林檎コンビ格納庫
細かいネタ
[1]
「…………」
所謂中途覚醒というやつだな、と私は理解した。その原因はすぐにわかった。かかっていたはずの毛布はそこになく、少しだけ冷えた体が訴えた目覚めだった。
『……器用ですねえ』
起こさないよう、口には出さないが、本当に器用だ。毛布を奪った彼は、あっちを向いて軽いいびきをかいている。時間を見ればまあ、まだまだ、とはいえ、今日は昼前から仕事だ。それまでにはジャックを送らないと。そうなると、早めにシャワーを浴びて損はない。
こっそりとベッドを抜け出して、シャツだけ羽織ってそのままシャワーへ。脱ぎ散らかした服は後で片付けよう。
ほんのすこしぬるいシャワーを浴びて、ジャックに掴まれたちょっとした痛みの残る髪を洗っているところだった。
「?」
ドタンバタンという、ちょっと鈍い音。髪の毛が泡まみれの私を無視して 、風呂場の扉が開いた。
「ローズっ!!!?」
「……なんです?」
やけに焦った顔で飛び込んできた全裸のジャックに、どう返せばいいかわからない。なにか一大事でもーーーーーーーと、思ったが、私の顔を見るやいなや、安堵したように息を吐く。
「おど、かすなよ…………」
「? どうかしました?」
「のんきにシャワー浴びてんじゃねーよ、バカ。こちとら起きてみればお前はいねーし、びっくりしたんだぞ??」
「はあ。シャワーの音が聞こえませんでした?」
「聞こえたから来たんじゃねーか」
「いや、そこまで慌てる必要あったかな、と」
「………………………………」
「シャワーの音がしたら、私以外いないじゃないですか」
「……………………………………………………」
ああ、なるほど。
みるみる真っ赤になっていく、ジャックの頬。
「…………まったく。服くらい着なさいな。寂しいからって、確認もせずに戸を開けるのはデリカシーが無さすぎです、ジャック」
「は、あ!?さ、寂しくなんかねーよ!!!うっせえ、寝直す!!」
「…………まったく」
照れ屋な君が、寂しがりな君が、いつもはうまくそれを隠そうとしてる、実は優しい君が、私はーーーーまあ、
「せっかく起きたんです。一緒にシャワー浴びてしまいましょう。そうすれば後で早めの昼食を食べに行けますし、ねえ?」
「 ーーーー…………ったく、しょーがねーなー」
ばたん、と後ろ手で、風呂場の扉を閉めるジャックに、泡を洗い流しながら私は笑ってしまう。
『もっと、甘えてみてくださいな』
なんて言ったら、君は逃げてしまうだろうから、とりあえず今は、
「ジャック、」
不意打ちの、水が滴る唇のキスで。
[2]
昔、私はそこまで直感的に行動する方ではなかった。自分で言うのもおかしな話ではあるが、比較的理性的で、『思わず』なんて言葉は正直似合わない方であったと思う。が、
「ヘイローズ、」
名前を呼ばれて思わず振り返った。考えてもいないのに口許が緩む。
「ローズ…………」
甘い声に、震える指。私の指に力が入り、抱き締めてしまう。
「バカ、ローズ!バカ!おい、ここどこだと思ってーーーーーーー」
そんなのどうだっていいです、なんて口にも出さずに、本能の赴くままに屋外で君の口を食らう。
「お前って、案外テキトーだよなあ」
「……………………残念ながら、否定できませんね」
ゴムをつけるのを忘れて中に。まただ。また思わず、だった。彼といるとどんどん理性とやらをなくしていく。
もしも、
もしも、ジャックが私の告白を受けたとき、私がもっと理性的な過去の私であることが前提だったとしたら、どうしようか。
「お嫌い、ですか?」
それとなく、でもいろんな感情を込めて言ってみると、1秒待たずに
「バーカ、」
ジャックの顔を見ると、呆れたように笑っていた。
好きだ、というのが伝わる。思わずにやっとしてしまう私の口許にももう慣れた。
「…………ありがとうございます……」
「ドーイタシマシテ」
[3]
ゴキゲンの呪文
「おはようございます」
この青年の、やけに機嫌の良さそうな声音を理解できるのはジャックだけである。寝ぼけ眼をぱしぱしとさせ、なにも着ていない体をよくよく伸ばした。
「随分ゴキゲンじゃねーの」
「おや、わかりますか?」
「嫌でもわかるっーの」
機嫌良さそうにコーヒーをすすった直後の口で、そのまま寝起きと体の気だるさと戦っているジャックの耳元にキスをする。嫌ではないが昨日の行為を彷彿とさせて、目をそらしてしまう。
「なんでか、わかります?」
「さーな。持ち株でも上がったか?」
「いいえーーーーー昨日、ですね。君が『好き』と言ってくれた」
「……は?」
全く覚えがない。ジャックが目を見開いて瞬きを何回かする前でも、ローズはたおやかに笑っている。
「い、言ったかよ」
「言いました。こう、私の首もとに腕を回して、ちょっと涙目になりながら『ローズ、好k
「だぁああああ!!!?言ってねえ!!覚えてねえよ!ノーカンだ、バカ!!!」
あわてふためいて、ローズを押し退けて、昨日の熱を思い出し、がーっとまた頭がくらくらするような情交がフラッシュバックする。
『好きだ』
なんて。
「…………覚えていませんか」
「覚えてねーし、そもそも言ってねえよ!!バカ!!!」
「…………残念です」
「…………」
さっきまでご機嫌だったローズの顔から笑みが消える。テーブルに起きっぱなしにしていたコーヒーのもとに戻って、ぐい、と飲み干した。
『好きだ、なんて、』
本当に覚えていない。それくらい、溺れていた。いまだに少し痺れる腰や、まさぐられた口内に少し感触は残っていても、好きだ、なんていう自分の声はまるで覚えていなかった。
「……………………」
さっきから、真顔で二杯目のコーヒーを飲んでいる。手元には経済新聞。照れて、こっちくんな、なんて言ったいつからか、情交した朝はこんな感じ。
「……はー」
ジャックのため息にもローズは振り向かなかった。
わかりやすい奴。
「ヘイローズ、」
「なんでしょう?」
ちら、とだけジャックを見やる、ゴーグル越しの目。
大概自分も、なんというか。
「好きだ」
きょとんと面食らったローズの顔を三秒見て、目をそらす。
「…………覚えててやる」
「………………………………ジャック、」
視線をローズに戻すと、露骨にゴキゲンな顔。ああ、その顔。俺のひとことなんかで、チョーゼツゴキゲンになる、やっすい顔。だから馬鹿っつってんだよ。
そんな考えも露知らず、ローズはすぐに、コーヒーカップなんか適当に放置する。
「コーラでも、飲みますか?」
あっという間にゴキゲンになりやがって。苦笑して、
「あー、頼むわ」
なんて言う。とある朝のはなし。
[4]
世界で一番最初に「セックスするときまず始めにキスをする」なんて定めた奴は、いったい全体誰なんだよ。
そんなくだらないこと考えながら、ローズのキスを甘んじて受けてる。誰かとそーゆーことをするってのなんて正直全然したことねえ。しかし、しかしだ。ローズは明らかに、へたくそだ。賭けてもいいぜ。
へたくそ。
どこがへたくそって、ほんとーに全部。
「ジャック、」
とか名前呼んで、オレンジの目を閉じずに口に指を触れさせて、あるかどうかみたいに確認しねーとできねーのかって思う。
そのまま指をどけずに、俺の口を食べるみたいにキスする。なんともへたくそ。しょっちゅう歯が当たって、時々唇もかじられてひりひりすんだよ、バカ。
それでもまあ、ローズが相手で、まあーーーー物足りない。口の中まで欲しいのに、舌が入ってくんのにとにかく時間がかかる。くそっ。
入ってきた舌も、もう何回もしてるっつーのに、躊躇うの何乗?って感じ。少し俺の舌に触れて、やっと絡ませてくる。
ここまで何分だよ。くそっ。
極めつけはその手がそのまま、ぎゅーって俺を抱くから息も出来ない。
ほんっっっっと、へたくそ。
目は口ほどにものを言うとか、なんとかいうけど、ありゃ嘘だな。
お前のキスのが、よっぽど正直だ。
「ヘイローズ、」
ばっかみてーな優越感に満たされるから、あながち嫌いじゃねーよ。
しょーがねーやつ。
「へったくそ……」
ってわけで、物足りない俺がお手本でも見せてやる。
[5]
「へたくそ」
やけににやにやしたジャックの顔が目の前にある。いつもお決まりの台詞で情事は始まる。
「ん、」
あごと耳の境目辺りに手を添えて、口と口が触れ合う。上唇、少しはみ出した舌に、下唇。3層が私の唇に甘く触れてきて、それはもう心地いい。押し付け、だが、深くは触れないじれったさ。焚き付けるのが本当に上手いと思った。
「ローズは、ほんっっっっと、キスだけ下手だよな」
「それは、それ以外はそうでないと調子にのって良さそうですね?」
なんて茶々を入れると、不愉快そうな赤い顔が、無言で胸を小突いてくる。
「エローズ」
「なんとでもいいなさいな」
「エローズエローズエローズ」
「何度でもいいとは言ってません」
「うっせえ」
「ジャ、」
言葉が飲み込まれる。ちゅる、と蕩けるような恥ずかしい音が、私たちの耳に響く。流石に今の音は恥ずかしかったのか、ジャックが強く目を閉じる。
ねだるように伸ばされる舌に答えると、もっと、と誘われ、舌を口外に出すと、ジャックの唇で食まれる。
かわいい、という感情を抱いていると知られたら、どんな顔をされるだろうか。
「……どうだよ?」
「…………そうですね」
別に、ジャックが言うように、本当にキスが下手なわけではない。
もっと、うまくできるだろう。
けれど、あきれ混じりの笑顔で、隠しきれない得意気な顔で、
「しょーがねーなー、ばーか」
と言われれば、逆らえるわけがない。
断じて、本当に下手なわけではない。
[6]
お兄さん寄ってかなーい?
少し耳にさわる高い声。ほろ酔いでいい気分の私の腕を引く軽い力に、顔をしかめないようにするのが大変だった。
「ひゅー、モテモテじゃねーか」
私を茶化してくるジャックに向けた顔は、彼にバリエーションが少ないなんて揶揄される表情だったのだろう。そう思いながら、さてどうしたものか。
「そっちの青い髪のクールなお兄さんもどうー?」
「お、マジで?」
冗談じゃない。
顔が思わず一瞬真顔になるのを、ジャックは見過ごしてくれなかった。
「あー、悪ぃな、ねーちゃん?」
戸惑う女性に見せつけるように、
私が理解する暇も与えずに、
彼は、キスしてきた。
アルコールの息が、浅ましさのの急所を避けて、口の端に当たる。
私の腕を引く、じゃーな、かわいいねーちゃん!なんて、酔っぱらいの声。キャーキャーと高い声をあげる女性の声が、後ろに後ろに、そして聞こえなくなる。
「ヘイジャック?」
「わりーな、ローズ」
「は?」
「さっき金使いすぎたもんなーーキャバクラにつぎ込むのはまた今度にしようぜ!」
「……」
なんだ。
「……風俗にいこうと、君はモテませんよ?」
「んだと!?お前にはチョーモテモテなんだから、一人くらいいるかもしれねーじゃん!!」
「煩いですよ、ジャック」
「ばーかばーか!!」
「まったく……」
そうそう。
君はいつもの君だ。
いつからでしょうね。
『飲みすぎだ』
「…………」
所謂中途覚醒というやつだな、と私は理解した。その原因はすぐにわかった。かかっていたはずの毛布はそこになく、少しだけ冷えた体が訴えた目覚めだった。
『……器用ですねえ』
起こさないよう、口には出さないが、本当に器用だ。毛布を奪った彼は、あっちを向いて軽いいびきをかいている。時間を見ればまあ、まだまだ、とはいえ、今日は昼前から仕事だ。それまでにはジャックを送らないと。そうなると、早めにシャワーを浴びて損はない。
こっそりとベッドを抜け出して、シャツだけ羽織ってそのままシャワーへ。脱ぎ散らかした服は後で片付けよう。
ほんのすこしぬるいシャワーを浴びて、ジャックに掴まれたちょっとした痛みの残る髪を洗っているところだった。
「?」
ドタンバタンという、ちょっと鈍い音。髪の毛が泡まみれの私を無視して 、風呂場の扉が開いた。
「ローズっ!!!?」
「……なんです?」
やけに焦った顔で飛び込んできた全裸のジャックに、どう返せばいいかわからない。なにか一大事でもーーーーーーーと、思ったが、私の顔を見るやいなや、安堵したように息を吐く。
「おど、かすなよ…………」
「? どうかしました?」
「のんきにシャワー浴びてんじゃねーよ、バカ。こちとら起きてみればお前はいねーし、びっくりしたんだぞ??」
「はあ。シャワーの音が聞こえませんでした?」
「聞こえたから来たんじゃねーか」
「いや、そこまで慌てる必要あったかな、と」
「………………………………」
「シャワーの音がしたら、私以外いないじゃないですか」
「……………………………………………………」
ああ、なるほど。
みるみる真っ赤になっていく、ジャックの頬。
「…………まったく。服くらい着なさいな。寂しいからって、確認もせずに戸を開けるのはデリカシーが無さすぎです、ジャック」
「は、あ!?さ、寂しくなんかねーよ!!!うっせえ、寝直す!!」
「…………まったく」
照れ屋な君が、寂しがりな君が、いつもはうまくそれを隠そうとしてる、実は優しい君が、私はーーーーまあ、
「せっかく起きたんです。一緒にシャワー浴びてしまいましょう。そうすれば後で早めの昼食を食べに行けますし、ねえ?」
「 ーーーー…………ったく、しょーがねーなー」
ばたん、と後ろ手で、風呂場の扉を閉めるジャックに、泡を洗い流しながら私は笑ってしまう。
『もっと、甘えてみてくださいな』
なんて言ったら、君は逃げてしまうだろうから、とりあえず今は、
「ジャック、」
不意打ちの、水が滴る唇のキスで。
[2]
昔、私はそこまで直感的に行動する方ではなかった。自分で言うのもおかしな話ではあるが、比較的理性的で、『思わず』なんて言葉は正直似合わない方であったと思う。が、
「ヘイローズ、」
名前を呼ばれて思わず振り返った。考えてもいないのに口許が緩む。
「ローズ…………」
甘い声に、震える指。私の指に力が入り、抱き締めてしまう。
「バカ、ローズ!バカ!おい、ここどこだと思ってーーーーーーー」
そんなのどうだっていいです、なんて口にも出さずに、本能の赴くままに屋外で君の口を食らう。
「お前って、案外テキトーだよなあ」
「……………………残念ながら、否定できませんね」
ゴムをつけるのを忘れて中に。まただ。また思わず、だった。彼といるとどんどん理性とやらをなくしていく。
もしも、
もしも、ジャックが私の告白を受けたとき、私がもっと理性的な過去の私であることが前提だったとしたら、どうしようか。
「お嫌い、ですか?」
それとなく、でもいろんな感情を込めて言ってみると、1秒待たずに
「バーカ、」
ジャックの顔を見ると、呆れたように笑っていた。
好きだ、というのが伝わる。思わずにやっとしてしまう私の口許にももう慣れた。
「…………ありがとうございます……」
「ドーイタシマシテ」
[3]
ゴキゲンの呪文
「おはようございます」
この青年の、やけに機嫌の良さそうな声音を理解できるのはジャックだけである。寝ぼけ眼をぱしぱしとさせ、なにも着ていない体をよくよく伸ばした。
「随分ゴキゲンじゃねーの」
「おや、わかりますか?」
「嫌でもわかるっーの」
機嫌良さそうにコーヒーをすすった直後の口で、そのまま寝起きと体の気だるさと戦っているジャックの耳元にキスをする。嫌ではないが昨日の行為を彷彿とさせて、目をそらしてしまう。
「なんでか、わかります?」
「さーな。持ち株でも上がったか?」
「いいえーーーーー昨日、ですね。君が『好き』と言ってくれた」
「……は?」
全く覚えがない。ジャックが目を見開いて瞬きを何回かする前でも、ローズはたおやかに笑っている。
「い、言ったかよ」
「言いました。こう、私の首もとに腕を回して、ちょっと涙目になりながら『ローズ、好k
「だぁああああ!!!?言ってねえ!!覚えてねえよ!ノーカンだ、バカ!!!」
あわてふためいて、ローズを押し退けて、昨日の熱を思い出し、がーっとまた頭がくらくらするような情交がフラッシュバックする。
『好きだ』
なんて。
「…………覚えていませんか」
「覚えてねーし、そもそも言ってねえよ!!バカ!!!」
「…………残念です」
「…………」
さっきまでご機嫌だったローズの顔から笑みが消える。テーブルに起きっぱなしにしていたコーヒーのもとに戻って、ぐい、と飲み干した。
『好きだ、なんて、』
本当に覚えていない。それくらい、溺れていた。いまだに少し痺れる腰や、まさぐられた口内に少し感触は残っていても、好きだ、なんていう自分の声はまるで覚えていなかった。
「……………………」
さっきから、真顔で二杯目のコーヒーを飲んでいる。手元には経済新聞。照れて、こっちくんな、なんて言ったいつからか、情交した朝はこんな感じ。
「……はー」
ジャックのため息にもローズは振り向かなかった。
わかりやすい奴。
「ヘイローズ、」
「なんでしょう?」
ちら、とだけジャックを見やる、ゴーグル越しの目。
大概自分も、なんというか。
「好きだ」
きょとんと面食らったローズの顔を三秒見て、目をそらす。
「…………覚えててやる」
「………………………………ジャック、」
視線をローズに戻すと、露骨にゴキゲンな顔。ああ、その顔。俺のひとことなんかで、チョーゼツゴキゲンになる、やっすい顔。だから馬鹿っつってんだよ。
そんな考えも露知らず、ローズはすぐに、コーヒーカップなんか適当に放置する。
「コーラでも、飲みますか?」
あっという間にゴキゲンになりやがって。苦笑して、
「あー、頼むわ」
なんて言う。とある朝のはなし。
[4]
世界で一番最初に「セックスするときまず始めにキスをする」なんて定めた奴は、いったい全体誰なんだよ。
そんなくだらないこと考えながら、ローズのキスを甘んじて受けてる。誰かとそーゆーことをするってのなんて正直全然したことねえ。しかし、しかしだ。ローズは明らかに、へたくそだ。賭けてもいいぜ。
へたくそ。
どこがへたくそって、ほんとーに全部。
「ジャック、」
とか名前呼んで、オレンジの目を閉じずに口に指を触れさせて、あるかどうかみたいに確認しねーとできねーのかって思う。
そのまま指をどけずに、俺の口を食べるみたいにキスする。なんともへたくそ。しょっちゅう歯が当たって、時々唇もかじられてひりひりすんだよ、バカ。
それでもまあ、ローズが相手で、まあーーーー物足りない。口の中まで欲しいのに、舌が入ってくんのにとにかく時間がかかる。くそっ。
入ってきた舌も、もう何回もしてるっつーのに、躊躇うの何乗?って感じ。少し俺の舌に触れて、やっと絡ませてくる。
ここまで何分だよ。くそっ。
極めつけはその手がそのまま、ぎゅーって俺を抱くから息も出来ない。
ほんっっっっと、へたくそ。
目は口ほどにものを言うとか、なんとかいうけど、ありゃ嘘だな。
お前のキスのが、よっぽど正直だ。
「ヘイローズ、」
ばっかみてーな優越感に満たされるから、あながち嫌いじゃねーよ。
しょーがねーやつ。
「へったくそ……」
ってわけで、物足りない俺がお手本でも見せてやる。
[5]
「へたくそ」
やけににやにやしたジャックの顔が目の前にある。いつもお決まりの台詞で情事は始まる。
「ん、」
あごと耳の境目辺りに手を添えて、口と口が触れ合う。上唇、少しはみ出した舌に、下唇。3層が私の唇に甘く触れてきて、それはもう心地いい。押し付け、だが、深くは触れないじれったさ。焚き付けるのが本当に上手いと思った。
「ローズは、ほんっっっっと、キスだけ下手だよな」
「それは、それ以外はそうでないと調子にのって良さそうですね?」
なんて茶々を入れると、不愉快そうな赤い顔が、無言で胸を小突いてくる。
「エローズ」
「なんとでもいいなさいな」
「エローズエローズエローズ」
「何度でもいいとは言ってません」
「うっせえ」
「ジャ、」
言葉が飲み込まれる。ちゅる、と蕩けるような恥ずかしい音が、私たちの耳に響く。流石に今の音は恥ずかしかったのか、ジャックが強く目を閉じる。
ねだるように伸ばされる舌に答えると、もっと、と誘われ、舌を口外に出すと、ジャックの唇で食まれる。
かわいい、という感情を抱いていると知られたら、どんな顔をされるだろうか。
「……どうだよ?」
「…………そうですね」
別に、ジャックが言うように、本当にキスが下手なわけではない。
もっと、うまくできるだろう。
けれど、あきれ混じりの笑顔で、隠しきれない得意気な顔で、
「しょーがねーなー、ばーか」
と言われれば、逆らえるわけがない。
断じて、本当に下手なわけではない。
[6]
お兄さん寄ってかなーい?
少し耳にさわる高い声。ほろ酔いでいい気分の私の腕を引く軽い力に、顔をしかめないようにするのが大変だった。
「ひゅー、モテモテじゃねーか」
私を茶化してくるジャックに向けた顔は、彼にバリエーションが少ないなんて揶揄される表情だったのだろう。そう思いながら、さてどうしたものか。
「そっちの青い髪のクールなお兄さんもどうー?」
「お、マジで?」
冗談じゃない。
顔が思わず一瞬真顔になるのを、ジャックは見過ごしてくれなかった。
「あー、悪ぃな、ねーちゃん?」
戸惑う女性に見せつけるように、
私が理解する暇も与えずに、
彼は、キスしてきた。
アルコールの息が、浅ましさのの急所を避けて、口の端に当たる。
私の腕を引く、じゃーな、かわいいねーちゃん!なんて、酔っぱらいの声。キャーキャーと高い声をあげる女性の声が、後ろに後ろに、そして聞こえなくなる。
「ヘイジャック?」
「わりーな、ローズ」
「は?」
「さっき金使いすぎたもんなーーキャバクラにつぎ込むのはまた今度にしようぜ!」
「……」
なんだ。
「……風俗にいこうと、君はモテませんよ?」
「んだと!?お前にはチョーモテモテなんだから、一人くらいいるかもしれねーじゃん!!」
「煩いですよ、ジャック」
「ばーかばーか!!」
「まったく……」
そうそう。
君はいつもの君だ。
いつからでしょうね。
『飲みすぎだ』
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