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キリ番以外

『独りぼっち』

香坂静さんの大晦日リク リク  :『雪』『独りぼっち』『イルミネーション』

 駅前通りの時計塔を眺めながら、僕は小さく溜息を吐いた。  大晦日のこの時間にこんなところにいるのは、年を越す場所を求める人たちに決まっている。  大概みんな仲間連れ。恋人同士の姿だってかなり混じっている。  僅かにいるひとりだけの人たちも、時計を気にしていて、明らかに待ち合わせをしている様子。  こんなところで、たったひとりで年を越そうというヤツなどいるわけがない。  本当は僕だってそのつもりだった。 『クリスマスから大晦日まで、ずっと一緒に過ごそう』  二人でそう決めたのは、まだたった一ヶ月前のこと。  その頃はまだ、二人で過ごす幸せな時間のことしか考えていなかったのに。  きっかけは、ただの些細な行き違い。今まで何度も言い合いをして、その度に解決出来たことだった。  ……違う。本当は些細な問題なんかじゃない。  解決だってしていない。ただうやむやにして、先送りにして来ただけ。  はー、と指に息を吹きかける。手袋をしてくるのを忘れてしまった。  そういえば、コートも秋物だということに今気付いた。  寒いのは別にいい。その方が嬉しい。  その程度で僕の罪が償えるなんて、思いはしていないのだけれど。  空を見上げれば、雪が降っていた。  道理で寒い筈だ。  そっと手を伸ばす。その手の平に触れた雪が、ゆっくり静かに融けて消えた。  雪は、白くて綺麗だ。積もれば全てをその下に包み隠して、まるで最初から何も無かったかのように装ってくれる。  雪は、とても冷たい。触れれば全てを凍えさせる。触れなくともそこにあるというだけで、何もかもを冷たくする。  そして自らは融けて消える。残るのは、心にまで染み込む冷たい雫だけ。   僕は黙ってコートの襟を立てた。  こんな薄手のコートでは、風を遮る役にすら立たないことは、骨身に沁みて知っているのだけれど。  時計塔を見上げる。  年越しまでは後30分程。  新年になった瞬間に、この時計塔のイルミネーションが一度に点灯する。  それは本当に絶景なのだと、タウン誌でも紹介されている。  最近では、神社や寺よりもここで年越しをするという人も増えているらしい。今や毎年恒例になっているイベントだ。  本当なら、今年は二人でその時を迎えるはずだった。  彼女が怒るのも無理は無い。  僕がはっきりしなかったから。  僕の気持ちは伝わっていると思っていた。  いや、きっと伝わってはいたのだろう。  でも、それを口にしたことはなかった。  ただひたすら怖かった。気持ちを伝えることが。彼女も同じ気持ちでいてくれるのかが。  必死なのは僕ひとりで、彼女にとっては僕との関係なんて、大して重要なものではないんじゃないか。  僕は、彼女に好きになって貰えるような人間ではないのだから。  それよりも、彼女の未来を縛ってしまうのが怖かったのかもしれない。  僕は彼女に本当にふさわしい男なのか。  もっとふさわしい男なんて幾らでもいる。  僕なんかと一緒にいたら、彼女の未来を閉ざしてしまう。  だから何も言えなかった。  でもそんなのはただの逃げだ。  彼女のために何が出来るかじゃない。  何がしたくて、何をするのかだ。  雪はどうやら本降りになったようだ。そういえば、天気予報で記録的な冷え込みになると言っていた。  底冷えがして身震いする。  一週間前。一緒に過ごすはずだったクリスマス。  彼女と連絡が取れなかった。  携帯は全く繋がらなかった。  彼女がどうしていたのかはわからない。  誰かに聞きでもすれば、きっとあっさりわかるだろう。  でも、知ることすらも怖かった。  もしもクリスマスの夜に、彼女がひとりでなかったなら。  時計を見上げる。もう間も無くだ。  もうすぐ終わる。  今年が終わる。全てが終わる。  それが彼女の答えなのだとしたら、そうさせてしまった僕は、黙ってそれを受け入れよう。  でも、もしも。彼女が違う答えを出してくれたのなら。  僕は、僕に出来る限りのことをしよう。  彼女と出会ってまだ一年も経っていない。  でもその思い出は、僕の全てと言える程に輝いたものだった。  もうすぐカウントダウンが始まる。終わりまでの時を告げる秒読みが。  目がくらむほどに眩いイルミネーションに、一年間の想い全てが掻き消されてしまうまで。  本当に残り、あと僅か。  彼女はまだ来ない。
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未田 尚(まだ なお)
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