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林檎コンビ格納庫


6月5日

 2016/2 Junction Box 7 頒布物「Crazy Jackpot」収録作品




 2013年 六月五日
 この日はKONAMIの新感覚エフェクト音楽ゲーム、SOUND VOLTEX Ⅱに、ヒゲドライバー氏の名曲【GIGI BABA】が収録された日である。ジャケットイラストを手掛けたのはLitbi氏。ジャックとローズという二人のライバル同士が描かれたこのイラストの中の世界には、あるドラマがあったと云う―――――



「ハイ、【Crack Traxxxx】撮影終わりデス! お疲れ様デシタ!」
「モウヲワリカ? ハヤイゾ!」
「カヲルチャン、オヤツタベニイコー?」
「ワスレルトコロダッタ! イコイコ!」
 ぴゅん、とアシタに誘われて、カヲルもスタジオをさっさと出ていく。レイシスはふぅ、とため息を吐いた。アシタとカヲルのコンビの撮影が一番の山場だった――――何分、撮影中にトラブルを起こすなんて朝飯前のコンビだ。
「レイシス、休憩は行きましたか?」
 脚立の上から、烈風刀の声が降ってくる。
「大丈夫デス! 素敵なジャケットの為ならなんのそのデス!」
「……途中でへばられたら、もっと大変ですよ?」
「は、はわわ!」
 くす、と笑いながら、烈風刀がポケットから飴をひとつ出してくれた。普段は投げるなんてしない彼だが、その飴玉に目を輝かせたレイシスに届けるには、脚立の距離が高すぎる。
 見事に投げられたそれをキャッチした――――さっき雷刀からもらった飴と同じものだった。

 ボルテ学園のどこかにある、このスタジオ。ユーザーに届けられるコンテンツは、譜面と楽曲、エフェクト、ゲームだけでは足りない。プレイしたい、と思わせるには興味をかきたてるようなジャケットが必要となり、それを撮影するのがこのスタジオだ。
『……ジャケットを撮影することまで、なんで僕らが関わるんでしょうか……』
 中には撮影できそうにもないものがあるが、メタ視点を持ち込んではいけない。
 烈風刀は素朴な疑問を放棄し、手元のリストを眺めた。
「さて、と……もうそろそろ終盤ですね。ええっと、次は、」
「【GIGI BABA】デス! 撮影、お願いシマス!」
 飴を頬張った声が、楽曲のタイトルで二人を呼んだ――――
「あー、くそっ」
「面倒くさいのかい?」
「ああ、そうかもな」
 待機のベンチから立ち上がって、GIGI BABAコンビの一人、ジャックはカメラの前の鏡をチェックした。
 青いチクチクした髪の毛に、ゴーグル。生みの親が授けてくれた、矢印の服はだいぶお気に入り。下着が見えてる? セクシーだろ。
「ジャック、前も思ったが―――――」
「ファッションだっ」
「……それを言われてしまうと、成す術がないね」
 くす、と笑う、もう一人――――ローズも、手袋をキュッ、とはめ直した。
 なんだよ、スカした顔しやがって。
『PULSE LASERの時は、俺一人で赤ジャケット独占だったのに』
 今回は一人で、青も黄色も赤も独占だと思ったのに、よりによってローズと一緒だ。CDをふざけて齧ってキメキメにした、いつかの撮影が懐かしい。
「さて、行きましょうか」
「……へーへー」
 何が、『ライバル同士の曲』だ。
 ライバルなんて欲しくなかった。イタズラの邪魔でしかない。
「はいはーい、そうそう、背中合わせでおねがーい?」
 カメラ係の識苑が指示を出してくる。
「もっとくっついてー」
「近ぇよ、これじゃー俺、目立たねーじゃん!」
「こう、こういう構図で頼まれてるんだって。そうなると、枠に入らないよー?」
 困ったように下がる眉に、ジャックの背がしぶしぶとローズに近づく。
「ジャック、今回は笑わないね?」
「……笑える状況か考えろよ」
 派手なアクションも何もない。二人で突っ立ってるだけじゃねーか。それも、よりによってスカしたお前と。等々と、ぐだぐだ文句だけを考えていた頭に識苑の声が届く。
「じゃー、腕組んでみよっかー?」
「……はあああああああああああ!!? こいつと!? 俺が!?」
「え、そんなに嫌……?」
「嫌に決まってんだろ! なんでヤローと組まなきゃいけねーんだよ!」
「……ジャック、そろそろいい加減にしなさい。いい大人でしょう」
「ッ!」
 ギリ、と歯を噛みしめる。思い出せば、可愛い後輩のレイシスも、スーパーアイドルのミツル子もスタジオにいる。嫌がっているだけでは自分の株が下がるのは目に見えていた。
「……クソッ」
「ご理解、感謝するよ」
 すっ、と大人しく腕を回してきたローズに、また腹が立った。お前がいちゃ、ひとつもふざけられない――――と、いいことを思いついてしまった。
『違ぇ』
 ああ、にやけそうだ。こいつがイタズラの邪魔になる、なんて愚かな発想だ。
『こいつに! イタズラしかけてやりゃーいいじゃねえか!』
 それを考えた瞬間に、ワクワクした。ポーズを変えたときに、ひょいっと足を引っ掛けるくらい、わけない。
『ローズがコケて、それを俺が後ろから見下す! サイコーの構図じゃねーの!? 天才かよ!』
 鬱憤も晴らせるし、最高のジャケットも撮影できる、まさに一石二鳥だ。にやけを抑えながら、ジャックは虎視眈々とそのチャンスをうかがった。
 識苑が、いくつもシャッターを切る中で―――――
「じゃー、今度は立ち位置変えてみよっか」
「わかりました」
『キタ!』
 くい、とローズが自分と入れ替わった、この瞬間。大きな靴が引っかかったとでも言えばいい――――少し大きく踏み出して、ジャックはローズの靴のかかとに狙いを定めた。
 急に止まった踵にもつれて、カメラの目の前で倒れるローズが撮影―――――されるはずだった。

「残念でしたね、ジャック」
「!!!!?」
 踏もうとした靴が、サッと立ち退き、ジャックの足は虚しくツルツルのスタジオの床を踏んだ。その勢いたるや、彼の全身を逆に転ばせるには最適で――――――素早く立ち退いたローズの跡には、盛大に転んだジャックの姿があった。ツルツルでもかたい床に当たった尻が、かなりの痛みを放つ。
「~~~~~ッ!」
「ぉおおっと、大丈夫!?」
「じゃ、ジャックサン、大丈夫デスカ!?」
「ああ、これくらい大丈夫みたいですので、少々お待ちを」
 ローズが声をかけると、識苑もレイシスも安心して肩を落とす。大丈夫なもんか。あまりにも勢いを間違いすぎて、涙目になりそうなくらい――――と、ジャックの目にローズの表情がとまった。
 ニヒルな笑みにカチンと来る。
「君の考えていることくらい、私にはお見通しだよ♪」
「て、めぇえええ~~~~~~~……!」
 顔が真っ赤になったジャックは、確信する。
 この、ローズという男。間違いなくイタズラを邪魔する存在だ。




「ハイ! 撮影終了デス、いいのが撮れマシタ!」
「ハイハイ、お疲れさん……」
 尻の痛みは引いたが、メンタルは疲れたままだ。やれやれ、なんて隣で言うローズがまた憎たらしい。
「ほんとだ、いいのが撮れたねー。エフェクトも、もうついてるんだ!」
「私も見ていいですか?」
「どうぞどうぞ」
 識苑に促されて、モニターをチェックするローズが、ゴーグルの奥で目を見開く。そこまでくるとジャックも気になった。なんだかんだ、参加した。仏頂面を下げたまま、さっとモニターに目を走らせ――――ぎょっとした。
「【GIGI BABA】いかにもライバルって感じデス! 最高デスネ!」
「…………」
 嬉しそうに言うレイシスに、何も返せない。
 そこには、一方的にローズを睨み付けて、苛立ち混じりに壁を殴るジャックと、それをどこ吹く風と言わんばかりにちょっと気取って別方向に向いているローズのツーショットがあった。
 クールなチップ調の字体とエフェクト。
 それが、GIGI BABA であった。

『……のやろう……』
 なにより悔しい事に―――――最高にワクワクする画だった。
「瓢箪から駒とはいえ、流石ですね」
「……ぉおお?」
 ピキピキと、額に青筋が浮かぶジャックに向かって、ローズは言葉を添える。皮肉にも取れるそれに、ジャックの苛立ちがまた募った。
「このジャケット、最高だと思いますよ、私は」
「てめぇ……」
 お前ばっかりいいカッコしやがって、と言いかけたところで、ローズは予想外の言葉を吐く。
「すごく、君が君らしい――――ありふれた言葉でよろしければ、カッコイイ、というやつだと、思います」
「―――お、う」
 なんとも、現金。
 拍子抜けした自分の声に、ローズの真面目な笑顔にぐらっときた自分に―――――ジャックは自分の安さを感じた。
 ローズの追い討ちは、無意識で、性質が悪い。
「君がライバル役、というのはいいものですね」
 そう、性質が悪い。





 二年経った、同じ日。
2015年 六月五日

「……今年もこの日がやってきましたね」
 部屋に居座って、買ってきた安いケーキのチョコレートを齧るジャックを見る。つまみ食いとは行儀の悪い。
『……あれを撮影して、随分経ちました』
 今では、たくさんのプレイヤーを喜ばせる曲のひとつ。ジャケットもその楽しませる要素のひとつとして、SOUND VOLTEXを盛り上げている。
 二年経って、だいぶ変わった―――――それは、なにもゲームだけではない。
「おい、ローズ、早くしろー」
「はいはい、今行きますよ」
 超が付くマンションのベルを、なんのためらいもなく押して、ジャックの薄給には少し痛手にも思えそうな酒をニヤニヤしながら持ってくる。それで、それにニヤニヤしながら応えてしまう。そんな変化だ。
「お待たせしました」
「遅ぇよ。早くしろって」
「はいはい」
「ヘイ、ローズ」
 持ってきたグラスを、さっそくかざして、横柄に彼は笑う。『ヘイ、ローズ』はまた進化した。仲が悪いライバルから、また違った形へ―――――悪くないそれは、この変化は、『進化』だ。
「……ヘイ、ジャック」
 ローズが笑って添えるとカチン、とグラスが音を立てた。
「林檎記念日、おめでとうございます」
「二周年、な!」

 六月五日は、コンビ結成記念日だ。


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プロフィール

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奏 Euph
割となんでもやる、活動的な魚類。
狐狸・二ノ宮翼・塵芥・ラピなど、名前がたくさんあります。
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