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林檎コンビ格納庫

ジャック×ローズ♀

頼りになる君


「…………」
 特に毎回理由もなく、強いて言うならお高い空調が利いているという理由だけで、ジャックはローズの部屋に来る。そんな事にも慣れて、もうだいぶ前からドアの開く音がすると、ローズは決まって「おかえり」なんて言うようになっていた。はずだったが、今日はどうも違っていた。
 声をかけても、「ああ」と、真面目そうな顔でキーボードを叩くのみだった。
「なー、ローズ」
「すみません、ちょっとだけ待っていてください」
 顔も向けずに言う。同じように声をかけて、もう長針は一周している。
「……おう」
「すみませんね」
 一時間前と同じように、もう一度謝罪をして、3つあるモニターを全部見渡していた。ジャックが見渡すのはさっき買ってきた男性誌で、もう2回読んでしまった。
『……別にここにいる理由なんてねーけど』
 忙しそうなローズの傍にいるのが、果たしていい事なのか、悪い事なのか。
 その昔、ジャックが追試の勉強にあくせくしていた時、ローズは傍にいた。ただ、傍にいるだけだった。今思えば他に予定があってもおかしくないし、追試もないはずなのに、隣で本を読んだり、教えた音楽を聴いたりしながら、ずっと傍にいた。
 追試の出来は良かった。
 あの時とは立場も違うし、ローズが扱っている仕事を思えば、もっと大事だろうが。
「…………」
 またため息を吐いたローズに、いよいよ――――
「なー、ローズ、」
「すみませんが、もう少しだけ――――と、」
 ぐ、とローズの肩に力がこもる。
「……なんですか、君……」
「な、なんとなく! だっ!」
 ぐいぐいと肩を揉むと、だいぶがちがちに凝っているのがわかった。
「あの、な、ローズ。俺、別に特に取り柄とか、あんまねーけど! こう……たまには、たまには! だ! ……甘えたり、頼ったりしてきても、いいんだぜ?」
「…………」
 目の前でだいぶ大きな株が動いた気がしたが、まあいいか。ジャックのマッサージなんて、一千万程度じゃ買えない。
「たまには! だからな!? あんまチョーシ乗んなよ!?」
「乗りませんよ……まったく、君は……」
「……んだよ」
「ありがとうございます」
「お、おうっ」
 あまりにかしこまって言われると、照れる。ぐいぐいと揉む手に熱がこもりそうだ。
「じゃあ、少し甘えさせてください」
「!」
 さっきまで読んでいた男性誌の少しやましいシーンを思い出し、ぐらっとくる。甘える、なんて言葉がローズの口から出るとは―――――と、ここまで考えたところで、現実が降ってきた。
 ローズがふいに開いた引き出しから、大量の書類が見え――――目の前に突き付けられた。
「リビアに、」
「……りびあ?」
「はい。リビアです」
 にこ、と笑うローズの顔に、薄ら寒さを感じた。
「あちらの工場の技術者がちょっと困っているので、少しばかり『お手伝い』をしてきてください。君はやたらと機械いじりが得意ですからね。ええと、2カ月ほど。通訳はあちらにいますから大丈夫です。あ、パスポートはありましたっけ? 無ければ最速で手配しますので―――――」
「……ローズ」
「はい?」
「俺の知ってる甘えってのと……だいぶ違う」
「嫌ですねえ」
 パスポートの書類と、英語で書いてあるいくつかのファイルをジャックに渡しながら、ローズは笑った。
「私に、そんな期待をしないように……♪」
「~~~~~ッ……」
「頼りにしていますよ」
 いつだって、君は頼もしい人さ。
 そんな口説き文句に近い事を言われたら、男に二言はない。ジャックは恨めしそうにローズを睨み付けた。
「この……鬼ぃいい……」




 二週間後、リビアに飛ばされた男がいたとかいないとか。
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プロフィール

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奏 Euph
割となんでもやる、活動的な魚類。
狐狸・二ノ宮翼・塵芥・ラピなど、名前がたくさんあります。
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