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1.俺の嫁はお姫様

第十一幕

外へ出よう

 ゲーセンに着くと、必ずといって良いほど二階にある格ゲーコーナーに行く。そして今日もその場に直行した。
 ここのゲームセンターは何気にでかい。ゲームの種類だって百種類はあるのではないかと思うほどだ。まあ、その気になれば一日で遊びつくせると言えばそうなのだが……。
 とりあえず格ゲーをワンプレイしておこう。自宅にあるプレツーで練習してきたから少しは強くなっていると思うんだ。
 俺は財布から百円玉をだして、さっそくゲームを始める。そして、いざ戦闘開始というところで誰かが近づいてくる気配があった。ちらっと目線だけ後ろへ送ると、よく知る友人?の顔があった。
 知り合いが来たとしても、今はゲーム中だ。お金も入れてしまったし、当然払い戻しもできない。
なので、
「ちょっと、待っててくれる?」
 とだけ言ってゲームに興ずることにした。
 後ろにいたのは同じクラスの早瀬都美子だ。よくゲーセンで会うのが切っ掛けで少し話すようになったという関係だ。ゲームをやっているやっていないに関わらず、あまり人の話を聞いてくれないってのが特徴だ。
 そんな人が俺に何の用だろう。普段は自分から近づいてくるようなことはしないのにな……。
 それで、何となく気になってしまったという言い訳をさせて貰えるならさせて下さい。
「おいおい、まだ一回戦だぜ?」
 都美子さん! 言わなくていいから。
 ま、そういう訳なんですね。ゲームをしたは良いが一回戦で負けましたってことだよ。
「はは、運が悪かったみたいだよ。それで? 都美子さん、何か用?」
 もうゲームも終わったので、都美子さんの話でも聞こうとしたのだが……。
「おう、さっさとここの機械空けてくれ」
 そ、それだけ……ってそういうこと!?
 俺は言われるがままに席を外す。くそぉ、とんだ勘違いだったぜ。
 今度は逆に観客となることにした。眼前では都美子さんがお金を入れて画面が切り替わっていた。始まるなりずっとスタートのボタンを連打していることが妙に気になる。
 まぁそんな珍妙な行動をする理由もだんだんと分かってきた。
「ふん」
 …………。キャラクター選ぶのもランダム。
「ふん」
 …………。モードも適当。ようは全部お任せなんだな。やる気がないならやらなければいいのに。そしたらもう一度俺が……。
 え? また負けるからもうやるなって?
 ふざけんな! 俺の実力はこんなもんじゃない……はずだ。
 そしてゲームは始まった。そして俺は見てしまったのだ。
「ちっ、くっ、よっと」
 気にするべきことはこっちだったようだ。またしてもやられた。この動きはなんだ? こんなのありなのか……?
 画面の中では凄まじい勢いで動きまくる都美子さんの分身がいたのだ。こんなコンボもあるのかと思わず感心してしまう。一体どうやって習得しているのやら……。
 当然こんなに強いと、誰かものすごく強い相手が対戦相手になるか、ストーリーをコンプリートしてくれるかしないと終わらない……。
 この大演舞は数時間たってようやく終演するのであった……。
 さてさて、こんなことをしているせいで、都美子さんはすっかりゲーセンのみんなのアイドルだ。ちょっと言葉づかいががさつなところもあるけど、そんなことを度外視していいほど綺麗な顔をしているし、何よりゲームが強い。
「ここのコンボはもうちょっと遅いタイミングでだすといいんだぜ」
 とまあこんな風に色んなアドバイスをしている。あーでも俺はアドバイスなんて貰ったことないなー。どうしてだろ。下手糞なはずだよな。一回戦で負けちゃうんだぜ?
 時計を見てみると、だいぶ遅い時間になっていた。そろそろ引き際かな。
一応都美子さんが何をしているか確認してみるが、あの様子じゃまだ帰らないだろう。
 そう、都美子さんは相変わらずで、他の人たちがゲームをやっている様子を見たり、対戦相手になったりしていたのだ。
 一緒に帰ろうかと思ったけど邪魔するのも悪いから一人で帰るか。俺は一階出口までそそくさと下りていった。
 エントランスの自動ドアを潜ろうとした時に思いがけない声が掛った。
「待てよ!」
 見ると後ろには都美子さんがいた。あれ? さっきまでゲームしてなかったかこの人。
 都美子さんは駆け足で階段を下りると俺の手を引き、ゲーセンの脇にある路地に俺を誘導した。俺は抵抗もせずに為すがままにされた。
 そして、あくまで俺に聞こえるぐらい、しかし決して小声ではないくらいの大きさで訊いてきた。
「掲示板で見たんだけどよ、ピンク髪の少女ってどんな奴だ?」
 あまり他人に興味を示すことはないだろうと思っていた人からこのようなことを唐突に聞かれて少し動揺した。しかも、ピンク髪って……。
 都美子さんという人物はゲーセンに遊びに来ても、一言二言以上は他人に干渉しないようにしている。ゲーセンに限らず、学校でも人と話しているところをあまり見たことがない。過去になにかあったとも聞いたことがあるが、それが確かかどうかも俺にはわからない。
 そんな彼女に興味を持たれたのだ。直接俺に興味を持っていただけなら幸いだったのかもしれないが、これは一難あるかもしれない。
 「ああ、何か書き込まれてるみたいだけど、俺は彼女と今日初めて会って、落し物を探すのを手伝ってあげただけだよ」
 勢いに押されて脈略がなかったかもしれない。でもまあ嘘はついてない。
「そういうことを訊いてるんじゃねぇよ」
 や、やっぱり? こういう時に男口調の都美子さんを相手にするのは何だか怖いな……。
「じゃあ、どういうことを話せばいいんだよ?」
「おめぇ馬鹿か? 何者かって聞いてんだよ噂のピンク髪は」
「は? 何者って? そんなの初対面なのに分かるわけないだろ! もう会わないかもしれないし、きっと俺のことなんて忘れてるだろ」
「はっ、なら訊くぜ。そもそもピンクの髪色した奴がどこにいるんだよ。お前の周りにそんな無粋なのはいたか? いねぇだろ?」
「そ、それは……いないな」
 そう言われてみれば、うんと頷ける。あんまり気にして無かったけど普通に考えればありえないことだよな。
「そうだろ? それとも何だ? 何も聞かされてねぇってことか?」
 俺はじりじりと迫ってくる都美子さんから逃れるように顔をそむけ聞き返す。
「何か聞かされていると思ったのか?」
「いや、そうか。まだなのか。でもあいつだ。絶対に。間違いねえ」
 都美子さんは俺から離れ、まるで自分に言い聞かせるようにぶつぶつと言葉を並べていたが、一体なにがどうなっているんだ?
「それで……都美子さんは何か知っているのか?」
 詩織さんに執着があるという訳ではないが都美子さんが気にすることであれば話は別だ。だいたい一人だけ納得するなんてずるいじゃねぇか。
「まあ、少しな」
「その少しを話してくれる気はないのか?」
「どの道分かることだ。再開の時にでも本人に聞け」
「再開? それならまた会えるか? 詩織さんに」
「あ? 詩織だ? そんな名前は知らねえが、そいつはねぇな。ったく笑える名前だぜ。ま、きっと明日には学校に来てるにちげぇねえ」
「ちょっと、それどういうことだよ? もっと色んなこと知ってるんじゃないのか?」
 会えると思ったら興奮して、都美子さんの肩を掴んでしまった。だが、都美子さんはまったくそんなことを気にした風もなく、
「ま、気をつけな。何か陰謀めいたもんを感じる気がすんだよ」
 とだけ言って俺の手を払った。
「んな訳ないだろ! ってか人の話聞けって!」
「健闘を祈る……」
 都美子さんは笑いながら身をひるがえすとゲームセンターに戻っていった。
 俺は今の話の一部分だけに気を取られていた。
『明日には学校に来てる』
 それだけで俺はまた会えるという、甘美な気持ちに浸かることができた。
 家に帰るとさすがに妹の友達も帰ったようで、妹から「何処に行ってたの?」と問いただされるはめになった。いつもどおりにゲーセンに行っていたときちんと白状して両親の帰りを待って食卓について、風呂に入って、寝る。
 俺の学校生活も家に帰った瞬間に味気のない、どんな人でも体験できる空間へと変貌してしまうのだ。
 だから家にいるのはあまり好きではない。外に行けばもっと楽しい出会いもあるし、遊びもあるし、場所もある。早く夜が明けてほしいと祈るばかりで夢なんて見たかどうかも起きた時にはすっかりと忘れてしまっていた。

プロフィール

凍空 瑛
最近時間がなくて書けていませんでしたが、また時間ができたので、再開しました。どうぞ、よろしくお願いします。
ブログもやってるので、暇ならどぞ、寄っててください。
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