Short & present!
愚才行進曲 …その3……
愚才行進曲 …その3……
僕んちの隣に住んでいる幼馴染のユウジ(仮)は理系オタクだ。理系オタクという説明だけで済ませようと思ったが、そういうわけにもいかない。普通の理系オタクを平屋とすると、ユウジはランドマークタワーくらいを超える。
ランドマークタワーというのは横浜にある295mの日本最大の高層ビルだ。
あ、待って。今考えてみると、ランドマークタワーという日本の域を超えて、しかも世界最大である台北101も超えていると言った方がいいかもしれない。
そして、僕は恐ろしいほどの才能を持っているくせに、
それを社会のため、
人のため、
友のために絶対使おうとしないが、
自分の興味の為に恐ろしいほどの才能と努力と金を費やすことができるユウジを、愚かな才能の持ち主という意味で愚才と呼んでいる。
ユウジの前で以前呟いてみたんだ。
「地下鉄ってどこから入れたんだろ……?」
めっちゃいい笑顔で笑ったと思ったら、まだ一時間目も始まっていないというのに帰っていった。次の日、最寄りの駅に地下鉄ができていた。犯人は明白だったが、僕はあえて警察には行っていない。
僕はいわゆる彼のお目付け役という役回りだ。小・中・高と先生から切実に頼まれ、クラス替えでも軽く陰謀が回り、家が隣で幼馴染、ついでに神経が図太い(らしい)というため、ユウジのしでかす事件にストップをかけるのだ。
この機会にハッキリ言おう。僕はそのせいで軽い胃炎になった。
そのユウジが、最近おかしい。
「………………」
『ええええええええええええぇぇぇぇ』
「なんだよ、その『何コレ!? コイツが今までこんなに静かで平和だったことがあるか!? そういえば最近発明もロクにしてないし、研究の実験に巻き込まれもしないし……そうか、ようやく僕はコイツから解放されたのか…!』って顔。うーん、そうだ、最近発明も実験もしてないっけ? でも解放はしてないから」
「してください」
切実に。
「無理☆」
「いちいち星を付ける辺り、僕に色々背負わせているって事をわかってほしい。化学実験するよりも太宰治を読んでほしいんだ」
「ネットで読んだんだぜ!」
「ならもっと人間的になってほしいんだ」
「太宰治、『富嶽百景』『斜陽』『人間失格』『走れメロス』などを書いた大正・昭和を代表する小説家。4回の自殺未遂があり、入水心中により自殺。デカダン的かつユーモア溢れる作風も特徴のひとつである」
「誰が太宰治を語れと言った?」
「夏目漱石が良かったか?」
「そういう意味じゃないっ!」
ポイント。基本理系オタクであるため、かなりメイジャーな作家しか出てこない。
「とにかく、ユウジなにかあったのか?」
「ど、どうしてわかるんだ!?」
「僕的には毎回僕の心中を読むお前をどうにかしたいけど」
「結構前に作った『心が読めちゃうぞ☆』君があるからな」
「それ、まだあったのか! いい加減に怒るぞ!?」
「大体、心に読まれたらまずいことを置いておくのが悪いんだ」
「誰にだって内緒にしたい秘密のひとつやふたつない?」
「おれにはない。おれは常に理系の誇りを持って行動しているからな!」
「警察の職務質問にびくびくしてるくせに」
「研究室が見つかったらまずいからな。まぁ、入口の無反動砲がおれとお前以外の侵入を許さないだろうけど」
「警察殺す気!?」
「肉を切らせて骨を断つって格言があるよな?」
「あるけど、肉すら切らせてあげてないじゃん!? 一方的に骨だけバッキボキに折ってるし! ……ハァハァ」
「これくらいでツッコミ疲れるなよ」
「……前置きはこれくらいにしようか?」
「ああ、今まで前置きだったのか」
「前置きだ。で、なにがあったんだ?」
「………おれは、最近初めて、真面目に国語の授業受けなかったことを後悔してるんだ」
「は? 文章なんかクソくらえのお前が? 漢字以外、必要はないとか豪語しているお前が?」
「ホラ、おれの国語ノートだ。古典・漢文・現代文」
「………何この数式の量? マジで国語のノート?」
「数学ノートの比じゃないぞ。なんなら物理も見てみるか?」
「結構。で、そのココロは?」
「おれは恋をしてしまったらしい」
「冗談は休み休み言え」
「マジだ。本気と書いてマジと読むくらいの勢いで、マジだ」
「お前がぁ? 恋ぃ? 現代文8点のお前が?」
「回答暗記して満点取ったことはある」
「自慢はいいし、自慢にもならないし。さて……と……ええええええええええええ!?」
「リアクションにそこまで命かける必要があるのかどうかは、さておき、とにかく可愛いい子だ」
「お前にそんな人間的な感情があったのか……?」
嬉しいような、呆れるような。
「まあ、おれも人間だからな、一応」
「一応って事は、人間らしくないっていう自覚があるんだな。で、誰に惚れた?」
「E組のA子さん」
「ベターだな、オイ。そのA子さんなんて、今時下手な漫画内の回想シーンですら使われないよ」
「じゃあB子さんで」
「そういう問題じゃない」
「C子でどうだ?」
「その調子でA子さんとABC進んでみろ。ワンセルフで!」
「古い事知ってるな。だが、おれにワンセルフでは無理だ」
「なんで?」
「おれにそんな勇気はない」
「中性子爆弾を何十個と作る勇気は持ってるくせに。なんで人類の危ない橋を渡る勇気があるくせに、好きな子に告白する勇気もないんだよ!?」
「興味のベクトルの単位の差だ」
「そこでわざわざベクトルを使う辺り、女の子にモテませんオーラ満載だな」
「……我が幼馴染よ、ちょうど向こうの階段にA子さんがいる」
「ご都合主義にも程があるぞ!?」
「とにかく、A子さんがどういう人が好きか聞いてきてくれ」
「自分で行けって」
「おれにそんな勇気はない。大事な事だから二回言ったぞ」
「そんなに大事なコト!?」
「早く聞きに行かないと、お前の家が大変なことになるぞ。ボタン一つで」
「ボタン一つで人生もメチャクチャにされそうな予感もするよ。まったく……あのー、A子さん」
ユウジが理学室の中で待機するのを見届け、僕はA子さんの元に行ってみる。
「あ、B組の」
「えーっと……次は日本史? 僕はちょっと苦手かな」
「そう? 私は日本史好きだし、面白いよ?」
「鎌倉の辺りが苦手なんだ」
ちょっと待て僕、のんきに雑談している場合じゃない。僕の家の危機なんだ!
「え、えーっと……あの、A子さんって誰か好きな人いる?」
「え?」
単刀直入すぎるだろ、僕!
「あ、ごめん! 変なこと聞いた…よなぁ……ユウジといつも一緒にいるからかも、うん」
なんでアイツの株を下げているんだ。
「……そうだねぇ……好きな人かぁ……」
「うん……あ、あのいなければ―――――」
「いるよ」
目の前が一瞬真っ暗になった。
「え、えーっと…参考までに聞いていいかな?」
ユウジに言ってみよう。アイツが諦めるかどうかわからないし、正々堂々バトルを挑むかもしれないし、青酸カリを相手の飲み物にぶちこむかもしれない。
………マズい。三番目の可能性が一番高い。
A子は顔をピンクに染めて、にっこりと笑った。
「キミだよ」
そう言って僕を放置し、すたすたと階段を登って日本史の教室へ歩いて行った。
「で、どうだった?」
死神が僕の肩に声をかけてくる。
「………ユウジ、お前さぁ」
「ん?」
「もしもA子さんに好きな人がいるって言ったらどうする?」
「とりあえず相手のピーをピーして、家族の頭から銀行の口座の番号とか全部剥ぎ取って無一文にする。ついでに借金を大量に負わせて、人体クローン作ってそいつを使って事故させる。軽犯罪でもいいから牢屋にぶちこんで、その間に借金の利息は上がっていく。自殺できないように常にロボットに見張らせて、最後に発狂したら電気椅子か絞首かギロチンか選ばせてやるんだ」
「人生メチャクチャにするつもり満々!?」
「で、A子さん、好きな人いたのか?」
「………おー、いえす」
「誰だ?」
「今のセリフを聞いたら、絶対言えないだろ」
僕の人生が危うい。
「…………」
「ちょっと待って、今取り出しているのって『心が読めちゃうぞ☆』君だよね!? 待って冗談止めて!」
「いやいや、おれはいつでもマジだし、嘘はつかない」
「人生メチャクチャにされてたまるか――――ッ!」
僕は今世紀最大の脚力を込めて、ユウジの持つ機械にドロップキックを見舞った。
「ああああああああ! 製作費二〇七五円!」
「微妙に安いな、オイ!」
「お前なんてことしやがるんだ!」
「そんなに色々言うくらいだったら、その機械でA子さんの心を読み取ってくれば良かったんだ!」
僕は半ばヤケになっていた。
「むしろ心を読むってこと自体間違ってるんだ! 自分が本当にA子さんの事好きなら、その好きだってこと示すために、自分で勇気出して聞いてくればいいだろ!? 相手のために勇気も出せない奴は、彼氏になれる資格すらないよ!」
「……精神論語られると眠くなるんだが……」
「お前に恋愛する資格ないぞ」
恋愛なんて精神論の塊みたいなもんだろうが。
「……わかった。おれが間違っていた。こればっかりは機械やお前に頼るのは止めておく」
ようやく……僕の努力の成果がここに―――――
だけど。
「うん、だけどA子さんは止めておいた方がいいよ」
「は? 我が幼馴染よ、何を言ってるんだ?」
「いや、ああ見えてお前の嫌いな『煩い女子』のような人種だ」
「そうなのか?」
「ああ、A子さん狙うくらいなら、C組のD美を狙った方がずっといい。物静かだし、今はフリーだ」
なんとか説得できたものの、そのD美さんも好きな人がいたという事を、その時の僕は知らない。
「この野郎――――ッ! D美はお前が好きとか言ってたぞ、このバカ野郎――ッ! おれが直々に調教改造してやる―――ッ!」
「ギャー―――ッ! ちょ、勘弁! 幼馴染だろ――――ッ!?」
お前のその性格を直さない限り、女の子には好かれない
そんなこと、言えるわけもない。
――――僕を胃炎にする受難は、今日も続く。
以下腐ったコメント
俺の主張→ユウジ×僕
他人の主張→僕×ユウジ……何故だ?
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プロフィール

- 奏 Euph
- 割となんでもやる、活動的な魚類。
狐狸・二ノ宮翼・塵芥・ラピなど、名前がたくさんあります。
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