キリ番
『姉弟ということ。』
キリ番5203
リク主:レイさん リク :『主人公が不思議な力を持っている』 『学園モノ(?)』『夏』『義姉弟(?)』
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『学校という特殊な環境における都市伝説、いわゆる(以下略)』
『雀』
「ま、それで雨の方はどうにかなるとして、レポートの続きだ。なんか無いのか? 『学校』で『怪談』の話」
「ぶー、私にばっかり話させてないで、自分でも思い出すそぶりくらいしよーよ」
「怪談の話なんて、レポートに必要だから仕方なくしているだけだ。そうでなければそんな非現実的なもの、もとより興味もない。私が知っているわけがないだろう」
「ぶー。そんなこというんだったら、とっときの話しちゃうんだから。聞いて後悔するなよー。えっとー、『このお話の当時、その男の子は中学生でした……
月明かりに照らされた校舎の中を、オレは姉ちゃんに手を引かれて歩いていた。
月の光というのはわりと明るいもので、昼と同じとまでは言わないが、満月ともなると校舎の中でも歩くのに問題ないくらいの明るさがある。
前を行く姉ちゃんがきょろきょろと周りを見回す横顔が青白い光に照らされていた。
その顔色が悪く見えるのがその月の色のせいばかりではないのは、握り締められた手に伝わってくる震えでわかる。本当は人一倍怖がりのくせに、姉ちゃんはいつもこうやって強がっている。そうして自分が姉だということを証明しようとしている。
だから、俺は姉ちゃんに守られる、情けない弟でいなくちゃいけなかった。
「ほ……ほら、お化けなんているわけないんだ。こ、怖いわけなんか、あるもんか」
震える姉ちゃんの手を、ぎゅっと力を込めて握りしめる。その揺れが少しだけ小さくなった気がした。
きっと姉ちゃんからは、怖がった俺が姉ちゃんの手に縋りついてるみたいに思えただろう。
怖いわけがない。幽霊なんて見慣れてる。
交通事故現場の半透明の女の人とか、踏み切りの下半身がない男の人とか、防災頭巾にもんぺ姿のおばさんとか、飼い主だったらしい男の子の周りをふわふわと飛び回っている犬とか。
街は幽霊で溢れている。
気付いていないそぶりをすれば、怖い事なんてない。こちらが気にするから、向こうも気にするんだ。見た目が怖くたって、なんて事はない。普通に存在しているものとして放っておけば、何も悪いことなんて無い。
恐る恐る歩く姉ちゃんについて歩いていく。その脇を鬼ごっこの子供たちが駆け抜けて行ったけれど、もちろん姉ちゃんはそんなことには気付かない。
「ほ、ほら、こっちだよ。私から離れちゃダメだからね」
俺が姉ちゃんの手を引けばもう少し早く進めると思うのだけれど、それではダメだ。
俺は、姉ちゃんの後をついていく弟でなくちゃいけないんだから。
階段を登る。目指しているのは屋上だ。
そこには、いじめられて自殺した女の子の幽霊がいるらしい。いじめた生徒を恨む遺書を残して死んだのだという。
どこからかそれを聞き出してきた姉ちゃんが、俺を鍛えると称してここまで連れてきたのだ。
神社の息子が幽霊を怖がっていちゃいけない、と言って。
俺に幽霊が見えるということは、俺以外の誰も知らない。誰にも話していないし、知られるわけにはいかない。
屋上には、きっと何かいると思う。自殺した女の子の幽霊かどうかはわからないけれど。
ここに限らず、幽霊のひとりもいないところの方が珍しいし、何かいるから噂になったのだろう。
ぎ、と屋上の扉が開いていく。ノブを握る姉ちゃんの手が震えているから、おかしいくらいにガタガタ音がしたけれど。
そこには、思ったとおり女の子がいた。姉ちゃんと同じくらいの年で、同じくらいの背格好。手すりに手をかけて、下を覗き込んでいるから顔は見えない。
そんなに悪いモノじゃないと思う。恨みとかはあるみたいだけれど、俺たちに向けられているものじゃないからそんなに問題でもない。その証拠に、その女の子は屋上まで来た俺たちの方を向きもしない。
適当に『何も無かったね』とか言って帰れば何も起きたりしない、はずだった。
「ほら、何も無いぞ」
何も無いことを確認して急に元気になった姉ちゃんが、俺から手を離して屋上を歩き始めた。
「もういいだろ? 早く帰ろう」
俺が怖がっているから、という理由があれば、強がっている姉ちゃんも帰りやすいはずだ。
ほっとした反動で元気になっているとはいえ、夜の屋上というのはそれなりに不気味だ。怖がりの姉ちゃんは、冷静になりさえすればすぐに帰ろうと言い出すはず。
「お化けなんているわけないだろう、そんなものを怖がるなんて……」
屋上を歩き回っていた姉ちゃんが、そう言いながら幽霊の後ろに差し掛かった時だった。
それまでなんの動きも見せなかった幽霊が、くわと目を見開いて姉ちゃんの方を振り向いた。
「姉ちゃ……」
背筋に悪寒を感じて俺が叫ぶよりも早く、幽霊は姉ちゃんに重なるようにして。
ふ、と姿を消した。
「姉ちゃん!」
まずい。取り憑かれた。それはわかったけれど、どうすればいいのかなんてわからない。
幽霊の姿が見えはしても、こういう時にどうすればいいのかなんてわからない。
「う……あ、ああぁ……」
姉ちゃんが苦しんでいた。
風邪を引いて熱を出した時も、俺の前では絶対につらそうな様子を見せなかった姉ちゃんが、平気を装う余裕もなく、俺の目の前で苦しんでいた。
「大丈夫か!?」
頭を抱えてうずくまる姉ちゃんに、慌てて駆け寄った。
大丈夫か、なんて言葉が虚しく響く。どこからどう見たって大丈夫なわけがない。
「お……が……」
どうすればいいんだろう。お払いするのか? お札か何か必要なんだろうか。うちから持ってきておけばよかった。
「おま……が、……いな……け、れば……」
途切れ途切れの言葉を聞き取ろうと、姉ちゃんの口元に耳を近づけた時だった。
「お前が、いなければ!」
一瞬、何が起こったのかわからなかった。背中に走った衝撃と、大写しになった姉ちゃんの顔と、その背後の月でようやく悟る。
姉ちゃんに押し倒されて、馬乗りになられていた。
生まれた時からずっと見ていた、見慣れたはずの姉ちゃんの顔。
でも、それは今までに見たことのない表情をしていた。姉ちゃんにこんな表情が出来たのなんて信じられないほどの、憎悪に歪んだ表情。
その両手が、がっ、と俺の喉を掴んだ。
幽霊に操られている。
きっとこの幽霊は、俺のことを自分をいじめていた生徒だと思っているのだろう。悪いものじゃない、なんて、とんだ勘違いだった。それで姉ちゃんをこんな目にあわせて、全部俺のせいだ。
ぎりぎり、と喉を絞められて呼吸が苦しくなる。明らかに女の力じゃない。取り憑かれたせいで、加減が出来なくなっているせいだろうか。
「ね……ちゃ……」
振り払おうと姉ちゃんの手首を掴むけれど、びくともしない。足をばたばたさせても、姉ちゃんの身体はまるで石で出来てでもいるかのように動く気配もない。
ますい。このままじゃ、本当に……
「お前が……生まれて、来なければ……」
はっ、と姉ちゃんを見る。
泣いていた。姉ちゃんが、俺の前ではいつも強がっていた姉ちゃんが、両の瞳からぼろぼろと涙が溢れさせて、泣いていた。俺の顔に落ちるその滴の冷たさに、頭がしんと冷える。
思い違いをしていた。ねえちゃんは、操られてなんていない。
自分をいじめていた生徒を、殺したいほど憎んでいたこの幽霊の思いと、共感しただけ。
姉ちゃんの『俺を殺したいほど憎い』という想いが、それと共感しただけなんだ。
だから、これは姉ちゃんが自分の意思でしていることなんだ。
「お前が生まれなければ……うちの子供が、私だけだったら……私だって愛して貰えたのに……」
姉ちゃんは、養子だった。長く子供の出来なかった両親は、それなりに格式のある神社を潰さないように、親類の中から女の子を養子にした。
母さんが俺を身ごもったのが、その翌年。
用無しになった姉ちゃんがどんな扱いをされていたのかは、俺が一番良く知っている。
両親は、姉ちゃんが養子だという事を隠そうとしなかった。それどころか、ことあるごとにそれを強調した。実子の俺と区別した。
物心つくよりもずっと前から、姉ちゃんはあの両親の『娘』じゃなかった。
「……いいよ」
姉ちゃんの手を掴んだ腕から力を抜く。途端に指が喉に食い込んできたけれど、かまわない。
姉ちゃんがずっと苦しんでいることは知っていた。
「それで姉ちゃんが楽になれるなら、いいよ」
だから、家族の中で姉ちゃんの居場所は俺の姉であることしかなかった。
だから、俺も姉がいないと何も出来ないダメな弟じゃなきゃいけなかった。幽霊が見えるなんて、神社の跡取りらしい力があることを知られるわけにはいかなかった。
でも、そうだったんだ。『俺の姉』なんて回りくどいことよりも、『一人娘』の方が、姉ちゃんにとってずっといいに決まってる。
それで姉ちゃんがしわせになれるなら、そうして欲しかった。
目を閉じる。頭に血が集まって、破裂しそうなくらいに熱くなっていたけれど、不思議にも苦しさはほとんど感じない。
首を絞められて死ぬのって、どのくらいかかるんだろう。やっぱり、もっともっと苦しくなって、死ぬほど苦しんだ挙句に死ぬんだろうか。
「だ……、よ」
姉ちゃんの呟きが聞こえる。さっきまでの、憎悪に震える声じゃなかった。
それに、首を絞められ始めて結構経っている。抵抗してもいないのに、いくらなんでも時間がかかり過ぎだ。
そう思って、俺は目を開けた。
姉ちゃんの動きが止まっていた。俺の首を絞めていた腕も、もうほとんど力が入っていない。
「やだよ……こんなの、やだよ……」
姉ちゃんの涙が、俺の顔にぽたぽた落ちて来る。それは、さっきまでの冷たい涙じゃなかった。
「私、お姉ちゃんなのに……弟を守らなきゃいけないのに……こんなの、違うよっ!」
ばんっ、とはじかれるように、姉ちゃんの身体から幽霊が抜け出た。そのまま、虚空に溶け込むように姿を消していく。
姉ちゃんが俺を思ってくれる気持ちに触れて成仏したのか、親戚とはいえ俺と同じ神社の血筋ゆえの力で除霊したのか。
前者の方が少し嬉しいかな、と何となく思った。
「ごめん、ね……お姉ちゃんなのに……弟に嫉妬するなんて、お姉ちゃん失格だ……」
姉ちゃんは、俺に縋りついて泣いていた。こんなに弱い姉ちゃんを見るのは初めてだった。
いいや、違う。姉ちゃんはいつでも弱かった。弱かったからこそ、強がっていたんだ。
本当は、俺が守ってあげなくちゃいけなかったんだ。年下でも、俺は男なんだから。血が繋がって無くても、弟なんだから。
「自分でお姉ちゃんであることも否定して、こんなだから、家族になれないんだ……」
「だったら!」
自分がとんでもないことを言おうとしていることはわかっている。それが、ほとんど勢いまかせだということも。
でも。
俺は、姉ちゃんの身体を抱きしめた。
「だったら、姉ちゃんと俺が結婚すればいい! そしたら本当に家族だ!」
多分、姉ちゃんは呆れた顔をしているんだろう。コイツは何を言ってるんだ、と呆然としているに違いない。言ってしまって、少し後悔した。
「本当に、あんたはバカなんだから……」
ああ、やっぱり。
勢い任せだったし、考えなしだったけれど、わりと本気だったのに。
「あんたはバカなんだから、一生懸命頑張って、私を守れるくらいカッコいい男になってなかったら……結婚なんてしてあげないからね」
……というわけで、お姉ちゃんでいなきゃいけないという強迫観念の無くなった女の子は、教師という夢を見つけて今日も頑張っているのでした。』めでたしめでたし」
「ちょ……おま……」
「うん、いーお話だったねぇ。ねー?」
「……お前、どこからそんな話を仕入れてきた」
「えー、どこだったっけなー? ところで話変わるけど、弟くんって結構かっこいいよねーw」
「あああ、あのバカ!」
「んー? どうして慌ててるのかなー?」
「うぐ……い、いや、なんでもない」
「えへへー、ちわげんかは誰もいないところでやってねー。でもー、ひょーいとかされたひとは、普通はおばけとか信じると思うんだけどねー?」
「いや、よく考えてみろ。夜の学校なんてのは、幽霊を信じる信じないに関わらず、恐怖を呼ぶ場所だ。その恐怖という極度のストレスにさらされたことにより、それまで押し殺してきた『弟がいなければ』という思いを閉じ込ていた箍が外れて、それを行動に移してしまったのだろう」
「んー……なんてゆーか、頭固いよねぇ」
「そうか? 自分では柔らかい方だと思っているんだが」
「あ、確かにー。ある部分ではそうかもしれないねー」
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プロフィール
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- 未田 尚(まだ なお)
- 通称
- にゃー
- お仕事募集ちう。
- 文章を書く関係ならなんでも。
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