楽天市場
[無料でホームページを作成] [通報・削除依頼]

Short & present!


無才行進曲




 無才行進曲



 僕んちの隣には愚才が住んでいる。愚かな才能の持ち主。つまり素晴らしい天才的な理数系知識やセンス、計算能力etc…を持ちながらも、それを凄まじく馬鹿馬鹿しい利己的、自分本位な事にしか使わない奴を、僕は愚才と呼んでいる。
 さっきも言ったように、僕のお隣さんで僕の幼馴染で、ついでに先生その他の謀略により十年程連続クラスメイトの関戸ユウジ(仮)がそれにあたる人物だ。
 地下には研究施設を持ち、助手は彼が作った人体クローンの失敗作、宇宙人モドキの古さんを持つ。取った特許、賞与、懸賞金は数知れず。そのくせ利己的で自分勝手でワガママで人を見下していて、社会性もなく、友人と呼べる者はおそらく僕だけだ。

 とにかく、頭はいいがユウジは馬鹿だ。つまり愚才だ。
 いつもならもっと、もう少しでも説明しているがそういうわけにもいかない。ポカリを補充しなければいけない……。





「ガーッホ! ゲホッ、ゴホッ!」
「大丈夫か? 喉に痰が絡んでて声が出てないみたいだけど…」
「………………」
「別にこれくらい普通! 風邪ってそんな感じだから! お前と違って『心が読めちゃうぞ☆』君なんか使ってないから」
 必死に弁解しながら、ユウジの簡易ベッドの横に椅子を置き、グラスを置いてポカリを注ぐ。僕の財布の都合で一本しか買えなかった。
 ………明日、新作ゲーム出るし……

 ハイ、そんなこんなで僕の目の前にいる愚才、関戸ユウジ。見事に風邪を引いていた。絶賛風邪だ。ああ、風邪だとも。

「あ、だ、ま、いでぇ~~~~~~~~~………っ」
「お前、今まで風邪引いた事は?」
「あるわけ、ないだろ……帰って手洗いうがい消毒殺菌シャワーを毎日欠かしてないからな…」
「今まではラストひとつが素晴らしく起因していたんだろうな!」
「ぬ―――――――――――――………死ぬ……」
「体温幾つだよ?」
「37.8℃…」
「インフルじゃないし、ただの風邪だから大丈夫だって」
「う――――っ……」


 疑問1、なんでこんな事しているんだ?
 A、お隣さんだからです。
 疑問2、他の関戸家の人々は?
 A、染色体お父様はアメリカへ学会研究発表。蓮華お母様はつきそい。長男の理さんは首都高に乗っている。長女の章文さんはサイン会(書く側)。次女の命さんはお父様の助手。刹那はユウジなんかと関わらず! と言わんばかりに、部屋で絶賛お昼寝中…。世蓮は限定シューロールを買いに行った。

 ……………………本っっっっっ当にツイてない……。

 落ち込む僕を尻目に、古さんが僕にカルテを渡してくる。見ても何も理解出来な―――――……

「……ユウジ、お前平熱34.0℃って……」
「33.0℃叩きだした事もある」
「いばるな、この爬虫類!」
「馬鹿やろー……誰が爬虫類……うん…? ……あれ、いいのか……爬虫類で……」




 は?




「……ユウジ…?」
「あ、でもヒフは滑り気が無いから鳥類…違うな。やっぱり爬虫類か……あー、そもそも脊椎動物だったか……?」
「しっかりしろ、ユウジ! 人間だろうが、お前ぇええ!」
 それも世界が真っ青になるレベルの。
「ニンゲン………の、定義って、なんだ、と思う……?」
「…む、難しい事訊くな…」
 え、えっと…。
「…二足歩行で、言語を使って、あと道具を使うし…………って、こういう事はお前の方が詳しいんじゃないのか!?」
「………猿みたいなんだな、人間って」
「お前、今日おかしいな……」
 風邪の影響だろうか。今まで風邪にかかった事がなくて、体が色々追いついていないのだろうか、とにかく――……

 世界屈指の天才が――――
 愚才が―――――

「ウイルスってなんだったっけなー…古さん、ちょっとブリタニカかウィキペディアでぐぐっとけー………」


 ユウジが馬鹿になった。
 もっと言えば、こいつの才能が消え失せた。
 さらに言えば、無才になった。


「ふ、古さん、まさかずっとこのままなわけないよな…?」
 自信なさげに頭を振るんじゃない、古さん!
「うん…こ、こいつの事だから元に戻るよな! それに家族のみんな帰ってくればなんとかしてくれるし!」
 それ以前に頭の悪いユウジがここまでキモチワルイものだとは思わなかった。僕くらいの頭ならまだしも、僕を遥かに下回る。なんというか、ショートしたコンピューターみたいだ。
「……よし、束の間の休息だと思おう!」
 日頃、ユウジと一緒にいるせいで、僕の神経は縄文杉も真っ青なくらいの太さを誇っているんだ! 思え十年近く、こいつが引き起こすトラブル、死の危険と隣り合わせだったんだから。
「うん、ちゃんと治るんだったら―――――ッ!?」


 ガクン、と地下室が大きく揺れた。

「な、何!? 自信!?」
 ちゃんと耐震加工してあるとあのユウジ(愚才時代)が言っていたんだから間違いなく大丈夫だ、とたかをくくったせいか?

 ピーピーピーピー
 酷いサイレンの音が響き、そして、

『システム・エラー、システム・エラー、N‐911室の檻が破壊されました』
『システム・エラー、システム・エラー、B‐086室からガスが発生。支給プログラム修復と換気システムの修復を要請です』
「な……な、な…!?」
『あー、緊急事態っすよー! P‐203室ロボットエラー発生。同室よりプログラムエラー以下略っ』
 …………は?
『M‐510室から火災発生よ。フフッ……大変な事になっちゃって……♪』
『サブプログラム中枢に侵入者でごわす!』
『B‐742室からサーベルタイガーのタマちゃんが脱走したで。対応ロボット「藤壺タソ」はエラーまで起こしてまんがな』

 ……………………

「ナニコレ?」

 僕が呆けている間に古さんが分厚いファイルを差し出してくる。慌ててそれを開いても――――
『よ…読めねー……っ!』
 英語とどこかの国の文字が大量に書かれてあった……。


「っ、るせェよ……」
「!?」
 僕が声のする方を振り返ると、枕を抱えた咥え煙草の男が一名、だるそうにエレベーター前に佇んでいた。
 彼が、そう―――――
「せ……刹那?」
「まーた、ユウジがなんかやらかしたのか? ったく…馬鹿……」
 ――――関戸家の次男、天才数学者の関戸刹那だ。
「そのファイル」
「へ?」
「ファイル貸せっつってんだよ! これじゃオチオチ寝られねェだろ!」
「あ、は、ハイ!」
「鳥肌立つから敬語はイラネェ」
「ご、ごめん……」
 慌ててファイルを渡すと、ページを斜め読みしていく。
「ったく…面倒臭ェコトしやがって……」
「えっと、どういう事?」
「テメェ、ファイル読まなかったのか?」
 読めませんでした☆
 気まずく肩身狭い思いをしている僕に舌打ちして、刹那はユウジがオモチャ箱と呼んでいる代物を漁っていく。
「ハンドガン、使えるな?」
「――――は?」
「ハンドガン。拳銃!」
 銃刀法違反だよねぇ?
「む、無理!」
「はぁ? じゃあバズーカ」
「ダメ」
「ナパーム弾」
「使えない」
「ボウガン」
「触ったことすらない」
「使えねェエエエエエエエ!」
 謝った方がいい? それとも開き直った方がいい?
 とかなんとか思っていたら、

『メインプログラム・オペレーションシステム、外部攻撃アリっす!』
「いくぞ、あいつのプログラムやらウイルスが流出したらまためんどいし、シャレにならねェ!」
 ウイルス作ってたのかよ!?
 100mきっかし10秒で走っていく刹那がどんどん遠くなる(1と0が美しいという論理で、それ以上でもそれ以下でもない、らしい)。
「ふ、古さんはユウジ(無才)を看といて!」
 足を引っ張らない自信なんか、1ヨクトグラムもない。ちなみにヨクトは1グラムの10のマイナス24乗の単位だ……確か。




 僕は陸上選手の如く走っていたセツナが足を止めるのを目にとめて、スピードを落とした。
 メインコンピュータ室、その1だ。機械音が聞こえてくる。
「刹那……」
「黙れ」
「…………」
「連中、見えるか?」
「えーっと……」
 反重力装置で床から2cmくらい浮いている、ゲームのザコキャラみたいなロボット。
「熱反応性防衛システム機能ロボット」
「合格だ」
 ユウジに何度も名前を正されたかいがあった。ちなみに通称『あちちちのちっちゃん』。ツッコミを入れてはいけない。
「オーバーヒート起こしたコンピュータに反応して攻撃している。変なスイッチ押したらしいな。画面が緊急状態だ」
「なんでオーバーヒートなんか……」
「ユウジが倒れて、メンテナンス出来なかったからだ」
 安々とバズーカに調整をしながら刹那がキッパリ言う。


 つ、ま、り、


「……まさか、エラーとかも全部そのせい?」
「ああ」
「メンテナンスを毎日しなきゃいけないのが、あんなに……?」
「らしいな」
「なんでそんな事してんの?」
「知るか」
 額に青筋を浮かべられたから、ココまで。



 結局、ユウジが倒れて無才になっても『愚』の文字は消えてなかったってハナシィイイイイ!?

 畜生……あいつめ。

「そーゆーわけだ。コンピュータ・プログラム直す間、ロボット2体の相手頼むわ」
「どこが『そーゆーわけ』!?」
「文句あるか?」
「悪いけど大アリだよ!」
「大丈夫、テメェなら何とかなる」
「何とかって……根拠は?」
「俺よりも運動能力が高そうだからだ」
「目測!?」
 なんて頼りない根拠……。
「じゃあテメェにプログラム修復できるのか?」
「ゴメン、無理」
 新作ゲームの主人公もこんな気持ちだよね。買ってプレイしたら感情移入の度合いが高すぎて泣きそうだ。
「背中下方にあるスイッチを狙え、止まる」
「……リョーカイ……」
 本当に泣きそうだ。


「せー……のっ!」
 刹那の合図と同時に飛び出す。武器は周りの機械を傷つけないため(むしろ僕が使えないため)、素手で戦う。
 鋼タイプにノーマルタイプなんか使えるか馬鹿野郎ォオ!
 切にそんな気分。
「てぇ……やっ!」
 酷く硬いドラム缶を蹴った感覚。ロボットのセンサーが僕を向く。その隙に刹那がメインシステムの前に行った。

 ヂッ―――――!

「……レーザー……」
 本当に侵入者は殺す勢いだな、あの愚才!
「衝突で与えるエネルギーは相手を変形させるエネルギーにするって考えろ、馬鹿!」
「確かソレって手前に落ちると思うんだけど! 僕、絶対に死んじゃうよね、そんな事したら!?」
 コトワさんから教わった気が……。
「知るか!」
 そうだよね、うん。刹那は数学者で、物理学者じゃないって豪語しているくらいだしね!
 刹那の手がキーボードの上を音速で動く。数学的に波長があうらしい。
「ったく……あの愚才ッ!」
 よし、一か八か、大振りされた腕を避けてスライディング。下から足で背中下方を――――

「っ、らぁっ!」

 ―――――蹴り上げた。
 足がすごく痺れるけど、ロボットが一体、止まる。
「っしゃあ!」


 ……ピキューン


「……あ…」

 教訓、ガッツポーズは全部倒してから☆

 無表情なロボットの頭部に、キモチワルイ愚才の『エヘ♪』という表情が被った。

 声にならない叫びをあげて、反射的に前方へスライディング。放たれたビーム砲が突き抜け、僕の髪の先と服の背中と裾一部を焼いた。
 ビームは勢いを損ねることなく、刹那に飛んで行く。


 僕が叫び知らせても間に合わな―――――




 枕でレーザーを弾いた。




 は?
 枕?
 それ、枕?



「枕ぁあああああ!?」
「煩い」
 イヤ、だって、ビーム砲って枕で弾けるモンじゃないだろ!? 枕を片手で振って当てても、普通貫通するだろ!?
 ビーム砲を弾いた枕のサイドファスナーを開くと、刹那はボールペンのような物を取り出した。固いとは思わないのか?
 片手でキーを操作しつつ、
「距離約4m65cm7.71mm……速度は、100km/s……で、いいな」
 そう呟いて、一本ロボットに向かって投げる。先端が銃装備に食い込み、ギャギャギャという金属の嫌な音とランプの光と共にロボットの中に入り込み――――


 ズゥゥゥウウン……


 ロボットが一瞬赤く光ると、アイスみたいに溶け、嫌な臭いと煙を上げた。
「……ナニアレ?」
「コトワ兄貴から貰った工作キットで作ってみた。ボールペン型装備貫通内部破壊爆弾だ」
「その枕は?」
「セレンから誕生日に貰った耐熱式枕(オプション付き)だ」
「耐熱ってレベル超えすぎだよね!?」
「煩い」
「!?」
 ボソリ、と呟き、冷たい目で僕を見据えて爆弾を―――――投げた。僕に。

「うわぁあああああぁぁああぁあ!! ……………ぁ?」

 爆発しない。

「ぷっ……ボールペン投げただけだっつの」
「……………」
 心臓に悪すぎる。
 そしてロボットを最初からこれで倒さなかった理由は多分、ひとつしか持っていなかったから……かな……。

『おーっ、メインプログラム修復完了や~! おおきにィ!』
「…………いつも思ってたんだけど、このプログラムとかって意思とか心とかあるのかな……?」
「知るか」
「『知るか』って……」
 馬鹿じゃねーのォ!? って否定してほしかった。
「じゃ、俺は寝るから、そっちの台車で部屋に戻しとけ」
「ここで!?」
「当たり前だろ」
「どの辺りが当たり前!? ……って、」
 寝てる。
 早っ。
「……ったく、しょーがないかー……」
 助けてくれたんだし……。枕にしがみついている刹那を何とか台車に乗せる。

 が。

 グルル……

「………『グルル』……?」
 腹の虫の音であってほしいという願いは、後ろを向いた瞬間に砕かれた。


 ユウジが復活させたサーベルタイガー
 蛍光タンパクで光らせた黄緑色のライオン
 見た目明らかにポ○モンのリ○ードンみたいなの


 丸一日……もしくはそれ以上の間、エサを貰えずして狙っているのはもちろん――――



「刹那、起きろ! 起きて! 起きてください!」

 素晴らしき三段活用だった……。


 一日中、台車ジェットをフル活用。運動能力も酷使して逃げ回った……。その間一度たりとも起きなかった刹那を、僕はあえて称賛したくなった。








 次の日。

「はっはっは。34.1℃、平熱に戻ったぞ!」
「いっそ亡くなってしまえ……ゴホッ……この爬虫類」
「馬鹿、お前の目はふしあなか? 人間とは卵生でもなく鱗もなく、変温動物でもなく、爬虫類とは程遠い。哺乳類について更に説明してやろうか?」
「いるか……ゲホッ、ゴホッ……」

 教訓、汗まみれのまま疑似南極ルームに逃げたり、ユウジ(無才)と古さんが避難していたシェルターでぶっ倒れたりしてはいけない。


 忘れるな。


 ユウジという馬鹿愚才がかかった強力なウイルスだった……。
「おお、風邪か。大変だな、我が幼馴染よ。よし、おれが直々に治してやろう! 古さん、手術台を持ってきたまえ」


 無才だろうが、愚才だろうが、ユウジという危険人物に変わりはない。所詮『愚』がつく男だ………。


「勘弁しやがれ………ゴホッ…この愚才…ッ!」

 僕を一週間倒れさせる受難は続く……。










 俺とリュイが風邪だかなんだかで倒れた時に思いついたネタ。

プロフィール

プロフィール画像
奏 Euph
割となんでもやる、活動的な魚類。
狐狸・二ノ宮翼・塵芥・ラピなど、名前がたくさんあります。
QRコード
携帯用QRコード
アクセス数
ページビュー数