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Short & present!


愚才行進曲 ∞



 愚才行進曲 ∞




 僕んちの隣には愚才が住んでいる。愚才とは比較するものがないくらい素晴らしい理数系に対する最強の頭脳と技術を持っているくせに、その性格は極めて極悪、勝手、自分本位、気分屋、社会性ゼロ。
お隣さんで幼馴染の関戸ユウジ(仮)はあまりにもピンポイントで当てはまる。ある日僕は思いついた。彼には『愚才』の文字がぴったりなんだと。

 とんでもなく『愚』、つまり馬鹿馬鹿しい研究にしか優れた『才』の字を発揮しない。その研究は毎回毎回社会を乱すようなわけのわからない自分本位な物ばかりだ。

 それで僕はというと、そのとんでもない愚才にブレーキをかけるべく毎日毎日文字通り骨を砕いている、ユウジの(おそらく)唯一友人と呼べる存在だ。
 あの愚才には僕が知る限り友達なんかいない。この前、関戸一家の長男理さんの結婚式にうっかり呼ばれたけど、ユウジは親族ですら大抵嫌っているという始末だった。そして僕だって十年以上の付き合いになるが、僕みたいに胃炎を起こしている不憫な存在なんか一度たりとも見た事がない。
 ブレーキ役という僕の役割はとてつもなく重大らしく、インフルエンザと診断された時でさえ、登校不可が下りて来なかった。そんなわけで僕は日々ユウジの理不尽すぎる実験――――最近は新しく開発した銃器の的とか、新薬の実験台とか、コウモリの超音波を増幅し、そこにプラスαした時人間の脳は耐えられるかとか―――――にブレーキをかけ、逃げ、胃炎を起こす。

 さて、春の健診で医者にまた『胃炎です』と言われた時の鬱っぽい気持ちは置いて、忙しすぎる僕の三年の五月だ。







  ~五月一日~

「さーて、クサレ学校生活もしばらく休業だ。振り替え休日も含んで六連休だがどこに行くか」
「……………」
「なんだその『いや、なんでいつも学校行ってるんだよこいつ…つかどっか行くとかってお前がどこかに行くとなると偽装パスポート片手に海外研修旅行になるから嫌なんだよ。どうせマトモな感覚ないんだろうし……』とか言いたげな顔。ふむ、まずひとつめにおれがあのクサレ学校に行く理由はひとつ、せめてちゃんと行かないと教員が登校拒否と疑って家に来るらしい」
「お前に限ってそれはないから安心しろ」
 もはやこいつの発明『心が読めちゃうぞ☆』君にツッコミは入らない。ただムカツクだけ。
「どちらにしろ母親が煩いからな」
「蓮華さん?」
「そうだ」
「どういうわけ?」
「あまり話す事に気は進まないが、一度おれがサボった時があっただろう」
「…………あー、中学校の時に僕の形質を云々しようとした時?」
「そうだ。あの後サボりがバレてだな、冷蔵庫のアイスがみんな没収されてしまった」
「………………お前って本当に自分とアイスのためだけに生きてるよなぁ……」
「褒めても何も出ないぞ?」
「いや、褒めてないし」
「ふたつめに、今回の旅行は国内で済ませようとは思っている」
「本当!? ならいいじゃん。野郎二人ってのが癪だけど」
「国内のアイス造成所のハッキング旅行だ」
「少しでも期待した僕が馬鹿だった」
「それとも韓国が良かったか? ロ○テが良かったか?」
「いや、アイスから離れようか」
「トルコでもいいぞ?」
「お前の場合のそれは『トルコアイスでもいいぞ』としか聞こえない」
「わかっているじゃないか」
「わかりたくないけどな!」
「しょうがない。暇だから日本政府が本当に非核三原則を守っているか観に行くか。目指すは沖縄だ」
「余計な事に首を突っ込まない方がいいって!」
「なんだ、お前が常日頃言っている道徳云々じゃないのか?」
「僕はまず自分の平穏な日々を優先したいんだ」
「チッ、利己的な奴め」
「お前に言われたくないっての! 大体お前が言うそれだってちゃんと調べるかどうか怪しいじゃんか……」
「別にそうでもない。米軍基地の地下にあるおれの研究室を久々に訪れるだけだしな」
「そこからもう色々駄目だ! 明らかになんか色々……!」
 声にならない叫びって多分こういうの。
「あのさ、今時の男子高校生って五人くらい集まってゲーセンとかカラオケとか行くもんじゃん……?」
 もしくは彼女とデート。
「興味ないね」
「お前だってこの前フ○イナル・フ○ンタジーやってたくせに! それク○ウドのセリフだよなぁ!?」
「それがどうした」
「五時間でアイテムもコンプしてクリアとかお前馬鹿だって思ったけどね」
「旧作の映像技術を上げてやっただろう」
「うん、シリーズ最新以上の画質だったよ……」
「よし、GWは家でゲームでもやっているか」
『やった……平和的』
「でもゲームのやり過ぎはよくないな」
「なんでそこで世間一般の初期段階に戻るかなぁ?」
「クソ兄貴はガ○ダムの見過ぎで最近ますます目が悪くなった」
「お前んちって時々アナログだよな」
「DVD買うのが面倒だったから、スカパーのエリアをハッキングしてダビングしていたがな」
「コトワさん!?」
 犯罪です。良い子はやってはいけません。
「それにしてもゲームか…………………よし、作るか」



 間。



「……はぁあああああ!?」
「アーケードにして、ゲーセンに直談話して設置していく。規模はとりあえず全てのゲーセンの半分で」
「どういう全国規模!?」
「旅行も出来る金儲けも出来る」
「六日間でやるつもり!?」
「移動時間がかなり圧縮されればいい。あとゲーセンの店長をナパーム弾で脅せばあっという間だぞ、我が愚かな幼馴染よ」
「補習追試常連の僕を嘗めているといつか痛い目みるよ」
 僕は中学時代に偏差値を20くらい上げて有名校に進学するユウジを追わなければいけなかった。先生の全力サポートは痛々しかった。
「いつか見せてほしいものだ」
「…………ッ」
「ゲームといえば何がいいだろうな。そうだ、我が幼馴染を的にしたシューティングゲームでどうだ?」
「全力で拒絶だぁあああああ!」



 僕のモデルを的にしたシューティングゲームと、古さん(ユウジが作ったクローン人間の失敗作。見た目は宇宙人モドキでアイスが好きなユウジの助手)が作った曲を題材にした音ゲーは、空前の大ヒット作品となった。






  ~五月 二十二日~

「はぁ……」
「なんだその『テストなんか鬱以外のなんでもないし、テスト勉強もこの愚才の相手で夜くらいしか出来ないし………明日から三日とか……もたないって』というような顔は」
「実際そうなんだから仕方ないじゃん。それと『心が読めちゃうぞ☆』君は使うな。心中を言われると本当に気が重くなる」
「ほうほう? 随分ご挨拶じゃないか。そんな我が幼馴染にプレゼントだ。なんと特別教育プログラム~てれててっててー♪」
「…………」
「随分と御挨拶な顔じゃないか」
「いや、どうせまたお前が問題集を解説していきながら文句言って行くパターンで夜が更けるんだ」
 前にもあったなぁ。
「今回はそういうわけにもいかないな。おれは国語と社会は範囲外だ」
「え? って事は?」
「章文姉貴がちょうど暇そうだったからな」
「ぇええええ!? ショウブさん来ちゃうの!?」
 関戸章文は関戸家の長女で、バリバリ理数系の関戸家の中の唯一の文系だ。有名な若手作家『天海菖蒲』として名を馳せている。
「どうもー」
「うわぁ、奈落のそこからこんにちはって……」
「用意してみた」
「なんで研究室に奈落があるんだっ」
「気分でな☆」
「うわぁ、キモい♪」
「こんにちは、お隣さん」
「お久しぶりです、ショウブさん……」
 ユウジのお姉さんとは思えないくらいに綺麗だから本当に心臓に悪いんだ、会うたび。
「というわけで、国語と社会は姉貴に任せる」
「え? 社会は私、そこまで得意じゃないんだけど……」
「それでは困るな」
「いや、僕社会は大丈夫なんだけど。毎日新聞読んでるし、毎日お前といて社会性だったらピカイチだし……」
「理数系はおれが我が幼馴染の馬鹿な頭にたたき込むとして」
「スルーかよ」
「コトワ兄さん呼ぼうかな」
「クソ兄貴が来るならおれは降りるぞ」
「じゃあ世蓮と刹那と命も呼べばいいわよ」
 言いながら早速携帯を押している。僕がほとんど関わっていない間に、何故か関戸家兄弟姉妹が全員集まろうとしていた―――けど。
「あ、一人減った……」
 ユウジは早々に古さんを連れて部屋に籠りに行った。ヘソ曲げるとああなる。僕は特に流れに逆らう気力もなく、ずるずるとショウブさんに引き摺られてユウジの地下研究室から出て行った。
「やぁ、久しぶりお隣さん」
 コトワさん(長男で、生命倫理学系の天才発明家。穏やかで優しい)は理学総指揮と社会担当。
「ねみぃ、だりぃ」
 刹那(次男で、マサ○ューセッツ首席の天才数学者。情報系も得意。いつも寝ている不良っぽい人)は数学担当。
「生物とってるのね、センスいいなぁ♪」
 ミコトさん(次女でショウブさんの双子の妹。医者志望の生物学の天才。明るい人)は生物担当。
「前回の試験……化学が54点ってどういう事よ……」
 セレン(三女で、大学飛び級して研究室にいる化学者。銃器が大好きな甘党)は化学担当。
 そして国語担当のショウブさん。

 なんだか行けそうな気がする…………!


 一時間後

「だから、そこでその数式使うな!」
「こっちでどうやったら72%になるのよ?」
「いやいやいや……落ち着こうか、お隣さん……」
「あのね、ちゃんと太宰読んでればここまではいかないと思うんだけど………」
「…………」

 前言撤回、行ける気がしない。

「…………そこのSO、4忘れてるよ?」
「あ、ありがと……」
 セレンだけが根気よく頑張ってくれた。



 そしてテストが終わった(色んな意味で)。

「よしよし、回答をハッキングして覚えたかいがあったな。国語は満点、地理は時事についての記述を除けば百点だ。化学物理生物数学情報については言うまでもないな♪」
「…………」
「どうした、我が幼馴染。校内&全国一位に言う台詞がなくて困っているのか?」
「………いや」
 国語 200点中43点   数学 200点中51点
 政経 28点        生物 30点
 英語 22点        化学 95点
 情報 32点

 学年順位 380人中332位
 数学 英語 古典 生物 ……補習追試決定。

「お前は実に馬鹿だな」
「常連を嘗めるなって言っただろ……?」
 教訓。
 天才集団とテスト勉強をするな。







  ~五月 三十一日~

「はぁ~~~~~~~~~~~~~~~……鬱だ」
「……………」
「なんだその『実際には自分で鬱と言えるくらいの内はまだ鬱とは程遠いって言うのにどの口がそんな事を言うかなぁ……』とかいう顔は。どちらかというといつもお前の方が言っているだろう」
「まぁ否定はしないんだけどさ」
「だけど、なんだ?」
「とりあえず体育祭に『心が読めちゃうぞ☆』君を持ってくるのはやめようか」
「暇だからしょうがない」
「だったらマラソンの給水係の仕事を古さんと僕にやらせないで、お前もやれ!」
 古さんを見る度にびっくりしては、またユウジか、と呆れるみんなの顔をちゃんと瞬きせずに見てろ! と言いたい。
「誰だ、こんな季節に体育祭なんて考えた奴は」
「初夏の爽やか云々らしいよ?」
「スポーツは嫌いだ」
「言われなくても知ってる。そして給水用のポ○リを走ってもいないのにさりげなく飲むな」
「せっかく運動委員の奴を脅して勝ち取った給水係だ。こういう事をしないで何をしろと?」
「人様にあげるの。飲みたかったら走れ」
「汗をかくのが嫌いなんだ」
「どこのイケメン発言だ、この愚才」
「HAHAHA、イケメンなのは否めない事実だ。残念だったな」
「御免、僕は全身全霊で否定できると思う」
「それにしても暑い」
「クーラーボックスにガ○ガリ君を山のように持って来て、しかも一人で既に五本も消費している奴が言う台詞か」
「古さんにも一本渡したぞ?」
「古さんは……もういいや。協力してくれているだけありがたいと思うし」
 僕がそう言うと、古さんは照れたように額のランプを点滅させた。
「さてさて、全校一斉マラソン大会(女子5km、男子8km)の次は何だ」
「えーっと、今日はバスケットボールかテニスか柔道、明日はバレーボールかサッカーかソフトボールか卓球」
「見事に体育会系一色だ」
「それでもサボらないって、蓮華お母様相当なんだな」
 くれぐれもおばさんとか言っちゃいけない。死ぬ。
「本当はバスケとサッカーの辺りやりたかったのに……」
「おれを殺す気か」
「とかお前が言うからさぁ……テニスと卓球だし……」
「卓球なら体力を使わなくて済む」
「お前、卓球やってる人に全力で土下座しろ」
「ふむ……テニスが嫌だな」
「僕の妹を否定したな、お前」
 妹は中学でテニスをやっている。僕はシスコンじゃないけど、贔屓目に見なくても結構強い。
「よし、雨でも降らせるか」
「雨天決行だけど」
「……誰だ、そんなくだらない言葉を思いついたのは」
「わからない人に対して青筋立てないように」
「よし、コートを爆破するか」
「やめろ」
「じゃあ他に……よし、体力増強薬を持ってくるんだ、古さん」
「それを世間一般ではドーピングと言うんだ」
「普段ロクに運動していない奴が急に運動して骨を折るよりはいいと思うぞ」
「だから運動しろって! スポーツ!」
「スポーツは嫌いだ」
「知ってるし、さっき聞いたっての!」

 そして古さんが持ってきた体力増強薬で、ユウジは前戦全勝していた。ルールとテクニックは頭に入っていたらしい。
 ユウジの心配をする必要のなくなった僕は、ありがたくバスケとサッカーに出て―――――



「ぁああああああ!」
『わぁああ!』




 声援を浴びつつプレイ出来た。日頃ユウジのリスキーな毎日を送っていると違う。
「流石は我が幼馴染、体力馬鹿だな」
「ユウジ……」
 珍しく褒めてくると思ったら。



『ボールはユウジ、ボールはユウジ、ボールはユ(以下略)……』
「……………」
 『心が読めちゃうぞ☆』君から流れ出る合成音の台詞は、確かに僕がサッカー中に考えていた物だ。
 ニッコリ、とユウジがダークスマイルを浮かべ、無反動砲を向けてくる。

「素晴らしいシュートだったな☆」
「ぎゃあああああああああああああああああ!!!」






 ――――――僕を黒焦げにする受難は、今日も続く。







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プロフィール

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奏 Euph
割となんでもやる、活動的な魚類。
狐狸・二ノ宮翼・塵芥・ラピなど、名前がたくさんあります。
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