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1.俺の嫁はお姫様

第三幕

カエルな宇宙人

「ハァハァ……ゴメン……ハァ、待たせた?」
 走ってきたので、息が上がっていた。
 体力には自信がある方だが朝だし準備運動してないしとで、かなり辛い。
「いえ、私も今着いたとこです。それで、あの……」
 ここまではデートの始まりに似ているが、これはデートではない。いや、デートであってほしいが。
「ちゃんと見つけたよ、これだろ?」
 俺は手に持っていたピン止めを彼女に差し出した。途中縷縷川さくらたる人物と一悶着あったが、それは伝えないことにした。余計な気をかけさせても良いこと無いからな。
「はい! これです! 本当にありがとうございます! あの、これはどの辺りに落ちてましたか?」
「噴水の近くに落ちてたよ」
「ああっ、もしかしたらあの時に落としたのかもしれません」
「何か覚えがあるようだね」
「はい。噴水の近くで休憩をしていたら急に虫さんがやってきて驚いてなりふり構わず逃げてきたんです。その時にもしかしたら……」
「ははっ、虫さんね。じゃあその時かもしれないね。でも良かった、見つかって」
「はい、とても感謝してます。あの、お時間の方は大丈夫ですか?」
 俺は言われてハッとなり腕にしている時計に目をやる。
「この時間だとどうなんだ……」
 ホームルームまでの残り時間十五分。ここから学校までだと歩いておよそ十分。まだ時間的には五分ほど余裕があるので、ハーフタイムを入れたいところだが……生憎待たせ人がいる。
 名前も言っちまったし、五分で戻るという約束破ったら学校で面倒なことになるかもしれない。
「じゃあ、そろそろ退散しますかな……またね」
 非常に残念だがいた仕方ない。ここいらで踏ん切りをつけておかないと一生話していたくなってしまう。
 お別れの挨拶も完了して学校へ急ごうと背中を向けたところ、ひょんなことに詩織さんが声を掛けてきた。
「あの、ではこれ、お礼って程のものでもないんですが、良かったら……」
なんだ? 俺は神妙な面持ちで振り返り、詩織さんの何かが握られた手を見つめる。
 ……差し出されたものはキーホルダーだった。カエルの顔した人型の宇宙人ってとこか。
 あんまし可愛くはないが、詩織さんがせっかくくれたんだから快く受け取らないとな。
 俺は精一杯の笑顔で受け取ることにした。
「ありがと、俺にはもったいないくらいだ。せっかくだし、さっそく鞄につけさせてもらうよ」
「いえ、あの、そんな無理につけてもらわなくても……」
「何言ってんだよ。せっかくくれたのにつけない方が無理してるって。それに結構可愛いじゃんこれ」
「そんな、気に入ってもらえてうれしいです」
「ああ、最高だよ! これは何処で売ってるの?」
 プレゼントを貰ったんだ。もう少し話してたって問題ないだろう。
「これ、今ロンドンで流行ってる人気商品なんです」
「へぇ、ロンドンで流行ってるんだ。イギリスにでも行ってたの?」
 キーホルダーを鞄に付けつつ会話をするのは難しい。えいっ、おらっ。ふぅ……やっと付いたよ。
 おいちょっと待て。今ロンドンで流行ってるって言ったよな。詩織さんって留学生? 
 いや、それ以前にこのキーホルダーが外国で流行ってるのか?
 想像ができねえ。このキモ可愛いがアクセントのキーホルダーが流行しているって言うのか? そんな馬鹿な。この子、落し物したりして結構おっちょこちょいなとこあるからな。
 もしかすると天然なのかもしれない。
「はい。四月まではイギリスにいたんですよ。でも急に日本に住むことになりまして」
 ついこの間まではイギリスにいたにしては随分と日本語が流暢なものだ。ますます疑問が。
 誰もが感心しそうなお話だよな。こちらに来て一カ月ぐらいでこの会話力。
 聞きたい。現地に来ないでここまで日本語が上達した訳を。しかしこれは聞いてもいいものなのだろうか。
 んー……興味あるし、いいよな?
「へぇー、それにしても日本語上手だな。まったく違和感が無いよ。母国で日本語習ってたの?」
 まあとりあえずはソフトに訊いてみることに。
「はい。英才教育というのはおこがましいかもしれませんが、一年前から日本語を叩きこまれてしまいました。でも……わたくしそんなこと言われたの初めてです。いつもだん、いえ、お父様からは『まだまだだな』って言われますし、おじょ、いえ、友達にも『下手な日本語』と言われてますし」
「俺はうまいと思うよ。日本人の俺が言うんだから、ちょっとは信用してよ。
 言い間違いがものすごく気になったけど、あまり突っ込まない方がいいだろう。
「そうですね。では今度からはあまり気にしないようにしますね。」
 そういって笑う詩織さんの表情はおいしいものを食べて幸せになっている時と似たものを感じる。
「それよりたったの一年でこんなに上達できるなんて……羨ましすぎる」
 これは俺の僻みだ。俺なんかもう四年も英語をやってるのにちっとも話せやしない。
「結構頑張りましたので!」
 あまり苦労しなかったのではないかと疑ってしまうほど、詩織さんは朗らかに微笑んでいた。
「俺にはとうてい真似できないな。未だに英語の文章が読めない」
「わたくしも日本の本を読むことはできませんよ」
「話せるけど、読めない。まぁ、こっちに来たばっかだもんな」
 俺は腕を組み首を縦に振り同意する。俺は逆なんだけど、ここは流れってものがあるんだよ。
「ええ。あの……自分で引き止めておいて申し訳ないとは思うのですが、お時間大丈夫でしょうか?」
「ああ、それは――――」
 俺は思った。そんなに俺を早く送り出したいのか詩織さんは。
 少し慣れ慣れしく話すぎたのかもしれない。だってこんなに可愛い子と話す機会なんて滅多にないし……。
 もちろんそんな後ろ向きな考えはすぐに違うだろうという結論に達した。
 もし俺が嫌ならさっき呼び止めてくれたりなんてしなかっただろう。
 恋愛感情はないだろうけど、少なくとも好意はある。そう思っても自惚れなどではないだろう。
 俺は言いかけていた言葉を繋ぐように再度声を出す。
「今がタイムリミットってとこだな。ジャストタイムだよ。ありがと」
 しかしながら、万が一の場合も考慮してここはお別れの選択肢を選ばしてもらおう。好感度が落ちる可能性もあるかもしれないからな。
「それなら良かったです」
 ほっと胸を撫で下ろす詩織さん。この仕草が俺が遅刻しないで済むから出た安心感であってほしいと切に願う。
「うん、それじゃあ。俺、学校に行くから」
「はい、またいつか」
 詩織さんはとても嬉しそうだった。嬉しそうな彼女を見ているだけで俺もお腹いっぱいって感じだ。あー、連絡先ぐらい聞いておけば良かったなー。でも急いでいかないと縷縷川に怒られるし、あっちもあっちで放っておけないというか……いや、別に気があるって訳じゃなくて、さっきも言ったけど後々面倒になりそうってだけで。
 それに、『またいつか』って言ってくれたし、いつかまた会えるだろう。 とにかく今は急がなければ。遅刻したらまた何言われるか分かったもんじゃない。多少困惑した気持ちを残しつつも俺は縷縷川の待つ噴水に急ぐことにした。

プロフィール

凍空 瑛
最近時間がなくて書けていませんでしたが、また時間ができたので、再開しました。どうぞ、よろしくお願いします。
ブログもやってるので、暇ならどぞ、寄っててください。
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