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林檎コンビ格納庫

腐った林檎
ローズ♂×ジャック

ハジメテについて√♂


「別に、君が私の初めての相手だったわけではない」
 どういう経緯でそういう話に至ったのか、そんなのはどうでもよくなった。後ろめたさも何もなく、ローズの口からなんでもない事のように飛び出したそれに、ジャックは空いた口が塞がらなかった。
「……変な顔をして、どうしたんですか」
 自分がどういう顔をしているか、なんて、鏡になった窓を見ればわかる。ぶんぶんと首を振って、ジャックは気を立て直した。
「いやいや、そういう冗談はいらなくてだな、ローズ?」
「冗談に聞こえるなら、そうしておけばいいさ。まあ、君も何度か私が誰か、女性と一緒にいるところは目撃しているから……そこから理解してもらえると思う」
 確かにそれを言われてしまったら、ぐうの音も出ない。口の端をひくつかせながら、ジャックはぽつりと呟いた。
「……俺じゃなかったのかよ……」
「てっきり、知っているのかと」
 いつも通り、照れも焦りもないローズの声が、寝転がる肩にのしかかってくる。
 考えてみれば当たり前だ。モテるお前と並んでいて、バレンタインにも義理チョコしか貰ったことがない。ラブホテルとやらの入り方なんてこの前知った。しかも目の前の男の隣で。
「そんなに落ち込む内容か?」
「ったりめーだろ……だって、俺はなあ! ……」
「…………君は?」
 恥だ。
「……俺は、お前が、初めてっつか……今も……」
「…………いや、知っているが」
「はあ!? い、言ったことないぞ!」
「言われなくても、まあその童貞くさい露出度の高い服装と言いますか、女性と付き合ったという噂が流れるとしたら私というポジションが一番知っていそうなのに聞いたことない点とか……まあ、他にもありますけど?」
 声のトーンが少し変わって、笑われているのがわかる。
「……童貞臭っ……!? ~~~だあああああ……くそう」
 他の誰かと、この先付き合う予定なんかない。それは即ち、この先三十歳での魔法使いルートを示す。彼を――――ローズを貫くというビジョンがもしも万が一あっても、男だからノーカンだろう。
「はあああああああああ、カッコ悪いな……俺……」
「なに、今に始まったことじゃない」
「あー、ハイハイ! ほっとけ!」
 不貞腐れて、ジャックは肩をつっぱる。よっぽど、悔しいのかなんなのか。気付いていないだろうが、ツヤツヤの鏡面仕上げをされた家具に、彼のもやもやした表情が映っている。ローズにも、よく見えた。
 彼は、すん、と小さな溜息を吐いた。
『君はどれだけ、私が――――』
 自分でそこまで考えて、にやけてしまう。
『―――好きなんだい?』
 不貞寝するジャックに近づいて、ちくちくの髪に指をうずめるように、頭をつつく。ようやくこっちに目を向けたジャックに笑いかけると、またそっぽを向かれた。
「あの日が、初めてだったさ」
 ごちゃごちゃとピアスを付けた耳に、少しからかうような声が届いた。
「……そんな嘘じゃ、誰も騙せねーぞ」
「嘘じゃない」
「だって、お前さっき――――」
「あの日まで、夢の中で、君といたした事があった」
 きょとん、としたジャックの目が、ローズの目と合う。

 告白されるまで、顔も知らない女生徒だった。ジャックに囃し立てられながらも付き合った。
 話を聞いて相槌を打っても、キスして、自分なりに愛しても、気に入ってくれなかったらしい。気が付けば別の男の下にいた。始まりも、終わりもなにもない。
 君だったら、もっとあの瞬間は面白かっただろうと思った。

「初めてだったさ」

 夢にみた光景と同じだった。ぶっきらぼうに自分の頭を撫でる手も。下で呻きながら背中に回される腕も。時折、心地よさそうに喉の奥から吐き出す息も。名前を呼び続ける声も。

「現実になったのは、あの日が初めてだった」
 耳にとろけて落ちる、チョコレートみたいな声が脳をくすぐる。ご機嫌の猫みたいに笑って、ローズはジャックのうなじをくすぐった。
「……と、これで、どうですかね?」
「どうって……なんだよ!? ゆ、夢って、おま――――って、いや、まさかローズ、」
「はい」
 起き上がったジャックの顔が、興味津々というように近づく。
「……俺の夢で、夢精とかすんのかよ?」
「…………」
 答えにくい質問に、白々しくローズは横を向いた。さっきの不貞腐れた顔はどこへやら。ジャックはローズの顔をにやにやしながら覗き込む。
「ほーーーーーーーー??? ローズもそーゆーコト考えるわけだ? 朝起きて大変なわけだ???」
「…………否定はしません」
 ローズの眉間にひと筋寄った皺に、ジャックは歯を見せて笑った。
「割とかわいートコあんじゃねーの、ローズちゃん?? にしし♪」
「……元気になったところで、君が童貞という事実は変わりませんよ?」
「夢精ヤローの嬌声に聞こえるぞ、っと――――」
 ごてん、と組み敷かれて、視界がローズで埋められる。
「まあ、夢よりも現実の方が、私は好きですよ、童貞君」
「……そーかい」
 彼が自分を欲しがるのは、割と愉快だし、なにより、悪くない。さっきとは違うジャックの笑みに、ローズの顔色が変わる。
「お前って、割とかわいい」
「……ご冗談」

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奏 Euph
割となんでもやる、活動的な魚類。
狐狸・二ノ宮翼・塵芥・ラピなど、名前がたくさんあります。
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