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林檎コンビ格納庫


セクシーな彼女のすゝめ



 其の壱【声とカラダ】

「……随分ギョーギが悪いんじゃねーの、ソレは」
 たぷん、と固結びされた使用済みコンドームをぷにぷにと弄る彼女は、やたら性的だ。シーツと髪の毛以外纏っていない肌の向こうで、キス痕だらけの背中が振り向く。
「いや、不思議ですね」
「ほーらほら、やめろって……」
「ああ」
 手元からひょいっと奪われ、すぐそばのゴミ箱に捨てられていった精子の小袋。真っ白に濁ったそれに、ジャックのすべてが入っていると思うとなんとなく、妙な愛おしさすらあるのに。
 ちょっとだけ残念そうにするローズの頭をがしがしと乱して、ジャックはぬるくなったスポーツドリンクのペットボトルを空にした。
「エロくなったな、おじょーさま」
「失礼な」
「失礼もクソもねーよ、おら」
「っと、」
 また覆い被さってきた汗っぽい体は、今夜3回目。明日は休みだから致したって仕事に差し支えなんてないが、ちょっと呆れ気味にローズはぼやいた。
「よくもまあ……数を打てますね」
「うっせえ、お前も好きなクセに」
「嫌いではありませんが――――私の見解では、君は――――ちょっと、話くらいさせなさい」
 がっつき気味に首筋にまたキスをしてきたジャックの頭を少し押し返して、ローズは怪訝そうにその青い目を見た。
「んだよ……」
「私は、君がだいぶ好きだ」
「なんだ突然」
「君の男くさい手。君の青い目。君の割と細い背中。君のイきそうな声。君の、モノ」
 エロい格好の女にそれっぽく言われたら、メロメロになりそうな台詞だが、まったくそれらしくない、業務的な言い方。褒められているはずなのに、何故だかモノが萎えそうになるのを、ジャックはうっすら感じた。
「……で、なんだって?」
「私の見解では――――その、私では不足だろうに、と」
 ちら、と逸らしたローズのオレンジの目が、一瞬布団の下に隠しておいたはずのエロ本に走る。さっき激しくやりすぎて布団がずれたのか。
「不思議ですよ、ジャック」
 さっきのあの吐き溜め。あれを出せるという事は、ある程度くらい、君は私に発情するのだろう。不思議だ。
「君が、好きそうな女のように喘ぎの声はあげない。胸もないから色気もないだろうに」
「…………」
 あほなことをいう女だ。
「痛」
 ごち、とジャックの頭が額に当たってきた。思わずローズの口からは呻き声が漏れる。その口をちょっと齧り、蕩ける彼女の唾液を飲んだ。
『不思議って、』
 全然不思議じゃない。
 声を必死で抑えて、吐息に昇華させる乱れ姿。時折小さな濁点が混ざりそうな、性的な喘ぎ。息の吸い方。
 胸は無いが、触るとつま先が震えるすべすべの肌に、舐めて吸えばあっという間に表情さえ変える色付いた乳首。スレンダーな腰に、こすり合わせて無意識に強請る膝。
 これから、それを味わえる。食らえるのは、世界中で自分だけ。
 ローズを食べる数十秒後を予想し、ジャックは小さく唇を舐めた。
「あのな」
「はい」
「お前っぽくて、逆にイイ」
「…………それは俗に言う、アイラブユーというやつですよ?」
「じゃー、アイラブユーってヤツだ」
「それは……どうも」
 くす、と笑って、ローズはジャックの背中に腕を回す。中々性的で、いいじゃないか。調子にのれよと、その腕にキスした。
「聞いてくださり、ありがとう。さて……召し上がれ?」
「イタダキマス」





 其の弐【仕草】

 ビッ、って音が不快だったのか、ローズの視線がちょっと突き刺さってきた。コンドームの袋の切れ端を吐き出して、俺はその視線を視線で返す。
「んだよ」
「行儀が悪いですよ、と言いたいだけで」
「俺は『こちらからのどこからでも開けられます』って文句は、世界中でも指折りで信用なんねー言葉だと思ってんだよ」
 開けづれーったらありゃしない。箱のゴムはもちろん全部その仕様なわけで。2回開けたが、どいつもこいつも指じゃ全然歯が立たない。というわけで、歯を立てるに至ってる。
「大体行儀が悪いーなんて、もう昔から聞き飽きてるしな」
「そうですね、無駄ですね」
 ちょっと呆れ気味に肩をすくめるローズの背中に手を置いた。今日はバックだ――――――――



 とか、いつものごとく、ズコバコしてたのが、だいぶ前の話だ。
 話に出てたゴムの箱もだいぶ軽くなって、もうあとひとつになった、と思う。思うってのは、自分じゃ見てねーんだよ。布団の横にスタンバイしてるその箱を漁ったローズの顔が、明らかに『こんなに無くなるまでやったのですか、私達……』みたいな事を言ってた。
「ヘイローズ、どーした?」
 ジャンケンに勝ったチョキの手をひらひらさせながら俺は言った。にやついた声がカンに触ったのか、ローズの口がへの字になる。ジャンケンに勝ったから、こいつにゴムを付けさせるって話だったのに。
 別に、俺の声が嫌だったわけじゃないらしい。
 ぐりぐり、と手でゴムの小袋を開けようと奮闘していた。
 無理だろ、と俺はちょっと笑っちまった。結局あれからずーっと、俺は口で噛み切って開けてたんだぞ。ばーか。
「ったく……おら、貸してみろって……」
「いいえ、その必要は――――」
 おもむろに、ローズの手は、口元に添えられた。
 歯に。
 ローズの口元にゴムの袋がやってきて、咥える。AVとか、エロ本とかにありそうなエロの権化? 象徴? ……化身? ともかく、そんな感じの、オレンジの視線が一瞬俺に向いた。
 ビリッ、と来るようなその視線はすぐ離れ、ローズ自身の口元に注がれた。
 ビリッ、と小さな音を立てて、ちょっとだけ水が零れる。袋の端っこから見えたピンク色の不味そうなコンドーム。つまんで取り出して、ローズは口元にちょっと付いた水を片手で拭った。
 エロい。
 歯に、シルバーのゴムの袋を挟んだ、ピンクの髪の、オレンジの目の女。サイコーに、エロい。
 何がって、そのカッコもそうなんだけど。俺に触発されたって、俺色に染まったってわかる、その仕草。
 俺の、ローズ。
「―――――その必要は、ありません――――……ジャック?」
「ちょっと待て」
「どうしました?」
「待てって……」
 前かがみになって俯きながら、金輪際、俺は、ゴムの袋を歯で開けないと誓った。
 あんなエロい女。
 あんなエロくなった女。
「……お前もう、歯で開けるの止めようぜ?」
「……? はい」

 もう一度見てみろ。今度こそ、骨抜きになっちまう。





 其の参【台詞】

「……慣れませんね、この体勢……」
 教わったように、仰向けになったジャックの腹に、あまり体重をかけずに腰を落ち着ける。
「無理ならやめとけよ?」
「無理?」
 遊んだ声で茶々を入れると、実は負けず嫌いな彼女が声音を変えるのが聞こえる。息を深く吸う音と一緒に、ジャックの腹から重さが消え、直後、ゴムを纏った自身の先端に熱い温度が降りかかる。
「ッ……」
 煽ったのは自分だが、なんとも、クる。
「無理、とは……愚問ですね」
 その声はさっきジャックが飛ばしたような煽りと似ている、つもりらしい。熱が付き纏う、吐息にも近いその言葉は、どちらかというと喘ぎに近い。
 いつもの無表情が染まるのを眺めるのが、ジャックは好きだった。
「あ」
 少し気付いたように声を出して、おもむろにローズは下腹部に手を当てた。下から見上げるジャックの視線に、オレンジの視線を絡めて、彼女は微笑む。
「ここ……」
「は、あ……? ……っ?」
 ローズが触る、彼女の下腹部、のある所。く、と彼女の手に力が入ったようなのを見た、と思ったら、中に入っているはずのジャックの物に、微かな圧迫感があった。ジャックの表情がほんの少し変わったのを見て、やたらと幸せそうに笑いだす。
「ジャック……君が、この辺りにいます……」
「ッ!?」
 あまりにも性的な台詞に全身が強張って――――特に物の先端がびくりと震えた。それに反応するように、ローズもぴくり、と身を揺らがせる。
「……もしかして、少し、大きくなったような……」
「いっ、言うな、馬鹿、言うな!」
「…………」
 視線の先で焦るジャックは、照れと羞恥でだいぶ赤くて、妙な満悦をローズに与えた。汗をうっすらかく朱色の頬に笑みを零しながら、ローズは追い討ちの様にずるずると動きながら言葉をとろとろと吐く。
「熱い……、ジャック」
「だぁ、や、めろって」
「ん……そこは、ちょっと、痛……」
「へ? お、ああ、大丈夫か?」
 照れたり、慌てたり、忙しそう。ほんの少しの痛みもすぐに消えた。忙しそうなジャックを見やるこの満悦は、割とクセになる。
「可愛いな、君は」
「なに言ってんだ、くそ、馬鹿……」
 ギリギリ出さないように頑張っているのに、そんな顔しやがって。気持ちよさそうな、そんな。超絶、性的だ。だらだらと汗をかきながらも、理性を飛ばしきらないように意識しているのに。
「言葉責めは……趣味悪ぃぞ、ローズ」
「言葉責め? ……好きなんですか」
「バカ」
 好きなわけあるか、こんな。と思いつつも、さっきの台詞が忘れられない。耳がじんじんするほど強烈で、あの言葉だけで、あの表情だけで、ローズのあの手の、膣越しの圧迫感だけで。
「ん、あ……」
 あんなに焚き付けられて、ここまで理性を保っていられるのもおかしい。称賛してほしいくらいだ。じわじわと腰を進めると、もどかしい程微かな吐息と喘ぎがローズの口から零れる。根本が太ももと密着した辺りで、出すのを堪えて、ジャックは息を吐く。ひとまず安心。と、その額に、言葉を伴う熱っぽい息が掠めていった。
「全部、入りましたね」
「っ!?」
 不意打ちだ。
「だ、ぁ、あッ、ばか!」
「あ、」
 身体の中に真っ白なペンキがぶちまけられて、染めていく。ローズの身体の下で震える半身。半身である、なんて思ってしまうくらい、今は別の身体とは思えない。
 ようやく視界が戻ってくると、負けず嫌いな彼女が笑っていた。なんとなく、得意げに。なにがそんな気分にさせるのか、と思ったところ、
「―――――ジャック、私、幸せな気がします」
「~~~~~~……」
 この台詞。





其の肆【perfume】

 朝起きると、ジャックの視界はピンク色だった。ちょっと自分の涎で艶っぽく色を変えた箇所のあるピンク色の長髪。鼻先をそれに埋めて、すん、と匂いを吸った。
 昨夜は自分が賢者になっている間に風呂に入っていたはずだ。使ったシャンプーも、石鹸も、自分のものと同じはずなのに、ローズの髪からも、肌からも、【ローズの匂い】がする。
「……犬みたいだな、君は」
「起きてたのかよ」
「君よりも早く起きていなかった試しがありますか? すみません、私ももう少しゆっくりしていたいですが」
 ちゅ、と耳元にくすぐったいキスが当たってくる。まるで子供扱いだ。ジャックの不服そうな寝起きの視線に、ローズが笑って起き上がる。
「所謂、朝帰りをしなければならないので」
 見送るか、なんて言いかけて、やめた。性的な彼女を見続けていたら、そのままもう一回したくなるのは目に見えていた。するり、と抜けていったピンク色の毛布の持ち主は、てきぱきと身支度をして、あっという間にゴーグルを付ける。
 ジャックの部屋におおよそ似合わない、高級そうな身なりの人物が現れるまでにかかった時間は3分となかった。
「今度会えそうな時、また連絡します」
「おう。それまでにゴム買っとく」
「……そればかりなのは、納得いたしかねますが」
「生がイイって?」
 ひとつ間を置いてから、ローズは表情が見えない角度で「ばか」と言う。笑顔か、照れた真顔か、妄想しろってか。上等だ。
 ばたん、と閉じられたドアを見届けて、ジャックの手がぽすり、と布団に落ちた。今日は休みだ。ローズがいない休みをどう使えばいいのか迷う。
 大きな欠伸をして、時計を見た。なんだ、まだ8時半だ。
 つい数分前まであったぬくもりの跡を手で撫でて、そこに一本残った髪の毛を見つける。ピンク色で、さらさらなストレート。昨夜も、それより前の夜も、撫でたり、絡めたり、弄ったり。好きなだけ触れるのは世界広しと言えども自分だけということに、ジャックは気付いていなかった。
『……俺がもーちょいヘンタイだったら、これをぺろぺろ舐めたりして、コーフンしたりすんのかネ……』
 生憎そういう性質ではない、ぽい、と髪の毛をゴミ箱に捨てて、ジャックは布団に転がった。何をして過ごそうか、と考える前に、もうひと眠り、だ。
 目を閉じて本物の毛布を被った時、だった。
 ふわり、と見知った香りがした。
「!?」
 ローズが戻ってきたか、と錯覚し、思わず跳ね起きた、が、もちろんそこに彼女はいない。「ばか」、と嘲笑うように、ゴミだらけの部屋があるだけだった。掃き溜めにツルがいたのはもうちょっと前。
「……なんなんだ」
 確かに、ローズのにおいがしたのに。
 気を取り直して、もう一度寝転がって――――また跳び上がりそうになった。いない、と言い聞かせて、その原因の糸を手繰る。
 びくり、と反応する手の中には、毛布が一枚。
 昨日の夜、水を飲みに起きたとき、ローズがずっとしがみつくように寝ていた、毛布。
 すん、と鼻先を近づけると、ふんわりとしたいい匂いがした。
 真っ先に、とりあえず清潔な香りがする。仕事に向かう、カッチリとした匂いのトップノートに続いて、甘くって、花の香りにも似た、ミドルノート。薔薇の花の香り、ではないが、最初の清潔感があるにおいよりは、やや女性らしい香り。
 最後に、官能的なラストノート。なんの匂いか、と思って探った。毛布をすんすんと嗅ぐ自分の様は、確かに、ローズが揶揄したような犬みたいな状態だろう。咎める誰かがいるわけではない。ジャックはそのまま、匂いに目星をつけた。
 甘い、汗混じりのラストノート。彼女の腹から、口から漂う香水みたいなパフューム。蜜みたいな、ローズだけが出す香り。
 ごく、と唾を飲み、その香を食むように思わず呟いた。
「ローズ」
 今日の午前の過ごし方は、決まった。
 ゴムは終わっていたが、ティッシュはまだある。



 時計が九時を指し示す頃、ティッシュのゴミが増えた部屋で、ジャックは額に手の甲を当てた。
「ば、か、ろーず……」
 俺をこんな、ヘンタイに仕立て上げやがって。ぐぅ、と喉の奥を悔しさで鳴らした。さっきよりもティッシュゴミが増えた部屋で仰向けになって天井を見上げる。二度と、こんな事はするもんか。一瞬思って――――思わず、ぐ、とローズの匂いがまだ残る毛布を鼻に押しあてた。
 ああ、だめだ。性的すぎる。セクシーな彼女の、声、身体、仕草、においが、全部自分を刺激する。
「ばかは、てめーだ、ばか!」
 悔しい叫びの後に、さて、もう一回。
23/27

プロフィール

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奏 Euph
割となんでもやる、活動的な魚類。
狐狸・二ノ宮翼・塵芥・ラピなど、名前がたくさんあります。
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