それに、何かとオレを頼ってくれて、気が付くとオレの後をちょこちょこついてくる##沙由美##のこと、なんとなくオレも気に入っていた。  そういえば、この間図工の時間に指を切った時に手当てしてくれたのも##沙由美##だった。  そんな大した傷ではなかったのだけれど、血がたくさん出てあたりは真っ赤になってしまった。  周りの奴等はみんな真っ青になって見てるだけだったのに、##沙由美##だけはポケットティッシュを取り出して血を拭って、傷口にバンソーコーを貼ってくれたんだった。  ただオレに頼るだけではないそういうところも良いなと思う。  だから、OKするつもりだったんだ。  さっきまでは。  実際に告白されてみると、まだ彼女とか早すぎるだろとか、友達から何か言われるだろうとか、他にも気になっていた隣のクラスの梨香のこととか、彼女なんて出来ちゃうとそっちに時間を取られてサッカーに参加出来なくなるのかな、とか考えてしまう。  それでオレは躊躇してしまっていた。  どうしようか、と##沙由美##を見る。  ##沙由美##は断られるなんて微塵も考えてない表情でオレを真っ直ぐに見つめていた。  そう思ってしまっているのは多分オレのせいだ。  いじめというほどでは無いけれど、##沙由美##が男子にからかわれていた時に助けてやったりとか、重そうな荷物を代わりに持ってやったりとか、気を持たせるようなことをしたから。  実際ついさっきまではOKするつもりだったし。  そう考えて、またちょっと迷ったのだけれど。  やっぱり付き合うってなると悪いことの方が多い。 「えっと……悪いんだけど、付き合えない」 「……え?」  思いがけないことを言われた、という##沙由美##の表情を見ているとやはり申し訳ないと思う。 「えと……ごめんなさい、よく、聞こえなかった」 「いや、なんてゆーかさ、別に##沙由美##のことが嫌いとかじゃないんだ。どっちかって言えば好きな方だし。ただ、なんてーか、付き合うっていうことになると、その、いろいろ大変だし……」  泣かれるのが嫌で口から適当なことを言った。でも嘘じゃないし。 「えっと、私のこと、……好き、なの?」 「うん、どっちかっていうと、好き」  ##沙由美##の機嫌を取ろうと慌てて頷いた。付き合うのも大変だけれど、フッたというのが知れても大変だ。異様に結束の固い女子に集団で無視されたり、取り囲まれて昼休み中ずっとねちねち言われたりするのはゴメンだった。 「そっか、私のこと好きなんだ。よかった、魔法が効かなかったのかと思ってあせっちゃった」  ……魔法? ホイミとかケアルとか? なんでここで? 「じゃ、付き合えないっていうのは魔法の効きが弱かったんだね。やっぱり血の量が足りなかったのかな」  血? 血ってなんだ?  意味がわからずに、オレは首を捻った。  そんなオレに構わずに、##沙由美##は下げていたポシェットに手を突っ込む。ポシェットというにはかなりデカいバッグ。##沙由美##がいつも下げていて、必要なものはなんでも入っているとクラスの連中から重宝されていた。  中から取り出したのはビニール袋。何か赤いものが入っている。白地に、黒に近い赤色がこびりついた…… 「ティッシュ……? これ、もしかして……」  オレと##沙由美##と赤く染まったティッシュ。思いつくのはひとつだけだった。 「うん。この間##青木##君が怪我した時に血を拭いたティッシュだよ。他にも##青木##君に貸してあげた消しゴムとか、使い終わった割り箸とか、密封して取ってあるんだよ。掃除機で吸って真空にする奴!」  嬉しそうに言う##沙由美##の姿に、俺はその時になって初めて恐ろしいものを感じ始めていた。  隣の席の##沙由美##には、いつもエンピツとか消しゴムとか借りている。  それにたまに割り箸を使った時とかも、何も考えずにゴミ箱に捨てていた。まさか、それを拾っていたのか? 「それでね、この血で##青木##君に魔法をかけたの。私を好きになってくれる魔法」  おまじないみたいな奴か? おまじないならクラスの女子の間で評判になっている。オレにはまったく理解できないけれど、##沙由美##も女子だからハマってても不思議じゃない。  でも血を使うって…… 「梨香ちゃんたちに教えてもらったの。隣のクラスの朱美ちゃんもこれで両想いになったんだよ。好きな人の血に魔法の呪文を唱えてずっと持ってれば、その人も自分のことを好きになってくれるんだって」  相手の物を持つっていうおまじないがあることは知ってる。クラスの女子達がよく話しているから。  でも、血というのはいくらなんでも…… 「だから、ちょうど持ってたこれを使ったの。でも、効きが弱かったみたいだね。やっぱりこれじゃ量が少なかったのかな。貰ってから時間も経ってるしね。もっといっぱい、新鮮な血が必要なんだね」  ##沙由美##がオレを上目遣いに見つめてくる。  普段なら可愛いと思っていたその表情も、今はオレの背筋を凍りつかせるものでしかない。 「だから、もっといっぱい血を頂戴ね?」  ##沙由美##は、いつのまにか再びポシェットに突っ込まれていた手を抜き取った。  その手に握られていたのは一本の包丁だった。小ぶりな果物ナイフ。 「##青木##君だって、もっと私のこと好きになりたいでしょう? だって##青木##君は私のことが大好きなんだもん!」  おかしい。明らかに言っていることがおかしい。  オレはよろよろと後退く。包丁よりも、##沙由美##自身の方が恐ろしかった。 「大好きだよ、##青木##君。##青木##君のことしか考えられないくらい。##青木##君も、私のことしか考えられなくなりたいくらい、私のこと好きだよね? だから、もっと強く魔法をかけてあげる! そのために、もっといっぱい血を頂戴ね!」  逃げなくちゃ。それだけはわかっていたけれど、恐怖で身体が動かない。##沙由美##から視線を逸らすことが恐ろしくて、後ろを向いて走り出すことも出来ない。オレに出来ることは、ただよろよろと後退ることだけだった。  不意に、がっ、と足に衝撃を感じてそのままオレは床に投げ出された。  誰だよっ、こんなところに椅子を出しっぱなしにした奴は! 「ね、##青木##君。血の中でもね、心臓から直接出たのが一番効果があるんだって。大丈夫だよ。心臓から出た血なら、量は少しだけでいいんだって。それだけで##青木##君は私だけのもの!」 「うっ、うわぁぁぁぁぁぁぁっ!!」  ちょうど手に触れていた椅子を力任せに##沙由美##に投げつける。それが当たったかどうか確かめもせずに、オレは慌てて走り出した。  走り出そうと、した。 「もう、##青木##君ったら」  そんな風に可愛らしく微笑む##沙由美##の声が聞こえたのと同時だった。  背中に衝撃を感じて、オレはまた倒れ込む。  倒れた時に打ったらしい。頭がくらくらする。  それでも命の危険を感じて必死で視線を上げた。 「駄目だよ、##青木##君。私たち愛し合ってるんだから、離れ離れになっちゃいけないの」  頭から血を流した##沙由美##が、それを拭いもせずに微笑んでいる。  オレが投げた椅子が当たったのだろう。あれだけ血が出ているなら相当痛いはずだ。  なのに、##沙由美##は何もなかったように微笑んでいる。  その右手に包丁。  その左手には血に塗れた椅子。  多分、オレが投げつけて##沙由美##に血を流させたヤツだ。  これでオレも殴られたんだろう。これだけの傷を負わせた椅子を受け止めて、しかもそれで殴りかかってくるなんて。  もう##沙由美##は普通じゃなかった。わかっていたけれど、もう気のせいだなんてごまかしようもないくらい。 「でも、そうだよね。##青木##君の血を貰うんだから、私の血もあげなきゃ不公平だよね。その血で##青木##君も魔法を使おう? 私ももっと##青木##君のこと好きになりたいもの!」  逃げたかったけれど、平衡感覚がやられて立ち上がることも出来ない。  頭を振って意識をはっきりさせようとしたけれど、めまいが更にひどくなっただけだった。 「愛してる、愛してるよ##青木##君! でも、もっともっと、もっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっと好きになるの! 頭がおかしくなっちゃうくらい! 気が狂っちゃうくらい! いっばい血を貰って、いっぱいいっぱい魔法をかけるの! 魔法をかける時間はいくらでもあるよ! だって愛し合う私たちはずっとずっと一緒だもん!」  なってる、もうおかしくなってるよ!  叫びたかったけれど、まだ頭がぐわんぐわんする。  ちくしょう、なんで教室の床ってこんなに固いんだよ! 「そうだ、いいこと考えた! ##青木##君の血と私の血と、両方混ぜるの! 絶対もっとすごい効果が出るよ! きっと二人が離れられなくなっちゃうの! だって、血を混ぜたらもう分けられないもの! ##青木##君と私の心臓のところに穴を開けてね、その穴を重ねるの。私の血が##青木##君の心臓の中に入って、##青木##君の血が私の心臓の中に入るの! すっごいロマンチックだよね!」  ロマンチックってどういう意味だっけ? こういうのがそうなら、オレは絶対にもう二度とそんな言葉は使わない。 「心臓の血を混ぜるって凄いよね! そしたらきっと魂まで混ざっちゃうよ? 私たち本当にひとつになるの! そしたら死んでもずっと一緒だよ? 結婚するときに死が二人を分かつまで、って誓うけど、それよりもっとすごいの! 結婚もまだなのに、それよりもっとすごいことしちゃうんだよ!」  頭が痛いのを無視して起き上がろうとした俺の上に、落ちるてくるようにして##沙由美##が馬乗りになった。  倒されてまた頭を打つ。床についていた手も捻ったらしい。力が入らない。 「まず魔法の呪文を唱えなくっちゃね。  『ネウヨシクハクコトンヤチ・ヨダソウテンナウホマ』」  ##沙由美##が本気だって事は見ただけでわかっていた。逃げなくちゃいけない。  でも馬乗りになられて、意識が朦朧として、手首には力が入らなくて、##沙由美##を押しのけるだけの力も入らなくて。  なんとかしようともがいているオレに向かって、 「えい」  本気で死んでも一緒だと思っているからなのだろう、あっけないほどにあっさりした掛け声と共に、##沙由美##は包丁を振り下ろした。  血が噴出すまで意識が残ることも無いくらいの、即死。  オレに馬乗りになった##沙由美##が、本当に幸せそうに微笑んでいる。  それがオレの見た最期の光景だった。
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未田 尚(まだ なお)
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