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Short & present!


愚才行進曲 Rock on !



 愚才行進曲 Rock on !


 僕んちの隣には愚才が住んでいる。名前はユウジ(仮)だ。ユウジは家も隣でしかも幼稚園から小・中・高と同じクラスだという、究極の腐れ縁だ。僕がこいつを愚才と呼んでいる理由はふたつ。

 1、とてつもなく馬鹿である
 2、とてつもなく天才である

 この同居するのが非常に難しい条件を突破してその冠を抱くのがこの愚才、つまりユウジだ。
 世界が羨むIQ200オーバーと最強の理数系知識を携えた脳を持つ。ここまではまだいい。問題は―――――道徳の「ど」の字すら知らないその性格だ。
 自分の研究のためなら何でもする。しかもその研究はハイレベルなくせに、どういしようもない方向性。自分勝手で我儘で、暇さえあれば僕を核融合炉にぶちこもうとする。
 こいつのお陰で僕はこの前の体力テストで学校一位を取った。でもこいつのせいで僕は胃炎だ……。

 ユウジの前では何でも引き金になる。「断腸の思い」という言葉を使っただけで、僕はまだ健康な盲腸を切り取られかけた。手術台でクロロフォルムの効果が切れて飛び起きたのは十日前だ。
 僕はそんなユウジのブレーキ役として常に傍にいることを強いられている不条理な立場だ……。


 さて、今日は雪降る聖夜だけど、僕には聖夜の「せ」の字も見えない。何故って? すぐわかるよ……





「ひーいらっぎ飾ればらららららーららっらっらー♪」
「………………」
「オイ、なんだその『それ柊じゃなくてヤドリギだし、大体なんでロケット飾ってんだよ…クリスマス・イブにこいつが静かにしてるなんて考えなかったけどさぁ…』というような顔。確かにこれは柊じゃなくてヤドリギだ。別に歌が必ずしも現実と一致するとは限らない。彼女にフラれた日でも『オー・ハッピー・デー』を商店街で聞く奴が世の中にいるようにな」
「お前に語られるために来たわけじゃない。それにいつの間にその『心が読めちゃうぞ☆』君はコンパクト化に成功したんだ…?」
「小型化は前々から考えていたのだよ、我が幼馴染。冬は厚着も出来るからポケットサイズにする意義もあるからな」
「万年白衣のくせに」
「じーさんが死んだ時は黒衣だった」
「それっこそじーさんびっくりだよ…白衣墨汁で染めただけのやつなんて。いつもいつもいつも白衣! 学校で理科の先生に間違えられたこともあるくせに!」
「ちゃんと問題の質問には答えた。くだらなかったけどな」
「一年の女の子だろ? 昼休み全部使ったし、お前にボロクソなじられて泣いてたし……!」
「あんな問題ひとつわからない奴を叱咤激励してやっただけだ」
「激励は一ミリもなかったからな……? それにあれは去年のT大理系入試問題で――――」
「煩いぞ、ヤドリギと一緒にロケットに飾ってやろうか?」
「心の底から遠慮だぁああ!」
「とにかく、我が幼馴染よ。おれ特製のソリ型小型ロケットを飾ってみたんだがどうだ?」
「うん、スゴく微妙」
「もう一度訊こうか? どうだおれのセンス?」
「銃を向けながら言うセリフじゃないっ!」
「クリスマスらしく赤と緑で飾ってみたというのに…」
「赤地に緑のまだら模様は、なんだかすごく食欲の湧かない色だと思う」
 例えて言うなら、赤いランドセルに緑マジックで落書きしたかのような。
「別に食欲を湧かせようと思って飾ったわけでもないがな」
「………はぁ。それにしてもなんで突然?」
「フィンランドに行こうと思ってな」






「は?」
「フィンランドに行こうと思ってな」
「イヤ、二回言わなくてもいいから! あのな、まさか、お前…」
「サンタに会いに行こうと思ってな」
「オイコラ、精神年齢幾つだ」
「家庭科の授業があるだろう?」
「え、あぁ……保育園の子供とふれあい学習云々の…」
「そのための取材だ。本場のサンタに会いに行けば、実際に見ないとわからない事もあるだろう。どこまで子供を喜ばせるかだな」
「ユ、ユウジ……お前そんな成長を……!」
「アイスが美味いらしいしな」
「そっちが八割か」
「馬鹿、九割九分九厘だ」
「多っ! そんなにアイス重要かよ!?」
「重要だ。そんじょそこらにアイススタンドがあるらしいぞ。わくわくしてきたな、我が幼馴染」
「……そんなにアイス好きなら、アイスクリーム製造機でも作っていればいいんだ」
「もう作った」
「じゃあ、いいじゃん」
「おれの知らない所で毎日新たなアイスが出来ているしな。科学者で高校生の俺が想像できそうにない者もある。おれは十年五ヶ月十九日前に食べたトルコアイスの味は今でも忘れていない」
「………………」
 僕が呆れ果てている間に、古さん(ユウジが作った人体クローンんの失敗作である宇宙人モドキ。アイスが好きなユウジのアシスタント的存在)がロケットの最終チェックを終えた。
「よーし、マッハ五十くらいで軽くすっとばすぞー」
「……音速約400mとして、400×50……20000m、毎秒20kmの速さって……」
「この馬鹿頭。音速はだな、今日は……おお大気中を飛ぶからセ氏0度で331.45mだ」
「大気中!?」
「お前な、障害物の中マッハでそれを避けきれるのか?」
「スミマセン……」
「さて、古さんの持っているサンタ服を着たまえ。子供の夢をブチ壊さないようにな!」
「僕の常識は日々ブチ壊してるくせに……ナニコレ」

 妙な具合に赤く染色された、白衣。

「サンタ服だ」
「染めた白衣の方が子供たちの夢ブチ壊すよ」
「一応トナカイスーツもあるぞ?」
「全身タイツは文化祭テンションか忘年会くらいのテンションじゃなきゃ着られない代物だっ!」
「大気中の寒さと気圧に耐えられるようにする服だから仕方ないな。その二着2250円のフリースで凍死寸前に――――」
「謹んで着てやろうじゃないか……」
 この有無を言わさないドSが……。僕は赤い白衣(以下、赤衣)を、古さんはトナカイスーツを着込み――――
「古さんも来るんだ」
「おお、フィンランドアイスの為にいつもより豆々しく働いてくれたからな」
 健気だな、古さん……っ。僕は不覚にも目頭に熱いものを感じた。
「アイスの為にフィンランド行くなんて、お前どんだけセレブなんだよ」
「家庭科学習のためだ。岡村は結構気に入っている」
 岡村先生…ユウジが唯一気に入っている先生。家庭科の先生で夏に研究室を訪ねると稀にアイスをくれる。
「お前の行動にそこまでアイスが深くかかわっているなんて知らなかった」
「アイスについての論文もあるぞ?」
「もうツッコミは入れない」
 ロケットに三人で乗り込むと、透明な防護カバーが未来チックに閉められた。ユウジの指がキーボードの上を高速で走る。何故日本語でないのかは知らないが、ハンズフリーのマイクにブツブツと何か言っている。
「シートベルト締めないと死ぬ?」
 ユウジに聞くのが嫌で古さんに尋ねてみた。意外にも首を縦に振るという反応を示した。
「ユウジがシートベルトしてないんだけど……」
「…………」
 古さんが頑張って腕を前の席に伸ばすが、身長云々の差で届かない。
「……ユウジ、ユウジー?」
『何の用だ、我が幼馴染……』
 まさにそんな目でこっちを睨む。
「……シートベルト、しなくていいの?」
『…………ああ』
 よくコイツ、今まで死ななかったな~…とか思ったら、


 間髪入れずに、




 ロケットが飛んだ


 声も出なかった――――嫌な意味で







 呆けている間に止まった。
「よしよし、珍しく静かだったじゃないか。我が幼馴染よ」
「………ココドコ?」
「おれの研究所、フィンランド支部だ」
「支部いくつあんだよ」
「個人で持っているのは二十四だ」
「…………」
「ちなみに家族で一番研究施設が多いのは命(姉貴だ」
「少ないのは?」
「章文姉貴。小説資料用に図書館を持っているだけだ」
「『だけ』じゃないよな……?」
 ツッコミの勢いもごっそりと削減された。地球の二酸化炭素排出量もこの勢いで減ればいいのに。
「さて、フィンランドには数時間もいられないな」
「お前の事だから泊まらせられると思った」
「偽装パスじゃあまりもたないからな」
「……偽装……!? ちょ、知らない間に犯罪者!?」
「安心しろ。お前のパスもある」
「何してんだよ!? 顔写真や筆跡まで……」
「だって面倒だったんだもん♪」
「キモいから今すぐ止めろ」
「さぁ、アイススタンドに行くか!」
「99・9%アイス目的のために、なんで犯罪者にならなきゃいけないんだ……」
「そんな事を言っている間に外だ。天才的発明『スーパー白衣』ちゃんをカモフラージュするためのマフラーをつけたまえ」
「ピンクと水色ってファンシーだなオイ」
「男でピンクを着こなせるのは上級者のみだ」
「じゃあお前が水色な、万年白衣」
「フハハッ! ピンク似合わねー!」
 誰のせいだと思っているのだろう。
「そして古さんはロケットの見張りだ」
「当たり前といえば当たり前なのに、なぜか非人道的というか仲間外れにしている感がするのはなんでだろう?」
「精神論を語るのは止めてくれ」
「そういえばフィンランド語って話せるの?」
「モイモイ」
「待てコラ」
「冗談だ。おれは全世界の言語・方言で『美味いアイスを食わせろ』は言える」
「命令形…………」
 失礼千万にも程がある。
「ちなみに日英仏伊独露韓中他十カ国以上はマスターしている」
「フィンランドは?」
「じゃじゃーん。『言葉が通じちゃうぞ君★改』だ」
「星マークが黒い所がすごく気になるな…」
「そんな事を言っている間にアイススタンドだ」
「冬なのに……」
「しかも売ってる奴がサンタだ。よし、0.1%を達成したぞ!」
「早っ!」
「さぁ、アイスを寄越せ、オッサン」
「……お前の奢りだよなぁ?」
「通貨を持っているなら払ってもらうぞ」
「ポケットの中は携帯と漫画のお釣り580円とレシート」
「高校生を絵に描いたような持ち物だ」
「悪かったな」
「さて、おれと古さんでキングサイズをダブルだ。我が幼馴染の上限はレギュラーダブルとしよう」
「そんなに食べる気になれないからシングルで」
「勿体ない奴だ。さて、この期間限定のを二つにしようか。あと全種類土産用に入れてくれ」
 このアイスマニアが……ッ
「つか、よくそんな不気味な色合いが食べられるよな」
「ニューヨークの蛍光ブルーよりはいいぞ?」
 コメントに困る。
 それにしても冬にアイスとは酷い図だ。赤衣がなければ絶対食べる気になれない。冬はコタツでミカンが常等だろ。でもコイツにそう言うと、十中八九コタツにミカンアイスになると思う。
 アイススタンドのサンタに代金を渡すと、ユウジはナチュラルにポケットから小型の台車とラジコンを出して土産アイスを積んだ。
 ちなみに僕は普通にコーヒーアイス。普通の感覚だ。
「うむ、美味いな。やっぱり冬もアイスだ」
「ちゃんと『も』にしたな、畜生」
「おれは研究とアイス以上に好きな物がないからな」
「僕は『平和』って言葉が好きだ」
 日々思っている。
「ちなみに話し相手兼実験体という意味で、我が幼馴染、お前も大切だ」
「ゴメン、二つ目はブラジルにホームランの勢いでいらない」
「ハイ、ファールボール」
 この野郎……
「さてさて、アイスも手に入ったし、サンタの取材も終わった。帰るか」
「会うだけで取材になるのかよ」
「何を言ってる。おれはちゃんと学んだ」

 イイ笑顔。
 イヤな予感。

「サンタは夢をくれる奴なのだ、我が幼馴染」
「意地で全部にツッコミしよう。常識だ。お前の場合夢イコールアイスだ。サンタさんは必ずしもアイスを売ってるとは限らない。そして夢をくれるサンタさんという式を僕が知らないという様に言うんじゃないっ!」
「息が切れてるぞ?」
「言いたい事はそれだけか………っ」
「サンタは他人の笑顔が好きだという噂があったが…」
「それ噂じゃないっつの」
「今まで単なる不法侵入者だと思っていた。幼いおれのビームレーザー砲をかいくぐって新種の奇形遺伝子シャーレを置いて行った凄腕のな」
 染色体(せいた)お父様、お疲れ様!
「というわけで、おれはガキの笑顔よりは苦しむ顔が好きだから、今回のクリスマスは諦めてもらうか」
「結局アイスだけかよ……ま、お前のプレゼントなんてきっとロクなものじゃないから、子供もこれで安心……」
「オイ」


「あ」


 うっかり、本音が出た。
 ユウジがすごくイイ笑顔だ。イイ笑顔のまま口を開く。アイスで少し赤く染まった舌が笑えない。

「…明日はスバラシイ聖日となるな♪」
「ちょ、待……」
「殺しはしない♪ それともお前、ナパーム弾の的になりたいのか? HAHAHA、ドSはドMが気持ち悪いと思うらしいぞ?」
「僕がドMとか馬鹿とか何とでも言っていいから、物騒な行動は止めてほしい……」

 うっかり失念していた。この愚才の恐ろしさを。


「無・理・だ★」


 黒い星は不吉の星……………………









「今日は某高校のお兄ちゃん・お姉ちゃんからプレゼントがありまーす」
 子供の華やかな、無邪気な声。僕にとっては不吉な悲鳴……。例によって例の如く、ユウジは赤衣に百均のサンタ帽子という嫌な格好だ……。そしてでっかい白い袋。ごめん、ボクには黒にしか見えない。
 クラスの他の奴等もユウジから数十歩離れた所にいる。彼の本性を知らないチルドレンと先生だけが嬉しそうな目やら期待の目やらで『愛と希望が詰まった袋』を見ている。
 ああ、どうしよう……。

「よし、クソガ……チルドレン」
 今絶対クソガキって言おうとした。
「サンタさんからプレゼントだ。ありがたく受け取れ」
 来た……。
 この時の為に備えて、昨日はユウジが研究室にいるあいだにあいつの兄さんの理(ことわ)さんから色々借りた!

 時限爆弾なら――――妨害電波発生装置
 硫酸なら――――強力中和剤
 危険生物なら――――プラチナ×ダイヤモンド繊維の網……どういう繊維なのか僕にもよくわからない。
 園児達が袋に飛び付く、そして――――
 一拍置いて……



「わあ、アイスだ!」



 ………………………………………は?

「みき、ママにアイスだめって言われたの」
「安心しろ。材料はアレルギーを配慮しているから牛乳を使用していない。シャーベットもあるしな」
 …………脱力した。
「ユウジ……」
「青や緑のアイスにビビると思ったのだがな」
 子供って好きだよね、そういうの!
「ホラ、全員分包んできたから仲良く食べようじゃないか」
「………ああ!」
 良かった。
「おれにはその青緑のやつだ。早くしろ」
「ああ!」
 今ならコイツの我儘も気にならない……! ユウジの行動原理はすべて僕に任されているらしい、とにかくそんな僕の表情に安心したのか、クラスのみんなもバケツサイズのアイスに手を伸ばす。
「青緑を食べるのか?」
「うん、ちょっとお前に敬意を表して」
 グロい色も気にならないくらいの喜びを表現してみた。



「チッ、つまらん」



 …………なんて言った、コイツ………?

「……ユウジ、何した?」
「ちょっと混ぜ物を」
「混ぜ物って何だ……!?」
「昨日6時間もかけて作った『動物退行薬』を、チョコレートアイスの中にロシアンルーレット方式でドバッと―――――」


 ………ってコトは


「きゃぁああああっ!」
「え、わぁあっ!」
「わぁ、みっちゃん!?」
「ふぇ……りゅうちゃん……!?」
「ケエコ先生!?」



 うき――――――――っ!


 猿の鳴き声と共に、数人の子供、クラスの奴、そして保育園の先生の姿が消えて、代わりに猿が現れた。
 正確に言うと、猿になった―――――

「ハッハッハ、想像以上の出来だな! 見ろ、ゴリラみたいな猿もいるぞー♪」
「笑ってんじゃねー……」
 僕は肩が震えるのを感じた。猿の鳴き声のせいじゃない。



「早く元に戻せ、この愚才――――――――ッ!!」


 僕を涙目にさせる受難に、聖夜なんてない……。










 ユウジと古さんはアイス大好きです。俺もアイス大好きです。

プロフィール

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奏 Euph
割となんでもやる、活動的な魚類。
狐狸・二ノ宮翼・塵芥・ラピなど、名前がたくさんあります。
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