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林檎コンビ格納庫


ジャックさんの誕生日

 れーき氏への誕生日、贈呈品。




 とある日。ボルテ学園の屋上で昼寝をしている灯色の耳にも聞こえそうなくらいの大声が響いた。
「はぁああっっぴぃい、ばーすでい! とぅーみぃいいいい!」
「……げー、ジャック先輩、ぶっちゃけみんな引いてますー……」
「仕方ないだろ! 魂、今日は年に一回の俺の誕生日だっ!」
 にしし、と笑いながら、魂からもらったお菓子の包みから、ジャックは嬉々として飴をひとつ取り出し、包みを乱雑に剥ぎ取った。
「先輩くらい歳食った人は、大抵、もう歳食いたくねー、とかもうちょっと楚々としてマース」
「そんなことする理由がわかんねーよ。無条件で祝って、ちやほやされてもらえる機会をなんでみすみす逃すのか! くくくっ!」
「だからってうちの学校まで来ます?」
 いくら卒業生だからって。いくら仕事で関わる機会が多い(自称)からって。
「だって、こっちのがよっぽどまともに俺の誕生日祝ってくれるし。去年なんか、レイシスがせっかくだからってケーキ買って、みんなでパーティーしたくらいだぞ?」
 その後、りぼんやアシタ、カヲル達までやってきててんてこ舞いだったのは割愛だ。
「今年もそうなることを期待して――――」
「失礼ですが、ジャックさん。それは期待できない模様です」
「ん、どういう事だ、エスポワール?」
 ゲートの近くにいるせいか、エスポワールはふとした時に姿を現す。来たばかりの生徒たちは、どきっとすることも多いらしいが、ジャックや魂ではもう驚きはしない。
「今日はサーバーエラーの想定をした訓練をすると奮起しておりましたので、しばらくこもっているかと」
「ひえー、真面目だな、レイシスは」
「エラーの想定訓練とか、俺は面倒だからやってねーけど」
 強気な天才ハッカーは呑気にのたまうが、ジャックは面白くない。
「じゃあ、雷刀と烈風刀を呼んで――――」
「雷刀さんの補習が、まだ時間がかかると思われます。おそらく、十七時を過ぎるかと」
「げげ……」
「そういや冷音も今回のテストは難しかったからって補習だったなー」
「仕方ない、福龍と椿のとこで中華食って――――」
「一週間前から中国で修行の旅に出ています」
「……識苑センセーでも誘ってメシでも……」
「彼はアメリカに出張です。あなたへのプレゼントを預かっておりますよ」
 と、エスポワールが手をかざすと、ゲートに嵌め込まれた液晶に新譜のジャケットが現れる。
「……アリガトー……」
「めっちゃ不服そうっすね」
「だぁってぇええ……俺の誕生日……はっ、魂! お前、今日一緒にゲーセンに―――――」
「俺も冷音を待ってる予定ッス☆」
「裏切りものー!」
「まあまあ、先輩」
 宥める魂の視線の向こう側。ゲートの向こうで時空が歪む。
「捨てる神あれば、拾う神あり、っすよ」
 言われて振り向くジャックの目の奥で、薔薇色のアバターが出現する。
 ゲートを颯爽と通り抜けた後には、ポニーテールのひと筋が流れていった。
「ローズ!」
「……来てみれば、なんて顔して……」
「だって、みんなして俺をいじめるんだぜ!?」
「詳細はあまり気にはならない……なぁ」
 魂の苦笑を見れば、大体の事情は呑み込めた。
「じゃあ、ローズ先輩にあとは任せました」
「任されても困るけど、仕方なし。ですね」
 やれやれ、と肩をすくめるローズに安堵して、魂は手を振る。エスポワールも仕事に戻っていくように消えた。
「で、まずは……その顔をなんとかしてくれません?」




 ぴかぴか光る筐体の上、ご機嫌な指先が滑らかに動く。
「JACK POT! やりぃ! ハイスコア更新!」
「これで機嫌が直る君で助かったよ」
 嫌味とも皮肉とも近いコメントをぼやき、ジャックのハイスコアを見てにやついた。まだ自分の方が高い。
「本当なら4人で豪華にマッチングってのが良かったなあ……レイシスとミツル子とハニーちゃんに囲まれたりとかさぁ……」
「下心しかないのか君は」
「ひとつ大人になったわけだ、大人な展開を期待してもいいだろ」
「それがゲーセンのマッチングという辺りが、どうにも大人になりきれない……ジャックらしいですね」
 軽い嫌味と皮肉の小競り合い、いつものことだ。
「はぁあ……ローズと一緒、とか、いつもの事だから誕生日って感じがしないぜ……」
「ゲームセンターを貸切にして祝ってるじゃありませんか」
「……そういえばさっきから人がいないと思ったらって、お前のせいか!?」
「どんな低スコアを出しても、観衆は私だけ。快適でしょうに」
「ゲーセンに来れたのは嬉しいけど、そういう配慮は別に望んでないし、そもそもゲーセンの喧しい雰囲気、俺は好きだし……」
 ローズの財布にあるブラックカードがこんな無駄な使われ方をされるとは、カードもやるせないだろうに。
「お前、そーゆーとこ、ズレてるな……」
「失礼な人ですね、君は」
「一人よりは人数いた方がいいぜ。お前も、ほら」
「……」
 長い付き合いだが、ローズの無表情がどんな意味合いを孕んでいるか、今でもわからない時がある。つまり、今がそうだった。
 カードをかざし、ヘッドフォンのジャックを筐体に差し込む。手袋と指輪を外して、ツマミを回した。
「最近は仕事が立て込んでいて、機会もなかった」
「そうか? お前、いつでも呼べば来るじゃんか」
「私が軽いみたいに……いつもたまたま空いているだけさ」
 そう、たまたま、ジャックから連絡が来ると、たまたま仕事を投げ出したくなるだけ。
「へー、まあ、ラッキーだけどな」
「…………」
 平然とした顔で、腹が立つ事を言う。そうそう、たまたま、こんな風にジャックをこてんぱんにしてやりたい時もある。




 誕生日とはなんだったのか。いい事があった! と思えたのは、魂からお菓子の袋詰めを貰った時が最後だったようだ。あれから立て続けにマッチングで敗北を喫し、勝てたのは片手で数える程度だった。
「久々だったけど、楽しかった。AAAの曲も増えた。UCも出しましたしね」
「……俺は全然だ」
「楽しくなかったですか?」
「楽しくなくはないけど、ぁあああああ!」
「まあ、私がちょっと本気を出しただけのこと……気にしなくとも」
 にやにやと笑うローズの顔に、歯ぎしりを浴びせてやるしかできない。
「……ちくしょぉ……誕生日なのに、たのしくねー……」
「……そうか」
 かわいそうな奴だが、私にはどうにも出来ない。彼が喜ぶと思う事をすれば、裏目に出る。長い付き合いなのに、どうすればいつもみたいにご機嫌な顔が見られるのかもわからない。
 私は、大企業の社長がくれるチョコレートよりも、君がくれた小さなチョコが嬉しかった。会社を大きくする商談よりも、君の強引なゲーセンの約束が嬉しい。一人で飲むワインもいいが、酔っぱらった君の顔が見られる白●屋も嫌いじゃない。
 私だけではどうにもできない。
「……どーしたんだ、ローズ」
「別に。ただの考え事さ――――ああ、ジャック、そういえばボルテ学園に少し用事がある。立ち寄りましょう」
「えっ、今かよ……十八時じゃあ、不審者みたいじゃねーの……?」
「西日暮里から来たわけでもないし、大丈夫でしょう」
 そう言って、ちょっとわざとらしい所作で道を変える。そうだ、と言うくせに、やけにボルテ学園近くで思い出す――――ジャックの目がゴーグルの奥で細くなった。
「ローズ、なんの用事で行くんだ?」
「頼み事と頼まれ事があったので」
「誰に。誰から」
「ジャックのくせに妙なところが鋭い……」
「なっ……その出だしはいらないだろ!?」
「じゃあ、もう少し」
 突然立ち止まって、くい、と振り向いた時、一瞬ゴーグルの奥にオレンジ色の目がきらめき、不覚にもどきっとした。
「もう少しだけ、気づかないでくれないかな?」
「……お、おぅ」
「上出来」
 微妙に口の端が吊り上がった。ふと、キスしたいと思わせるには十分な程度に。
「単純で助かるよ」
「悪かったな、貧乳……」
「まあ、もう少しって言っても――――」
 もう、いいか。
 君にも見えるだろうし。
 ジャックにももう見えている。職員室以外暗くなった学園で、唯一マキシマの部屋が煌々と輝いている。
「お疲れ様デス、ローズサン!」
「おっ、レイシス?」
 ぱたぱたと走ってきたせいで、たわわな胸がまだ揺れている。思わずガン見したら、ローズに横から小突かれた。
「いいタイミングデス、ありがとうございまシタ♪」
「いや、これくらい造作もないよ」
「ちょっと待てよ、俺を置いてけぼりにして進んで、ってか、訓練終わったのか、レイシス。それに――――」
「……本当に察しが悪いな」
 呆れるローズに、くすくすと笑うレイシス。わけがわからないまま、二人についていく。
 マキシマの部屋はこれだけ明るいのに、音が全然聞こえない。防音措置がしっかりしてあるのか、それとも―――
「いいデスカ?」
「へ、」
 YESもNOも、へったくれもなかった。前に立たされ、ローズに背中を押され、乱暴にドアを開け放つ。
 そこには――――いわゆる、「はわわ……」な展開が待っていた。
 待ってました、とばかりに冷たい炭酸水の飛沫が全身にかけられた。大洗礼の中、聞き覚えのある声がとどろく。
「フゥウウ! みんな、いいか? SAY…HAPPY BIRTH DAY DEAR JACK!」
「ぶはっ……な、なんだぁ!?」
 耳に入った炭酸水のせいで、英語がものすごく綺麗な発音だったことしかわからない。
「誕生日おめでとう、だぜッ!」
「ら、雷刀? ぶはっ」
「そろそろ片付けが大変になるから、その程度にしてください……」
 誰のアイディアだ、野球のビールかけにも似た、炭酸責め祝いなんて。ゴーグル越しに目に入った魂とアシタ、カヲルのにやけ顔で、大体の犯人は察した。
「パイ投げよりはいいじゃなぃのぉ。ボクはそう提案したんだけど、烈風刀さんにだめって言われちゃってー……」
「私もジャックさんにスーパーライブしてあげようと思ったんだけど、地下のファンが押し掛けちゃうからって、あーん、中略!」
「そうならなかったのはすげえいいんだけど……」
 この騒ぎは、いったいなんなのだろう。ぽかんとしているジャックの背中を、ローズが手袋越しにつつく。
「一年に、一度、でしょう。早く行きなさいな」
 私には、君が喜ぶことがわからない。彼は勢いよく振り返って、私の顔を笑顔で見返してくる。
「超嬉しいぜ! サンキュー、ローズ!」
 そう言って、ジャックは炭酸水の海に埋もれていった。馬鹿笑いをする彼らを見て、自分まで炭酸水の嵐を被らないように、ローズは少しだけ離れた。
 彼が来るのを待ちわびていたスピーカーが、大音量で音楽を流し始める。
「サンキュー、なんてな」
 虎子の作ったCafé VOLTEのケーキは、サービスなのか、誰かが大量に買ってきたのか。テーブルの上を埋め尽くさんばかりのそのケーキの群れのひと皿を取って、うすぼんやりと男性陣のはしゃぎっぷりを眺めた。中国からちょうど帰ってきたばかりの福龍がしこたま炭酸水をジャックに浴びせられ、最近身に付けたばかりの拳法がさく裂しているのは、観ていて圧巻だ。
『サンキュー、なんて言われるようなことはしていない』
 フォークを口に埋めると、ケーキの心地よい甘さが広がった。いくら噛んでも消えない甘さ。
「コレ、超嬉しいぜ! 貰っていいのか!?」
「いーのっ! でもりぼんにもお菓子ちょーだい!」
 りぼんからのプレゼントはやはりお菓子だったらしい。プレゼントをあげた本人と貰った本人が開けるという珍事になっている。そんな珍事も、ジャックは楽しんで、入っていたチョコレートをバリボリかじっていた。
『私と二人でいるよりも、こういうのが好きだろう』
 はたして、その予想は的中――――
「遅れてしまい、失礼しました!」
「……っと」
「おや、これは申し訳ありません……ジュワユースの美しさを讃えた曲を作っていたのですが、少々時間を忘れてしまい……」
 この有様です、と申し訳なさそうに苦笑するロワーレは、中の様子を見て、邪魔しないように扉を閉めた。ローズの腕に当たったジュワユースを心配すればいいのか、ローズの腕を心配するのか決めかねていた。
「私は、別に大丈夫ですよ」
「嗚呼、失礼しました……ジュワユース、あなたにも……」
 心が通っているというのはあながち嘘ではなさそうで、輝く剣もロワーレの愛に呼応するように煌めいていた。
「あのジャックも、随分大人びたものですね。ボルテ学園にいたころを思い出します」
「さぁ……私には……」
「少なくとも、もう昔のようにあなたに向かってパルスレーザーを照射して怒らせることは、あまりないんじゃないですか?」
「どうだか」
 あの目がちかちかする光を当てられたのは、割と最近な気もするが。
「さて、私も、ジャックにプレゼントを用意してきたことですし」
「ロワーレ先生も、ですか」
 ちょっと面食らったようなローズの顔に、ロワーレはきょとんとした顔で頷く。
「ええ。折角の機会ですし、彼の好きな曲を私風にアレンジしたものを」
「不思議、ですね」
「なにがですか?」
「私は、割と長い間ジャックといるが、全然、何を求めているかとか、何が嬉しいかとかわからないです。他の、ここにいるみなさんの方が、よっぽど――――」
「ふふ、」
 ローズの言葉を遮るように、ロワーレが微笑みかける。
「それはですね、ローズ、あなただから、ですよ」
「は?」
「あなたは、とても美しい、優しい人ですね」
 長身を折り曲げ、ロワーレが囁く。
「この宴を企画したのもあなたでしたね。彼はあなたの心配りに、とても喜んでいるはずですよ。ですが、きっと、それだけではない」
 囁くロワーレのくすぐったい吐息に、言葉が混じってくる。耳に入る言葉と共に、ゴーグル越しの視界の向こうで―――――
『やれやれ』
 なんて顔をしてるんだ、君は。君の前にいるタマ猫も、おろおろしてるじゃないか。
 言葉を全部聞いてから、ローズは頷いた。悪戯心がうずく。
「わかりました」
 優しいもんか。
 まさしく薔薇の花のような優雅な微笑みがロワーレに向けられると、ジャック、君はどうにも面白くないようで。それが私は、悪い人で、優しくもないから、理由もわからず嬉しくなる。
「ありがとうございます、ロワーレ先生」
「いいえ。では……」
 丁寧にお辞儀してローズの下を離れる。
「こんばんは、誕生日おめでとうございます、ジャック! 素晴らしい宴の席ですね……! ……どうか、なさいましたか?」
「いや、別に……アリガトウゴザイマス」
 ひきつったジャックの顔を前に、ロワーレは頭上に疑問符を浮かべるばかりだった。




「じゃあ、今日はありがとうございました」
「これくらい造作もないぞ、フゥウ! HAHAHA これは君の台詞だったな!」
「ええまあ……」
「こんな楽しい事なら、いつだって大歓迎だ! 先生も出来る限り協力したいからな! これからも頼むぞ、Good Luck!」
 ぺこり、と軽く頭を下げて、マキシマの部屋を後にした。
 門はエスポワールが、今日は特別と魂にプログラムされているらしく、人が通れる分には開いていた。とはいえ、もう校舎に残っていたのは、先生と自分程度だろう。
「……君は、ばかだな」
 一歩、門を抜けたところには、袋いっぱいに貰ったプレゼント詰めた間抜け面が待ち構えていた。
「馬鹿って、せっかく俺が待ってやったのに、なんだよその言いぐさ」
「夜にそんな恰好で待っていたら風邪ひくだろうに……ああ、馬鹿だからひかないのか……」
「お前、ほんっと」
 と、言いかけた言葉が喉で止まる。いぶかしげに見てくるローズの視線から逃げるように、ジャックはわざとらしい咳払いをした。
「……ありがとな」
「さっきも聞きましたよ、それは。楽しかったなら、なによりさ」
「おう、超楽しかったぜ。お前の誕生日になったら、俺もああいうのやってやっからな!」
「私はご遠慮しておきたいね。君の企画力じゃ、だいぶ心配だよ」
 ひと言憎まれ口を添えると、ジャックは不服を前面に顔に表す。
「それに――――」
「……それに、なんだ?」
「大勢で祝うのは性に合わないよ」
「そーゆーもんか?」
 理解できない、と首を捻るジャックに、ローズは頷いた。
「それが、らしいだろう。それと、君、こんな時間まで待っているだなんて、まさか2回目のお礼が理由ってわけでもないでしょう? なんですか?」
「べつ――――」
「別に、というのは無しですよ? でしたら私も、さっさと帰ります」
「ぎゃー! ま、待てって! ローズ!」
「はいはい」
「じゃあ……お前、ロワーレ先生に何言われたんだよ?」
 ひそひそと、近くに誰かいるわけでもないのに小声で訊いてくる。
「あんなに、笑って―――――」
「笑ってって……」
 言われるまですっかり、パーティーで彼に意地悪をしてやったのを忘れていたローズには、思い出すまでに数秒かかった。
「……ああ、今まで気にしてたんですか?」
「ばっ……! そういうわけじゃねーけど!」
「まあ、とてもありがたい、有意義なアドバイスをもらっただけさ」
「アドバイス?」
「そう」
 私には君がわからない。
 君がどうすれば喜ぶか、なんて、自分では何ひとつわからない。だから、彼のアドバイスは試す価値があるのかすら、今でも半信半疑だ。

『笑って、こう言いなさい――――』

 ジャックと向き合って、きょとんとしたその間抜け面を見るだけで、口元がゆるやかな弧を描く。
 動くローズの唇に、ジャックの視線が奪われる。
「誕生日おめでとう、ジャック」
 さらりと、ひと言だけだった。ロワーレのアドバイスのように、それだけ。本当に、これでいいのだろうか。彼の表情は変わらない。柄にもなく途方に暮れて、ローズの視線が泳いだ。ロワーレ先生、あなたのアドバイスですが少し間違いがあったようで―――――
「ローズ、」
 ――――おっと。
「その……サンキュー、な!」
 長年の付き合いで、彼の考え事が顔に出やすいことはよく知っている。照れ笑いに滲む、満面の喜び。顔色が変わるわけでも、照れるわけでもないが、ジャックの混じり気のないその笑みに、ローズの指先まで痺れが走るのを感じた。
 私にも、君を喜ばせるなんてことが出来たのか。
「ワンパターンな台詞だな、君は」
「それしか言えなくなるもんだっつの」
「む、そういうものか」
「お前から、改まってそう言われると、まあ……嬉しかったぜ」
「ふふ、素直でよろしい」
 さっきの綺麗な笑みをもっとよく見ておけばよかった。ローズはもう、いつものニヒルな笑みに戻っていた。から、来年に期待しておくことにしよう。決意して、ジャックは頷いた。
「来年も、楽しみだな!」
「随分、気が早いですね」
「その時はまた、さっきみたいに祝えよな?」
「考えておきます」
「ちぇっ」
 私の笑みひとつ、言葉ひとつで大満足とは、安い男だ。サービスがてら、もうひとつ、送ってやろう。
「生まれてくれてありがとう、ジャック」
 どんな顔をしてくれたかは、内緒だ。


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プロフィール

プロフィール画像
奏 Euph
割となんでもやる、活動的な魚類。
狐狸・二ノ宮翼・塵芥・ラピなど、名前がたくさんあります。
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