Short & present!
COLORATURA MR 2
COLORATURA MR 2
「似・合・わ・な~い……」
「日記を付けてはいけない。そんな法律はない」
レイゲンはペン先をアベルに向けて、苦々しく言い捨てた。アベルは両手を上げて降参のポーズをとる。
「はいはい、僕は別に干渉なんかしませんよー…」
「わかればいい」
アベルの返事に軽く苛立ちながら、レイゲンは歩調をゆるめずに歩く。アベルがしっかりついてくるのが苛立ちに油を注ぐ。
『……この童顔守銭奴がアベル。現在進行形でオレのご主人。オレはこいつの護衛と従者をしている。なぜかって? こいつはオレが住んでいた村の連中を救ったからだ。オレ? オレはレイゲン。内緒にしてほしいが……竜だ。見た目? これはちょっと小細工使っているだけだ。こいつが、つまりアベルがオレの弱みを握るやら色々あったわけで、こんなことしている。もちろん嫌だが、契約は契約なわけで―――』
「あのさ、レイゲン、口に出さないで」
「え……口に出てたか?」
「うん」
レイゲンは押し黙った。書いている内容、考えている事が口に出ているとは思わなかったのだ。
さて、彼がほとんど説明してくれたわけだ。詳しくは前回の話を読んでほしい。とにかく、東の国でクーデターを起こそうと企む童顔がアベル・メイカー。その従者になっている竜がレイゲン・サラマンダ。彼らが一応物語の中心人物である。
一行の旅は早くも終わりに近づいていた。なぜかというと、もう東の国の都に着いているからである。
「かなりすっとばされたよね、出来事もろもろ」
「ああ」
細かい事を気にしちゃいけません。
「前も言ってたんだよ、これ」
………
「…アベル、とりあえずいい事を教えてやる。無視だ」
「あー、そっか」
その通り。無視されるのがこちらの役目だ。
「それにしても……賑やかだ」
「君のいたド田舎とは大違いだよね」
「悪かったな、ド田舎で」
レイゲンはアベルに毒を吐くと、再び都の情景に目を移す。自分が知らない物が、人から物質まで華やかに彩る街だ。自分が田舎者という自覚はあるが、あまりにも様々な服装や物が立ち並んでいて、視線はまったく感じない。
「…………人、だけじゃねぇな」
「うん。人狼に魚人、エルフやケンタウロスまでいるさ」
「でも人間が多いと」
「人間だもん。他の生き物より欲張りだし、悪意も働くから生き残ることができるんだ」
アベルの生々しいセリフにはコメントも返せなかった。
「……ま、立派っちゃ立派だな」
「君がいた村よりも、ずっと栄えてるさ」
「しつこい」
レイゲンは鼻を鳴らしてアベルの隣を歩いた。
「馬が多い」
「まあね。貴族は白馬を好むし、荷車も馬で動かす。大きい都だから、人を乗せるための馬車も必要さ」
「ふん……白は貴族…アレもか?」
彼の指さす方を見やり、アベルは含み笑いを見せた。
白馬に乗った黒髪にマントを羽織った青年と、亜麻色の髪を編み込んだ体格のいい騎士。
「あの二人は特上さ。すぐに―――――」
瞬間
群衆から一人の男が走り出てきた。レイゲンが身構えるのを制止し、アベルが笑う。
「あー、レイゲン。心配しないでよ。僕の理由も見せたいんだ」
「何言って――――」
反論する暇も与えない。
鋭い雄叫びが上がる。
涙を零しながらナイフを持って馬に向かう男は恐ろしく、そしてどことなくシュールで、滑稽だった。
「エク、これ位大丈夫だ」
「ハイハイ、手出しはしませンよ」
頭悪そうに笑いながら、亜麻色の髪の騎士は腕を組んだ。突然黒髪の青年が息を詰め、重力を無視するかのような動作で馬の背から軽く、高く跳び上がった。
「十月十八日十七時五分四十四秒。第八区肉屋のカーター・ロビンソンが肉用ナイフで俺を襲う。動機は調べた。妻が能力に適性がなく、俺に追放されるからだ」
ぞっとするほど冷淡な口調に、市街地を歩いていた全員が震えあがった。
「四日前から予言して、今日はレイピアを持ってきた…」
空中から落ちてくる青年は、まるで蛇のように男を睨みつけていた。腰から抜いた銀色の細剣。その冷たさに、男は細い洋刀を避けることさえ忘れていた――――――――
「危ねぇっ!」
絶叫と共に、男がレイピアを避けるように転がされた。青年の目が大きく見開かれる。
「あーあ…」
「『あーあ』、じゃねぇっ! この童顔オヤジ!」
まったく止めようとしなかったアベルを怒鳴り、レイゲンは転がしてしまった男の様子を見た。口をきけそうな様子ではないが、生きていて大きなけがはない。
「だ、大丈夫か? 今、鎮静剤やるから…待ってろ」
人間が好きな竜、人間を慈しむ竜、というのは可笑しいが、レイゲンはまさにそんな竜だった。人間にどんなに裏切られても、ひたすら人間を精神的な意味で好む、おかしな竜、という自覚はある。
「何者だ、お前?」
冷えた声が上からする。威圧にたじろがずに立ち上がると、案外青年の身長は高くない。
「彼はレイゲン・サラマンダ。僕の従者だよ、デミファイ」
「『皇帝』だ、アベル・メイカー」
いつの間にかしゃしゃり出てきたアベルに戸惑いせず、デミファイと呼ばれた青年がアベルを睨みつける。
「……変わらないなぁ。皇帝様は狩りにでも行ってきた?」
「察しの通りだ、アベル。随分長い出張だったようだが、どうだ? ……その従者はなんだ?」
「だから、レイゲン。レイゲン・サラマンダ。不良じみてるし、嫌なとこ所帯じみてるし、田舎者だし、横暴・乱暴」
「お前には言われたくねぇよ、このヤクザ官僚!」
「本当のことだよ? …じゃ、またね皇帝サン」
「………相変わらずの奴だ」
不機嫌そうに呟くと、デミファイは馬に乗り込み歩かせた。黒髪の奥から濃い紫の目が揺らめいていたのを見て、レイゲンは奇妙な寒気を感じた。
「彼はデミファイ・エンペル・フォン・プロペット三世。この国の十二代目皇帝だよ」
「随分仲良さそうだったじゃねぇか」
町中の居酒屋でステーキを口に入れながら、レイゲンはぼやいた。三本目の酒瓶を床に置きながら、アベルは思案顔になる。
「昔、僕も貴族組だったから、言い方や見方を少し変えれば彼と僕とスノウの三人で遊んだ幼馴染なんだ」
「スノウ?」
「スノウフレイク・グラフィティ。僕の幼馴染で、官僚組の仲間だよ……クーデターの」
最後の言葉だけ小声になる。
「……なぁ」
「何?」
ひとつ、息をつく。彼の『異常』に首を突っ込むのはかなり勇気が必要だから。
「お前……クーデターっつうことは、幼馴染の王様をぶっ倒すって事だよなぁ…デミファイはそんなに悪い奴なのか?」
レイゲンの質問に、アベルは唇を噛んで虚空を見つめた。
「……この国は、つい最近まで皇帝代々の予言の力以外の能力は、全て悪魔の力とされて、迫害されていたんだ。デミファイは予言者以外の能力を持ってるんだよ」
「なんだ…ソレ?」
「……僕が造る者だって事は知ってるよね? これと似たように、血筋で受け継がれたリ、特殊な環境で身につく能力だよ」
メイカー。アベルは代々メイカーと呼ばれる、自分の才能を多彩に発揮できる能力を直系に受け継いでいる。端的に言えば、どんな職業でも出来る、という能力だ。
アベルは基本をかじれば何にでも達人になれる。
剣士、魔導師、踊り子、盗賊、薬草師でも……能力者以外は。
「例えば、送る者。自分が考えている事や気持ちを、離れた相手に伝えることが出来る能力さ。デミファイは皇族に伝わる、予言者(プロペット)の能力を持っているけれど、他にもなんらかの能力を持っているんだ」
「……なんだ?」
「知らない」
「幼馴染じゃねぇのか?」
「幼馴染だからって、なんでも知ってるわけじゃない。君だって村の人にドラゴンって事を隠してきたよね?」
「う……」
そこを突かれると辛い。
「それに、デミファイは本妻の子じゃなかったから、宮廷教育は十五歳まで受けられなかった。予言の能力だけでも畏怖させるのに、加えて違う能力も掛けあわせて持ってる。周りからも迫害される能力………僕は数年しか一緒にいなかったけど、すごく彼は寂しそうだったさ」
アベルはそこで言葉を切り、通りがかった店員に酒を注文していった。
「あー……力があるのに、力のない者がそれを制する。この意味、わかるかい?」
「……力のない者は、力のある者の力を恐れるから」
「なんで共存って道を取らないのか常々僕も不思議だったけど、君を見てるとなんだかわかる気がするよ」
「そりゃ、どうも」
皮肉って見せると、アベルは嫌味に笑った。
「彼もそう思ったんだ。君が怖れた……それと同じ思いさ」
「………」
「皇帝になった彼が最初に設定したのは『能力を有するものだけの軍と政府』それに『後天的能力に適性のない者の追放』っていう法律だったんだ」
「追ほ……っ!? ……待て、後天的能力ってなんだ? 能力者ってのはお前みたいな奴だってわかったんだけどな……」
「さっき言ったよね。特殊環境で身につく能力だよ。踊る者とかがそうかな。恐怖から逃げて、一時的に身のこなしをありえないほど俊敏に出来る能力さ」
「……つまり、元から能力があるか、能力を持てない無能は……」
「いらない」
切り捨てる
残酷な響きが胸の奥をえぐってくるようだった。
「そんな……無茶苦茶だ…! ……あ」
「そう」
アベルが哀しそうに笑う。
「僕は能力者で、追放される懼れはない。でも、僕はそんな理不尽には反対したいだけなんだ」
「それで――――」
「クーデター」
カラン、とアベルの酒の中で氷が鳴った。
「なんだか後ろめたくて、ね」
「……」
「その資金のための君なんだけど、悪かった?」
「……イヤ。そういう理由なら」
アベルの気持ちは、レイゲンには痛いほどわかった。謀らずもヒエラルキーの上位に立ってしまって、下層を憐れんでいるわけじゃない。
わけのわからない愛があるから、自分は人間を慈しむけど。
『……こいつはどうなんだ?』
レイゲンはひそかにアベルを盗み見る。彼にもこんなわけのわからない愛があるとは、到底思えないが。
「ま、資金が備わってきたら、君には僕のお小遣い稼いでほしいんだけどね!」
「一言余計だ、この守銭奴」
言葉で一発殴ると、レイゲンは水をがぶがぶと飲んだ。アベルは緩く笑いながら、酒を喉に流しこんだ。
「………さ、行こうか」
「行くって」
「大家さんのところだよ」
言いたい事は、お前にも家があったのか。
「官僚っつったら本拠地があるのはわかってたんだけどな」
「だけど?」
「お前は放浪してそうなイメージ」
「あははっ!」
アベルは気を悪くもせずに笑う。夜道は街灯のおかげで昼間のように明るい。しかしアベルがどんどん路地裏の方に向かうせいで、灯りもまばらになってしまった。
「大家って……誰だ?」
「スノウだよ。僕の幼馴染の。没落貴族で、屋敷の一部を開放して下宿を開いてるんだ……彼女もクーデターに関わってくるから、話もあるしね」
「ふーん」
意外にもかなり深く考えている。
「いいお酒もあるし」
「そこなのか!?」
一瞬感動しかけた自分が馬鹿だった。
アベルはレイゲンがちゃんと追いついてくるのを見越したような動きで、流れるようにすいすいと路地裏を抜けていく。小柄な彼よりも幾分か背の高いレイゲンは、必然的に早足を要求されているようなものだった。
「ふぅ…着いたよ」
アベルの小さく呟くようなセリフがして、なんとか追いついたレイゲンは目の前の建物に小さく口笛を吹いた。
「夜に口笛吹くと、蛇が出るよ」
「迷信じゃねぇのか?」
「…アベル・メイカー『蛇使…』」
「わ、わかった、わかったっての」
無駄に能力を使おうとしたアベルを制止し、レイゲンは眼前の建物に見入った。
過剰装飾もいいところだ。クラシカルな雰囲気の作りを描きだしたような造形に、無暗に広いベランダや庭。庭にあるいくつかの像や噴水は、さぞかし名のある芸術家に作らせたのであろうか、とにかく芸術に疎いレイゲンにも、いくらかその素晴らしさは伝わってきた。
「二階と三階が解放されてるんだ」
それだけ言うと、アベルは門を開けた。
「お、おい、本当にここであってるんだろうな?」
「僕を信じてよ」
『……今までの行動からして』
心の底から信じるのは難しい。だが、レイゲンにとって『悪くない人間である』それだけの理由でもかなりの条件をアベルは満たしていた。
門を抜けると広い庭が続き、数十メートル先に玄関らしきドアが見える。レイゲンは広すぎる庭を見渡しながら、田舎を出てきた者らしく野次馬のように噴水や像を眺めた。
暗くてよく見えないが、かなり精巧な造りになっている。
「……レイゲン」
「うん?」
「仕事だよ」
その言葉の意味は、一瞬背後に感じた寒気と大理石の剣の風圧でようやくわかった。背中に向かってくる武器の存在を察知すると、レイゲンは目の前を歩くアベルを抱きさらって地面にうつぶせた。
自分がさっきまでいた所は『動く像』の剣によって串刺しになっていた。
「あーあ…お気に入りの服なのに、泥だらけだよ」
「バカ! そんな事言ってる場合じゃねぇだろ!?」
レイゲンの叱咤を受けながらも、アベルはマントや服についた泥や芝を払い落しながら不敵に笑んでいた。
「彼らはガーゴイルだよ、レイゲン」
「ガー……?」
「命を持った動く石像……スノウの家のは大理石製さ。流石の僕も夜にみんなを起こしたくないわけだから、ドラゴンに戻るのはよしてね」
「この…っ、馬鹿野郎! こいつらが暴れ回るのはOKなのか!?」
「だってコレ、ここの防犯システムだもん」
「はぁああああ!?」
未だかつて、ここまでアベルの清々しい笑みに苛立った事はないと思う。小さく舌打ちをすると、レイゲンはポケットから小瓶を出して、中に入っていた粘液状の物を手のひらにかき出した。
レイゲンの称号は、なにも『人間のフリをしているドラゴン従者』だけではない。
「本業は――――薬草師だっての!」
粘液を手の中で薄く広げて振りかざされた剣を阻む。かなり強く打ちおろされているのが粘液越しに理解できた。
「あ……ああああああああああッ!」
力を込めた瞬間に脱力して剣を受け流す。剣はレイゲンの方ではなく芝生の上に打ち込まれた。そこを見逃さずに粘液を紐状にして剣に巻きつけると、すかさずそのまま地面に縫い留めた。
「これで使えないぜ、でっけーの!」
「ガーゴイルね」
「う、うっせー!」
一人のんきに見物しているアベルに噛みつくと、レイゲンはさらに次にやってきたガーゴイルに対峙した。
「お止めなさい」
ふいにガーゴイルが動きを止める。
「西の国でしか採れない花で作った『変わり身粘土』よ。きちんと身分証明にはなるわ」
どこからか聞こえてくる凛とした声。レイゲンは数歩後ずさりしながら手刀を構えた。
「誰だ…!?」
「レイゲン、落ち着いてよ。そういきり立つことないさ」
「こ・の、状況で言われるセリフじゃねぇよなぁ……!?」
アベルの言葉にさらに苛立ちながら、レイゲンは構えを崩さなかった。
「……貴方、人間じゃないわね」
「っ!?」
暗闇の中の声が、自分の真相を伝える。
「それに……アベル・メイカーね…久しぶり」
久しぶり。その言葉が、レイゲンの頭の琴線に触れた。
「……スノウ…はあんたのことか?」
「ええ」
声の主が近づいてくるのがわかった。芝生を分けるような音が徐々に傍に寄ってくる。神秘的、というか澄んだ女性の声からは考えられないような大きい生き物だ。
「スノウフレイク・グラフィティ。スノウでいいわ、レイゲン」
さっきのアベルとの会話を聞いていたらしい。スノウはガーゴイルの背の上に飛び乗り、アベルとレイゲンを見下ろした。
大きな狼だ。
紫色の獣らしからぬ目に、月の下で銀白色に輝く毛並み。狼であるとわかっていながら、一瞬身惚れてしまうような美しさを持っていた。
「こちらの準備は整ってきているわ、アベル」
「そう…ありがとう、スノウ」
素直な姿勢が彼のカードなのかわからない。だが、このスノウという狼に一目置いている事は確かだった。幼馴染、というのはやはり伊達ではないらしい。
ふいにスノウの目がレイゲンを見据えた。
「別に噛みつかないわ、安心して頂戴」
「…そ、そうか……」
今ひとつ、整然と並んだ牙を見るとそんな気はしないが。レイゲンはアベルを守ることができるよう、彼に少し近づき、構えをやや緩めた。その様子を見て、スノウはおかしそうにクスクスと笑った。狼なのにクスクスという表現はおかしいかもしれないが、この場合、それ以外は考えられない。
「いいお友達ね、アベル」
「レイゲンは僕の従者だよ」
「それを聞くたびにいつも寒気がするのはどういうわけだろうな?」
レイゲンのセリフに堪え切れなかったらしい。流石、アベルを幼いころから知っているというか、彼の性格の事もよく知っているらしい。
「苦労してるのね、貴方」
「まぁな」
「アベルのそばにいればそうなるわよね」
「……まぁな」
昔はもっと冷静だった気がすると見直しながら、レイゲンはため息をついた。
「いいわ、入って頂戴」
ふいにガーゴイルの背中から飛び降り、スノウは月光の中を歩きながら二人に近づいた。
「美味しい紅茶、淹れてあげる」
そう言いながら、その狼は――――――
「な……ッ!?」
紫の目に、銀白色の長髪を流す美女に姿を変えた。切れ長で美しい目の奥では、アメシストのような瞳が涼しげに煌めいていた。
「改めて初めまして、レイゲン。私はスノウ。官僚組の人狼……狼人間よ」
小さく水音を立てながら、スノウは一階の客間でカップに紅茶を注いだ。
「どうぞ」
「あ、ありがとな……」
「レイゲン、照れている場合じゃないんだよ」
「誰の話だっ」
眉間にしわを寄せながら、レイゲンは紅茶に口をつけた。薄く苺の味がして、あまり好きにはなれない味に思える。
「ガーゴイル…多くなったね」
「最近物騒だから」
「ふーん?」
「今日はまだ少ない方なのよ。いつもだったら裏庭の子たちも総動員していたわ」
「それは――――今日は月が出ていたから、かな?」
「そうね」
アベルの言葉に小さく頷きながら、スノウも紅茶に口をつけた。怪訝そうに目を向けるレイゲンにアベルが気付き、小さく囁く。
「スノウは人狼、狼人間だから月の下で狼に変身することができるんだ」
「…ほぉ……」
「この辺りじゃ、人間じゃないなんて普通ね。貴方だってそうでしょ、レイゲン?」
「……………」
返答に困る質問だった。個人的には無暗に自分の正体が知られてしまうのは嬉しくない。助けを求めるようにアベルを見ると、彼は紅茶を飲みながら知らんぷりを決めていた。
『……コイツっ』
「……はぁ…そうだ」
「なんなの、貴方は? そういえば、まだマトモな自己紹介を聞いていないわね」
紫色の不思議な目で見つめられると、どうも背中がこそばゆくなるようなおかしな感覚が走る。
「…レイゲン・サラマンダ。西の国の村出身で、いわゆる田舎者。薬草師で、こいつの従者で………竜だ。こっちの国じゃ、ドラゴンって言われているらしいな」
竜。それを聞いた途端に、スノウの目が鋭利に光った。
「ドラゴン……ね。それはティグリスのため?」
『ティグリス……?』
新しい名前に戸惑うレイゲンをよそに、アベルは嫌な含み笑いを見せていた。
「それもある……かな? 今は北の山だっけ?」
「計画には絶対必要な存在よ、彼女は」
「彼女、って呼べるのかどうかはよくわからないけどね」
「またそうやって……あ、そうだわアベル。こっちは計画の事は知っているの?」
「クーデターの事だろ?」
レイゲンはやや薄情に答えた。それを聞くと、スノウは気が抜けたように肩をすくめる。
「知っているのね……あまり巻き込みたくなかったんだけど、ごめんなさい」
「いや、三割くらいはオレが首突っ込んでやった」
「残りの七割は?」
「村を出た途端にこいつに聞かされた」
親指でアベルを指し示すと、アベルは嫌悪の表情を浮かべながらその親指をのけた。
「…いい人材に恵まれたわね、アベル」
「そうかな?」
そう言いながら、アベルは苦笑まじりに表情を緩めた。
「そこまでいい奴じゃないよ、レイゲンは。不良じみてるし、嫌なとこ所帯じみてるし、田舎者だし、横暴・乱暴だし、僕が何かするたび煩いし―――――」
「まだ言うか、お前は……っ!」
さっきデミファイに言ったのと同じ説明をしてこき下ろすアベルに、レイゲンは青筋を立てた。スノウは鼻を鳴らしながら笑った。嫌な笑みだという事は自覚しているらしい。
「いい人じゃない、昔よりずっと」
「過去より今、今より未来さ」
嫌な笑みを見せながらアベルは言い、ふいに瑠璃色の目を細めて息を静める。
「それは、この国にも言える……次の任務は?」
「任務?」
アベルのものとは思えない発言に、レイゲンは戸惑いを隠せなかった。スノウはそんな反応を気にも留めずに思案する。
「……北の山で、ティグリスの捜索よ。遠いけど、レイゲンがいれば大丈夫よね」
「それはどういう意味だ?」
深い赤の長髪をかきながら、レイゲンはスノウを見据えた。スノウは何かおかしなものを見るようにレイゲンを見返す。
「だって貴方、翼があるじゃない」
「………図ったな、アベル」
「もちろんさ。薬草師、っていう理由と儲かるっていう理由だけで君を傍に置いておいても、クーデターにおけるメリットは少ない」
「それで……」
「君を従者にする理由は三つ。儲かるから、ドラゴンであるから、戦闘能力が高いから」
他意のない冷酷な言葉だが、レイゲンはため息をつくだけで何も言わなかった。
「……あまり怒らないのね」
「こいつに怒っても無駄だって事はよく知ってんだよ」
「それもそうね」
スノウも納得したらしい。
『………それに』
どんな理由があるにしろ。自分の村を助けてくれた。自分に居場所を与えてくれた。
「……ま、色んな事情があるんだよ」
「わかったわ、レイゲン・サラマンダ」
おかしそうに笑いながら、スノウは紅茶を含んだ。
「すぐにここは出るの?」
「あー…まぁね」
「北の山に行くなら、コーダも連れて行かない?」
「コーダ……か」
アベルの思案顔に含まれる意味はどれほどのものかは知らない。だがこの含み笑い。あまりいい気はしなかった。
「貴方の事だから、明日にでも出発するんでしょ? 天気は見晴らしの利く、晴れにしておくわ」
「そんなこと、あんた……スノウに出来るのか?」
「言い直したことは正解よ。レディを相手にするにあたってね」
小さく口出ししながら、スノウは頷いた。
「私は天空人と描く者の能力を持っているの…直系じゃないけれどね」
デミファイの作った『能力者だけの軍と政府』そんな事が、ふいに頭をよぎった。スノウは立ち上がり、淡く微笑みながら二人を見据えた。
「せめて、今日だけはしっかり休んでいって。野宿続きで疲れているでしょう?」
「そうでもないよ。僕は草や土とは無縁の場所で寝ているから」
「?」
スノウの目に初めて疑問が浮いたが、二人とも応えようとしなかった。レイゲンの赤い鱗の上が、かなり上等な寝床になりえるという事を―――――
スノウフレイク・グラフィティ
SNOWFLAKE GRAFFITI
職業 東の国の官僚・大家
種族 人狼
能力 天空人・描く者
TO BE COUNTINUE…?
- TOP
- Blog Ocean
- トップランカーの戦場
- Fly higher than the sky.
- 林檎コンビ格納庫
- ユメクイ
- G・D・F
- パイレーツ・アミュレット
- character
- Short & present!
- Pict
- BBS
- LINK
- Reborn!
プロフィール

- 奏 Euph
- 割となんでもやる、活動的な魚類。
狐狸・二ノ宮翼・塵芥・ラピなど、名前がたくさんあります。
携帯用QRコード
- アクセス数

- ページビュー数
