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Short & present!


歯車ハート



 歯車ハート


 部長がやる気になれば勝てるというジンクスが、俺の部活にはあった。残念ながら部長がやる気になるどころか、無気力もいいというような状態なわけで、そんなジンクスは信じるに信じられない。だから俺は新たなジンクスを打ち立てることにした。
 うちの部活で誰かがやる気を出したら救急車が来る。





「聡!聡!!」
 長谷部聡の名前を叫びながら病院に運び込まれるのに付き添ったのは彼の友人であった。
 新体操をやっていたのだが、大会でなにがあったかというと、複雑骨折。
 複雑も複雑、バキボキなんて勢いではない。言葉で済む勢いではない。やぐらから志高く跳んだ。ついでに物理的にも比例して高すぎた。その結果は見るも悲惨。
 すぐに親も呼ばれた。

 えーえー、この度は。
 早くしてください。
 えーえー、すみませんが。
 いったいどうなる。
 複雑骨折なんてものではないです。
 すごいです。
 腕は無くなります。
 ああそんな。
 足もなくなります。
 後生です。
 もしかしたら体が無くなります。
 生かしてください。
 命はあります。
 聡君は助かります。
 助かります。ええ助かりますとも。
 保証しましょう。
 ええ助かりますとも。


「…………」
 言葉も出ないという感覚を、まさしく俺は味わった。鏡を見ればその姿はまさしくロボットに等しい。すぐに俺は文句を言った。

 ごめんなさい。
 ごめんなさい。
 ロボットでも戻ってきてほしいの。
 生きてほしかった。
 お金がないから人工皮膚はないの。
 お金がないから神経も少しだけなのだよ。

 そう言われると俺が文句を言う筋合いなんてなくなっちまうじゃねぇかぁあ!
 リハビリを積んで、俺は学校に復帰。

 すごいすごい。
 聡君御帰り。
 ロボットみたいでカッコイージャン。

 ちょっとだけロボット生活も悪くないかもしれないとか、そう思ってしまった矢先だった。よくよく考えて気が付いた。
 中学では陸上部。
 高校では新体操。
「おいおいおい、両方出来ねーじゃん」
 俺が笑いながらコメントすると、みんな苦笑して目くばせした。

 もう一人、いるんだぜ。
 観に来いよ!

「?」
 マジかよ。俺の跡につく奴なら、相当出来る奴だろうな! とかなんとか思いながら体育館にシューズもなしに入って行く。車輪の歯車の音がするのを聞きながら、体育館に入って。
 ネジ付きの目を見張った。

 俺が死にかけた技をいとも簡単にこなす――――

「こんにちは」
 俺達に気付いて爽やかなあいさつをしてきた。だが、その声の異質に気が付いた。機械音声だ。こいつはロボットだ。

 HM-2100型で、名前はサトル。
 限りなく人間に近いヒューマノイドで試験的に送られたんだ!
 大会の許可も貰ったんだぜ!
 欠点はあるんだ、人間だから。
「人間って、ロボットだろ」
 俺が笑いながら言うのだが、みんなやっぱり苦笑する。
「いえ、ロボットではありません」
 機械音声の爽やかな声が飛んでくる。ちょっとだけ飛んだ声だが、声帯に機械が埋め込まれている俺が言える台詞じゃない。それどころか、外国人の訛りだと思えば違和感はゼロ。
「僕は人間として作られました。その内プロトタイプである僕が人間であると認可されて、世界に僕のような『人間』が進出してくるでしょう」
「人口六十億人超なのに、まだ『人間』が必要なのか?」
 俺が皮肉ると、周りから非難の視線が飛んだ。
 サトルはすました表情を作れる。俺には表情筋がない。
「僕は人間です。でも百桁の計算が出来ます」
「ああ、なるほど」
 ロボットに劣る人間を切り捨てるタイプか。
 あれ、待てよ?
「じゃあ、僕は練習がありますので」
 よし、やろーぜ!
 今度こそ大会行ってやるんだからな!

 サトルは俺のいた所に立っていた。演技をした。
 待てよ、俺は今――――聡に劣っているよなぁ?





 聡、聡、あなたの脳の細胞からクローンが作れるの!
「マジで!?」
 そうだぞ。その窮屈な体から出られるんだ。


 やったやった! これでサトルを見返せる!
 しかしそんな簡単に行くはずもなく。
 出来たクローンにメスを入れるのに、親父も御袋も感情移入。おいおい、それは俺じゃねーよ?



 じゃあ、行こうか、悟。
「おー!」
 今日は鰻でも食うか。
「明日から学校で新体操やるぜ!」



 病院にひっそりと置いて行かれた機械の塊に、俺が入っていると知る奴はいない。


 あいつは人間、俺はロボット。
 あいつは人間、俺はロボット。
 そうだ、ロボットは捨てられてしょうがないんだな。


 ぐいぐい、と機械の手を引かれた。
『どうしたんだ?』
 人工音声が声を奏でる。そこには一人、女の子がいた。
「ねぇねぇ、御婆ちゃんどこ?」
 女の子が出てきたと思われる病室では、俺と同じような体の老婆が眠っていた。死んだのか、それともロボットになったのか。
 あらあら、すごいロボットさんね。
 病院のか?
『いや、俺は病院のじゃない。スクラップになった』
 じゃあ、うちでこの子の面倒を見てくれないか?


 もしも俺が高校生の男子だと知ったらどうなるか。

 いや、わからないだろうなぁ。


『行きます』

 そうして行った高崎家。数年経ったある日、新体操をテレビで観て、ロボットなのに涙を流して、正体がバレて、裁判官も侵食したHM-2100改に、


 ――――核融合炉に落ちて行く―――


 俺は処刑を言い渡されたとさ。





 昔から温めていた長編をかなり短縮してしまった。

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奏 Euph
割となんでもやる、活動的な魚類。
狐狸・二ノ宮翼・塵芥・ラピなど、名前がたくさんあります。
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