1.俺の嫁はお姫様
第二幕
モデルな彼女
横断歩道を渡って道をまっすぐ行く。が、これといって何も落ちていない。
百メートルぐらい進むと、『ポリーテ』という看板が見える。『ポリーテ』とは、学生に人気のあるカフェである。俺も絵美が行きたがるので良く寄らせてもらっている。店の雰囲気はクラシックな感じで、とても落ち着く。
俺のお勧めはブレンドコーヒーをブラックで頂くことかな。砂糖を入れなくても十分に飲めるし、味も深みがあって、一度飲んだら病みつきになってしまった。
そうそう、アメリカンはあまりお勧めできないな。アメリカンが好きな人には悪いが、あれは味が薄いから飲んでも飲んだ気がしない。のどが渇いてて何杯も飲みたいっていう人にはいいかもしれないが、コーヒーは喉を潤わすための飲み物ではないと思う。
そんなこんなで今では絵美が誘うっていうより俺が誘うことの方が多い気がする。
この店を右に曲がって坂を上ると橋が羨望を明らかにする。ここまで来てまだ黄色のピン止めは見つからない。そう簡単に見つかるものではないが、いったいどこにあるのだろう。
それにしても、こっちの道でよかったのか? 詩織さんはこっちの道と言っただけで、学校から来たとは一言もいっていない。俺が早とちりをして、勝手に思い込んだだけだしな。
「橋の先までは探してみて、なかったら一端戻るか」
もう時計の針は四十分をさしていた。時が経つのは早いものだ。
橋を渡ってみると噴水の前に何やら俯いている少女がいた。制服から察するに、うちの生徒のようだ。
そして彼女の視線の先には、見たことのあるピン止めが落ちていた。
って、ん―――――――ちょっと待て。心の中の叫びなので、もちろん伝わりはしないだろうが、それでも待てと言いたかった。なぜなら探していたピン止めがその少女に拾われて、あろうことかつけられてしまったからだ。
素朴な疑問だが、何故落ちてるものを身につける?
さーて、困った。まだ間に合うよな? 俺は手をぐっと握って彼女の方へと近づき、
「あの、そのピン止め俺の何ですけど、返していただけますか?」
……思いっきり勘違いさせるような言葉を発していた。でも、男がピン止めって今時めずらしくもないよな? まぁ俺がしても似合わないと思うし。そりゃ着けてみたいかって言われたら着けてみたいかもしんないけど――――――って詩織さんのだからとかじゃないから、いや、本当に。
「え? これあなたのだったの? ゴメンゴメン!」
「じゃあ――」
俺が言い終える前に彼女が切り込んできた。
「でも、ただじゃ返せないなー。だってこれフランスの人気店のグッツだ し、前々から欲しかったのよねー。ほら、私がすると似合うでしょ? どう?」
「え、いや、似合いますよ? 似合いますけど――――って、話しずらしてんじゃねーよ! とにかくそれ返してください。ってか返せ」
しかしよく見てみると、この女……『スタイルよし、顔よし、ルックスよし、プロポーションよし』じゃねーか。ちょっとナルシなのが残念だけどな。
……え? 同じこと何回も言うな?
でも、こんないかにも目立ちそうな奴いたら俺が知らないわけないよな。
「えー、これを拾ったのあたしだからあたしのなの! だからなんかと交換ならいいよ」
「どうしてそうなるんだよ!? これは俺のもんで、お前のじゃないの! もういいかげん返してくれよ」
「交換条件!」
はぁ……何で俺が交換条件を呑まないといけないんだ? そりゃお金落ちてたら交番に届けないで自分の物にしたことあったけど……それはあくまで俺のことで……。でも、こいつはとても強情な気がするし、早くしないと待ち合わせの時間に間に合わなくなっちまう。んー、聞くだけ聞いてみるか。
「分かったよ。じゃあ、条件とやらを教えてもらえる? あ、先に言っとくけど『死んでください』とかは無しだからな?」
「私そんなこと言わないもん。えっとね…………学校まで一緒に行ってくれる?」
上目遣いでぼそっと言う。気のせいだったかもしれないけど俺にはしっかりと聞こえていた。
ん? 聞こえて――――って。
「はぃ!?」
今何ていった? それは何? もしかすると、もしかして……遠まわしに告られてるのか? でも、こんな時にそんなこと言われても――――――ゴクン、唾のみ、スゥー、息吸って……
「ねえ、どうかした? 私何か変なこと言った? だってしょうがないじゃない! 初めての学校って緊張するのよ! だから、誰かと一緒に行きたかったの! 悪い?」
はい残念でしたー。
「……え? だ、だよねー」
何だ、俺は今何を秤にかけていたんだ? こんな見ず知らずのナルシな美少女とさっき知り合った詩織さんとでどっちに傾いた? くそっ! 一瞬でも期待してしまった俺の純情を返せ!
――――待てよ? 今転校生って言ったよな。ってことはこいつが転校生? 何かとんでもない出会い方しちゃったな……。
でもでも、こういう出会い方をした方が後々良い関係に発展するかもしれない。ほら、何て言ったかあれ、フラグ? みたいなやつ。そうなったら俺の人生にもついに花が!
絵美め、俺がすげー格好良い男だったって気付かせてやるのにそう時間はかかりそうにないぜ。
「どうなの?」
俺が返事をするのを忘れて考えことをしていたので、我慢しきれずに催促してきたようだ。
でも、先に詩織さんとの約束があるしな――――――ここで待っててもらえるかな?
それなら一緒に学校にも行けるし、ピン止めも返せるし。
「分かった。ただし、俺がこれから言うことを了承してくれればという条件付だ」
これで駄目だったら力地づくで奪うしかないか。
「ん? 何を了承すればいいの?」
「ここでしばらく待っててくれ、忘れ物して、大通りの辺りまで戻らなきゃならないんだ」
「どれくらいかかる?」
「んー……十分くらいかな?」
「それなら……うん。ちゃんと五分で戻ってきて。私慌てて教室に入るなんて嫌だから」
ことは穏便に済みそうだ。さりげなく時間を二分の一にしやがったが、可愛いのでよしとしよう。
「オッケー、分かった」
「じゃあこれ返すわ。逃げんじゃないわよ」
「んなことするかよ」
ピン止めを受け取ってUターンしようとすると、後方から先ほどの少女の声が俺の耳に届いた。
「待って! 私はさくら。縷縷(るる)川(がわ)さくら! あなたは?」
向こうは名乗っているんだ。だったら答えてやろうじゃねーか。
「俺は光司。葉山光司。それじゃあちょっくら行ってくる」
俺の顔はちょっと緩んでいたかもしれない。あんなに可愛い子に名前を聞かれるなんて。いやいや、人は見かけではない。中身だ。俺は騙されてはいけないんだ。思い出せ、俺。俺はあいつの何に騙された? 何処に騙された?
顔だ顔。
顔に騙されたんだ。あんなに嬉しそうな顔するから。あんなに可愛い顔して笑うから。あんなに……。
あー、馬鹿らしい。やめるかこんなこと考えるのは。
せっかくピン止めを見つけたんだ。詩織さんに渡してそちらの方の好感度を上げることに専念しよう。
あくまで自然に。さくらのとの出会いで顔が緩んでいたら、詩織さんも不思議に思うにちがいない。だから自然に。胸から込み上げてくる興奮した感情を押し殺しながら、俺は待ち合わせていた場所へと足を急がせた。
百メートルぐらい進むと、『ポリーテ』という看板が見える。『ポリーテ』とは、学生に人気のあるカフェである。俺も絵美が行きたがるので良く寄らせてもらっている。店の雰囲気はクラシックな感じで、とても落ち着く。
俺のお勧めはブレンドコーヒーをブラックで頂くことかな。砂糖を入れなくても十分に飲めるし、味も深みがあって、一度飲んだら病みつきになってしまった。
そうそう、アメリカンはあまりお勧めできないな。アメリカンが好きな人には悪いが、あれは味が薄いから飲んでも飲んだ気がしない。のどが渇いてて何杯も飲みたいっていう人にはいいかもしれないが、コーヒーは喉を潤わすための飲み物ではないと思う。
そんなこんなで今では絵美が誘うっていうより俺が誘うことの方が多い気がする。
この店を右に曲がって坂を上ると橋が羨望を明らかにする。ここまで来てまだ黄色のピン止めは見つからない。そう簡単に見つかるものではないが、いったいどこにあるのだろう。
それにしても、こっちの道でよかったのか? 詩織さんはこっちの道と言っただけで、学校から来たとは一言もいっていない。俺が早とちりをして、勝手に思い込んだだけだしな。
「橋の先までは探してみて、なかったら一端戻るか」
もう時計の針は四十分をさしていた。時が経つのは早いものだ。
橋を渡ってみると噴水の前に何やら俯いている少女がいた。制服から察するに、うちの生徒のようだ。
そして彼女の視線の先には、見たことのあるピン止めが落ちていた。
って、ん―――――――ちょっと待て。心の中の叫びなので、もちろん伝わりはしないだろうが、それでも待てと言いたかった。なぜなら探していたピン止めがその少女に拾われて、あろうことかつけられてしまったからだ。
素朴な疑問だが、何故落ちてるものを身につける?
さーて、困った。まだ間に合うよな? 俺は手をぐっと握って彼女の方へと近づき、
「あの、そのピン止め俺の何ですけど、返していただけますか?」
……思いっきり勘違いさせるような言葉を発していた。でも、男がピン止めって今時めずらしくもないよな? まぁ俺がしても似合わないと思うし。そりゃ着けてみたいかって言われたら着けてみたいかもしんないけど――――――って詩織さんのだからとかじゃないから、いや、本当に。
「え? これあなたのだったの? ゴメンゴメン!」
「じゃあ――」
俺が言い終える前に彼女が切り込んできた。
「でも、ただじゃ返せないなー。だってこれフランスの人気店のグッツだ し、前々から欲しかったのよねー。ほら、私がすると似合うでしょ? どう?」
「え、いや、似合いますよ? 似合いますけど――――って、話しずらしてんじゃねーよ! とにかくそれ返してください。ってか返せ」
しかしよく見てみると、この女……『スタイルよし、顔よし、ルックスよし、プロポーションよし』じゃねーか。ちょっとナルシなのが残念だけどな。
……え? 同じこと何回も言うな?
でも、こんないかにも目立ちそうな奴いたら俺が知らないわけないよな。
「えー、これを拾ったのあたしだからあたしのなの! だからなんかと交換ならいいよ」
「どうしてそうなるんだよ!? これは俺のもんで、お前のじゃないの! もういいかげん返してくれよ」
「交換条件!」
はぁ……何で俺が交換条件を呑まないといけないんだ? そりゃお金落ちてたら交番に届けないで自分の物にしたことあったけど……それはあくまで俺のことで……。でも、こいつはとても強情な気がするし、早くしないと待ち合わせの時間に間に合わなくなっちまう。んー、聞くだけ聞いてみるか。
「分かったよ。じゃあ、条件とやらを教えてもらえる? あ、先に言っとくけど『死んでください』とかは無しだからな?」
「私そんなこと言わないもん。えっとね…………学校まで一緒に行ってくれる?」
上目遣いでぼそっと言う。気のせいだったかもしれないけど俺にはしっかりと聞こえていた。
ん? 聞こえて――――って。
「はぃ!?」
今何ていった? それは何? もしかすると、もしかして……遠まわしに告られてるのか? でも、こんな時にそんなこと言われても――――――ゴクン、唾のみ、スゥー、息吸って……
「ねえ、どうかした? 私何か変なこと言った? だってしょうがないじゃない! 初めての学校って緊張するのよ! だから、誰かと一緒に行きたかったの! 悪い?」
はい残念でしたー。
「……え? だ、だよねー」
何だ、俺は今何を秤にかけていたんだ? こんな見ず知らずのナルシな美少女とさっき知り合った詩織さんとでどっちに傾いた? くそっ! 一瞬でも期待してしまった俺の純情を返せ!
――――待てよ? 今転校生って言ったよな。ってことはこいつが転校生? 何かとんでもない出会い方しちゃったな……。
でもでも、こういう出会い方をした方が後々良い関係に発展するかもしれない。ほら、何て言ったかあれ、フラグ? みたいなやつ。そうなったら俺の人生にもついに花が!
絵美め、俺がすげー格好良い男だったって気付かせてやるのにそう時間はかかりそうにないぜ。
「どうなの?」
俺が返事をするのを忘れて考えことをしていたので、我慢しきれずに催促してきたようだ。
でも、先に詩織さんとの約束があるしな――――――ここで待っててもらえるかな?
それなら一緒に学校にも行けるし、ピン止めも返せるし。
「分かった。ただし、俺がこれから言うことを了承してくれればという条件付だ」
これで駄目だったら力地づくで奪うしかないか。
「ん? 何を了承すればいいの?」
「ここでしばらく待っててくれ、忘れ物して、大通りの辺りまで戻らなきゃならないんだ」
「どれくらいかかる?」
「んー……十分くらいかな?」
「それなら……うん。ちゃんと五分で戻ってきて。私慌てて教室に入るなんて嫌だから」
ことは穏便に済みそうだ。さりげなく時間を二分の一にしやがったが、可愛いのでよしとしよう。
「オッケー、分かった」
「じゃあこれ返すわ。逃げんじゃないわよ」
「んなことするかよ」
ピン止めを受け取ってUターンしようとすると、後方から先ほどの少女の声が俺の耳に届いた。
「待って! 私はさくら。縷縷(るる)川(がわ)さくら! あなたは?」
向こうは名乗っているんだ。だったら答えてやろうじゃねーか。
「俺は光司。葉山光司。それじゃあちょっくら行ってくる」
俺の顔はちょっと緩んでいたかもしれない。あんなに可愛い子に名前を聞かれるなんて。いやいや、人は見かけではない。中身だ。俺は騙されてはいけないんだ。思い出せ、俺。俺はあいつの何に騙された? 何処に騙された?
顔だ顔。
顔に騙されたんだ。あんなに嬉しそうな顔するから。あんなに可愛い顔して笑うから。あんなに……。
あー、馬鹿らしい。やめるかこんなこと考えるのは。
せっかくピン止めを見つけたんだ。詩織さんに渡してそちらの方の好感度を上げることに専念しよう。
あくまで自然に。さくらのとの出会いで顔が緩んでいたら、詩織さんも不思議に思うにちがいない。だから自然に。胸から込み上げてくる興奮した感情を押し殺しながら、俺は待ち合わせていた場所へと足を急がせた。
プロフィール
- 凍空 瑛
- 最近時間がなくて書けていませんでしたが、また時間ができたので、再開しました。どうぞ、よろしくお願いします。
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