1.俺の嫁はお姫様
第一幕
ピン止めの少女
今朝は久々の晴れ。俺、葉山光司は鼻歌を歌いながら静かな路地を歩いている。ここ最近は梅雨入り前だというのに雨の日が続いていたので、今日この青空を見上げることができたのは気分が良かった。いつもは幼馴染と一緒に登校しているこの道も、今日は早起きをしてしまったため一人だ。……たまにはこういうのも良いかもな。
いや待て、だからって絵美が鬱陶しいという訳ではない。ああ、絵美というのは俺の幼馴染の名前ね。名字から続けて言うと堀内絵美。恥ずかしい話、俺の初恋の相手だったりする。
まだ俺たちが小学生だった頃、俺は絵美に自分の想いを伝えた。だが、『私、こうじのこと友達してしか考えられない』とのませた一言で俺の初恋は散った。
で、結局は友達として今まで通りに過ごしてきた俺達。
……ってんな訳ないだろ! 中学、高校とで毎回同じクラスって何の虐めだよ! くそっ、俺がどんな思いをして今まで過ごしてきたことか……。
ただ、高二になってから絵美の俺に対する態度が少しずつ変わってきた気がする。最初は俺の勘違いかとも思ったんだが、近頃の絵美ときたら下校時に『しょうがないから一緒に帰ってあげてるのに……もっと嬉しそうにしたら?』とか、夜遅くなった日などに俺が送ろうとすると、『あ、あんたなんかに送ってもらう必要なんてないんだから!』とか言うようになりやがった。……ふっ、俺に気でもあんのか? 今更おそいんだよ。
冗談はさておき、俺が絵美に何かしたのかもしれないが、いくら考えても思い当たる節がない。
運悪く、悩んでるときに限って嫌な雨が続いて、ダブルパーンチ! と言わんばかりに俺の気力ゲージを奪っていきやがった……。
そういうこともあって、今日が晴れで心から嬉しいと思う。
早く起きて時間にも余裕があることだし、今日は少し遠回りをして学校に行きますか。
いつも通る分かれ道を右へは曲がらずに、左に曲がると公園が姿を現す。その公園の脇道を通って柳道を抜けると小さな商店街が見えてくる。そこで売っている物を見るのが俺、葉山光司の楽しみの一つだったりする。
「おはよーございます」
俺が声をかけた男性はまだ三十代くらいの若い人だ。どこにでもありそうな小物店をやっている。今ちょうど、店を開け始めたところのようだ。
「おはよう光ちゃん、顔見せるの久しぶりだな。どうした、今日は一人か? また絵美ちゃんと喧嘩でもしたのか?」
この商店街には中学から通っているので、顔見知りが多い。この気さくなおっちゃんもその中の一人だ。学校帰りに寄るときは絵美も一緒なので俺らの関係を知らない人はいない。
最初は彼女と間違われて誤解を解くのに一苦労したっけ。今思えばかなり懐かしいが。
「いえ、違いますよ。今日は天気が良かったんで早く起きちゃいまして。登校時間まで結構余裕あるんで、ちょっと寄ってみただけっす」
「そっか、いやー、てっきり浮気でもしたんじゃないかってな。最近お前たちがぎくしゃくしてるように見えるって皆して話してるからよ。ちょい気になってな。まぁ俺たちが心配する事じゃねぇな」
「やっぱり周りからもそんな風に見えます? って俺ら付き合ってなんかないっすよ!」
「ん? そりゃー絵美ちゃんだって女の子なんだから、そろそろ彼氏の一人や二人できてもいい時期だろ? なのに、いつも光ちゃんといるからなー」
俺の付き合ってないという発言をいとも簡単にスルーされたのはよしとしよう。
それよりも、今の話は、絵美には本当は好きな人がいるのに俺に振り回されているせいで、彼氏の一人もできないということなのか? もしそうだとしら、俺は大変なことをしているのかもしれない。あ、でも今日は一人で来たから、絵美も光司とかいう『足かせ』がなく朗らかな一日を過ごせるのかもしれないな。
よーし、今日から絵美とは一緒に学校行ったり、帰ったりしないようにするか。そしたら昔みたいな絵美に戻るかもしれないし。
――――いや、ちょっと待て。別に普段俺から誘って一緒にいるわけじゃない。絵美だって俺に一緒に帰ろうって言ったりする時もあるし、まぁだいたいは気づいたら一緒にいるってパターンだけど……。んーまぁ今日はせっかく晴れて気持ちのいいことだし、難しい考え事をするのはやめにしますか。
「おじさん、あんがと。何か良く分かんないけど分かった」
「そうか? 分かったならなによりだ! それじゃあ俺は店の準備あるから、またな」
「そんじゃまた」
そうだ。悩んでも仕方がない。あれだけ家で考えても何も分からなかったんだ。やれるだけのことはやってみるか。やらないうちに煮詰まってしまうのはよくないしな。それに、行動を起こしてから後悔すればいい。それがどんな結果をもたらしたとしても、絵美なら許してくれるに違いない。
再び学校への道を歩いていたら、交差点の近くで女の子がしゃがんで何かを探しているのが目に入った。年は同い年くらいだろうか。髪の色が淡い桃色でとても印象的だ。水色のワンピースに白いサンダルという格好は涼しげなものだ。こんな朝早くに何してるんだろ。以前は見知らぬ人に声をかける事なんて、道を尋ねる時ぐらいしかなかった。が、何故だか意志とは裏腹に体が動いていた……。
「あのー、何か探しものでも?」
「――――――――ッ! は、はいっ……あの……ピン止めを落としてしまったみたいで……」
「あーごめん、いきなり話しかけたら驚くよね。その、良かったら探すの手伝うけど?」
「ご迷惑がかかってしまうので、大丈夫ですよ。一人でも探せると思いますし」
「でも二人で探せばもっと早く見つかる。俺のことなら気にしないで。まだ学校に行くには早いし、どうせ早く着いても暇だから。まーでも俺に探してもらうのが迷惑なら遠慮せずに言ってくれ」
「……それじゃあ……お願いできますか?」
ふと垣間見せたふわっとした天使のような笑顔に不覚にもドキッとしてしまった。
……け、けしからん。
それにしても、めちゃくちゃ美人さんだなー。瞳なんてサファイアでできてるんじゃないかと思ってしまいそうなくらい綺麗だ。見ているだけで自然と顔がにやけてしまうので、顔は直視できなさそうだ。そればさておき今日転校生が来るとか峰っちが言ってたけど……彼女みたいな人だったら良いな。
だってこんな綺麗な人がうちの学校にいたら、どうよ? 普通の学園生活が、一気に学園ドタバタ恋愛コメディに早変わりよ。いやマジで。ぜひともうちの学校に来てほしいものだ。
「――あの、どうかしましたか?」
「あっ、うん、俺でよければ! そ、それで、形や色なんかを教えてもらえるかな?」
おっとあぶないところだった。いささか美人相手にこの俺も緊張しているようだ。そうこうしている間にも彼女は、『ああっ』という表情をして少女はポケットに手を入れて何かをとりだした。
「これと同じものです」
ポケットから出てきたのはライトイエローの楕円型のピン止めだった。可愛らしいデザインなので、絵美がしたらきっと似合わないな。思わずふっと笑ってしまいそうになったが、今笑ったら目の前にいる彼女に非常に失礼であるような気がしたのでなんとかこらえた。
「ぷふっ、へぇー、とってもかわいいデザインだな」
……こらえきれなかった。
「……あの、ピン止めおかしかったですか?」
彼女はなんだか怒ったような困ったような顔をしている。とりあえず謝んなくちゃな。
「いや、ピン止めがおかしかったんじゃなくてさ、俺の知り合いでこういうピン止めが似合わなそうな子がいて、それでちょっと、ね。突然笑ったりして失礼だったな、ゴメン」
「い、いえ! そういうことでしたら全然セーフというかなんというか……と、とにかくそれなら問題ありません!」
やべーよ、なんだよ今の顔もちょーかわええよ! ってそうじゃないよな、ピン止めさがすんだよな。
「ありがとう、じゃあ話戻すけど、こっちの道を探せばいいのか?」
俺が今来た道を指さすと、
「いえ、その道は通っていないので、こっちの道を探してもらえますか?」
彼女が指差した道は学校へと続く道だった。
学校まで行って引き返してくるのか。何か忘れ物したみたいで恥ずかしいなー。……ってか一緒に探さないんだ。ま、当たり前か、効率悪いしな。
「了解した、じゃあ見つかったらこの電柱に集合ってことで。八時に一回集合でいいか?」
今時計が指している時間は七時半。三十分もあればきっと見つかるだろう。ん~何か大切なことを聞き逃しているような――――――ッ、名前だ。名前。
「あのさ……名前、まだ聞いてなかったんだけど――――あっ、俺は光司」
「――ッ! し、失礼しました、名前を言い忘れるなんて私、どうかしてましたね。私は渡辺詩織です。詩織と呼んでください」
ニコッっと彼女は微笑んだ。まさに聖母降臨。これは絵になる。
それにしてもこんなにもいいものが見られるなんて……早起きは三文の得っていうが、三文なんてみみっちい得じゃないな、これは。早起きサイコー! ビバ、早起き!
「それじゃあまた後でお会いしましょう」
二人は別れをおしみつつ(多分俺だけ)違う道を探しに別れた。
いや待て、だからって絵美が鬱陶しいという訳ではない。ああ、絵美というのは俺の幼馴染の名前ね。名字から続けて言うと堀内絵美。恥ずかしい話、俺の初恋の相手だったりする。
まだ俺たちが小学生だった頃、俺は絵美に自分の想いを伝えた。だが、『私、こうじのこと友達してしか考えられない』とのませた一言で俺の初恋は散った。
で、結局は友達として今まで通りに過ごしてきた俺達。
……ってんな訳ないだろ! 中学、高校とで毎回同じクラスって何の虐めだよ! くそっ、俺がどんな思いをして今まで過ごしてきたことか……。
ただ、高二になってから絵美の俺に対する態度が少しずつ変わってきた気がする。最初は俺の勘違いかとも思ったんだが、近頃の絵美ときたら下校時に『しょうがないから一緒に帰ってあげてるのに……もっと嬉しそうにしたら?』とか、夜遅くなった日などに俺が送ろうとすると、『あ、あんたなんかに送ってもらう必要なんてないんだから!』とか言うようになりやがった。……ふっ、俺に気でもあんのか? 今更おそいんだよ。
冗談はさておき、俺が絵美に何かしたのかもしれないが、いくら考えても思い当たる節がない。
運悪く、悩んでるときに限って嫌な雨が続いて、ダブルパーンチ! と言わんばかりに俺の気力ゲージを奪っていきやがった……。
そういうこともあって、今日が晴れで心から嬉しいと思う。
早く起きて時間にも余裕があることだし、今日は少し遠回りをして学校に行きますか。
いつも通る分かれ道を右へは曲がらずに、左に曲がると公園が姿を現す。その公園の脇道を通って柳道を抜けると小さな商店街が見えてくる。そこで売っている物を見るのが俺、葉山光司の楽しみの一つだったりする。
「おはよーございます」
俺が声をかけた男性はまだ三十代くらいの若い人だ。どこにでもありそうな小物店をやっている。今ちょうど、店を開け始めたところのようだ。
「おはよう光ちゃん、顔見せるの久しぶりだな。どうした、今日は一人か? また絵美ちゃんと喧嘩でもしたのか?」
この商店街には中学から通っているので、顔見知りが多い。この気さくなおっちゃんもその中の一人だ。学校帰りに寄るときは絵美も一緒なので俺らの関係を知らない人はいない。
最初は彼女と間違われて誤解を解くのに一苦労したっけ。今思えばかなり懐かしいが。
「いえ、違いますよ。今日は天気が良かったんで早く起きちゃいまして。登校時間まで結構余裕あるんで、ちょっと寄ってみただけっす」
「そっか、いやー、てっきり浮気でもしたんじゃないかってな。最近お前たちがぎくしゃくしてるように見えるって皆して話してるからよ。ちょい気になってな。まぁ俺たちが心配する事じゃねぇな」
「やっぱり周りからもそんな風に見えます? って俺ら付き合ってなんかないっすよ!」
「ん? そりゃー絵美ちゃんだって女の子なんだから、そろそろ彼氏の一人や二人できてもいい時期だろ? なのに、いつも光ちゃんといるからなー」
俺の付き合ってないという発言をいとも簡単にスルーされたのはよしとしよう。
それよりも、今の話は、絵美には本当は好きな人がいるのに俺に振り回されているせいで、彼氏の一人もできないということなのか? もしそうだとしら、俺は大変なことをしているのかもしれない。あ、でも今日は一人で来たから、絵美も光司とかいう『足かせ』がなく朗らかな一日を過ごせるのかもしれないな。
よーし、今日から絵美とは一緒に学校行ったり、帰ったりしないようにするか。そしたら昔みたいな絵美に戻るかもしれないし。
――――いや、ちょっと待て。別に普段俺から誘って一緒にいるわけじゃない。絵美だって俺に一緒に帰ろうって言ったりする時もあるし、まぁだいたいは気づいたら一緒にいるってパターンだけど……。んーまぁ今日はせっかく晴れて気持ちのいいことだし、難しい考え事をするのはやめにしますか。
「おじさん、あんがと。何か良く分かんないけど分かった」
「そうか? 分かったならなによりだ! それじゃあ俺は店の準備あるから、またな」
「そんじゃまた」
そうだ。悩んでも仕方がない。あれだけ家で考えても何も分からなかったんだ。やれるだけのことはやってみるか。やらないうちに煮詰まってしまうのはよくないしな。それに、行動を起こしてから後悔すればいい。それがどんな結果をもたらしたとしても、絵美なら許してくれるに違いない。
再び学校への道を歩いていたら、交差点の近くで女の子がしゃがんで何かを探しているのが目に入った。年は同い年くらいだろうか。髪の色が淡い桃色でとても印象的だ。水色のワンピースに白いサンダルという格好は涼しげなものだ。こんな朝早くに何してるんだろ。以前は見知らぬ人に声をかける事なんて、道を尋ねる時ぐらいしかなかった。が、何故だか意志とは裏腹に体が動いていた……。
「あのー、何か探しものでも?」
「――――――――ッ! は、はいっ……あの……ピン止めを落としてしまったみたいで……」
「あーごめん、いきなり話しかけたら驚くよね。その、良かったら探すの手伝うけど?」
「ご迷惑がかかってしまうので、大丈夫ですよ。一人でも探せると思いますし」
「でも二人で探せばもっと早く見つかる。俺のことなら気にしないで。まだ学校に行くには早いし、どうせ早く着いても暇だから。まーでも俺に探してもらうのが迷惑なら遠慮せずに言ってくれ」
「……それじゃあ……お願いできますか?」
ふと垣間見せたふわっとした天使のような笑顔に不覚にもドキッとしてしまった。
……け、けしからん。
それにしても、めちゃくちゃ美人さんだなー。瞳なんてサファイアでできてるんじゃないかと思ってしまいそうなくらい綺麗だ。見ているだけで自然と顔がにやけてしまうので、顔は直視できなさそうだ。そればさておき今日転校生が来るとか峰っちが言ってたけど……彼女みたいな人だったら良いな。
だってこんな綺麗な人がうちの学校にいたら、どうよ? 普通の学園生活が、一気に学園ドタバタ恋愛コメディに早変わりよ。いやマジで。ぜひともうちの学校に来てほしいものだ。
「――あの、どうかしましたか?」
「あっ、うん、俺でよければ! そ、それで、形や色なんかを教えてもらえるかな?」
おっとあぶないところだった。いささか美人相手にこの俺も緊張しているようだ。そうこうしている間にも彼女は、『ああっ』という表情をして少女はポケットに手を入れて何かをとりだした。
「これと同じものです」
ポケットから出てきたのはライトイエローの楕円型のピン止めだった。可愛らしいデザインなので、絵美がしたらきっと似合わないな。思わずふっと笑ってしまいそうになったが、今笑ったら目の前にいる彼女に非常に失礼であるような気がしたのでなんとかこらえた。
「ぷふっ、へぇー、とってもかわいいデザインだな」
……こらえきれなかった。
「……あの、ピン止めおかしかったですか?」
彼女はなんだか怒ったような困ったような顔をしている。とりあえず謝んなくちゃな。
「いや、ピン止めがおかしかったんじゃなくてさ、俺の知り合いでこういうピン止めが似合わなそうな子がいて、それでちょっと、ね。突然笑ったりして失礼だったな、ゴメン」
「い、いえ! そういうことでしたら全然セーフというかなんというか……と、とにかくそれなら問題ありません!」
やべーよ、なんだよ今の顔もちょーかわええよ! ってそうじゃないよな、ピン止めさがすんだよな。
「ありがとう、じゃあ話戻すけど、こっちの道を探せばいいのか?」
俺が今来た道を指さすと、
「いえ、その道は通っていないので、こっちの道を探してもらえますか?」
彼女が指差した道は学校へと続く道だった。
学校まで行って引き返してくるのか。何か忘れ物したみたいで恥ずかしいなー。……ってか一緒に探さないんだ。ま、当たり前か、効率悪いしな。
「了解した、じゃあ見つかったらこの電柱に集合ってことで。八時に一回集合でいいか?」
今時計が指している時間は七時半。三十分もあればきっと見つかるだろう。ん~何か大切なことを聞き逃しているような――――――ッ、名前だ。名前。
「あのさ……名前、まだ聞いてなかったんだけど――――あっ、俺は光司」
「――ッ! し、失礼しました、名前を言い忘れるなんて私、どうかしてましたね。私は渡辺詩織です。詩織と呼んでください」
ニコッっと彼女は微笑んだ。まさに聖母降臨。これは絵になる。
それにしてもこんなにもいいものが見られるなんて……早起きは三文の得っていうが、三文なんてみみっちい得じゃないな、これは。早起きサイコー! ビバ、早起き!
「それじゃあまた後でお会いしましょう」
二人は別れをおしみつつ(多分俺だけ)違う道を探しに別れた。
プロフィール
- 凍空 瑛
- 最近時間がなくて書けていませんでしたが、また時間ができたので、再開しました。どうぞ、よろしくお願いします。
ブログもやってるので、暇ならどぞ、寄っててください。
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