その他。
海の日
「おにーちゃん、今日は海の日ー!」
「あー……」
「とゆーわけで! 海に連れてけー!」
「あー……」
「その返事は肯定とみなします異論は認めません」
「このあたりに海なんてないぞ」
「ほら、高速開通したでしょ? 海までの距離が一気に短縮!」
「高速に乗る金は無い」
「じゃあ一般道でいいから!」
「それじゃ高速関係ないだろ。どうしてもってんならそのあたりの川ででも泳いでろ」
「いや、この年になって川で泳ぐとゆーのは流石に抵抗が……ってゆーか、海の日に川で泳ぐのは間違ってると思います!」
「じゃー市民プールにでも行け」
「だから海の日! しかもあんな誰が粗相したかわからないようなところはイヤです」
「小汚いガキとか見かけると、もしかしてって気になるよな」
「ぶるぶる、とか震えてるとキマリだよね」
「美人のおねーさんとかならご褒美なんだが」
「……はい?」
「とにかく行くなら勝手に行け。俺は知らん」
「いやいやそんなこと言わずに。新しく買った水着見せてあげるから。けっこうすごいよ?」
「水着どころじゃないものを毎日見せ付けられてるわけですが」
「ねー、ひとりで行ったってつまんないよー。ナンパとかされてメンドくさいし」
「……一緒に行く相手がいるだろ」
「女の子だけで行ったってナンパされるのは変わらないよ。むしろ余計にしつこくなったりしてウンザリ」
「じゃなくて……あの男と行けばいいだろ」
「え、男?」
「そもそも海なんて、恋人たちがいちゃいちゃちゅっちゅしてて気温も湿度もダダ上がり。それを眺めながらひとりぼけーっとするしかないとか……行ってたまるか」
「いやいや、男って?」
「あぁ……ほら、あの日曜に一緒にいた男」
「日曜っていうと……ああ、クラスメイトの大野君」
「名前は知らないけどさ。その男と二人きりでいたろ」
「うん、もうすぐ担任の先生の誕生日だから、クラス委員二人でプレゼント買いに行ったの」
「それを口実にデートしてたんだろ?」
「いやいやクラス委員のお仕事です」
「それにしちゃ楽しそうだったじゃないか」
「……あのね、おにーちゃん。犬の散歩に出かけました。楽しかったです。デートですか?」
「そうなんじゃないか?」
「おばあさんが横断歩道を渡るのを手伝ってあげました。喜んでくれたので私も嬉しかったです。デートですか?」
「……ある意味」
「てぇい!」
「いてぇ!」
「まさか自分の兄が犬やおばあさんとデートする変質者だとは思いませんでした!」
「いや、でも相手はおばあさんじゃなかっただろ。どんな理由があっても、男女二人で楽しくお出かけしたらデートじゃないか」
「あのね、私にとって大野君は異性じゃないの。異性じゃない相手とデートなんてしないでしょ?」
「じゃあ何だよ」
「んー……人間?」
「いや、そりゃ人間は人間だろうけど」
「いい? 私にとって大野君とクラスの買い物に行くのなんて、おばあさんが横断歩道を渡るのを手伝ったのと同じことなの。おばあさんとデートしちゃうおにーちゃんと違って、私には大野君とおばあさんは恋愛対象外という意味でイコールなの。デートなんてしてないし、当然付き合ってもいません!」
「そうか、わかった」
「……」
「……」
「……? あれ、何か言い返さないの?」
「何を?」
「いや、だって随分ゴネてたのに、最後だけ急に物わかりが良くなって」
「俺は頭が硬いからな。情報は上書きじゃなくて足し算なんだよ。以前の情報が間違ってたなら、はっきりそう言って貰わないとわからない」
「うん、確かにガンコだよね」
「その代わり、言ってくれたことは何でも信じるぞ。かわいい妹の言うことだからな」
「だったらそのかわいい妹のことを、最初から信じてくれればいいのに」
「お前に恋人なんて出来るはずないってか? はっはっはっ、そりゃ確かに信じられる……ってイタイイタイ」
「事実なのに何故かムカつく♪」
「……でも、そこまで言われる大野君ってやつ、可愛そうだな」
「本当だよ。おにーちゃんがヘンなこと言い出さなかったら、心の中で思うだけにしておいてあげたのに」
「そう思ってるのは本当なのな」
「ま、向こうはそういうつもりだったかもしれないけど」
「……何かあったらすぐ言えよ?」
「そういうのじゃないから大丈夫。おにーちゃんなんかよりずっと紳士だし」
「……なら良いけど」
「でも、ちゃんと私の口から恋人じゃないって聞いて、安心した?」
「あー……まぁ、正直言って……安心した」
「あ、もしかして最近様子がおかしかったのって……」
「海、行くか」
「え、どうしたの急に?」
「お前が言いだしたんだろ。一般道で良いって言ったのはお前だからな。疲れたとか言うなよ」
「うん! じゃあさ、せっかくだから泊まりで行こうよ! 疲れてる時に長距離運転は危ないし!」
「んー……俺ひとりならともかく、お前乗せてる時に事故とか出来ないしな。ただし、泊まる金はないから車中泊な」
「おでかけって感じで楽しそうだよね!」
「田舎者らしくワイルドに育ってくれて兄は嬉しいぞ」
「それじゃ、約束どおり新しい水着見せてあげるね。ビキニなんてメじゃないすっごいヤツ!」
「田舎者らしく羞恥心なく育ってくれて兄は悲しいぞ」
「大丈夫。アレで泳ぐのは流石に恥ずかしいから、車の中で見せてすぐに着替えるから!」
「意味あるのかそれ」
「泳ぐ用のは普通のビキニなんだ。ちょっと派手めだけど、恥ずかしくないくらいの」
「体型が気になるからビキニはいやだって言ってなかったか?」
「ビキニの方がスタイルよく見えるって所さんが言ってた!」
「そうか。外れないように気をつけろよ。引っかかるところがないんだから」
「おにーちゃんの首には私の指がよく引っかかるね♪」
「……ゴメンナサイ」
「じゃ、急いで準備しないと! ……ん? どうしたのおにーちゃん?」
「いや、いつかはお前も本当に恋人と海に行くんだろうなって思ったら、ちょっと……」
「大丈夫。ひとりぼっちのかわいそうなおにーちゃんに恋人が出来るまで、私は恋人なんて作らないから」
「俺も世間知らずのお前をひとりにするのは不安だからな。お前に恋人が出来るまでは俺も作らないよ」
「だったら、二人同時に作ればいいんだよ」
「いや、そんな上手くいかないだろ」
「んー……そうだね。結構いろいろと難しいだろうね」
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プロフィール
- 名前
- 未田 尚(まだ なお)
- 通称
- にゃー
- お仕事募集ちう。
- 文章を書く関係ならなんでも。
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