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Short & present!


愚才行進曲 夏期講習!


 漫画化にあたってのネームだったため、いつもより地の文が多いです。








 愚才行進曲 夏期講習!
 二ノ宮 翼


 僕んちの隣には愚才がいる。愚かな才能の持ち主と書いて愚才と読む愚才だ。世界に誇れるレベルの理数系知識・技能・才能・研究施設を持っているくせに、道徳や社会性、その他もろもろに欠如した傲慢・破天荒を絵にかいたようなお隣さんで幼馴染の関戸ユウジ(仮)を僕はそう呼んでいる。
 保育園の頃から始まる腐れ縁だ。
 今年の夏だって、そんな事から逃げられるはずがない……これは当たり前である。
 僕んちのベッド上とユウジの実験机のカレンダーが同じ事を告げている。八月の半ばでやる事は受験勉強くらいのはずなのに、僕はそれに加えてユウジの相手をしなければいけない―――――いつものように、ユウジの道徳観念が欠けた実験研究のブレーキ役だ。





 ザザー……ン……
 波の音がする。素晴らしく素敵な音だ。真っ白な砂浜にパラソルを広げ寝そべるユウジ。隣には黒の燕尾がお似合いだ。
「ユウジ様、マンゴーアイスとココナッツシェイクでございます」
「ん」
「パラソルの角度はよろしいでしょうか?」
「あと11.27度上だ」
「かしこまりました」
「今日の昼飯は?」
「本日のランチは『人体クローン失敗作宇宙人モドキ古さんの気まぐれパスタ』でございます……時にユウジ様」
「なんだその『なんで僕がこんなクソ暑い地下ハワイアンリゾート模型の中で執事服着てちょっとでもくだらなさすぎるごっこ遊びに付き合ってんだよ』というような顔は」
「もうお前に『心が読めちゃうぞ☆』君を使われる事が前提になっているよな」
「折角の夏休みだ。お前をこき使わなくてどうする?」
「その理論にどうツッコミを入れればいいんだろうな!」
「大体このビーチ(模型)に文句があるのか? 眩しい太陽(人工)、青い海(化合物)、白い砂浜(漂泊済み)、飛び跳ねるイルカその他(立体映像)!」
「とりあえずカッコの中身がなければいいのにな」
「言いながらさりげなく脱ぐな。古さんのお手製だぞ」
 古さんはユウジが以前創った人体クローンの失敗作、宇宙人モドキだ。ユウジのアシスタント的存在でもある。
「目測で合わせられたからパツパツなんだよ!」
「古さんが悲しんでいるぞ?」
「常に僕を嘆かせているお前が何言ってんだか」
「立体映像の美女も用意してみた」
「目元の黒いラインはなんなんだ…」
「エチケットだ。著作権的な」
「その前に立体映像にツッコむべきだったな。ああごめん」
 謝る気なんて毛頭ない。勿論。
 僕の夏休みなのに、本当に何をやってるんだろう……? 高校生なら友達とプールとか海に行ったり、彼女とお祭りに行ったり、勉強にあくせくしたり、ゲームをクリアしちゃったり!
 勿論そんな常識がユウジにあるわけもない。僕はいつものごとくため息をついて古さんがくれた水を飲んだ。



 ダダダダダ……ぐいー。



「……ユウジ、エレベーターが動いてるみたいなんだけど……」
「俺の84のトラップを全部抜けてくる奴は世界中に七人だけだ」
「二重の意味で多いな、オイ」
「そして、予想が出来る―――――」
「?」
 ユウジが鼻を鳴らした瞬間だった。
 エレベーターのドアが開く。
「ハワイ旅行に行くわよ!」
 飛び込んできた関戸家三女世蓮の言葉は突然過ぎて、上手く受け止められない――――僕は。
「行かないぞ?」
「早いなオイ」
「俺がハワイに行くと思えるのか?」
「思えないけどさ、今なんかちょっと背景に本物のヤシの木やらサーフィンしているアメリカンな人達が飛んでた感じがしたじゃん!?」
「何を仰る兎さん」
「駆け比べはしないぞ」
 ユウジの『馬鹿を見る目』は非常にウザい。セレンはにんまりと笑う。
「悪いけど、家族全員一致で行く、だから♪」
「この模型があればいい。どこが足りないと思う」
「……本当、よく作るわよね」
 同感だ。
「でも、これを見れば絶対に――――」

 セレンが見せたチラシに、ユウジが目を見開く。


 KTWコンポレーション主催ハワイアイスフェスティバル!


「……『行く』って言うわよね?」
「決まっているだろう」
 ユウジの好物はアイスだ。
「グラサンかけて決めポーズとか痛いよね」
「ハワイ(アイス)が俺を呼んでるからな」
「ルビのふり方がなんかもう駄目だ」




 そんなわけで。




 ビーチではビキニ(セレン)もセパレート(蓮華)もワンピース(章文・命)も飛び交う。
 それがハワイ。本物のハワイ。
「フン、久々だな」
「ハワイでも白衣でいるお前の気がしれないよ」
 お隣さんのハワイ旅行について行く僕も僕だけど。理さんがニッコニコの笑顔で勧めてくれた。あの顔は断れない。断りかけたら泣きそうな顔になっていた。
 ちなみに多分白衣の下はモヤシだと思う。
「さて早速アイスの元に行くか」
「お前って本当、アイス好きだよな」
 そのためにわざわざここまで来る。ポリシーを曲げて。
「当たり前だ、アイス無くして俺の世界は成り立たないからな」
「アイスが全てかお前は」
「それ以外でハワイに来る理由はないな」
「泳ぐとかさ」
「自慢じゃないが昔ビニールプールで溺れたのがトラウマだ」
「本当に自慢にならないな、オイ」
 会話しながら受付でパンフレットを貰う。
「……フェスティバル?」
 ユウジの台詞に疑問符が浮かぶ。
「どっちかっていうと、ハワイ全土のラリーみた……全土ぉおおお!!?」
「いい度胸の主催者だ」
「ちょっと待て、その手に持っているのは何だ……」
「フラグメンテーション弾入りの銃だが」
「よくわからないけどヤメロ」
「反重力スクーターで移動時間は大分短縮できるとして……俺の柔肌が紫外線に耐えきれるかどうかが問題だな」
「柔肌って言うな、キモいモヤシだろ……」
 パンフレットを改めて見てみる。
 5つのポイントに課題、というか門番がいるらしい。
「えーっと……各門番を倒せって事かな?」
「簡単に言えば、アイスを奪えばいいんだろうが」
「ゲームみたいで楽しいじゃん」
「愚かな我が幼馴染はゲームが好きらしい」
「お前、今全世界のゲームファンを敵に回したぞ」
「仕方無い……研究室(ハワイ支部)に行ってスクーターを取りに行くか」
「あ、セレン達に言わなくていいの?」
「別に構わないだろう。既にクソ兄貴や父さんもいないくらいだ」
 そういうもんなんだろうか?
 不安に思いながらも、僕はユウジを追った。


 背後のビーチで女性陣がニヤリ、と黒く笑っているのにも気付かずに……。
「行った?」
「行ったわ♪」
「始まるわね」
「折角だしね♪」




 ユウジの反重力スクーターで空を駆けながらひとつ目のポイントに向かう。行先は某ホテルだ。
「ホテル……フロントとかロビーにあるのかな?」
 人と関わるのが嫌いなユウジのくせに、英語でフロントの美女とアイスの件について問い合わせている。なんだかムカツク。

 ふいに、背中がヒヤッとするような寒気を覚えた。


「……? なぁ、ユウジ―――――」


 僕とユウジの間にシャンデリアが落ちてきた。


「!!!?」

 破片がバラバラと飛び散る。視界の端で細いテグスを切り、さらに物が飛んでくる。
「……これは――――」
 壁に逃げながらユウジが眉間にしわを寄せる。

「第一関門は、この私」

 ビーチサンダルの音と声。吹き抜けの上から通ってくる。3階の手すりに蓮華さんが立っていた。
「蓮華叔母さん!」
 ドシュッ。
 ……足もとから棘が召喚された。
「……蓮華お母様」
「その通り♪ 第一関門は私がお相手よ」
「第一関門……」
 ぴくり、とユウジが憤りを示す。
「今のは母さんの所作か?」
「当たり」
「ロープを切り、それを止めておいたナイフが振り下ろされてシャンデリアを直撃。堕ちたシャンデリアの破片の計算に、それに加えてまきびしの効果も生み出す。そこに対するにはah「もういいや」
 煩い物理の話になりそうだ。
「で、新たな若作りのためか?」
「若作りって言わなーい。アイスで釣らなきゃ来ないから理に言って適当にフェスティバル立ち上げたの」
 流石わかっていらっしゃる!
「で、暇だからちょっと余興でも……ってハナシ。みんな乗り気なんだから、頑張ってちょうだい♪」
「他にもいるんですか!?」
「そう、なんとかアイスを取るまで―――――「御苦労だ、古さん」……あら?」
 階段から下りてきた古さんは、アイスの箱を持っていた。
「……あらやだー♪」
 関戸蓮華はあっさりと破れた。




 反重力スクーターで空を飛びながら蜜の味がトロピカルなアイスを食べる。まさかこれからの関門にもあのハイパー理数系一家がいると思うと……気が重い。
「面白い事になったじゃないか」
「どこが!? ヘタすれば死んじゃうんだぞ!?」
「別にお前が死のうが生きようが構わない」
「お前が構わなくても俺が構うんだよ……!」
「いつかは俺の能力を上回るあの連中に泡を吹かせたいと思っていたんだ」
「吹きそうにない人ばっかだけど……」
「それに―――――」
「!?」
 ユウジがアクセルを踏んだ。
「俺のアイスにたかるハエは始末するだけだ」
「……みんなお前の家族だよなぁ?」




 第二ポイント 某ビーチ
「フッフッフ……来たわ!」
 セレンと次男の刹那は水中に強化ガラスで作られたクリアルームに潜り、ポイントの旗の下に置いた冷蔵庫を守るチタンの箱を見つめながら笑っていた。
「さて、と早く地面に降りればいいわ! ナトリウムと水素で作った発火性爆弾が、地面に刹那の数式を基に配置されて埋まってるんだから……!」
「化学と数学の素晴らしいマリアージュだな…!」
「ウザいから抱きつかないで、シスコン」
 セレンの厳しい台詞に彼女から貰った枕に抱きついていじける。
「それに冷蔵庫を開けるにはチタンの箱を開けなきゃ。くすくす……箱には刹那兄さんが徹夜で考えた暗号付きだし……♪」
「……ま、せいぜい祈るこったな」
「祈らなくても―――――」


 砂浜が炎上した。


「!!?」
「あっち―――――ッ!!」
「おお、セレンのナトリウム発火装置か。水をかけたらますます広がる……だから精々頑張りたまえ、我が幼馴染よ☆」
「お前が☆とか、超ウザい!」
 文字通り炎の砂浜を走り抜け、箱に辿り着く。さっき上空からユウジが読みとった通り、チタン製なのか固い。
「ここで、刹那に問題だ」
「……?」
「我が幼馴染の火事場の馬鹿力×行き場のないあいつのイライラ×俺特製の腕力増強ナックル……イコール?」


 鈍い音がして、頭の中の幻想ユウジがKOされた、と同時に箱に大穴が開く。冷蔵庫の中身を取り出して、古さんが上空から垂らしてきたはしごを掴んで映画みたいにトンズラ……。


「……ナニアレ」
「流石は俺の弟だ」
 遠い目のセレンを置いて、刹那は煙草に火を付けていた。
「性格が悪い」



 第三ポイント 某サファリパーク
「とっても面白い描写が出来そうなのよ」
「出来たら私にも見せて!」
「それよりも、ちゃんとやってるの?」
「やってるみたい♪」



「ギャ―――――――ッ!!
 ユウジのせいで慣れているとはいえ、これは酷い。重くなってスクーターの能力が低下するとスクーターから落とされる。しかもなんで命さんと章文さんは呑気にティーブレイク!?
 僕を追っているのはサメだ。
 ただのサメじゃない。人気作家章文さんの新作『水とガラスの果て』に出てくる空を泳ぐサメを、命さんが生物学をつくして再現したらしい。背ビレには小さなカバン……のような冷蔵庫。
「そらそら、早く逃げないと食い殺されるぞ?」
「乗せろよ! 乗せて! 乗せてください!」
「HAHAHA、それは無理という話だ☆ さぁ、頑張ってアイスを取ってこい」
「無理無理無理無理! てかヤダ! ってぎゃぁあああああ!」
 至近距離にもう歯が迫っていた。
「取れるか―――――ッ!」
「やれやれ仕方のない幼馴染だ」
 言いながらユウジは自分の腕に注射器を刺す。
「もう既に限界! 貧血検査はよそでやれぇええ!」
「ほう? そんな事を言っていいのか?」


 ぽてん、と何か落としてくる。
 サメが血の匂いに反応し、落ちてきたボールを追った。


「今だ、鞄を取れ」
「~~~~~~ッ!」
 ユウジのアイス好き(断じてあいつ自身じゃない)を信じて…


「あら、」
「取れちゃった」
 くすくすと章文さん達が笑う。
「でもまだだめ」
「中々難しいかもね」
 けしかけたのはあの二人なのに――――
 だがサメが落ちてきたものに噛みついた途端――――尻尾を巻いて逃げだした。残されたのは僕とカバンと血まみれのボール。
 ひょい、とカバンを取られた。
「衝撃に反応する電気ボールだ。サメは血の匂いに反応する」
「……お前の血だし」
 ぞっとしない。
「すごいじゃない、お隣さん」
「本当」
 ティーブレイクを続けながら双子が言う。僕は肩をすくめて、ユウジが取り出したシーソルト味のアイスを取って齧った。
「もう疲れてきたって……」
 何回も死にかけてるし。そうぼやいたら、章文さんが笑いながら言ってくる。
「大丈夫よ、あの子ああ見えて優しいから」
「どこが!!?」
「ちゃんと助けてるじゃない」
「行動原理は全部アイスですよ!?」
「……あのね、優しいって字は人を憂うって書くのよ?」
「……?」
「悲しんでいる人の隣にいてくれる人って意味」
「……えーっと」

 とどめは命さんが刺してくれた。

「ほら、お隣さん、いつも嘆いてるじゃない!」
 ………………優しいという字を疑いたくなった。





 第四ポイント 某ゲームセンター
「フフフフフ……ついにこの時がやってきたな!」
 バッ、と父・染色体さんが悪の大王のようなコスチューム(マントがあるだけだが)を翻した。
「それでお隣さんにお前、どうしてそう他人のふりなんだ」
「いやいや目を合わせたくないだけですよ?」
「そうとも、あんな悪の大王モドキは俺の父親じゃない」
 2人揃ってシューティングゲームに没頭しながら応対する。
「珍しく意見があったな、ユウジ」
「奇遇だな、我が幼馴染よ」
「俺の息子だというのに、随分冷たい事を言うじゃないか」
「アイスが絡んでいるから冷たいのは当たり前だ」
「上手い事言ったと思ってるなら大違いだぞ?」
 とりあえずユウジにツッコミを入れる。染色体さんの素行にツッコミは入れられない。
「で、ゲームセンターとはどういう事だ?」
「フフフ……実は俺には夢があるんだ」
「「?」」
「父親たるもの! 一度くらい息子とゲームで渡りあわないとな! さぁ、勝負だ!」
 バン! と指差すのは射撃ゲーム。ユウジの口元がつり上がった。
「ほぅ……?」

 2分後。珍しいクールな銃撃のカットを挟み――――

『You Win!』
「…………」
「で、誰が渡り合うだと? 射撃はいつも我が幼馴染を的にしているから得意種目にも程があるぞ?」
「……まだだ! 今度はお隣さんも、勝負だ!」
「…………」
 指差されているのはダンスゲーム。つくづく運のない人だ。

 またまた2分後。アップテンポの曲のリズムに乗るカットを挟んで――――

『You Win!』
「…………」
「楽勝だな」
「うん」
 ストロベリーそるべを食べながら、ゲームセンターと白い灰と化している染色体さんを後にした。





 第五ポイント 某所
「…………わぁ、」
「ほう」
 でっかいロケットには流石のユウジも感嘆の声を上げた。
「やっぱりロケットってロマンだよな♪」
「俺のロケットなら時々乗せてやっているだろう」
「あんな危険な物体はロケットじゃない」
 寧ろジェットコースター。
「月に行かせてやるのも構わないぞ?」
「いや、遠慮しとく」
「そう言うな。まだやっていない人体実験も多いのだ」
「兎と餅でもついてろ、この愚才」
「いやぁ、仲がいいね~」
「!?」
 どこからか声が聞こえてきた。
「いたぞ……」
「ユウジ、世間一般ではそれを悪役笑いって言うんだぞ?」
 そんな笑みを浮かべながら、ユウジはロケットの砲台の柱に立っている理さんを睨みつけていた。
「クソ兄貴も一枚噛んでいるとは都合がいいな」
「そう簡単にやられるつもりはないけどね」
「理さん、頑張ってー♪」
「頑張るよ、美散さんー♪」
 ユウジの殺気が張り詰める中、なんでこんなにハネムーン的な雰囲気が満ちているのか。それは下で声を張り上げ応援している理さんのお嫁さんである美散さんのためだろう。
「というわけで、僕がラスボスだ」
「最悪……」
「最高の間違いだろう? なぁ、我が幼馴染よ」
 スクーターのアクセルが握られる。加速する。
「じゃあ、今回は特別だね」
「!?」
 チカチカ、と理さんが手で何かを煌めかせる。
 鏡――――?

 そう思った瞬間に、すぐ傍に熱い空間が出来た。

「!?」
「よいしょっと」
 鏡を手で小さく動かすとその空間も緩い動きだが動く。スクーターの一部が空間に入った瞬間だった。
「ほぉ?」
「ぇえええええ!!?」
 溶けた。ドロドロに。
「な…何コレ……」
「太陽炉だ。鏡で光を集積して、高温の炉心を作る。人間程度なら一瞬で灰になるな」
「集積って――――」
「良く見てみろ」
 ユウジがロケットを顎で指す。
 目を疑った。ロケットには大量の鏡が目張りされている!
「こ…理さん、本気ですかぁあああ!!!?」
「うん♪」
『うん♪』……じゃねぇよぉおおおお!!
「ギャ――――ッ! まだ死にたくないって!」
「あらあら、楽しそうねぇ」
「楽しくないです! どこが楽しく見えるんです、美散さん!?」
「全体的に?」
「全体的に見て楽しそうに見えるんですか!?」
「黙って落ち着け、我が幼馴染よ」
「これが落ち着ける状況なのか?」
「だから黙れと言ってるんだ」
 目が笑っている。
 ああ、嫌な予感。

 そうして、小声で言われる。
 うげ……。

「安心しろ、修理費はお前持ちじゃないからな」
「それを聞いても安心できないって……」
 ジャキ、とユウジが銃を構える。
「食らいやがれ」
「幽○白書ネタはいいから」
「狙い撃つぜ!」
「ガン○ムもいいから!」
 僕のツッコミもスルーして、

 弾丸が飛び出す。理さんに当たったら、という事は考えない事にした。あの人は多分、大丈夫だ。ユウジ相手に備えていないはずがない(命の件で)。

「――――!?」
 理さんの手の中で鏡が粉々に砕ける。
「手元操作をしているという事は、それが補正・調整の鏡だ」
「じゃあ、予備をもうひとつ――――「許すと思うか?」!?」


 ロケットをユウジの口座に見立てる。よし、イラッと来る。手にはナックル。スクーターのアクセル音を耳にしながら、立ち幅跳びの記録を叩き出すつもりで走り込む。
 跳んだ。
 殴った。
 舞った。
 粒子が舞い散る。ロケットに貼られた鏡が粉々になった。さらに力が強すぎたらしく、ロケットが揺れる。……揺れる!?
「おっと……?」
 理さんが揺れてる。
「理さん!!」
 美散さんがようやく叫んだ――――が、理さんがあんな細い柱の上でバランスを崩さないはずがない。

 落下した。

「理さん!」
 一緒に落ちる僕は、理さんに向かって手を差し出す。ユウジがスクーターのアクセルを効かせて急降下してくる。だが、間に合うわけが―――――



「なんちゃって♪」
「!?」


 体が浮く。重力に逆らって引っ張られる……?


「…………」
 理さんの背中のジェット音は静かな物だ。
「あはは! まさかロケットを壊しちゃうなんてすごいじゃないか、お隣さん!」
「…………ハイ」
 ユウジが急降下した理由は、もちろん理さんが守っていたアイスボックスだった。
「理さん! 大丈夫!?」
「大丈夫大丈夫、心配しなくても平気だって」
「……もう、置いてかれちゃうと思ったじゃない! 馬鹿! 馬鹿じゃないですかぁ!」
 ハネムーンオーラが満載なのにもツッコまない。遠い目の僕の後ろではユウジが和やかにマンゴーアイスを貪っていた。










 そして―――――
 ザザー…ン…

「なるほど、ハワイも有意義だったが、やはり最後にはこの模型の中に落ち付くべきだな」
 ガリガ○君を食べながら『やっぱり我が家が一番』発言をするユウジ。今は付き合ってられない。
「で、どうなんだ?」
 ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべながら、隣で執事服を着て立ったままガリガリとノートに課題の答えを書き込む僕を見てくる。本当に嫌な奴だ。
「課題なんか5秒で終わらない方がおかしい」
「逆だ。お前がおかしいんだ、この愚才……ッ」


 夏休み最終日。学生生活最後の夏休みのようなものなのに。
 なんで小学校三年生みたいな事をやってるんだろう?
 つまり、宿題が全然終わっていない、というような。


「まぁ、精々頑張る事だな! あっはっはっは!」
「誰のせいだ、この愚才――――――ッ!」



 案の定、僕を追試にさせた受難はまだまだ続く……。










 ネームでした。

プロフィール

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奏 Euph
割となんでもやる、活動的な魚類。
狐狸・二ノ宮翼・塵芥・ラピなど、名前がたくさんあります。
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