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キリ番

『離任式』

キリ番4600

リク主:筑波みかんさん リク  :『離任式で、慕われてた先生が異動してしまう』      『●切ない』『桜』『中学生』『教師と生徒』      『別離』『生徒会』『恋愛風味抜き』

「それでは、今年度でこの学校から異動になる先生から挨拶があります」  先生が壇上に上がると同時に、体育館は拍手に包まれた。  周りを見渡せば、さっきまでのだらけた雰囲気なんてまるでなかったかのように、みんな真っ直ぐ先生を見詰めている。 「この大切な終業式に、私の離任式の時間をとっていただいてありがとうございます。先程校長から紹介がありましたように、私はこの三月をもって異動することになりました」  本当は、ついさっきまで何かの間違いじゃないかと思っていた。  先生が異動になるなんていうのは何かの間違いで、来年もずっとこの学校にいてくれるんじゃないかって、そう思っていた。  この場で、先生本人の口から聞いてやっと納得する。  本当に、先生は来年度から違う学校に行ってしまうんだ。 「私がこの学校に来たのは2年前です。新任だった私は、満開の桜の下での入学式を、緊張して迎えたものでした」  私が先生と出会ったのは去年の入学式。  学区外から来た私には、友達なんてひとりもいなかった。  それに引き換え、周りは小学校から繰り上がりの知り合いばかり。私が割り込める雰囲気なんて全然ない。  そこに自分から話しかける勇気なんてなくて、私はひとりぽつんと校庭の隅に佇んでいた。  その隣には、私と同じようにひとりきりの桜の木。賑やかな校庭で、私と桜だけがひとりぼっち。  春の象徴であるはずの桜が、その時の私にはなんだかとても切なげに見えていた。  その私に声をかけてくれたのが先生だった。  それがどんなに心強いことだったか、他の人にはきっとわからないと思う。  「まだ教師として未熟な私を、先生と呼んで慕ったくれた生徒の皆さん。支えてくれた先生方。本当にありがとうございました」  先生が頭を下げるのに合わせて、たくさんの頭が下げられる。  その中に『先生はちゃんとした先生だよ』という声が混ざっていて、先生はにっこりと微笑んだ。 「ここに並んでいらっしゃる先生方は、みんな立派な、尊敬できる先生です。ですから、そういう先生らしい先生というのは他の先生方にお任せして、私は皆さんと友達として付き合ってきたつもりです。本当は教師としては良くないことなのかもしれません。でも、未熟な私には、教師らしくないからこそ荷える役目があると思いました。そのおかげで、生徒のみなさんとより仲良く慣れたと自負しています」  そんな先生だから、まわりはいつも生徒でいっぱいだった。普通の先生には出来ない話も出来る。  私もそうだった。それまではひとりで抱え込んでしまっていたことも、先生になら相談できた。いくつもの悩みを、先生が解決する手伝いをしてくれた。 「教科外活動では、校長に言われて生徒会の顧問をさせていただきました。新任教師に何をさせるんだと、校長の正気を疑ったものです」  先生と生徒の両方から、どっと笑いが起きる。  当の校長は、にこにこと笑いながら自慢の髭を扱いていた。 「生徒会の顧問なんていう重要な役目が務まるものかと不安でいっぱいだったのですが、校長に若い感性が必要なんだと口説き落とされました。校長、若すぎる感性はいかがでしたか?」  校長が両手で丸を作ってみせると、また体育館が笑いに包まれた。 「校長の感想なんてどうでもいいのですけれど、生徒会役員の皆さんは大変だったろうと思います。中にはほとんど強引に立候補させてしまったような人もいて、迷惑だったのではないかと今でも心配しています」  迷惑なんてとんでもなかった。  確かに引っ込み思案で人と話す事すら苦手だった私は、生徒会に立候補なんて尻込みした。  でも生徒会に参加したおかげで、今では人前に出る事にも少しは慣れたし、知り合いもたくさん増えた。この学校の中だけじゃない。学外活動に出る事も多いせいで、他の学校の生徒とも知り合う事が出来た。  それもこれも、全て先生が無理やり立候補させてくれたおかげだ。  あの時はなんて強引なんだろうと思ったけれど、今では感謝している。 「ですが、役員の皆さんが頑張ってくれたおかげで、素晴らしい生徒会活動が出来ました。この場を借りましてお礼を言わせて貰います。みんな、本当にありがとう」  私たち生徒会役員は、先生に合わせて全員で頭を下げた。  お礼を言うのはこちらの方だ。  先生がいなかったら、こんなに充実した中学生活は送れていなかったと思う。  今もきっと、入学式の時のように隅の方にひとりでいたに違いない。 「文化祭では、みなさんの力のこもった展示を見せていただきました。みなさんとても一生懸命打ち込んでいて、とても楽しそうで、あの時ほど参加できない教師と言う立場が恨めしかったことはありません」  文化祭では、私の担当はアナウンスだった。しどろもどろになりながらも頑張っていた様子が印象良かったとかで、知らない人たちからも褒めて貰ったりした。  それも先生が決めたのだと聞いたのは、それから少ししてからのこと。 「スポーツの分野では、野球部が県大会で二位になりました。私も応援に行ったのですけれど、選手のみんなが一生懸命ボールを追う姿に、胸がいっぱいになったのを覚えています」  あの時は生徒会代表という事で、先生に連れられて私も応援に行った。  初めて乗った先生の車はとっても少女趣味で、先生のイメージと違っていて驚いたものだった。  特に好きなのはキティちゃんらしい。私も好きなので、行きの車の中では話が弾んだ。  そのせいで道を間違えて、試合に遅れそうになったくらい。 「今日で私はこの学校から去ることになります。私との別れを悲しんでくれている人もいるかもしれません。でも、どうか悲しまないでください。お別れとは旅立ちであり、新しい出会いのための準備です」  泣きそうになるのを必死で耐える。先生が悲しむなと言っているのだから。  それでも目の前が滲むのだけは、どうしても堪えられなかった。 「私に先立ちまして、先日の卒業式でたくさんの三年生達がこの学校から巣立って行きました。来年にはここに居る二年生の皆さんが、そして再来年には一年生の皆さんも旅立って、ここに居る生徒の皆さんは誰もいなくなります」  先生の言葉にそっと周りを見回す。  クラスの友達。生徒会の仲間。いつかここからいなくなってしまう。  言われてみれば、とても当たり前のこと。知っていたけれど分かっていなかったことを、こうして先生との別れという形で実感する。 「ですが、四月になれば新入生がやってきます。そしてその子達が皆さんと同じように二年生になり、三年生になり、やがて卒業していきます。その後にはまた新入生が入学してくるでしょう。そうやって思い出が、そしてこの学校の歴史が作られていくのです」  今までもそうしてきたのだと思う。  私が入学する前も、卒業して行った先輩たちが入学する前も、そうやって歴史が作られてきて、そしてこれからも繰り返されていく。  『行く川の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず』  不意に授業で教わった言葉が思い出された。 「四月に入学してくる新しい仲間との出会いを、どうか大切にしてください。私や、卒業していった三年生たちとの別れを惜しんだのと同じだけ、新しい出会いを喜んでください」  今年の四月に、桜の下でひとりで佇んでいる子がいたら、私が声をかけてあげよう。  去年、先生が私にしてくれたみたいに。 「二年間という短い間でしたが、私は皆さんの中に何かを残す事が出来たでしょうか。私はみなさんにとって良い先生でしたでしょうか。」  大丈夫。この学校の生徒は、みんな絶対に先生のこと忘れない。  少なくとも私の心には、先生みたいな教師になりたいっていう夢が残ったから。 「私もこの学校を卒業していきます。皆さんと一緒に今年の桜を見られないのは残念ですが、皆さんとの思い出を、経験を胸に、次の学校でも頑張っていきたいと思います。そして私が愛したこの学校を、皆さんが守り、より発展させてくれるのを楽しみにしています。二年間、本当にありがとうございました」  体育館が拍手に包まれる。いつまでも鳴り止まない、先生との別れを惜しむ拍手。  でも、その中で一番大きな音で拍手をしていたのは、きっと私だったと思う。
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未田 尚(まだ なお)
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