林檎コンビ格納庫
Tomorrow perfume -R×Jmix-
終業ベルも鳴り終わったボルテ学園高等部の教室のひとつ。嬬武器烈風刀はホームルームが終わるや否やのタイミングでやってきた後輩の訴えにきょとん、とした色を示す。
「第三理科室が、なんですって?」
烈風刀の言葉に赤志魂はガリガリと頭を掻き、表情を曇らせたまま告げる。
「だーかーらー、第三理科室からむちゃくちゃなニオイがするんすよ」
「むちゃくちゃな」
「ニオイ?」
「そうそう、甘ったるいような、くっせーような、変なニオイ」
「それを、なんで僕に?」
異臭がする、ともなれば他の教員に訴える方が得策な気もする。ただの生徒にすぎない自分に相談するには、と烈風刀は首を傾げた。
「識苑センセーのところに行ったら、留守だったんすよ。きっとまたどっかにメシ食いに行ってんだろーけど、あのニオイ、俺のコンピュータールームに近くって耐えらんね……」
げ、と舌を出して肩をすくめる魂は顔色からしてよっぽどなのだろう。確かに少しかわいそうな気もした。
「うちの学園なら突然変な奴が出てくんのも珍しくねーから、一人で行くのも気が引けるっつーわけで。烈風刀先輩、一緒に原因究明手伝ってくれません?」
「ふむ……構いませんよ、僕でよろしければ」
「っしゃ、心強いっす!」
鞄を置いて、魂の後についていく。
確かに魂のコンピュータールームに近づいていくほど、言葉に例えるのが難しい臭いが漂ってきた。思わず手で鼻と口元を覆ってしまう。決して嫌な臭い、とまではいかないが、噎せかえるような蜜のにおいと、機械油のにおいに似ていた。
「これは……たしかにひどいですね……」
「でしょー?」
件の第三理科室の前に来ると、臭気は最高潮になった。眉間に皺を寄せて臭いに耐える二人の前に、あまり使われていない扉が佇む。
「さて、なにがあるのか……」
なにが来ても困らないよう、バグとの戦闘に使うビームサーベルを取り出す烈風刀を見て、魂は自分の選択が間違いでなかったのを確認した。
「じゃあ、先輩、ドア開けますよ……?」
「いいですよ……」
そっと魂が音を立てずに理科室のドアを開くと、強いにおいが飛び出してくる。咳き込みそうになるのを耐えて、中を覗き込むと、小さな影がふたつ。
「? アレってもしかして……」
こっそり、ひっそり、ドアを開けて、中に忍び込む。強い香りのする理科室の中で、少女の高い声が二人分聞こえてきた。
「フフフフ、コレデ学園ノ女子モ男子モ、パニックヲ起コスノガ目ニ見エルゾ……♪」
「カヲルタン、ヤッパリ私タチ天才ダネ」
くるくると鍋を傾ける悪魔と、香水瓶に入った液体をうっとりと眺める悪魔の姉妹は、紛れもなくアシタとカヲルだ。相手がわかれば怖いものでもない。
「なんだ、お前らかよ……」
「!? ナンダ、ヲマエ!」
「高等部ノ魂と烈風刀!」
「何シニ来タ!」
「くっせーニオイがすると思ったら……おいおい、勘弁してくれよ」
「まあまあ、小さい子のしたことですし……とはいえ、また事件を起こされては困りますね」
アシタとカヲルの作る香水は、人を惑わす事で有名だ。今回もきっとその類だろうし、以前学園で巻き起こされた色恋沙汰の事件は教師含め、てんてこまいしていたのを思い出す。
烈風刀の視線は、二人の手の中にある香水瓶に向いた。きっとあの香水も、何かしら良くないものなのだろう。
「すみませんが、アシタさん、カヲルさん、この件は誰にも言いませんし、異臭についてはお咎めなしにしますから……その香水、渡してくれませんか?」
「イヤナコッタ!」
「アッカンベー!」
「……だーと思った……先輩、ちっちゃくても悪魔っすよ、こいつら」
「……大人げないとは思いますが、仕方ありませんね」
取り上げるしかない。ビームサーベルを傷つけない程度に、と身構えた烈風刀に向かって、悪魔の二人が飛び出す。
「コレデモ食ラエー!」
「な……ッ!?」
「烈風刀先輩ッ!?」
思いのほか、香水瓶からの噴出は射程が広かった。見事に直撃を食らって咳き込む烈風刀に、アシタとカヲルがハイタッチする。
「だ、大丈夫っすか、烈風刀先輩……」
「……れ、レイシス……」
「へ?」
「レイシス……の、事が……! 僕は……!」
赤く、火照った顔でレイシスの名前を呼び続ける烈風刀から、魂は数歩後ずさった。
「はあああ? な、なんだよあの香水……」
「大成功ダネ、カヲルタン!」
「恋心ノ対象ヘノ想イヲゾウフクサセル、魔法ノ香水ノチカラ、思イ知ッタカ!」
「あー……そういう……」
また色恋絡みで面倒になりそうなものを作ったものだ。なんとかして取り上げなければ、と魂は随分苦しそうに胸を抑える烈風刀を見下ろした。
「れ、レイシスに……会いに行かなくては……この、想いを……魂……! レイシスは、どこに!?」
「へ!?」
突然、がっしりと掴まれた肩にかかる力は強く、錯乱状態になった烈風刀の顔は恐怖でしかない。
「ちょちょちょ、ちょっと待ってくださいよ、先輩!?」
「ヨシ、コレヲ学園中ニ撒イテ来ルゾ!」
「行コ行コ、カヲルタン!」
「あー! 待てお前ら! 先輩、今レイシス先輩呼んできますから!」
「本当ですか!?」
「勿論(嘘)っすよ!」
烈風刀をそのまま放って、理科室から飛び出していったアシタとカヲルを追いかける。悪魔の翼は存外ハイスピードで飛んでいく。
「ギャハハハハ、バーカバーカ!」
「追イツイテミロー!」
「チックショー!」
同時刻、ボルテ学園玄関前では二人の人影があった。
「はー、雷刀のヤツ、また追試かよ……」
「残念でしたね」
「俺だって、もーちょっと追試は少なかったぜ?」
カチ、とアプリを落とし、ジャックはローズに向かって肩をすくめてみせた。
ちょうど来たメールの送信相手は、絵文字を交えて謝罪を伝えてきていた。雷刀と烈風刀を交えてゲームセンターに行く予定はキャンセルの模様だ。折角迎えに来たのに、骨折り損だ。
「どうします? 私達だけで行くことになりそうですが」
「んー、そうだなー……あ、他の奴らちょっとあたってみ―――って、お?」
割と近いところで何かが割れるような、倒れるような音がした。ローズにも聞こえたらしく、表情は変えないが、音の原因を調べるようにきょろきょろしていた。
「今の音は……」
と言いかけたローズを遮るように、またひどい音が聞こえた。音のする方を見ると、割れた窓ガラス――――と、それを飛び越えて走る、息が切れ切れな少年。金髪にオッドアイの彼は、ジャックもローズも見覚えがあった。
「おー! 渡りに船、向かいに魂……って、どうしたんだ、あいつ」
「何かを追っているようですね」
何か、というのが何かは正体不明だが、その影ふたつはこちらに向かってくる。
「じゃ、っく、先輩! ローズ、先輩! そいつ、ら……捕まえてくださ……っ!」
普段デスクワークばかりでろくに運動していない魂に、この長距離ランニングは辛かったようだ。正体不明の影ふたつは、ジャックとローズに気付くと、不敵な笑みを見せる。魂の手が掠める寸前に、ぐい、と上へ急上昇。
「だあああっ!」
「キャハハハハ! バーカ、バーカ!」
見事にコケた魂をけらけらと笑って、ふたつの影ことアシタとカヲルは上空数メートルを浮遊する。
「あー、なーるほど、な……」
「……油断大敵ですよ、ジャック?」
「モチロン」
虚無の空中にピンク色の足場を作り出し、ジャックは足をかける。ゴーグルの奥の悪戯っぽい目が本気の色を示すと、そこから先は、まさに瞬間。
「おらぁッ!」
蛍光するピンク色の足場が、空中に次々と浮かび上がる。それを踏み、跳ね、空を駆け抜けるジャックの姿は、ヤマネコにも似ていた。
「ひー、ジャック先輩、すっげー……」
「まあ、あれと、命中力だけが取り柄みたいなものですから」
くすくす、とからかうように笑いながら、ローズは辛辣な言葉を吐く。
「ヘイローズ、聞こえてるぞ! チッ……!」
油断大敵、と言われた通り、慌てるアシタとカヲルに目標を定める。弱いレーザーでも、あんなまだ小さな子に当てるのはかわいそうだ、となれば。
アシタとカヲルの背面側に足場を作り出し、自分は足に力をこめる。空中で大きく跳躍し、二人の頭上を飛び越えていったそのスピードに、誰の目もついていけなかった。作り出しておいた足場を蹴って、二人に向かって――――飛びかかった。
「おっしゃぁあ!」
「すっげえ!」
地上で魂が思わずガッツポーズをしてしまうほど、ジャックは見事に二人の小悪魔を捕まえた。足場を新たに作って、下へ下へと飛び降りていくジャックの腕の中で、二人は懲りずにじたばたと暴れる。
「ギャアアアア!」
「ヤメロ、離セー!」
「離さねーよっと!」
「クッ……離サナイナラ……!」
「カヲルタン!」
キュッ、と音を立てて、カヲルの手の中で香水瓶の蓋が開く。その臭いに気付いてからでは遅かった。
「テイ!」
「へ? っだぁああ!!?」
「ジャック!?」
「ジャック先輩!?」
投げかけられた大量の液体は、もろにジャックの顔を直撃した。香水の効果、というより、器官に入ったその液体に噎せる。集中力が途切れて、空中から足場が消えた。地上2m程度から落ちてきたジャックと二人の小悪魔を、見事に受け止めるには少し足りない。咄嗟に落下地点に飛び出したローズの体を跳ね飛ばすように、その体は落ちてきた。
「ジャック先輩、ローズ先輩!? だ、だだだだ、大丈夫っすか!?」
「……私は、まだ平気ですが……ジャック!」
ジャックを受け止めようとした体は少し痛むが、あまり高いところから落ちてこなかったのと、ややずれて受け止めたせいだろうか、そこまでひどい痛みはない。ただ、目の前で呻くジャックの姿は、心配以外の何物でもなかった。
「ジャック! 大丈夫ですか!?」
「……ロー、ズ? ……おいおい、なん、だよ……そんな、切羽詰まった声出してよ……」
ぎりぎり、憎まれ口を叩ける余裕はありそうなのに、ローズは幾分か安心した。
「まったく……君って人は……」
「はー……ジャック先輩、どーもっす……おっしゃ、アシタとカヲルも気絶してるし、今のうちに、っと」
悪さをしないように二人の手を握って持ち上げ、魂はひと段落、のため息を吐いた。その辺りで、ようやくジャックも起き上がる。
「ひー……マジ、びっくりしたぜ……」
「そうですね、ジャック。なにか浴びせられていましたが、大丈夫でした?」
「おー、なんともな――――――」
そう言い掛けて、ようやく視界のゆがみが少なくなってきた、と同時に視界に映りこむ、ローズの顔。
「……い?」
くら、と一瞬、普段、存在は認知しているが、意識したことのないローズの香りを、ジャックは強く感じた。偏光するゴーグルが首を傾げて角度を変えると、ゴーグルの色と同化している、オレンジ色の目が心配そうに見つめてきているのがわかった。
『な、んだ?』
ローズの顔を見ると、なんだかいつもと、同じような、違うような、馴染みのある感覚が、コントラストを強めたような、妙な感覚があった。
「ジャック?」
「お、おう……なんだ?」
「ですから、何か浴びせられていましたが、大丈夫でしたか?」
「おー、だ、大丈夫大丈夫……ってか、アレ、なんなんだ?」
さっき浴びせられた強烈な臭いのする液体は、既に揮発して消えている。あんな量だったのに、大したものだ。
「また、アシタとカヲルが作った、変な魔法の香水っすよ」
「なるほど。それで事件になる前に取り上げたい、というわけでしたか」
「変な魔法、ねー……」
奇妙なことが何でも起こるボルテ学園では、今更驚くほどの事でもない。ただ、その魔法の中身が気になる。なんといってもジャックがいやという程浴びた直後だ。
「魂さんは、その変な魔法、というのはご存知ですか?」
「えーっと……なんつったかな」
悪魔の少女特有の高い声は、少し聞き取りにくかった。が、覚えている。
「【恋心を増幅する効果】っつってた、かな……」
「……」
「……それはまた、何と言いますか……ロマンティックですね」
半ば呆れたようにローズは言うが、ジャックの頭は一瞬で真っ白になった。
『待て』
さっき、この、隣の野郎に感じたアレ。
『待て待て』
俺の中でこいつは、ライバルのはず。
『待て待て待て』
「ジャック?」
「だぁあっ!?」
「……そんなに驚く事、私、言いましたか?」
首を傾げていぶかしがるローズの表情にさえ、ばくばくする心臓が押さえつけられない。冗談じゃない。
「なんともありませんよね?」
「おっ、お、う……?」
「無理しないでくださいよ? 烈風刀先輩がちょっと浴びただけで、錯乱する始末でしたし……あ、でも好きな人とかいなきゃ、ヘーキなのか?」
「なるほど。では、ジャックも平気ですかね」
どーゆー意味だよ、なんて切って捨てる事も出来ない。そんな場合じゃない。
ローズの香りを、強く感じる。
何にも形容できないが、確かに、今までも認知したことがあるといくら否定しても事実は曲がらない。
ローズの視線の行き先が気になる。今も、自分を心配そうにちらちらと見てくる。
そこまで考えて、はっとした。
「お、」
「どうしました?」
「おっ、俺、帰る」
早口で言った台詞は、魂にもローズにも聞こえなかったらしい。二人そろって、ジャックに向かってきょとんとした顔を向けていた。思考を振り払うように首を振り、言い訳を探す。
「や、やっぱ、さっき落ちたの、不味かったっぽい! 帰って寝るわ! 後はよろしくな!」
「ちょっと、ジャッ……」
ローズが名前を呼ぶ前に、素早く立ち上がり、さっき空中から落ちたなんて嘘みたいに、ジャックは景気よく走っていった。
「どうしたんすかね、ジャック先輩……ってああ! 烈風刀先輩、ほっといたまんまだ! じゃ、どもっす、先輩!」
「ええ……」
アシタとカヲルを抱えたまま、魂は烈風刀がまだ待っているはずの理科室に走っていく。それを見送るのも忘れ、ローズはジャックが走っていった道の向こうを、ひたすら見つめていた。
「違う、違う、違う、違う、違う、違う……!」
まるで呪文のように、自身に言い聞かせながら、安いアパートのドアを開けた。あまりの動揺に、鍵を開けるのに少しかかってしまう。開いたドアの向こう飛び込む、勢いよく鍵を閉め、そのままドアを背に、ずるずるとしゃがみこんでしまった。
気付いてしまった熱に、全身が侵されている。
膝を抱え込み、落ち着け、と念じても、ローズの顔が蘇る。
「あの、香水のせいだ」
必死になって、言い聞かせる。そう、あの香水をしこたま浴びてしまったから。きっとそのせいだ。そのせいで―――――ローズへの、自分の、想いは――――
「ッ、違ぇ!」
あいつなんか、ヘラヘラ笑って馬鹿にしてくるし、仕事が一番で全然遊べないし、しょっちゅう馬鹿にしてきやがるし、なにかにつけて――――一緒にいてくれる。
びくん、とジャックの全身が震えた。雷を怖がる子供のように、全身を抱きしめる。
「だめだ」
万が一、ローズに知られたら、最期だ。
『男が、好きなのですか』
そんな言葉と共に、ローズの笑顔が消える未来が見えた。
ローズと、一緒にいられなくなる未来が見えた。
それを思い描いた瞬間、心臓が音を立てて痛がる。眼球を絞ったように涙があふれる。嘘だ、そんなはずは、と否定しても、変わらなかった。
痛いほどに気付かされ、辛さだけが滲んだ。
「……ローズ……」
お前と一緒にいるのは、確かに、幸せなんだ。がんがんと鳴る頭の痛みに耐えかねて、それだけでもと認めた時だった。
「ジャック?」
「!?」
思い描いていた声が、ドアの向こうから小さなノックの振動と一緒に伝わってきた。
「ジャック、大丈夫ですか? 開けてください」
急いで追いかけてきたのだろうか、少し声に疲れが見え隠れしている。いや、それよりも、なんでここにローズが。びくびくしながら、震えるドアに手を添えた。
「な、んだよ、ローズ……」
ドアに付いた郵便受けの向こうから聞こえてくるジャックの声に、ローズは少しだけ安堵した。
「やはり、あの香水、よくないものでしたか、と」
「あー、よ、よくないな……ちょっとキモチワリーから、寝てるわ」
「本当ですか?」
「あ、当たり前だろ!? 万が一移すとやべーから、その、どっか行けよ……」
そういえば、ローズの声は心地いいのを忘れていた。いちいち浮き彫りになる感覚に、また辛くなった。
恋心を増幅させる効果、なんて嘘に決まっている。きっと、もっと別の、それこそ惚れ薬みたいな、0を1にするような効果で、決してもともとあったものじゃない。そう言い聞かせても、どうともならない。
どうあがいたって、鮮明になった感覚ではあるが、全部覚えている。
「ジャック、」
こんな風に名前を呼んでくる声が嬉しいのも。
ローズの声を無視して、ジャックは頭を抱えた。これから、どうやってバレないようにすればいいのか――――――
「その恋は、辛いですか?」
「は、アっ?」
思わず反応してしまったジャックの声をドア越しに聞いて、ローズは続ける。
「……きっと、誰か、気になる女性がいるのでしょう。私が知らない相手のようですね。気付かなかったのは、ちょっと悔しいです、正直」
何を勘違いしているのか、と思いながら、ジャックは言葉を飲み込んだ。好きなのは、お前、なんて口が裂けても言えない。沈黙を肯定と受け取り、ローズはちょっとだけ俯いて、ドアに手を当てる。
「君がそこまで辛い恋、ということは、きっと手が届きにくい人なのでしょうか。でも、君なら、私は、大丈夫だと思います」
「……な、にがだよ……」
無責任にもほどがある。
「……にが、大丈夫、って……」
絞り出すような声が、ドアの向こうから聞こえる。熱に浮かされたような辛さがありありと伺えるその声音に、ローズはドアに当てていた手を握った。
「……私、君は魅力的だと思いますよ」
か細いローズの声に、うっかり顔をあげてしまった。言葉を頭で繰り返してしまい、顔に熱が溜まる。
「……は?」
「君、センスはいいですし、運動神経はいいですし、頭は……ちょっと悪いけれど、友達を大切に出来る」
今度はローズが、俯いた。
『私が、骨抜きになる程』
そんな言葉を飲み込んで、ローズは首を振る。
ジャックにもしも好きな誰かがいるのなら、喜んで応援する。一生この想いは押し殺す。この辛い恋心。
『君には、耐えられないでしょうに』
苦笑した。この辛さは、ジャックには抱えさせたくない。
「君といると、私は楽しい。そう思えるくらい、魅力的じゃありませんか…………だから、その恋、きっと叶います。だから、大丈夫と、言って……」
一瞬言いよどむローズの言葉の端々に、バレませんように、なんて自分と同じ心の声が聞こえた気がした。
「君の間抜け面が辛そうなのは見ていられません、から、ジャック、君の好きな人に、想いを伝えなさいな」
「…………」
ヘイ、ローズ。お前ちょっと褒めすぎじゃねーの? あと、そのお前の、そうそれ。
俺と同じだ、どーゆーことだ。
もしかして、もしかして―――――――
開いたドアの向こう、見慣れないしょっぱい表情を浮かべたローズに会いに行く。お前のお墨付きだろ、と挑発的な顔をして。
言いたいことはひとつだけ。決して、香水の作ったまやかしではない。ジャックは息を吸い込んだ。
「ローズ。好きだ」
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