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1.俺の嫁はお姫様

第十五幕

妹の友達 後編

「全然気にしないよ」
 はい即答。っつーか俺が嫌だ。
「そ、そうか。俺のことなんてどうでもいいんだな……」
 ちょっと落ち込んでみる。
「嘘だよお兄ちゃん。わたしお兄ちゃんのこと大好きだもん。だからね、お兄ちゃんに彼女ができたなら焼いちゃうかも」
「菜々美ちゃんが彼女になっちゃえばいいんじゃない?」
 留美ちゃん、そんな無茶は言っちゃいけないよ。確かに菜々美が彼女だったら毎日がすごく楽しいと思う。でもそれは仲が良いって感じにしかならないと思う。俺も菜々美が好きだけど、彼女にしたいかって聞かれたら首を縦に振ることはできない。多分菜々美も同じ気持ちだろう。
「それは無理だよ。俺は菜々美のお兄ちゃんだからね」
「そうだよー、でも彼女はまだまだつくっちゃだめだからね!」
 安心しろ、できないから。なーんて格好悪いことは言いたくないな……。なんて考えてると留美ちゃんの口から問題発言が出た。
「だったらわたしが彼女に立候補します。菜々美ちゃんもそれだったら安心でしょ?」
「はい?」
 俺はとんでもないことを口にした留美ちゃんを見ておかしな声を荒げてしまった。菜々美もポカンとした顔をしている。
「あら、わたし何か変なこと言いましたか? お兄さまに悪い虫がつかないようにわたしが彼女になりますっていいたかったんですけど。菜々美ちゃんどうかした?」
 はぁ、この子は仮にも妹の前でなんてことを言い出すんだ。菜々美はというと今は腕を組んでうんうんと唸っている。まさか本気で考えていたりしないだろうな。だって俺は留美ちゃんを今日初めて紹介されて……見合いならありえるか……。でもな、留美ちゃんにも好きな人がいたりしたら悪いし、俺だって好きな人ぐらい…………今はいないなたぶん。ああ、断るのも気が引けるしここは菜々美が『ダメ!』とか言ってくれることを願うしかなさそうだ。菜々美の反応を待って俺たちはしばらく沈黙していたが、こうちゃく状態は留美ちゃんによって解かれた。
「菜々美ちゃんは私がお兄さまの彼女になるの嫌? でも、誰か他の人が彼女になったりしたら手のつけようがなくなっちゃうかもしれないじゃない。わたしだったらお兄さまをいつでもレンタルさせてあげるし、三人で出掛けたりするのも楽しいと思うの」
 何だかすごく真剣な表情をしてるんだけど、これは演技だったりしてくれないのか。まず俺が絶対に断らないこと前提にして話してるし、なんかレンタルとかいう単語使っててものすごく失礼なんですけど。冗談じゃなくて大真面目な話でこんなこと言われたらさすがの俺も怒りたくなる。菜々美はどう思っているんだろう。
「……そうだよね。そう……たぶん」
 なにやら小さな声で菜々美がひとりごとを言っている。音量を二倍にしても聞き取れないくらいの大きさでぶつぶつ言ってるので何が何だかさっぱり分からない。
「うん、決めた」
 今度のは随分と大きな声だった。
「何を?」と聞き返す俺。
「お兄ちゃんにその気があるなら、留美ちゃんと付き合って」
「…………今何て?」
「だから、その気があるなら、留美ちゃんと付き合って」
「ちょ、ちょっと。それ本気で言ってんのか? 留美ちゃんだって俺と初めて話したじゃないか。それなのにいきなり彼氏なんかにしていいのか?」
「わたしは喜んでお受けしますよ。菜々美ちゃんのお兄さんっていうのもありますけど」
 最近はこうも簡単に彼女ができるのだろうか。いやいや、絶対にない。翔だって九十九回は告ってふられてるし。世の中こんなにうまくできてるはずがない。でも俺の目の前でいま彼女になりたいと言ってきいる子がいる。
 これは確率的な話をするとどんなに小さなものなのだろうか。俺にはもう一生縁の無い話かもしれない。でもこれはよくない。きっと後悔する。行動は起こしてから後悔するものだといったけど、この場合は特例だ。断ろう……。
「あのさ、今の俺には留美ちゃんが菜々美の大切な友人であるってことぐらいしか分からない。だからいきなり彼女にしてくださいって言われても、俺にはどうすることもできない。好きか嫌いかも分からない。だから、友達から始めてほしい。俺に君を知る機会を与えてくれないか」
 うわー、ちょっとキザっぽくなったかもしれないが、言いたいことはだいたい伝わったはずだ。留美ちゃんもこれで納得はしてくれるだろう。
「んー、友達からですか。いいですよ。それと、菜々美ちゃん」
「なに? 留美ちゃん」
「お兄さまはかっこいい方ですね。惚れちゃいそうです」
「え? 今何て」
 そんな俺を余所に。菜々美は、
「うん! 最高のお兄ちゃんだもん」
 と嬉しそうに笑っていた。俺にはそれが菜々美の純粋な言葉であると感じられた。思い違いかもしれないが。
「それじゃあ部屋にもどろっか」
 菜々美がそういうと、
「今日はお話できて楽しかったです。またお邪魔すると思いますが、その際は仲良くしてくださいね」
 最後の『ね』という部分に合わせて首を横にちょっと傾けてウィンクする姿は、とてもかわいらしく感じられた。少し赤面していたかもしれない。
「おう、またな」
 俺は照れ隠しをするためにそっけなくそう言っておいた。
 バタンと扉が閉じられた後も俺は留美ちゃんの事で頭がいっぱいになっていた。情けないと思う。年下の、しかも妹の友達に彼氏にしてあげるみたいなことを言われて喜んでしまっている自分の撫様な姿。今鏡を覗いてしまったら一生鏡なんて見ることができないかもしれない。
 いかん。いつまでも引きずっていたらそれこそ葉山光司の名折れ。しばし悶々とした後に机に向ってがりがりと宿題を片付けるのであった。

プロフィール

凍空 瑛
最近時間がなくて書けていませんでしたが、また時間ができたので、再開しました。どうぞ、よろしくお願いします。
ブログもやってるので、暇ならどぞ、寄っててください。
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