Short & present!
驚かせて 火黒 テンマさんへ
驚かせて 火黒
『あ』
視界の隅に、火神が映る。黒子はわずかに大きく目を開き、火神を目で追った。ちょっとだけウキウキしたような、輝いたような目になっていることはなんとなくわかっているが。
もっしゃもっしゃとリスのように特大のパンを食べている。ステーキの時も思ったが、かなり良く食べる男だ。
「火神く……」
ちょっと待って。
いつもは無意識に驚かしてしまっているけど、今日はちょっと自発的に驚かしてみたい気分。
『……ん』
自分用の購買のパンの袋も、音を立てないように上手く抱える。ちょっと暖かくなってしまうけど、この際どうでもいい。
驚いて、昔は怒っていた。
驚いて、前は色々諦めていた。
驚いて、最近は苦笑するようになった。
時々みかける彼氏彼女だって、これくらいするじゃないか。もう、友達以上恋愛未満にいるような事を、火神君はこの前言っていたから、別に。
『大したことじゃないですよね』
神経太いし、いつも驚かしている(無意識だが)から、驚いて病院行きなんてことはない。
一歩
近づいてみる。
あなたの背中は、知っているけどかなり大きい。
二歩
歩み寄ってみる
腕も逞しくて、時々突発的に僕を抱きしめますよね。
三歩
手をそっと、挙げてみる。
肩に触れたら、彼がのけぞって一緒に怪我しそう――――
ふいに、手首をつかまれた。
「!?」
「心臓、うっせーんだよ……」
手首を握る手は、ちょっと無骨で大きくて。
「火神君……?」
「なんだ?」
いつもと同じ目で、もしゃもしゃとパンを頬張ったまま。一瞬すごく間抜けに見えるが、手首を握る手は暖かくて。
「すみません、僕の手、今熱いので離した方がいいですよ?」
「むしろ冷てーよ」
一般人よりやや冷えた、けれどいつもよりは微妙に熱を帯びる手首。わずかに動いている脈は、テンポがやや速い。
「? そうですか」
それを聞くと、ちょっと安心したように肩を落とし、首を傾げる。
手首を離すと、黒子はぺたり、と火神の隣に座った。
「よく僕に気が付きましたね」
「そのセリフ、ひと昔前のアニメみてーだぞ……」
「そうですか?」
また首を傾げ、黒子は自分用のパンを取り出す。
「今日はいつもより頑張って近づいたのですが」
「余計に意識しなくても、いつも影薄いんだからな?」
「ハァ……」
マイペースにパンの包みをはがしながら、黒子は頷いた。今日はちょっと、意識的に驚かせたかったのに、これでは元も子もない。
いつも跳びあがらんばかりの勢いで驚くくせに、あまり面白くもない。
「火神君」
「んー?」
「好きですよ」
パンにむせた。
驚かせられたのがちょっと満足。むせたシーンも目に焼き付けた。目を一瞬輝かせ、黒子は自分のパンに戻った。
「~~~~ッ!」
「牛乳ならあるじゃないですか」
「~……うっせー…」
この熱量は牛乳なんかじゃな流しきれない。
「なんだお前?」
「ちょっと今日は驚かせたい気分なので」
「いつも驚かしてんだろ……」
「そうなのですけど」
今日はちょっと。
それを言うなら。
「オレだってな」
お互い、口の中がパンの味がする。
「………」
「お前の鼻、たまには明かしてやりたくなるっつの」
キョトン、とした黒子の顔を見ていると、行為をしたことが妙に鮮明になって照れるらしく、火神はそっぽを向いた。
驚かせたし
驚かされたし
「そうですか」
今日はいつもよりもいい日になった。
「ありがとうございます」
「おー」
へタレな文章でスミマセン……誕生日おめでとうございました!
テンマさんのみ、御持ちかえり可。
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プロフィール

- 奏 Euph
- 割となんでもやる、活動的な魚類。
狐狸・二ノ宮翼・塵芥・ラピなど、名前がたくさんあります。
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