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キリ番 黒

『雀』

キリ番4800

リク主:筑波みかんさん リク  『●シリアス』『●ホラー』『観光バス』      『雀』『得体が知れない』『梅雨』

前   『学校という特殊な環境における都市伝説、いわゆる(以下略)』 「……適当になんとかするにしてもさ、ひとつくらいは目新しい箇所が欲しいんだよな。なんか例になるような怪談話とか知らんか?」 「んーと、怖い話ならいくつか知ってるよ。学校でも怪談でもないけどー」 「ダメじゃん……まぁ、何かの参考にはなるかもしれんな。とりあえず話してみろ」 「じゃあ一番オススメの話ねー。えっと、『これは本当にあった話です……  その頃、私にはどうしても気になっていることがありました。  私たち家族三人が乗るはずだった観光バスが、いったいどこに消えてしまったのか、ということです。  引越しを間近に控えた私たちは、この土地での最後の思い出にと、近くの観光地を廻る観光バスに乗ることになっていました。ですが、当日になって私が熱を出してしまい、中止になってしまったのです。  今思えば、それは何かの知らせだったのかもしれません。  ──そのことが無ければ、私たち家族もバスジャックに巻き込まれていたはずなのですから。  でもそれだけなら、ただ単に運が良かったというだけで済んでいたのかもしれません。  ですが奇妙なことに、最初の身代金要求以降、犯人からは何の連絡も無かったのです。  結局、身代金受け渡し方法の指示すら無いまま、犯人たちは姿を消しました。  ──乗客47名、運転手とバスガイドの2名の乗務員を乗せた観光バスと共に。  それから一ヶ月が経っていました。引越しはいよいよ目前に迫っています。  新しい生活が始まれば忘れてしまえる──そうするべきだということはわかっていました。でも、私にはどうしてもそうすることが出来なかったのです。  私たちが乗るはずだったバスがどうなったのか。私たち家族がどうなるはずだったのか。  どうしても、それを知らずにいるわけにはいかない気がしたのです。  もちろん、警察が探し続けて見つからないものが、私に見つけられるとは思っていませんでした。ただ、自分が納得するためには、探したのだという事実が必要だったのです。  だから、探すのは一日だけ。朝から夕方まで歩き回って、探したふりをしたら納得する。そう決めていました。  私が目指したのは、家から三つ隣の駅でした。私たちが乗るはずだったバスの出発した場所です。  初めて訪れたそこは、観光バスが出ているとはとても思えないような寂れた駅でした。辺りには店の一軒も無く、駅の規模に比べて無意味としか思えないほどに広いロータリーが、ただ虚しく広がっているだけだったのです。  その駅に着いた時、辺りはパラパラと雨が降り出していました。梅雨の最中とはいえ、その切れ間の晴れの日を選んだのに、です。  その日、私は傘を持っていませんでした。  晴れの日を選んだとはいえ、梅雨の時期に傘を忘れてしまったのは、きっと心穏やかではいられなかったからなのだと思います。半ば以上諦めていたとはいえ、心のどこかではバスを見つけたいと思っていたのです。  濡れて歩くわけにもいかず、私は仕方なく駅の売店で傘を買いました。  白いビニールの傘です。骨の細い、明らかに安物のその傘はとても心許なく思えましたが、店の無いその周辺には、傘を手に入れられるようなところなど、他になかったのです。  傘を片手に、私は歩き出しました。元より目的地などはありません。適当に歩き回って、自分を誤魔化せるようになったら帰る。それだけの計画だったのです。  風の強い日でした。傘をさしていても、胸から下が濡れてしまうほどに。風にあおられて、傘がばさばさと音を立てていました。脆そうなその骨は、今にも折れてしまいそうに。 撓り、私の不安を更に掻き立てました。それでも引き返すわけにもいかず、私は歩き続けたのです。  しばらく経つと、アスファルトに覆われた道のあちこちに水溜りが出来るようになっていました。  普通ならば、平らなはずのアスファルトの道路に、大きな水溜りなどできるわけがありません。老朽化なのか、それとも手抜き工事のせいなのか──その道は、大きく歪んでいたのです。  その水溜りを叩く雨の音が、ざわざわと周囲を覆っていました。それはまるで大量の蟲が、生い茂った緑の葉を食い荒らす音のようです。  養蚕をしていた祖父の家では、日常的に聞こえていた音でした。  そこではいつも、台の上から落ちた蚕が踏み潰されて、緑色の血を流しながら蠢いていたものです。  もしそうなることを避けたとしても、羽化して蛾になり、子孫を残すことは決してありません。桑の葉を喰い散らかし、繭を作るその芋虫は──絹糸目当ての人間に、あっけなく殺される運命なのです。  違和感に気付いたのは、そんなことを考えていた時でした。  雀が飛んでいたのです。  小雨とはいえ、雨の中を雀が飛んでいる様子はなんだか異様に思えました。  雀だって、雨の中を飛ぶことはある──そう考えようとしたのですが、私は何故かそのことが気になって仕方がありませんでした。  自然に、私はまるでその雀を追うように歩き出していました。  そうしたのは、雨の中を雀が飛んでいることへの違和感からというよりも、説明しようのない予感じみたもののせいだったのだと思います。  元々当てがあって歩いているのではありません。その足を止める理由も無く、私は歩き続けました。  進むたびに雀の数が増えていきます。最初に見つけた時は一羽だった雀が番になり、群れになり、電線をびっしり埋め尽くすようになり、やがて空を覆いつくさんばかりになっていました。  それを追う私の足からは、水溜りを避ける用心深さが消え、いつの間にか早足になり、いつしか小走りになり、やがてほとんど全力疾走にまでなっていました。  今になって考えてみれば、その時の私はどこかおかしくなっていたのでしょう。冷静だったのなら、そんな異様な光景を目にすれば、間違いなくその場所には近付かなかったはずなのですから。でもその時には、まるで誰かに呼ばれでもしているように、なんの疑いもなくそこへと向かっていってしまったのです。  ──むしろ、そこに至ることが無上の喜びですらあるような感覚に囚われていました。  やがて私が辿り着いたのは、自動車の修理工場らしい建物でした。  らしい、というのは、トタンの壁に書かれた店名らしい文字が、すっかりと掠れ、水垢に汚れて読めなくなっていたからです。  庭もコンクリートで舗装されていたのですが、そのところどころがひび割れ、草が顔をのぞかせていました。  どこを見ても、人がいなくなってから、もう何年もの歳月が流れていることをうかがわせていました。  壁に伝う赤錆が雨で流された痕は、まるで自分を見捨てた人間を恨んで、血の涙を流しているかのようです。  そこは──そこ、と言っていいのか分からないくらい広範囲に渡っていましたが──すっかりと雀で覆いつくされていました。屋根と言わず窓と言わず、庭、庭木、電柱、電線、壁のトタンが剥がれたところにまで──付近で留まれそうなところでありさえすれば、かまわず雀が留まっていたのです。  私が近づいても、逃げる様子などは全くありませんでした。雀の群れは、揃って感情を感じさせない黒目で、私のことを見つめる続けるだけだったのです。  その、まるで吸い込まんと待ち受けているような、闇を刻んだ瞳に心を挫かれそうになりましたが、そのことがむしろ私をその場に留め続けました。  そうであるからこそ、ここには何かがある──それはほとんど確信として、そこに着いてよりずっと私の耳元で囁かれ続けていたのです。  どこか中に入れる場所はないかと、私はその建物の観察を続けました。  正面は大型車も入れるガレージになっているらしく、全面が、私の身長の三倍はありそうなシャッターに覆われていました。  この大きさでは、たとえ鍵がかかっていなくても、私ひとりで開けられるとは思えません。おそらく、建物の中から機械で操作して開ける構造になっているのでしょう。  そうであるなら、他に入り口があるはずです。私は建物の裏へと廻ってみました。  草が生い茂った裏庭も、雀でいっぱいになっています。その光景に気圧されそうになりながらも、私は辺りを見回しました。  思った通り、裏庭の一番奥──わざと一番人目につかないところを選んだかのような場所に、裏口らしきドアがありました。そのドアまでも、道らしい道はなく、全面が草で覆われています。少なくともそのドアが、草が踏み散らされるほどに利用されていないことは、ひと目見ただけでわかりました。  ですが、他に建物の中に入れそうな場所はありません。私は雀で埋め尽くされた裏庭に足を踏み入れました。  私が足を進めると、その場だけは雀が飛び立ちます。しかし後ろを振り返ると──私の歩いてきた足跡は、すでに雀で埋め尽くされていました。  私が足を下ろしたところの雀のみが飛び立ち、私がその場から足を退けるとまた同じ場所に降り立つ──そんなふうに感じました。  あのいつものちゅんちゅん、という鳴き声を聞ければ、きっと不安を拭い去ることが出来たと思います。毎朝繰り返されるあの光景を思い起こすことが出来さえすれば。  ですが、その場を埋め尽くした雀は何の音も立てず、雨を凌ぐために物陰に入るでもなく、ただそこにあるだけの存在でしかなかったのです。  気を抜けば踏み潰してしまいそうなほどに密集した雀に神経をすり減らしながらも、私はようやくドアまで辿り着きました。  裏口の周りに生えた草は、ドアの下の部分よりも長く伸びていました。明らかに、しばらく開閉された形跡は無いように見えます。  長らく使用されていないドア。  おそらく、いえ間違いなく鍵がかかっているでしょう。ドアは開かなかった、中に入ることは出来なかった──そうなれば、出来るだけのことをしたと、私はそう納得することが出来ます。  私は雨に濡れたドアノブを握り締めて、ゆっくりと回しました──回ってしまったのです。  鍵はかかっていませんでした。  その時の私の気持ちをなんと表現すればいいのでしょう。  これで建物の中を調べられるという期待感。そして、これで建物の中を調べなくてはならなくなってしまったという恐怖感。その相反するふたつの感情が入り混じっていたのです。  本当なら、そこで引き返すという選択もあったはずです。  もし本当に誰も使っていなかったとしても、その時私がしようとしていたことは不法侵入になります。それを言い訳に、そこから先に踏み込むことをやめることも出来たはずでした。  でもその時の私は、何故か中を調べるのが当たり前なのだという気持ちになっていました。引き返すのだなどという選択肢があるとすら思いもつかないほどに、すっかりとその思いに心が支配されてしまっていたのです。  一歩踏み込んだ建物の中は、不思議なことにひんやりとしていました。  外は雨のせいで、この時期にしては異様なほどに冷え込んでいます。ですが、部屋の中の温度は、それよりもずっと低く感じたのです。  温度だけではありません。建物の外よりも、ずっと湿気を多く感じました。それは空気が肌に纏わりつくのを感じるほどに。  この建物を見た時から感じていた異様な感覚は、すでに誤魔化しようがないまでに成長していました。それでも私は唯一外界へと繋がるドアから離れ、部屋の中を調べ始めたのです。  持っていた傘は──一瞬迷いましたが、畳んで持っておくことにしました。何かあった時には武器になるように。尤も、この脆そうな傘では、気休め以上のものにはなりそうにありませんでしたが。  調べたと言っても、机の引き出しやロッカーを開ける勇気まではありません。私に出来ることは、部屋の中を見回すことだけでした。  その部屋は、どうやら事務室のようでした。  事務机に椅子、壁にはスケジュール管理用らしい黒板がありました。最後の記入は12月28日。何年前のものかは分かりませんが、少なくとも半年以上は営業が行われていないということです。  この部屋にはめぼしいものは何も無い。そう判断した──或いはそう判断したかった私は、部屋の奥へと進みました。そこに、もうひとつのドアがあるのが見えたからです。  すりガラス越しに見えるその向こう側は、窓からわずかに光の入るこちらの部屋よりも、ずっと暗いようでした。  この先は、多分ガレージになっているはすです。正面から見えた、あのシャッターの向こう側。車を、整備するために置いておく場所。あのシャッターの大きさを考えれば、どんな車でも入るはずです。  たとえ、それが大型観光バスだとしても。  意を決して、私はドアを開け放ちました。  暗闇に慣れていない目がそのドアの向こう側を捉えられず、私はしばしその場に立ち尽くしていました。  やがて慣れた目に映ったものは──雀、でした。  外よりもずっと密集した雀が、文字通り肩を寄せ合うようにして、床を埋め尽くしていたのです。  まるで、雀の柄の絨毯が敷き詰められているのではないかと誤解するほどに。  その向こうに、あったのです。  私の知っている社名の書かれた、観光バスが。正面に掲げられたプレートには、私たちが向かうはずだった観光地の名称が記入されていました。  間違いありません。私たちが乗るはずだったバスです。  何故こんなところにあるのか、なんて疑問は、その時の私には思い浮かびませんでした。  ずっと気になっていたことを確認したい。それだけしか考えられなくなっていたのです。  床を埋め尽くした雀を踏まないように、摺足でかえって雀を蹴り飛ばしそうになりながら、私はバスに向かって走りました。  入り口は開いています。  その中は、この床のように茶色い雀に覆われているに違いない。  そう、思っていました。  白。バスを覗いた私の目に映ったのは、一面の白でした。  折り重なるようにしてあったのは、床一面に広げられた、白い骨だったのです。  どこの部位かわからない骨であれば、何らかの言い訳が出来たのかもしれません。どんなにありえないことでも、自分を無理に納得させられたと思います。  例えば、違法な屠殺業者が不要になった骨の廃棄場として使っていたのだ、なんて風に。  ですが、そのあちらこちらに転がっていたのです。  明らかに、猿ではあり得ないない大きさの頭蓋骨が。  目の前の光景の意味が理解できずに──理解したくなくて思考を停止している私の前で、その骨がゴトリ、と音を立てました。  ひとつではありません。バスの中のいたるところからゴトゴトと音が鳴り始め──硬直している私の前で、覗いたのです。  周囲に散らばる無数の頭蓋骨の、ぽっかりと空いたその眼窩から──いっせいに、雀の頭が。  その瞳が──自身が納まっている眼窩の穴ように、黒い瞳が私を捕らえた時。  私は声の限りに叫びを上げました。  そこからどうやって逃げたのか、よく覚えていません。おそらく入ってきたあの裏口から外に出たのでしょうけれど、そんな記憶は私には全くなかったのです。  気付いた時には、私は警察にいました。安堵のあまり泣き出してしまった私を、刑事さんが優しく慰めてくれたことだけは、今でもはっきりと覚えています。  持っていたはずの傘はなくなっていました。逃げる時に投げ棄てて、骨と一緒にあそこに転がっているのだろうと思います。刑事さんにお願いすれば返して貰えるのかもしれませんが、もうあの傘を手にする気はなくなっていました。  刑事さんの話によると、きっと犯人たちは、観光バス自体を隠せるあの場所を、最初から潜伏場所として用意していたのだろうとのことでした。  バスの中には乗客と乗務員、そして犯人全員分の骨があったそうです。おそらく邪魔になる人質を先に始末した後、仲間割れが起きて全員相打ちになったのだろう、との事でした。  あの雀のことはわかりません。何故あそこに集まっていたのか、何故あんな行動をしていたのか。  それどころか、あそこには羽毛や糞など、雀がいた形跡は何も残っていなかったそうです。  今になって、時々思うのです。  あれは、本当に雀だったのでしょうか。考えてみれば、あまりにもおかしなことが多過ぎました。  雨の中であれだけの群れを作っていたこと。あの数の群れを、付近の住人たちの誰も気にしていなかったということ。  何より、雀は高いところに巣を作るものです。一羽や二羽ならともかく、あれだけの群れの全てが、バスの床に転がった頭蓋骨の中になんて、巣を作るはずがありません。   あれが、雀ではない──鳥ですらない、何か得体が知れないモノだったのだと考えれば、全てに説明がつくのです。  ──誰一人生き残っていない理由も、たった一ヶ月で全ての死体があれだけ見事に白骨化していた理由も、この梅雨の最中にあれだけの死体があったのに、何の匂いもしなかった理由も。  今でも、ビニール傘を見るたびにあの時のことを思い出します。  透明なビニールから透けて見える傘の骨が、身体を隠す肉を失って、バスの中で折り重なるようにしていた白い被害者たちの姿と、重なって見えてしまうのです。  ……というお話だったとさ』。おしまい」 「……なんだそれ。おまけして20点だな」 「えー、もうちょっといくと思うよー」 「あまりにも現実味が無さ過ぎるんだよ。そもそもバスジャックの上に何十人も犠牲になったなんて事件があれば、大騒ぎにならないわけがない。なのにアタシはそんな話聞いたこともないぞ」 「でもー、牛さんの病気だって、こんなたくさん死んじゃうまでほとんどほーどーしてなかったよ?」 「それは事情があるからだ。そりゃもう浅い事情が。でもネットじゃ騒ぎになってたし、人間がそれだけ犠牲になってたら、全くなんの情報も出ないなんてありえないだろう」 「たぶん、じじょーがあったんだよー。あっさいじじょーが」 「もし全部本当の話だったとしてもだな、『雀じゃない何か』なんてのはどうみても考えすぎだ。そんなのが群れていたら、付近にもっと被害が出てるはずだろ。とゆーか、その中に踏み込んだヤツが無事でいられるわけが無い」 「うん、そーだよねぇ。わたしの考え過ぎだよねー」 「……おっと。雨の話なんかしてたからかな。降ってきたみたいだぞ」 「あー、ほんとだ。さっきまでは晴れてたのにねー」 「天気予想じゃ降るなんて言ってなかったんだが。……しかし参ったな。帰るまでに止んでくれたらいいんだが」 「大丈夫だよー。わたし折り畳み傘持ってるからー」 「お前、相変わらず要領がいいな。梅雨でもないのによく傘なんか持ってるもんだ」 「だってーここの売店って、ビニール傘しか売ってないんだもんー」 続き    『姉弟ということ。』 
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未田 尚(まだ なお)
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にゃー
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