Short & present!
愚才行進曲 HEVEN!
愚才行進曲 HEVEN!
僕の家の隣には愚才が住んでいる。世界が羨む素晴らしい理数系知識に技術を持っているのに、それを利己的で自分勝手な研究にしか使わないモラルが欠如している人間、関戸ユウジ(仮)は僕にそう呼ばれている。
当たり前だが好きでお隣さんで幼馴染をやっているわけじゃない。気が付いたら、位のレベルなんだ。
何をしても周りに害をなすユウジのブレーキ役というのが僕の役目だ。ユウジの研究に毎日毎日付き合わされている身にもなれっていうんだ。
そんな風に毎日(もう最後に家族旅行に行ったとき以来十年近く)ユウジといると、ユウジ自身周りから浮いているため、僕にも必然的に友達がいなくなるわけだ。あんなユウジを止められる唯一の生徒、むしろ人間として教師を含め学校中で称賛される。でも僕はそんな称号よりもフツーの友達とレーザーガンの的にされない平和な日々が欲しい。
さて、今日のユウジは~…っと某料理番組のように言ってみるが、もちろんあいつは煮ても焼いても食えない奴で――――そこ、苦笑しないで。
某高校 廃校舎教室
「古さん、そこの出力上げるんだ。ゲージ満タン手前で止めろ」
「…………」
「我が幼馴染はロッカーの上にあるスパコンで国防省にハッキングして――――なんだその『なんでうちの高校にこんな所あんだよ……教室改造して何やってるんだよ。つか古さん連れて来たんのか…。国防省にハッキングって……やるやらない以前に出来ないし!』とか言いたげな顔。どうだ? 『心が読めちゃうぞ☆』君をパソコンの付属として付けてみたんだが」
「そんなパソコンはこの世にいらない」
「そう言うな。今回の実験は少々危ない橋を渡るからな」
「じゃあそんな実験するなよ!?」
「ちょっと全世界のパソコン、コンピュータをクラックしてシステム占領出来るかという議題だ。上手くいけばロ○テのアイス生産量を独占出来るかもしれない」
「なんでアイス……古さんもそこで喜ばないで!」
古さんはユウジが作ったクローン人間の失敗作の宇宙人モドキだ。アイスが好きで、専らユウジの助手をしている。
「とにかく! ユウジ、ストップ! アイスなら僕も買ってやるから!」
「一ヶ月で百万以上かかるぞ?」
「どれだけ食べてんの!?」
「高いものだからな」
「どこのギネスブックのアイスだよ!?」
「……そうだな、生産量を上げるよ売りも市場を占領した方がいいかもな。経済は専門外だが」
「頼むからアイスから離れない?」
「春らしく新しい事にチャレンジしようと思ってな」
「アイスはお前、万年だろ!?」
ユウジにおいては。
「チャレンジとか言うならさ、三年なんだから文化祭の執行部に入ってみるとか……スポーツするとか友達作るとか」
「友達という慰みは必要ない。実験用のモルモットのお前が口をきくだけで充分だ。スポーツは俺には無意味。執行部で教師や上に御されるなんて反吐が出るな」
「だからって――――――」
僕がそう言いかけた時だった。
窓ガラスが轟音を立てて割れた。
ユウジの目に陰が浮かび、古さんが伏せる。
侵入というには乱暴すぎるそれを果たした野球ボールは、天井を跳ね、機械を狙ったかのように壊していった。
唖然としている僕らを尻目に、外から声が聞こえてくる。
『お、おい……あの廃教室って……まさか…』
『機械音するし……』
『おい、一年のお前! ちょっとボール取ってこい!』
『え、オレっすか!?』
……なんて残酷な先輩達だろう……。新入生の命ならいいのか。近所の雷おじさんの数十ランク上なのに。
「古さん、そこのダムダム弾取ってくれ」
「何やってるの!? つかなんでそんなんが学校に!?」
「一番、史上最悪の形で殺してやる」
「ちょっと待ってよ! 殺人なんて絶対駄目!」
「殺人許可証は持っている!」
「何ソレ!? 仮にあったとして、誰がお前なんかに渡したんだよ!?」
「殺人許可証(偽装)は持っている!」
「二回言う位重要!? それにカッコの中から判断して色々駄目すぎる!」
「煩い。とりあえずここに来る奴を始め、野球部は万死に値する。核融合炉にぶち込む。種なしのマジックカッターやって、種なしのマジックボックスやって、ダムダム弾やチェーンソーでじわじわ殺してやるのだよ」
「やめて、すごくエグイ!」
「すみませーん」
「「…………」」
来た。
「よし、いい度胸だ」
「古さん、この馬鹿にその銃渡さないで」
僕に向かってぶんぶん怒ったように首を振る。ああ、古さんも怒ってるんだな……。
「よしよし入りたまえ。野球のボールだったな、返してやるぞ」
「あ、ありがとうございます!」
勢いよく開く扉に向かって、僕は走った。助けるべく、でも、ユウジにとって僕がいようがいなかろうが関係ない。ユウジはニヤリと笑って、銃を向けた。
「百万倍にしてな♪」
引き金が引かれた瞬間、辺りに閃光が煌めいた。
ふわふわと浮き、落ちていく感覚。これが天国らしい。遥か下は――――いや、ちょっと下は何故か茶色っぽかった。茶色の間は黒い。まさか地獄の境目!?
「うわぁあああ!!?」
慌てて茶色い何かにつかまると、衝撃で酷い痛みが走った。上半身だけで宙ぶらりんというなんともキツい状態。
ズゥウン……
「……?」
天国にも地震があるのか、とにかく茶色い何かが震えた。この感触、なんとなく湿っぽくてしかもちょっと刺々しい。
「えっと……先輩?」
「……さ、さっきの?」
さっきあの廃教室で死に別れた一年生がいた。野球部なのにジャージだからすぐに一年だとわかる。さっきの会話も聞いたし。
「ちょっと…助けて……」
「は、ハイ!」
ぐい、と彼に引っ張ってもらい、ようやく茶色い所に上がった。
「…………」
「ハァ……ハァ……」
「…………………先輩……ここって天国っすか?」
「知らない……でも、この茶色いの……さっきの教室の床と同じ木……」
「え」
彼が聞き返す前に遠いどこかで声が響く。さっきから下ばっかりで他を見るのを忘れていた。
僕と彼は唖然とした。
ゴジ○がいる。
「おい、古さん、細胞極限縮小銃と間違えたな。まったく。アイス一個没収だ」
もとい、巨大な魔王のようなユウジ。
「大体3cm……の体だな。まぁうっかり我が幼馴染を巻き込んでしまったからちょうどいい。古さん、そこを掃いてくれ」
「「え」」
頭をフル回転させる。ユウジは武器の調整をしているから野球部の人たちを避難させないと危ない。ユウジの話に、すぐそばに落ちていた巨大な設計図とマジック。そして野球のボール。
「…………小さくなってるんだ……」
「え、えぇええ!!? そんな…ぇええええ!?」
「ゴメン、残念ながらあの愚才に不可能はないんだ! そう思えば正常でいられるから落ち着いて!」
僕はポケットからビニール紐を取り出して(ユウジと日々いるとこういうものの需要はすごい。七つ道具というか。ビニール紐、外国紙幣、包帯、釘、コード、ネット、伊達メガネ)手近にあったちびた鉛筆――――それでも僕の身長よりも大きいが――――を背中に固定した。古さんが床を掃く音が近づく。
「飛び降りるよ!」
「は――――?」
ここは3階、チャンスは2回。
僕は野球部の彼の腕を掴んで、さっきの穴に向かって飛び降りた。やっぱり廃教室の床の穴だ。ユウジの補強が雑で良かった。至近距離の壁に鉛筆をひっかけてブレーキにするが、飛び出た鉄釘に弾かれた。
「下! 先輩、下!」
「わかってる!」
壁を蹴って、位置と態勢を変えると再び穴を抜ける。一階の天井の穴に鉛筆をひっかけてもう一度方向転換。
嫌な音がして、教室の半ばに鉛筆を突き立てる。明日は方が筋肉痛だろうなあ。とにかく、上手く引っかかって速度が落ちた。重力に僕ら二人の体重が引かれ、鉛筆が抜けた。再度鉛筆の摩擦で速度を落としていく。芯が少し折れたが、僕らはやや朽ちた木の床に着地できた。それでもその衝撃は階段を十段くらい飛び降りたレベルを超える。
「はぁ……た、助かったぁ……」
「な……な……」
「…………」
そうだよなぁ……こんな不気味なサバイバルこなして、わけのわからない事に巻き込まれれば怯え―――
「なんなんすか、アレ!? 先輩スゲー! 超スゴイっす!」
「……はい?」
「チョーカッコイイじゃないっすか! つかあの眼鏡のでっかい人、なんすか!? つかコレマジで鉛筆!? 夢なんすか!?」
「ごめん、被害者Aさん、早く戻ってきて!?」
それは幻想だから!
「こんな状況でなにを喜べるわけ!? ユウジの発明で頭のどこかがやられているわけじゃないよね!?」
「ヨユーっすよ? こんな少年漫画みたいな冒険って、一生に一度は体験してみたくないっすか?」
「ここ十年、こんなリスキーな生活している身としては、フツーの公立校と四年制大学とサラリーマンと好きな人と結婚、三人くらいの子供と老衰かがん辺りで天寿を迎えたいっていう願いがあるんだけど」
「え、つまんなくないっすか?」
「僕は普通の人の千倍危険で濃い毎日を十年も続けてるんだ。既にもうなんかいっぱいなんだって!」
「よくわからないっすね」
「僕の方が……あー……」
「あ、俺は萩本順です。先輩は?」
「色々とややこしいから普通にそのまま先輩でいいよ」
「で、俺達どうなってるんですか?」
「全長3cmのサイズになっている」
「え、CGじゃないんすか、やっぱり」
「ユウジはある一定の基準を越えたレベルのCG以外は滅べって思ってるよ」
小学校の頃、自由研究で飛び出す絵本を作った子が泣いてたっけ。ユウジがいわゆるホログラムで地球の誕生から衰退を鮮明にドラマ化していたし。二重三重の意味であれは確かに泣く。
ちなみに僕はユウジが地下で育てていた世界の植物を観察して花丸を貰った。
「さっきのゴジ○モドキみたいな人って誰ですか?」
「僕の幼馴染の愚才、関戸ユウジ(仮)」
僕は鉛筆をビニール紐で結び直しながら言う。
「愚才?」
「IQ200オーバー、世界が羨む理数系知識(以下略)」
僕は教室の敷居を跨ぎながら言う。跨げなかった。
「どうすれば元に戻りますかね?」
「あ、元に戻りたかったんだ」
「アリに食べられても困りますし」
「アリって人間食べるかな」
「そんなのアリですかね」
「マッハの速度の強風が吹いたよね、今」
「え、結構自信あったんっすけど!?」
「もっとクオリティを求めようか」
「で、どうすればいいっすかね?」
「あいつが作る物は大抵時限式か元に戻るようになにか作ってある。馬鹿じゃないし、それなりに慎重な所あるし」
まぁ、普段がアレなだけにうにゃむにゃ……。
「というわけで、折角鉛筆があるんだから野球部の人達が避難できるように尽力しようと思う」
「わー、流石先輩っすね」
「それが僕の使命みたいなもんだから」
残念ながら。
隙間から外に出ると、既に逃げ出す準備万端な野球部諸君がいた。萩本君の事はどうでもいいのか。薄情な……。
「まぁ、みんななんとか逃げられと思うけど……念のため」
とりあえず万全をするに越した事はない。僕の下駄箱に入っている放射能除去装置と特殊装甲(ユウジの兄、コトワさんから貰った)の事を知らせなきゃ。
野球部の紙が置いてあるベンチまでの距離は、このサイズだと約一キロに値する……はぁ、大変だ。
「うーん、結構久しぶりね、ここも……♪」
「あれ……?」
聞き覚えのある声。かなり遠く(まぁ、実際は結構近いのだろうけど)にいる、東京タワーみたいなサイズの女の人。
「……教員っすかね?」
「いや……違う」
そういえば昨日ユウジんちの居間でロールケーキ食べてたなぁ……。黒髪をうなじの辺りでツインテールにしている超ド級理系一家の三女の関戸世蓮だ。ユウジの姉で、まぁいい人で、甘党だ。
「……明日帰ってきたついでに母校に遊びに行くとか言ってたかも…」
そういえばあの廃教室だって、最初は機材の残骸みたいなのが残っていた。血は争えない。あれ、多分セレンの物だ。
「先輩……あの人の背負ってるリュック……なんかマシンガンみたいなのが入ってるように見えるんですけど」
「うん、セレンはそういう人だから」
「どういう人っすか?」
「えーっと、読書家で暇さえあれば色々学術書とか読んでるんだけど、それ以上に秋葉原で漁ったコードとか武器とか器具とか使って銃器をカスタムするのが大好きなんだ。化学とその技術が一緒になると凄い破壊力でさぁ、ちょっと僕んちの屋根の一部がまだ破損しっぱなしだよ」
「訴えた方が良くないっすか?」
「それが出来たら苦労しないって。セレンに悪気はなかったみたいだったし。ただ単に、お父さんにとっておいたプリン食べられたからだったみたいだし……」
キレるポイントだけは一般的なんだから哀しい。
「先輩、セレンさんが近づいてきます」
「懐かしくて廃校眺めるつもりじゃないかなぁ?」
「この距離でこの場所にいたら、絶対に俺ら潰されません?」
「…………」
ぷちっ☆
「それだけは勘弁させて! 萩本君、逃げて!」
「は、ハイ! …ってどこに?」
「どこでもいいから!」
とは言ったものの、どこに逃げればいいのかわからない。やっぱり彼女にとってはあっという間の距離で、もう本当に近くにいる。
「もしかしてあの子達もいるかなぁ。いたらなんとかどかして機材探してマシンガンカスタムして……」
女子大生とは思えない恐ろしい事を言っている……。いや、そんな事を思っている場合じゃない。この距離でこの位置、経験者の僕が言う事だが、避けられない。
「………なら…っ!」
タイミングを読み切るのが大切だ。射程圏外に避難した萩本君の視線が痛いが、鉛筆を棒の代わりにして――――
「せい…っ!」
「……?」
セレンの靴に飛び乗った。衝撃で鉛筆が転げ落ちるが、このまま靴に乗ってユウジの所まで行って―――――
「……鉛筆…?」
予想外だ。セレンが鉛筆に気付いて拾いあげるまでは許せるが、靴に乗っている僕と目があった。ついでに近くにいた3cmのフィギュアもとい、萩本君にも。
「………お隣さん?」
「……ど、どーもー……」
「どうしたの、細胞極限縮小銃なんか浴びて…」
「一発でわかる辺りがセレンだ!」
「先輩、俺はどうすればいいっすか!?」
「あ、セレン! そっちの後輩も拾ってあげて!」
「いいけど……ちゃ、ちゃんと説明しなさいよ!?」
萩本君を拾いあげながら、セレンは頬を膨らませる。床や階段が遥か下にあるのを見ると、くらくらした。
「ちょっと、これどういうわけ?」
「おお、我が幼馴染達を持ってきたのか、姉貴、御苦労」
「お隣さんにこんなことして迷惑じゃない」
「悪いのは勝手に庇いに行った我が幼馴染だ」
「…………いいな」
「へ? セレン?」
「や、なんでもないの!」
セレンも小さくなって冒険したかったのか? みんな頭がおかしい。マトモなのが僕なのかそれとも僕が異常なのか最近分からない。
「先輩、先輩」
「うん?」
セレンの手の上から机の上に置かれながら、萩本君が話しかける。
「…先輩、見えましたか?」
「………………」
何を言いたいのかわかるから、とりあえず黙っている。
「…………紺のストライプでしたね……ミニスカの奥はやっぱりロマンが詰まってると思うんでぐばはぁぁああああああっ!!?」
「………………」
拳がクリーンヒット。今のは痛かったと思う。
漫画だったらしゅうしゅうと萩本君から煙が上がってるんだろうなぁ……。
「……見たの?」
「へ!?」
「み、見たのね……?」
「ちょっと待って! セレン、すごく怖い!」
ユウジと同じ目になっている。顔を真っ赤にして、マシンガンを僕に向けた。
「問答無用!」
ズガン
「…………………ゴメンナサイ……」
ある意味ユウジ以上に恐ろしい。体すれすれを横切った弾丸で、さっきよりも鮮明に天国の扉が見えた気がした。
「自業自得だな」
「…お前にだけは言われたくないっつの……この愚才!」
元はと言えばこいつが元凶。
僕を変態に仕立て上げる受難も続く……。
ここまでユウジが出ていないのが連続するとは(笑)
無才は別腹だと思えばいいですよ←
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狐狸・二ノ宮翼・塵芥・ラピなど、名前がたくさんあります。
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