その他。
たなぼた
「おにーちゃん、今日はたなぼただよっ!」
「そうか、思いがけず良い事があったか。それは良かったな」
「うん、だから短冊飾ろっ!」
「……棚からぼた餅が見つかったら、どうして短冊飾らないといけないんだ?」
「だって年に一度しか会えないんだよ?」
「?」
「?」
「織姫と彦星が会える日は……」
「たなぼたっ!」
「……うん、お前の知能程度を把握できていない兄が悪かった」
「ぶうっ! それじゃーまるで私がバカみたいじゃないっ!」
「まるで、で済むのかどうかはおいといて、今日は七夕じゃないぞ」
「え? でも今日は七月七日だよ?」
「こんな田舎じゃ年中行事のほとんどは旧暦だからな。七夕は八月七日だ」
「えー、いーでしょ年に二回たなぼたしたって! 年に一回しか会えないのが二回会えるんだから、嬉しくて願い事だって出血大サービスで叶えてくれるに決まってるよ!」
「そもそもそこからして間違ってる。元々は機織の上手い織姫にあやかって、自分も機織が上手くなりますように願ったのが始まりだ。まぁ、今は機なんて織らないからな。叶うとしても、せいぜい家事が上手くなりますように、程度じゃないか?」
「それはそれでいいんじゃない? 私家事上手くなりたいし!」
「いいか、ゼロに何を掛けてもゼロ以上には……いたいいたい」
「掛け算じゃなくて、足し算にすればいいんだよ! ゼロが1になったら無限大倍!」
「……ゼロってところは否定しないんだな」
「ねーねー、たなぼたやろーよー、おにーちゃん。素直にうんって言えば、おにーちゃんだって今日一日を平和に過ごせるんだよ?」
「俺は不当な暴力には屈しない主義なんだ。それに、お前は家事が上手くなったら嬉しいかもしれんが、俺が家事上手くなっても仕方ないしな。彦星のご利益だって……よし、急いで七夕の準備するぞ!」
「え? どうしたの急に乗り気になって?」
「いいか、彦星の本名は牽牛といって、職業は牛飼いだ。そのご利益で我が家の暴れ牛を飼いならせたら……ぎゃふん」
「あれあれ、おにーちゃん気をつけないとダメだよー? 我が家には暴れ牛がいるらしいからねー?」
「……とゆーわけで、二重の意味で七夕をやらなくちゃいけなくなったわけだが。準備は出来ているのか?」
「サー、ノーサー。出来ておりません!」
「何故軍隊式……しかしお前はいつもそうだな。自分で言い出したくせに準備も何もなしで、全部俺任せ。そんなんじゃ安心してヨメには出せんぞ」
「えっと……『おにーちゃんがお説教とかしなくなりますように』カキカキ」
「それは短冊じゃなくて俺の顔だ。……とりあえず、笹がなきゃ話にならないよな」
「はい! 笹なら表にいくらでも生えてます!」
「田舎だからな。それは後で取ってくるとして……他に何が必要だ?」
「短冊と……お団子?」
「今日は月見じゃないぞ。星見だ。……まぁ、喰いモンのひとつもないと、お前が騒ぎ出すに決まってるからな。笹のついでに買って来てやるよ」
「わーい、おにーちゃん愛してる!」
「280円の団子で買えるような安物の愛はいらん。あとは短冊か……折り紙とかあったっけ?」
「うん。こないだのおにーちゃんの誕生日の飾りに使った残りがあるよ」
「ああ、そうだったな。俺の誕生日を覚えててくれたのはお前だけだったよ……」
「兄妹だもん、気にしなくていいよ。私の誕生日に倍返しだけしてくれれば!」
「……もう誰も信じない」
「えーっと……はい、折り紙」
「どれどれ……何ゆえ黄土色しか残ってませんか?」
「おにーちゃんの誕生日を黄土色に染めて欲しかったですか?」
「お気遣い感謝します。……しかし、だからといって七夕を黄土色に染めたいわけでもないしな。仕方ない、団子と一緒に買って来よう。お前も一緒に良くか?」
「もちろん! 今日発売のお菓子とかあるんだ」
「やっぱり色気より喰い気なんだな。逆に安心したぞ。……しかし、二人だから短冊はふたつ、折り紙なら一枚だけ買えばいいわけだが……それもさびしいよな」
「うんうん、そーだよね。せっかくだから、たくさんつけて華やかにしようよ」
「そうだな。折り紙って普通十枚セットくらいか? 半分にして短冊にするって考えると、ひとり十枚ずつか。結構な数だから時間かかるだろうし、何書くか決めとけよ」
「大丈夫、もう決まってるから!」
「ほう、そんなところだけは準備がいいな。何書くんだ?」
「えっとねぇ、『世界平和』でしょ、『みんなしあわせになりますように』でしょ、『大変な思いをしている人が早く以前の暮らしに戻れますように』でしょ、『これ以上悲しむ人が増えませんように』でしょ……」
「……そりゃまた分不相応なでっかい願いばっかりだな」
「ぶぅ。でも一番重要なお願いは、ちゃんと身の丈にあったものだもん!」
「へぇ。どんな願いだ?」
「……『この生活が壊されることなく、いつまでもこのままでいられますように』、かな」
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プロフィール
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- 未田 尚(まだ なお)
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- にゃー
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