1.俺の嫁はお姫様
第十八幕
誰ですか 後編
一瞬『えっ』と思ってしまった。まさか今までだんまりを決め込んでいた黒髪のお譲がこんなにも簡単に声を出すとわ。一体誰に予想がついた事だろう。しかもその出た言葉は決して綺麗で優雅な響きなどではなく、まるでそこらにいる躾のなっていないヤンキーのような風味を出しているではないか。
当然のように俺は凍りつく。視線だけを亮に向けると――――――――あれ?
どうやらあまり動じていないようだった。まさか最初からこの展開を読んでいたのか? 詩織さんと何でだか仲の良い川上さんの口を開かせるために詩織さんをかる~く追い詰めたとでも言うのか?
いや、それには詩織さんも十分な演技が必要なはずだ。それには事前の打ち合わせが……。
「おい、光司。何ポカンとした顔になってるんだ? もしかして川上さんの口調に驚いちまったのか? はぁ……勝手な幻想は時として暴力となって自分に降りかかる。以後気を付けることだな」
「え、いや、別に俺は川上さんがもっと清楚で穏やかだなんて思ってなかったぜ?」
やばっ、今俺何を口走った? 相当動転しているのかもしれない。俺は恐る恐る斜め前方に座る怒れる少女に視線を移す……。
「今のはあなたの妄想かしら?」
「ああ、とっても清楚で尚且つ可憐だ。これぞ俺の求めていた川上さんの理想像!」
彼女はあえてお嬢様っぽく振る舞っていた。ああ分かっていたさ。
なのに、それなのに、馬鹿な俺はそんなことにも乗せられちゃうんだよな……。
「きもいんだよ!! あたしがこんな性格してる訳ないでしょ!!」
当然返ってくるのは罵声。さらにもう一つ贈り物があった……。
一撃目はよく分からなかったが二発目に顔面に直撃。さぁーこれはなんだろう。
手短に正体を晴らしをしおくと、次の授業で使うかもしれない教科書類だ。それをこの譲さんはぶんっと思い切り投げてくるのだから――どうかしてるぜ。
相手の腕がいいのか俺が避ける時間を貰えなかったからだろうか。バシバシと言い音を立てて俺の顔面へと教科書共が特攻してくる。
「フガッ、ホゲャ、ドビャ!!」
おう、痛いじゃねーか。
「デフッ、オグワッ、ホギュ!!」
いやいや、長くね?
そろそろ危険区域に突入して三途の川もちらほら見えてきたので腕で顔周りをガードしつつ。一時後退。諦めたのかおさまったのか。面白がってたのか。
川上さんは俺を一瞥して一言、
「教科書が落ちたからさっさと拾い集めてくれる?」
などと抜かしやがってくれた。俺にも男としてのプライドってもんがある。
「川上さんが……いや、こんなひどいことする奴は川上で十分だ。川上が投げたんだろ。だったら川上が拾っとけ。むしろ俺は被害者なんだ」
俺は机に乗り出すように迎え撃つ。川上も負けじと乗り出してくる。
「私にかってな幻想を抱いていたくせに何馬鹿なことほざいてんの? このゴミ虫」
「あっ? 何だと」
「聞こえなかったのかしら。ゴミ野郎」
俺達の眼から互いに火花が散ってきそうなあたりで詩織さんと亮が仲裁に入ってきた。
「ちょ、ちょっと百合菜、落ち着いて」「光司も落ち着けよ。もっと穏便にな」
「くっ……分かったよ。ちょいと熱くなりすぎた。川上も、すまん」
両手を合わせて謝罪のポーズ。
川上も今ので折れてくれたのか、はいはいといった感じで席におさまった。
「何か、俺の質問で変な方向に持っていってしまったな。大変申し訳ない」
「いいえ、私がはっきりとお答えしていれば良かったんですから……」
隣で何故か謝っている亮。そしてやんわり対応する詩織さん。でもあれだ。ちょっとはこいつにも非があるんだよな。亮があそこであんなにしつこくしてなきゃ川上も出てこなかっただろうし……。
てか俺の推測通り亮と詩織さんはぐるだったのか?
しかし、川上との変なやり取りの所為ですっかり切り出すタイミングを失ってしまった。
まあいいか。今の俺的には詩織さんが何ではっきりと言わないのかの方が気になるところでもある。また川上に何か言われるかもしれないが、聞いてみよう。
「あのさ、繰り返し悪いんだけど、詩織さんはどうしてこの学校に来たんだ? さくらもそうだけど、川上だってこの学校だ。二日で三人ってペースはかなり稀なことだと思うんだよ。できたらでいいから、話を聞かせてくれないか?」
「そうなんですか。縷縷川さんも転校生だったんですね。それでは、はい、説明させて頂きます」
少し気になるのか詩織さんは周りをキョロキョロ見渡し、誰も聞いていないことを確認した上で話し始めた。
「私がこの学校に来たのは父が『日本の学校へ行け』と言ったからなんです。日本で知っているところと言えば東京ぐらいしかなかったので、東京の学校にしようと思いました。それで、たまたまこの辺に来てみたら優しい学生さんに出会ったので、この学校ならきっと楽しく過ごせるのではないかしら。と思ってこの学校を選んだんです。ですから……光司さんのことは少し関係してますね」
ポッと顔を赤らめたのは俺とのことを思い出してくれたのだろうか。いやいや、生意気なことを考えすぎだな。少し頭を冷やそう。
なんにしても存外普通の理由で良かった。都美子さんは俺をからかっているのかもしれないな。
「そうなのか。それで東京に。じゃあ俺達が出会ったのもすげー偶然なんだな」
「はい。私もまさか光司さんのような親切な人にであえるなんて思ってもいませんでした」
「なはは、いやー、あれくらい当然のことだって」
「いいえ、あの場にいたのが光司さんでしたから助かったのです。本当に感謝しているんですよ?」
「でへぇ、それほどでも」
「まったく、何よこいつは。詩織相手に鼻の下伸ばしっぱなし。こんなの全部お世辞よ、お世辞! 詩織もこれ以上この馬鹿を煽るのなんてやめなさい」
折角幸せな気分になっていたところにこれだ。詩織さんも何でこんなやつと友達なんだろ。
「ちょっと、百合菜。そんな言い方、あんまりじゃなくて?」と詩織さんが言うので、
「そうだ。あんまりだ」と俺が繰り返すと、
「光司、また面倒なことにはしてくれるなよ」と亮に牽制されてしまった。
調子に乗って便乗してみたらすぐこれだ。
「わ、悪い……」
俺はしょぼんとした顔を見せてみる。すぐに大人しくなるところは俺の良い所なのかもしれない。
だが俺のそんなリアクションなどそっちの気で川上が亮に話を降る。
「亮だっけ? あんたはまだ話が分かりそうな方なのね」
何で川上はいつも上から物を言うんだ? イギリスから来たんならキリストだろ? 平等なんだよ平等!
「御褒めに預かり光栄です」
そんな失礼極まりない川上の行動にもまったく腹を立たせないで胸に手をあてて軽くお辞儀をする親友は、どっかのお偉いさんに使える執事みたいだった。
亮ならこういう仕事も合うのかもしれないな。
「はは、じゃあ今度から光司のことは光司おぼっちゃんって呼んでやるよ」
前言撤回。何かすげー気持ち悪い……。というか今心を読まれなかったか? 俺の思ってることってそんなに軽薄で分かりやすいのか?
「ふふふ、それは面白いですね」と詩織さんが乗ってくるので、俺は「詩織さん、そこは悪ノリする所じゃないですから」と場を制す。
だが、さすがは留学生。まだまだ造語にはうといらしい。
「悪ノリというのは何ですか?」
詩織さんはきょとんとして首を傾げてしまっていた。まだ日本に来て間もないからこういう新しく作られた言葉とか知らないのかもしれないな。とりあえず簡単な補足説明をしておくか。
「何か良くないことにふざけて便乗することですよ」
確かこんな感じだったと思ったが……違ったけ? まあだいたいこんな感じだったただろう。
「盛り上がってるとこ悪いんだけど、あんたたち弁当まだ残ってるわよ」
「……あ」と亮。
「言われてみれば……」
俺もはっとして自分の弁当箱の中身を確認するとまだ半分ほど残っていた。
思いのほか話?暴力?の方が盛り上がってしまった所為で、まだ弁当が食い終わっていなかったのだ。時刻は予令の五分前。
名残惜しい気はするが、俺達三人(川上は食べ終わっていた)は食べることに集中したのだった。
※親の作った弁当は残さず綺麗に食べましょう。
当然のように俺は凍りつく。視線だけを亮に向けると――――――――あれ?
どうやらあまり動じていないようだった。まさか最初からこの展開を読んでいたのか? 詩織さんと何でだか仲の良い川上さんの口を開かせるために詩織さんをかる~く追い詰めたとでも言うのか?
いや、それには詩織さんも十分な演技が必要なはずだ。それには事前の打ち合わせが……。
「おい、光司。何ポカンとした顔になってるんだ? もしかして川上さんの口調に驚いちまったのか? はぁ……勝手な幻想は時として暴力となって自分に降りかかる。以後気を付けることだな」
「え、いや、別に俺は川上さんがもっと清楚で穏やかだなんて思ってなかったぜ?」
やばっ、今俺何を口走った? 相当動転しているのかもしれない。俺は恐る恐る斜め前方に座る怒れる少女に視線を移す……。
「今のはあなたの妄想かしら?」
「ああ、とっても清楚で尚且つ可憐だ。これぞ俺の求めていた川上さんの理想像!」
彼女はあえてお嬢様っぽく振る舞っていた。ああ分かっていたさ。
なのに、それなのに、馬鹿な俺はそんなことにも乗せられちゃうんだよな……。
「きもいんだよ!! あたしがこんな性格してる訳ないでしょ!!」
当然返ってくるのは罵声。さらにもう一つ贈り物があった……。
一撃目はよく分からなかったが二発目に顔面に直撃。さぁーこれはなんだろう。
手短に正体を晴らしをしおくと、次の授業で使うかもしれない教科書類だ。それをこの譲さんはぶんっと思い切り投げてくるのだから――どうかしてるぜ。
相手の腕がいいのか俺が避ける時間を貰えなかったからだろうか。バシバシと言い音を立てて俺の顔面へと教科書共が特攻してくる。
「フガッ、ホゲャ、ドビャ!!」
おう、痛いじゃねーか。
「デフッ、オグワッ、ホギュ!!」
いやいや、長くね?
そろそろ危険区域に突入して三途の川もちらほら見えてきたので腕で顔周りをガードしつつ。一時後退。諦めたのかおさまったのか。面白がってたのか。
川上さんは俺を一瞥して一言、
「教科書が落ちたからさっさと拾い集めてくれる?」
などと抜かしやがってくれた。俺にも男としてのプライドってもんがある。
「川上さんが……いや、こんなひどいことする奴は川上で十分だ。川上が投げたんだろ。だったら川上が拾っとけ。むしろ俺は被害者なんだ」
俺は机に乗り出すように迎え撃つ。川上も負けじと乗り出してくる。
「私にかってな幻想を抱いていたくせに何馬鹿なことほざいてんの? このゴミ虫」
「あっ? 何だと」
「聞こえなかったのかしら。ゴミ野郎」
俺達の眼から互いに火花が散ってきそうなあたりで詩織さんと亮が仲裁に入ってきた。
「ちょ、ちょっと百合菜、落ち着いて」「光司も落ち着けよ。もっと穏便にな」
「くっ……分かったよ。ちょいと熱くなりすぎた。川上も、すまん」
両手を合わせて謝罪のポーズ。
川上も今ので折れてくれたのか、はいはいといった感じで席におさまった。
「何か、俺の質問で変な方向に持っていってしまったな。大変申し訳ない」
「いいえ、私がはっきりとお答えしていれば良かったんですから……」
隣で何故か謝っている亮。そしてやんわり対応する詩織さん。でもあれだ。ちょっとはこいつにも非があるんだよな。亮があそこであんなにしつこくしてなきゃ川上も出てこなかっただろうし……。
てか俺の推測通り亮と詩織さんはぐるだったのか?
しかし、川上との変なやり取りの所為ですっかり切り出すタイミングを失ってしまった。
まあいいか。今の俺的には詩織さんが何ではっきりと言わないのかの方が気になるところでもある。また川上に何か言われるかもしれないが、聞いてみよう。
「あのさ、繰り返し悪いんだけど、詩織さんはどうしてこの学校に来たんだ? さくらもそうだけど、川上だってこの学校だ。二日で三人ってペースはかなり稀なことだと思うんだよ。できたらでいいから、話を聞かせてくれないか?」
「そうなんですか。縷縷川さんも転校生だったんですね。それでは、はい、説明させて頂きます」
少し気になるのか詩織さんは周りをキョロキョロ見渡し、誰も聞いていないことを確認した上で話し始めた。
「私がこの学校に来たのは父が『日本の学校へ行け』と言ったからなんです。日本で知っているところと言えば東京ぐらいしかなかったので、東京の学校にしようと思いました。それで、たまたまこの辺に来てみたら優しい学生さんに出会ったので、この学校ならきっと楽しく過ごせるのではないかしら。と思ってこの学校を選んだんです。ですから……光司さんのことは少し関係してますね」
ポッと顔を赤らめたのは俺とのことを思い出してくれたのだろうか。いやいや、生意気なことを考えすぎだな。少し頭を冷やそう。
なんにしても存外普通の理由で良かった。都美子さんは俺をからかっているのかもしれないな。
「そうなのか。それで東京に。じゃあ俺達が出会ったのもすげー偶然なんだな」
「はい。私もまさか光司さんのような親切な人にであえるなんて思ってもいませんでした」
「なはは、いやー、あれくらい当然のことだって」
「いいえ、あの場にいたのが光司さんでしたから助かったのです。本当に感謝しているんですよ?」
「でへぇ、それほどでも」
「まったく、何よこいつは。詩織相手に鼻の下伸ばしっぱなし。こんなの全部お世辞よ、お世辞! 詩織もこれ以上この馬鹿を煽るのなんてやめなさい」
折角幸せな気分になっていたところにこれだ。詩織さんも何でこんなやつと友達なんだろ。
「ちょっと、百合菜。そんな言い方、あんまりじゃなくて?」と詩織さんが言うので、
「そうだ。あんまりだ」と俺が繰り返すと、
「光司、また面倒なことにはしてくれるなよ」と亮に牽制されてしまった。
調子に乗って便乗してみたらすぐこれだ。
「わ、悪い……」
俺はしょぼんとした顔を見せてみる。すぐに大人しくなるところは俺の良い所なのかもしれない。
だが俺のそんなリアクションなどそっちの気で川上が亮に話を降る。
「亮だっけ? あんたはまだ話が分かりそうな方なのね」
何で川上はいつも上から物を言うんだ? イギリスから来たんならキリストだろ? 平等なんだよ平等!
「御褒めに預かり光栄です」
そんな失礼極まりない川上の行動にもまったく腹を立たせないで胸に手をあてて軽くお辞儀をする親友は、どっかのお偉いさんに使える執事みたいだった。
亮ならこういう仕事も合うのかもしれないな。
「はは、じゃあ今度から光司のことは光司おぼっちゃんって呼んでやるよ」
前言撤回。何かすげー気持ち悪い……。というか今心を読まれなかったか? 俺の思ってることってそんなに軽薄で分かりやすいのか?
「ふふふ、それは面白いですね」と詩織さんが乗ってくるので、俺は「詩織さん、そこは悪ノリする所じゃないですから」と場を制す。
だが、さすがは留学生。まだまだ造語にはうといらしい。
「悪ノリというのは何ですか?」
詩織さんはきょとんとして首を傾げてしまっていた。まだ日本に来て間もないからこういう新しく作られた言葉とか知らないのかもしれないな。とりあえず簡単な補足説明をしておくか。
「何か良くないことにふざけて便乗することですよ」
確かこんな感じだったと思ったが……違ったけ? まあだいたいこんな感じだったただろう。
「盛り上がってるとこ悪いんだけど、あんたたち弁当まだ残ってるわよ」
「……あ」と亮。
「言われてみれば……」
俺もはっとして自分の弁当箱の中身を確認するとまだ半分ほど残っていた。
思いのほか話?暴力?の方が盛り上がってしまった所為で、まだ弁当が食い終わっていなかったのだ。時刻は予令の五分前。
名残惜しい気はするが、俺達三人(川上は食べ終わっていた)は食べることに集中したのだった。
※親の作った弁当は残さず綺麗に食べましょう。
プロフィール
- 凍空 瑛
- 最近時間がなくて書けていませんでしたが、また時間ができたので、再開しました。どうぞ、よろしくお願いします。
ブログもやってるので、暇ならどぞ、寄っててください。
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