Short & present!
愚才行進曲 9たばれ!
愚才行進曲 9たばれ!
僕んちの隣には愚才が住んでいる。世界中が羨むであろう理数系知識に応用力、それに加えて家には専用特殊設備の地下室。知識だけはパーフェクト。言うのは嫌だが、天才だ。
それにもかかわらず、あいつは単なる馬鹿だ。社会で生き抜くのに必要な社交能力ゼロ、道徳観念もなければ傲慢で、興味がある事以外に動こうとしない。友人も僕以外にいないし、ルールや規律を守るわけもない。
とにかくあまりにも馬鹿馬鹿しい事に理数系知識を全身全霊で使い、研究開発をするのが僕のお隣さんで幼馴染である関戸ユウジ(仮)だ。
何故(仮)がつくのか。政府が飛んでくる事もなくはないから。そこは僕のファインプレー。
理系オタクで済むレベルを遥かに越えたユウジは十年以上前から(僕は高三の十七歳だ)僕と常に行動を共にしている。そう言えば響きはいいが、単なる腐れ縁だと思いたい。
思いたい、というのには理由がある。この県内でも指折りで頭がいい高校に入った時だって、中学の頃先生に土下座されてしまったからだ(ユウジがこの高校を選んだ。彼にとってこのレベル以下の高校に入るのが屈辱的だったらしい。これで最低ラインとはぶん殴りたい)。ユウジの素行を隣で最小限に留めるブレーキが僕の役目だ。いつからか。
僕は偏差値を数ヵ月で二十上げる偉業を成し遂げ、高校では中の下辺りをうろつきつつ、先生方の陰謀なのか十年以上ユウジと同じクラスだ。
それでもユウジは僕でも五割くらいしか止められない。残りの五割は――――まぁ、僕を実験台にしたり、学校に変な施設を作って研究したり、地下室で人体クローンを作ったりに落ちついている。
そして、僕とユウジは未だかつてない危機に瀕していた。
「…………」
「なんだその『来ちゃったよヤバいよ絶対ヤバいよ。学生生活もあと少しだって思っていたのになんでよりによって今になってきちゃうかなぁ、ヤバいよなぁ』とかいう顔は。それに面白そうな書類を持っているじゃあないか」
「気付くな。いや……どうせ『心が読めちゃうぞ☆』が使われて書類の内容もわかってんだろ」
「お前が考えないように努力しているらしく、小型のこれではちょっと無理があるな。というわけで貴様の口から言ってみろ☆ 遠慮なく、さぁ!」
「いや、遠慮させてもらう」
「それならマジックハンドで書類を奪うまでだ」
「ああああああぁ!!」
「なになに……『この度は―――――』読むのが面倒になってきたな」
「早っ!」
「要約するとなんだ、PTAからか」
「そうだよ……お前が散々うちのクラスの連中はじめ全校生徒無差別に巻き込むもんだからPTAから苦情が来てるんだよ!」
僕がマジックハンドごと書類をユウジの顔面に突き立てると不機嫌な顔でデコピンを返された。
「~~~ッ!」
「デコピンの最も効果的なやり方を研究した俺にいい度胸だ」
「わけのわからないもの研究すんなっ!」
「それが俺だ」
「そうだよな、畜生」
「面倒な事になったものだ。この廃校舎の一角の改造教室に腐ったPTAなんぞ迎えたくない」
「うわぁ……でもお前が呼び出される側じゃないの?」
「腐ったPTA(Parent-Teacher Association)なんかに呼ばれたくもない」
「ナニソレ」
「PTAの正式名称だ。日本では育友会ともいうな」
「意外と知らなかった新事実」
まぁ確かに素直にユウジが出向くとも思えなかったが。
「でもな、ユウジ、よく考えてみろよ」
「うん?」
「蓮華お母様(ユウジの母親。叔母さんと言ってはいけない。殺される危険がある)がその内出向くかもしれないんだぞ?」
「ふむ、それは流石に困るな。刹那(関戸家次男・天才数学者)の二の舞は防ぎたい」
「なんかやったの?」
「高校時代、三日くらい帰って来なかった」
「へ?」
「何をやってるかと思えば、隣町の繁華街のガード下で一人落書きをしていたらしい」
「おー、なんか不良みたい。ちょっとカッコいいな」
「ガード下の壁を数式で埋め尽くしたらしい」
「ごめん、一瞬でも憧れた僕が悪かった」
「その後警察の厄介になったな」
「だろうね」
「だが警察を五人程素手で倒していた」
「強っ!」
「最終的にクソ兄貴(長男の理さんの事だ)のロボットが収拾をつけて、刹那は一ヶ月の配管作業をさせられていた」
「うわあ、それは嫌だね……」
「そんなわけだ。しかたない、親の世話になる前に片付けるか」
「流石に蓮華さんは怖いか」
「怖いんじゃない。冷蔵庫のアイスがなくなるのが嫌なだけだ」
「それを怖いというんだ」
「さてさて、家に来る電話線と連絡手段は俺がハッキングしているから大丈夫として、直接来られたら面倒だ。だからと言って話し合う際に親がいなければ相手も納得しない……よしっ、今回は洗脳装置でも使うか」
「ヤメロ、この愚才」
「止めろと言って止まる俺では―――――」
ひゅぅん、
「うん?」
洗脳装置らしい、ヘルメットから灯りが消えた。それに蛍光灯も消え始める。ユウジの冷蔵庫がブツリ、と嫌な音を立てた。
「あれ? 停電?」
「それはない。エネルギー使用上限増幅プラグをつけてある。古さん、解析をしたまえ」
返事をしてポータブル逆探知アンテナのスイッチを入れるのは、ユウジが以前に作った人体クローンの失敗作で宇宙人モドキの古さんだ。ユウジのアシスタント的存在だ。
その古さんが原因を究明したらしく僕らに画面を見せてくる。
「いや……僕はわからないから」
ふらっ。
ユウジがふらついた。
「……どうしたの?」
「青筋が浮かんだ事で血を使い過ぎた」
「体力無……」
「体力の有る無しは――――」
がっちょん。
ユウジが闇の帝王のような笑みを浮かべる。
「――――関係ないなァ」
あの音だけでユウジが何をしたか想像できる人は僕と友達になれる。ユウジが構える小型無反動砲は本気だからタチが悪い。
「ゆ、ユウジさん……?」
「とりあえずくたばれPTA!」
「落ち着け、何があった!?」
「ここはあくまで廃校舎だから配線の元は第一校舎にある! そこのブレーカーを落とされた! カメラで映像を探らせた結果、学年PTA長の醜女だとわかった!」
「色々酷いなオイ」
主にユウジが。
「HAHAHA! 軽量化に軽量化を重ねた無反動砲だ! 逃げても無駄だ、PTA! よし、追尾弾は使わないでやろう。ギャラリーに当たるのもオツだからな」
「ちょ、マジで撃つとか!?」
「無反動砲じゃ足りないか? じゃあこっちのマグナムを追加」
「止めるという選択は!?」
「安心しろ。命を奪うような弾丸じゃない」
「おお…そ、それならまだ―――」
「ランダムだ。ロシアンルーレット方式で一発、対人スチール・コアになっているくらいだ。あと三ヶ月は取れないペイントに、味覚が無くなるレベルの激辛弾……その他諸々」
「駄目すぎる!」
「フラグメンテーション弾もあるぞ」
「なんでそう、弾丸に詳しいんだっ!」
調べない方が身の為だ。
「ああ、こっちはこの前入れ忘れていたアーマーピアシングか。うっかりうっかり☆」
「うっかりで済むか」
「うっかりうっかり☆は魔法の呪文だろうが」
「可愛い女の子がやればそうだが、お前にそれが適用されるか!」
「じゃあどうしろと?」
じろり、とユウジが睨みつけてくる。こういう時のユウジはアレだ、蛇を濃縮したかのように恐ろしい。
「いいか我が幼馴染。俺はお前が他人に迷惑云々と煩いから、高一の冬にこの校舎に移ったんだ」
「いくら廃校舎でも一人で使ってる時点でアレだけどな」
「関戸家代々伝わっている。昔は世蓮も命もクソ兄貴も使った」
「兄弟代々じゃね?」
「それでなお、俺からここすら奪おうと? 死ぬ度胸がなければ出来ない話だとは思わないか?」
「一応向こうの方が筋は通ってると思う」
「シャラ――――――――ップ!!!!!」
「うぎゃぁああああああ!!!?」
間一髪で弾丸を避ける。弱く脆い壁の材はユウジの弾丸で見事に一部が砕け散った。
「胸を張って言える台詞か? そこまで筋が通ってると?」
「……お前の価値観じゃそうだろうなぁ……」
「俺以外の人間が木になった方が世界のためになった方がいいと思うぞ」
「どんだけの価値観!?」
「失敬な。普通の価値観も持っている。俺の好きな歌がある。こんな歌でな『常識きどって ふんぞり返んな とっとと くたばれ PTA』♪ という具合に」
「そんな歌あるんだ?」
「ある」
「その曲が好きだって辺り、敵意満々だな……」
「さてさてどう料理してくれようか。よし、この廃校舎周辺に毒ガスでも撒いてみるか」
「そういう姿勢が誤解を生むんだって!」
誤解じゃないけど! 事実だけど!
「もっと冷静にさ! 話し合うとか出来ないわけ!?」
「出来るわけがないだろう。友人関係が良好なお前とは違う」
「褒めてる?」
「褒めているわけがない。……いや、待て」
ユウジが何かロクでもない事を考えている。
「天才だ」
「天災?」
「ああ、天才だとも」
「うん、そうだよな、お前は天災だ」
もう僕にとっては地震以上に避けられない天災。
「よし、我が幼馴染、PTAと話してやろうではないか」
「さっき親が云々とか言ってなかった?」
「ああ、大丈夫だ」
ガチャン。
「…………」
「手を挙げて降参ポーズしても変わらないぞ?」
ニヤリ、とユウジが笑う。
「しばらくの間、関戸家に入れ」
閃光に目がくらんだ。
「というわけで、禿げ校長、父母共にアメリカへ研究に行っているからな、我が叔父を呼んできたぞ」
「……関戸惑(まどい)です」
そう言って校長室でユウジの隣でキッチリ座っている三十代手前の男――――――ユウジに細胞成長促進光溶剤銃に当てられてしまった哀れな僕だ。
ユウジが提案した『関戸星(スター)』はもちろん却下した。
ちょっと後でユウジに文句を言おう。いや、今心の中で吐こう。
バレないわけないだろぉおおお!!!?
「いやいや、御労足、すみませんね」
「こ、こちらこそ……」
なんでバレないんだ。確かに伊達眼鏡掛けてるけど、ヅラ被ってるけど、三十代手前だけど!
「じゃあ我が叔父、しっかりしてくれたまえ☆」
ニッコリ、とユウジが笑う。
こんにゃろぉおおおおおお!!!
「では……えー、こちらが関戸君のクラスの――――」
「吉田です」
そう言うのはまさしくモンスターペアレンツを描いたかのような、眉の吊り上がったそれっぽい人。うちのクラスのしとやかな委員長吉田さんとは似ても似つかない。
遺伝子って酷い。
「え、えーっと、関戸マドイです……」
「単刀直入に言わせてもらいますと、そちらの関戸君……この高校で何やら色々とトラブルを起こしていらっしゃるとか」
ぁああああ! 本当に単刀直入!
「……『めくじらたてんなPTA』♪」
「今それを歌うな」
「『ハンパな大人がクソガキけなすな』♪」
「やめろ」
「……どんな教育をしているのか……」
「……僕は叔父(この空間では)なので、教育にはなんとも言えませんが、兄さんにはちゃんとよく言っておきます」
「それでは足りません。あの廃校舎、そろそろ取り壊した方がいいのでは?」
ガタリ。隣に目をやると、ユウジが凄まじい形相をしていた。気付かない吉田さん、すげぇええ!
「いや……その、あの廃校舎は……関戸家では代々……僕自身もあの廃校舎でお世話になったというか、人間的に成長させられましたので(強制的に、だが)壊してほしくはありません」
「ですがそれとこれは別問題では?」
「それにあそこがなくなると、こいつによる被害がさらに大きくなります!」
校長先生がガクブルしている。入学式早々一番いい部屋を探して研究室にしようとしていたユウジを記憶しているからだ。校長室を占拠したユウジを収拾させるのに丸三時間費やした。
「それは脅しではありませんか?」
「脅そうなんて思ってないんですが……」
「しかし、そう聞こえます」
ですよねー。
「……実際にあっちに移ってやや落ち着いて来たんですって!」
「あら、どういう具合に?」
「人がいないので、僕―――じゃない、幼馴染の同級生約一名以外に銃を向けなくなりました!」
「銃刀法違反ではありませんか?」
「ごめんなさい冗談です!」
僕の一般常識はいつの間にか消えかけていたらしい。
「え、えっと、危険試薬の開発の爆風に約一名以外誰も巻き込まれないようになりました!」
「その約一名の同級生の安全はどうなっているんですか?」
心配ありがとうございます! ……でもなぁ……隣でこれだけニコニコされながら僕の胸に張り付けておいたペースメーカー型爆弾のスイッチを持たれるとなぁ。
「……生きています」
まだ。
「生きている、ということは安全が確立されていませんね」
「それを言われると身も蓋もありませんが」
「命をなんだと思っていらっしゃるの?」
「……その子とは話した事がありますが、あー、体力以外にある取り柄がありまして」
「?」
自分の事で自慢できる唯一なんだ。
「一般人になりたい、爆発の無い普通の生活を送りたいと思っているみたいだったのですが、どこかで『関戸君の暴走を止められる唯一の人』を誇っていて、了解してま……くれる子です」
「それは言い訳にすらなりませんね」
「え……」
「その子を始め、全校の安全のためにも、海外か自宅で教育なされるかの方がよろしいかと。聞けば、素晴らしい学歴のご一家なのだとか」
「…………」
そろそろ反論できない。
「断る」
短い言葉だった。
「な……」
「この脆弱な高校にわざわざ入学試験にまで出てやったのだ。入学の際に判子も押された。それを今更取り消すと? わけがわからんな」
「何を――――」
「俺一人の子供の言い分に特に反論も出来ないような大人が、何を言っている?」
「ちょ、止めろって!」
「クラスメイトに迷惑をかけてばかりの貴方が言えますか?」
「ほう? 娘を塾漬けにし、無理やり部活動を止めさせた母親が迷惑だと?」
ぎくり、と吉田さんが目を丸くする。
「一家が法学出ばかりといって、俺に次いで学年二位をキープし続ける吉田がどう貴様に答えて、それを言葉以外で賛辞した事があるのか? 彼女の言語学希望も却下して? 総会でPTA以外と顔も合わせないような奴が良く言うなぁ?」
「ッ!?」
…………手元には『心が読めちゃうぞ☆』君だ。
なんでこんな人がPTA長になれたんだろう……。
「……今は、私でなくあなたの問題ですよ?」
「そう、もっともだ。しかし、俺がいる前にトイレに落書きをするような不良も、俺がトイレの一角にレーザー加工装置をかけてから消えたも事実」
主にトイレに不必要な物を排除する装置だ。ゴキブリとか。不良はゴキブリと見なされたらしい。
「便所の落書きにめくじらを立てたと思えば、今度はそれを排除した俺にめくじらか」
「マイナスの事象がプラスで変わると思って?」
「本当は何がマイナスかもわかっていないくせに」
「あなたは……――――ッ!」
吉田さんが席を立った。ユウジはニコニコと変わらない邪悪な笑みを見せている。
「ガキである俺より先に立ち上がる貴様こそ、ガキではないか?」
「お黙りなさい!」
「言論で負かされれば立ち上がる、か。大人が何でも出来ると思いあがるのも程ほどにしろ」
吉田さんの手が上がる。
「ッ!」
それがユウジに当たる前に、僕が受け止めた。
「…………本当に、負かされるのを見たくないので……」
「誰が負かされたですって!?」
「貴様だ、醜女」
「あのですね、すみません……」
「何よ」
「こいつは天災なんです」
「天才?」
「災いの方の」
「いや、俺は天才だ」
「ちょっと黙ってろ。地震の後に復興して立ち上がるのが人間で、結果論はいいものじゃないですか。こいつも同じです。幼馴染の子も結果は成長しています」
「その結果論は、安全性と引き換えです!」
「大丈夫です! 廃校舎が残っていればそこと自宅の地下でしか変な活動はさせないように頑張ります!」
「頑張るとかは――――」
「信じてください!」
僕は、いつになく真剣な目で訴えた。
「僕が、甥とあなたのためにしっかりしますから」
「…………」
怒りが引いているのか、赤かった顔がみるみるピンク色になる。
「……いつまで手を握っているんです?」
「あ、すみません……」
「……今後、このような事のないよう、注意してください」
「は、はい!」
そう言われてしまえば……これからますます頑張れって、気が重くなる……。
「あ、あの……よろしければ今後の方針をこの後どこかで―――」
んん?
待て、目を伏せるな。顔が赤い。待って。
「…………え、遠慮させていただきます」
「構わんぞ。マドイは独身だからな」
「うぉおい!!?」
「あ、では――――」
「すみません! テレパシーで急用が入りました! ハワイに行って惑星の観測の講談に行きます!」
「あら……ではまた今度の総会の折には――――」
「五年は火星に行くので帰りません!」
言って立ち上がり、礼をしてユウジの手を引いて行く。
「帰るぞ!」
「行ってやればいいだろ。面白くなるし後で脅しのネタになる」
「お前がやってろ、この愚才!」
「残念だが人妻趣味はない」
「僕もだっつーの!」
ギャーギャー騒ぎながら廃校舎に戻り、ようやく戻れると思ったらユウジは元に戻る銃のエネルギー不足を伝えた。家にメールで連絡し、関戸家に転がりこみ、二日丸々コトワさんはじめ、関戸一家に遊ばれ続けていた……。
あの家族あって出来たのがユウジ。
どんな事より納得できる。
一週間経ったある日
電気が戻った廃校舎三階に、珍しく人が来た。
「あの、二人に御礼が言いたいの!」
女子なんてあまりにも珍しくて、僕は一瞬ユウジが幽霊でも呼び出したのかもしれないとくだらない事を考えてしまった。
だが、本物だ。
「へ?」
「うん?」
同じクラスの吉田さん(断じて母ではない)が箱を差し出す。
「これ、アイスサンド……母さんと作ったの」
「へー……でもなんで?」
にこり、と吉田さんは笑う。
「私、言語学目指せるんだ!」
…………
強要されていた法学ではなく、考えの変わった言語学。
「文系はどうでも「へ、へぇ、良かったじゃん!」
「あ、あとね」
がさがさとさらに違う箱を出す。
「これは、関戸君の伯父さんに、だって」
「……えーっと」
「ほうほう、素晴らしい!」
この野郎……。
吉田ははにかみながら笑って、紙袋を畳んで鞄にしまった。
「じゃ、あの、ありがとうね!」
言って、吉田さんは危険な廃校舎から出て行く。
「上手く行ったではないか『マドイ伯父さん』」
ニヤニヤしながら僕を見るユウジはウザい事この上ない。
「……憂鬱だ」
入っていたハート形のクッキーにげんなりする僕を尻目に、ユウジは早速アイスサンドの箱を開けてみっつアイスサンドを取り出した。
ストロベリーを古さんに、
チョコを僕に放って、
自分はバニラ味を口に運んで、齧った。
「うむ、美味い」
アイスサンドは確かに美味しい。
蝉の鳴き声が響く廃校舎に涼しい風が通って行く。
「ここまで気持ちのいい環境だと、どうも歌を歌いたくなってくるな。『あれもやりたいし これもやりたいし 正々堂々やったるわ 好きに歌わせろ 好きに笑わせろ 文句があんならかかってこい とっととくたばれ PTA』♪」
「お前がくたばれ」
折角気持ちいいのを音痴で台無しにしやがって。
「でも、まぁ――――」
吉田さんが廃校舎から出て行くのを窓から見送った。
「お前ってテンサイだよ」
「……今回はどちらのテンサイでも構わんぞ?」
ニヤリ、とユウジは笑って、古さんと一緒に二個目のアイスサンドを齧った。廃校舎の床にとろけるアイスが零れた。
くたばる事を知らない受難は、まだまだ続く……。
梨本Pの「くたばれPTA」が大好きです。
ええ、曲として。
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