キリ番
『殺し合い』
キリ番1111
出題者:P琢磨さん お題 『殺し合い』
長い長い旅路の果てに、俺たちは邪竜の住処へとたどりついていた。
数々の試練を潜り抜け、俺たちは成長し、そしてこの伝説の剣を手に入れた。
仲間達を見回す。それだけで全て分かっているというように二人は頷いた。
最初は頼りなかった二人も今ではすっかりとたくましく成長し、目を合わせるだけでお互いが何を考えているのか理解できるほどに信頼できる関係になっていた。
今の俺たちに怖いものなどなにもない。必ず邪竜を倒す。そして人々に平和を取り戻して見せる。俺のことを勇者と呼んでくれる人たちのために。
ゆっくりと洞窟を進む。ドラゴンが出入りするだけあって、広くて足場もしっかりしている。これなら心置きなく戦える。
やがて奥に生き物の気配がした。そして浮かび上がる巨大な影。
こちらに背を向け、まだ気付いた様子は無い。俺たちは物陰に隠れて視線をかわした。
それだけで通じ合える。作戦を話し合う必要も無い。
これで全てが終わる。俺は心を落ちつかせるために大きく息を吸って……吐いた。
三人いっせいに飛び出す。
「光よ。邪悪なものを縛る枷となれ。聖光 」
僧侶の体から放たれた光がドラゴンを含めた周囲を覆いつくした。力の源である闇を剥ぎ取られた邪竜に、もう無敵の力は残ってはいない。
「煉獄を覆う轟炎に焼き尽くされぬもののあるはずも無し。讃獄煉・轟 っ」
邪竜ほど強力なものはいなかったが、それでも何匹ものドラゴンをまとめて葬ってきた最強呪文だ。いくら伝説の邪流でも、闇の力を失った状態でこれを受ければひとたまりも無いはずだ。
だが、ここで手を抜くつもりなどはない。これで確実に決める。
俺はまだ炎も治まらない中に飛び込み、邪竜に向けてとどめの一撃を振り下ろした。
「とりあえずお前ら、正座」
尻尾の傷に絆創膏を貼りながら邪竜が言った。
俺たちは黙ったまま正座する。
「お前らはなんだ。言ってみろ」
「あの……勇者一行です」
何故だ。
何故俺たちは邪竜の前で正座させられてるんだ。
しかし邪竜のブレスの一撃で全滅し、同じく邪竜の蘇生呪文で生き返させられた俺たちが逆らうなんて出来るはずが無い。
「で、俺はなんだ」
ここで下手な答えをすれば、文字通り逆鱗に触れる。俺は慎重に言葉を選んで言った。
「えーと、世界最強のドラゴン様……?」
「悪い邪竜だろーがっ!」
何故か怒られた。気を使ったつもりだったのに。
「はいっ! 間違えましたっ! スンマセンっ!」
「で? なんでその勇者さまが闇討ちとかする訳?」
「その、なんと言うか出来心で……」
「出来心で闇討ちされる方の気持ちにもなれやコラァっ!」
「スンマセンッしたっ!」
とりあえず平伏す。もう一発ブレスを吐かれたら絶対また死ぬ。
「もう二度とこんなことはしませんので、ここは何とかお許しを……」
「そーゆーことを言ってんじゃねーんだよっ!」
ドラゴンは床をバンバンとたたいた。それだけで頑丈な地面が地震のように波打つ。
「悪いドラゴンってーのは勇者に倒されるってのがお仕事なわけよ。でもって伝説になって、大人たちが子供に『悪い子はドラゴンに食べられちゃうからね』って言われるのが邪竜冥利につきるってもんなんだよ。わかる?」
「えと、すみません、ちょっと……」
「ま、お前らみたいな若いモンにはわからねーのかもしれないな。でも俺くらいの年になると自分の立ち位置ってーか、存在理由みたいなの? 本気で考えるわけさ」
「……はぁ」
俺には全くもって理解できないのだが。
「やっぱりさ、最後は退治されたけど、邪竜も強かった、カッコいい倒され方したって語り継がれたいわけよ。それが何? 闇討ち? お前らもしかして俺を闇討ちで殺された間抜けなドラゴンって伝説にしようとかしてたわけですか?」
「いえあのそんな、滅相も無い」
「してたんだよっ! 闇討ちしたたろーがっ」
「はいっ! スンマセンでしたっ!」
「全く、お前らが弱っちいからよかったものの、普通なら三人ががりで闇討ちとかされたら死んでるところだよ、マジで」
弱っちいも何も、伝説の剣に選ばれた勇者とそれぞれの最強呪文を極めた僧侶と魔法使いなんだけど……とは言えない。
「俺だってさ、本当はもっとカッコいい勇者と一進一退の攻防を繰り返して、三段変身くらいしてから殺されたいよ? でも来たのはお前らだしさ」
ちくしょう、なんでここまで言われなきゃいけないんだ。
剣を握りしめた俺の手に魔法使いの手が重なった。魔法使いは静かに首を振る。
そうだ。闇雲にとびかかっていっても勝ち目はない。
相手は油断をしている。いつか必ず隙を見せる。
俺は勇者なんだ。なんとしてでも邪竜を討ち果たし、人々に平和をもたらさなくてはならない。
「ま、結局? 所詮俺らにゃ現状で一番いいようにするくらいしか出来る事ないわけよ。ちょっとくらい不満があってもさ。わかる?」
「いえ、あのちょっとわかりません」
「ああーん?」
「いえっ、わかります!」
「お前に俺の気持ちがわかってたまるかっ!」
どっちだよ。
「そーするってーと、どうするかなー。死闘の末に殺されるってパターンしか考えてなかったしなー。お前ら相手じゃよっぽどショーアップしないとカッコよくなるわけないしなー」
邪竜がなにやら考え事を始めた。俺たちには全く注意を向けてはいない。
俺はすばやく左右の二人に視線をやった。
長年にわたって信頼関係を築いてきた俺たちは視線だけでお互いの考えが分かる。話し合いも、合図すらいらない。
俺たちはいっせいに邪竜に襲い掛かった。
「だから、お前ら正座」
それからほとんど間を置かず、俺たちは再び正座させられていた。
「お前らさ、どうせ生き返らせて貰えるって甘えてない? 銀行ですか? 公的資金投入ですか? モラルハザード?」
「いえ、あの、決してそんなことは」
「人間の形した消し炭とか、溶けた鎧が骨にこびりついてるのとか、何度も見てると気が滅入ってくるんですが? お前らにこの気持ちわかる?」
「魔法使いの呪文で何度か見てるんで、ある程度は」
「だったらさ、なんで俺に何度もそれを味あわせるわけ? もしかして俺の気を滅入り殺そうとかしてるの? だとしたら成功しつつあるよ。あと5.60回もやれば死ぬね」
「はぁ」
「はぁじゃねーだろっ!」
「はいっ! スンマセンっしたっ!」
「はー。まーいいや。いつまでもこんなことしてても埒明かないしな。とりあえずリハーサルやんぞ」
「リハーサル……ですか? なんの?」
「俺が殺されるリハーサルに決まってんだろうが。それともお前らが殺されるリハーサルでもやるか? あん?」
「いえっ、わかりました! リハーサルやりますっ」
「じゃま、とりあえずそこ立って。本番はあの崖の上でやってもらうから。勇者真ん中で僧侶左。魔法使い右な。勇者両手をナナメ上で、僧侶左向き気味で片足上げてー。魔法使いは……適当でいーや。ほらそこぉ! 手の角度が甘い! そんなんじゃ殺されてやれねーだろうがっ!」
「うう……恥ずかしい」
「お前なんかまだ良いよ。俺真ん中だぜ」
だが我慢。
強いだけでは勇者にはなれない。仲間達や敵にさえも気遣い出来ないといけない。
世のため人のために働く勇者はサービス業なのだ。
「はい、そこで決め台詞!」
「あのー、決め台詞って何言えばいいんですか?」
「あー? そうか考えてなかったな。『悪の栄えたためしなし』とか『怖れぬのならばかかってこい』とか? いや一生に一度のことなんだからやっぱりオリジナリティがほしいしな……」
邪竜がまた考え事を始めた。俺たちには全く注意を向けてはいない。
俺はすばやく左右の二人に視線をやった。
俺たちは視線だけで(略
「お前ら全員正座」
こうして死闘は果てしなく続いた。
だが俺は勇者だ。最後は必ず勝つに決まっている。
かどうかは今はなんとも言えない。
なんといっても俺たちの戦いはまだこれからなのだから。
続き
『変身』
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- 未田 尚(まだ なお)
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