1.俺の嫁はお姫様
第五幕
約束通りなんて
噴水に戻ると縷縷川の姿が見当たらなかった。おかしいな、先に行ったのか?
すると後ろの方から、
「遅――い! 五分って言ったじゃない」
どうやら縷縷川の声のようだ。
「わりぃわりぃ、というかどっから現れたの?」
「さーあねー、何処からでしょう? 知りたい?」
ニヤニヤ笑って近寄ってくるのだが、何だかどきどきしてしまう。そりゃお互いの鼻の間が数センチしかなくて、縷縷川の吐息も感じるほどで、これで意識しないなんて無理だろ……。
「あー今わたしのこと見て可愛いな? とか思ったでしょ。光司くんカワイー」
俺は恥ずかしさのあまり赤面してしまった己の顔を隠すためにそっぽを向く。
「え、いや、そんなこと思ってないから。ってか、は、早く行かないと学校に遅刻するぞ」
「ひっどーい、可愛くないなんて言われちゃったよ。もう立ち直れないかも……」
おいおい、絶対にそんなこと思ってないだろ。まったく、からかうのもいい加減にしてほしいもんだ。それでも大人な俺は彼女の喜劇に付き合うことにした。
「はぁ……すごく可愛いですよ。だからさ、早く行きませんか?」
恥ずかしさを凌駕して、開き直るようにしてそう言ったのだが、縷縷川劇場はこんな生易しいものでは乗り切ることができなかった。
ニヤッと笑うと俺の方に詰め寄ってきて、
「何で敬語なの? もしかしてその台詞言うのすっごく恥ずかしかったりする?」
と恍惚な表情を浮かべて言ってきやがるのだ。
まったく……まだ俺をからかい足りないのか、こいつは。
「はいはいそうですよ。とっても恥ずかしいですよ。だからもう言わせんなよ」
さくらさんは、「はぁーい」と嘘くさい返事をして歩きだす。
女の子と並んで歩けるっていうのはかなりレアだ。しかも学校を一緒に行くだなんてもっとレアだ。俺だって誰かが女の子と歩いていたら羨ましいと思うし、それを妬んだりするだろう。
だからと言っては何なんだが……この状況はかなりくすぐったい。
そしてそんなことを思いながら、口ではああ言っていたものの満更じゃない自分に改めて驚いてしまう。
何か縷縷川といると懐かしい気持ちになるんだよな……。縷縷川性格って昔の絵美のそれによく似ているんだよな。
でも縷縷川と絵美を重ねるのは両方に対して失礼だし、もちろん彼女は絵美ではない。
もしかしたら隣に絵美が歩いていた頃を思い出して、そのことを重ねているだけかもしれないし、実際のところ俺にもよく分からない。
だから深く気にすることなんてないのかもしれない。
ま、このもやもやした気持ちにはしばらくの間眠っておいてもらうことにしよう。
「ところで縷縷川は俺が来なかったらどうしたんだよ?」
会話が切れて静かなムードになっていたところで奇襲に出る。
さっきの仕返しだ。ちょっとぐらい意地悪をしてやらないと不公平というものだ。
「え? そんなこと無いでしょ? 現に今ここにいるわけだし? それとも何? 光司くんが来なかったら怖くて入れなかったのぉ。 とか言って欲しいわけ?」
さぁ反撃の狼煙を上げる時だ!
「ああ、言って欲しい」
自分で言っててとても恥ずかしいが、堪えろ。何とか平静を装っていたがそろそろ限界か――――あ、先に縷縷川が赤くなったみたいだ。よしっ、この勝負もらった。
「ちょ、何いってんの? 光司くんのくせに……生意気なんだから!」
「で、言ってくれないのか?」
かぁぁっと彼女の顔が赤くなっていくのが見えたので、そろそろ勘弁してあげるか。俺もそれほどSではない。
「ははっ、冗談だよ、冗談。さっきの仕返し」
縷縷川は今度は頭から湯気がでているみたいだった。何もそこまで怒んなくても……、あちゃーこれは結構まずいかもしれない。
「ふん、もう光司くんなんて知らない! あたし一人で学校行くから!」
「ちょっと待てよ! ゴメンってば、言い過ぎた!」
「ほんとにそう思う?」
縷縷川が真剣な面持ちで俺を見つめる。俺はそんな彼女の顔をしっかりと見つめて答える。
「ああ、本当だよ」
「じゃあ信じてあげる。でももう一つ条件!」
「また条件かよ?」
こいつは本当に条件って言葉が好きだな。そもそもこの場合は条件っていうよりもお願いという言葉の方が近い気がする。
さてどんな条件がくるのやら。
そして彼女の口からでた条件とやらは意外なものだった。
「うん……私のことちゃんとさくらって呼ぶこと! いい?」
訊いた週間は何を言われたか理解できなかった。
しばらく硬直した後にだんだんと脳の理解力が復旧していく。
そしてようやく整理ができた。
「名前で呼べと? そんなの普通にやってやるって。えっと…………さくら?……」
うわっ結構恥ずかしいな。聞こえないくらい小さい声で言っちまったよ。
「何? 聞こえないんだけど」
仕方なしに俺は大きく息をすって再チャレンジしてみる。
「さくら」
「うーん、まだちょっと小さい気がするけど……これ以上やっても変わらなそうだからこれでいいわ」
何とか合格点をもらえたようだ。よしっ。って、あれ? 何でこんなことで喜んでるんだ?
詩織さんのことは自然に名前で呼んでた気がする。いや、間違いなく呼べていただろう。それなのにさくらに対してはどうして名前で呼べないんだ?
駄目だ。いつの間にか向こうにペースを握られてる。
「それじゃいこっか。学校」とさくら。
「そうだな。もうそろそろいかないと初日から遅刻になっちまうしな」
「えーそれだけはいやっ、あーでもーいきなり二人で入ってたら怪しまれるかな?」
何でそういう話する時にすげー意地悪そうな顔するんだよ。普通の顔してくれ。
「はぁ……、先行くから」
俺はそういうと校門めがけてもうダッシュしてみた。
「待って! 一緒に行くって約束!」
さくらが走って追っかけてくる。女子にしては結構速いな。
だが俺だって足には自信がある。そうやすやすと追いつかれはしないのさ。俺はまだまだ余裕があることを確認したところで後ろ向きに走ってみせる。
しかし、その軽はずみな行動がこの後予期せぬ出来事を招く要因として充分なものであったことが明らかになるのだった。
予期せぬ出来事が起こるのはほんの数十秒後のことだった……。
すると後ろの方から、
「遅――い! 五分って言ったじゃない」
どうやら縷縷川の声のようだ。
「わりぃわりぃ、というかどっから現れたの?」
「さーあねー、何処からでしょう? 知りたい?」
ニヤニヤ笑って近寄ってくるのだが、何だかどきどきしてしまう。そりゃお互いの鼻の間が数センチしかなくて、縷縷川の吐息も感じるほどで、これで意識しないなんて無理だろ……。
「あー今わたしのこと見て可愛いな? とか思ったでしょ。光司くんカワイー」
俺は恥ずかしさのあまり赤面してしまった己の顔を隠すためにそっぽを向く。
「え、いや、そんなこと思ってないから。ってか、は、早く行かないと学校に遅刻するぞ」
「ひっどーい、可愛くないなんて言われちゃったよ。もう立ち直れないかも……」
おいおい、絶対にそんなこと思ってないだろ。まったく、からかうのもいい加減にしてほしいもんだ。それでも大人な俺は彼女の喜劇に付き合うことにした。
「はぁ……すごく可愛いですよ。だからさ、早く行きませんか?」
恥ずかしさを凌駕して、開き直るようにしてそう言ったのだが、縷縷川劇場はこんな生易しいものでは乗り切ることができなかった。
ニヤッと笑うと俺の方に詰め寄ってきて、
「何で敬語なの? もしかしてその台詞言うのすっごく恥ずかしかったりする?」
と恍惚な表情を浮かべて言ってきやがるのだ。
まったく……まだ俺をからかい足りないのか、こいつは。
「はいはいそうですよ。とっても恥ずかしいですよ。だからもう言わせんなよ」
さくらさんは、「はぁーい」と嘘くさい返事をして歩きだす。
女の子と並んで歩けるっていうのはかなりレアだ。しかも学校を一緒に行くだなんてもっとレアだ。俺だって誰かが女の子と歩いていたら羨ましいと思うし、それを妬んだりするだろう。
だからと言っては何なんだが……この状況はかなりくすぐったい。
そしてそんなことを思いながら、口ではああ言っていたものの満更じゃない自分に改めて驚いてしまう。
何か縷縷川といると懐かしい気持ちになるんだよな……。縷縷川性格って昔の絵美のそれによく似ているんだよな。
でも縷縷川と絵美を重ねるのは両方に対して失礼だし、もちろん彼女は絵美ではない。
もしかしたら隣に絵美が歩いていた頃を思い出して、そのことを重ねているだけかもしれないし、実際のところ俺にもよく分からない。
だから深く気にすることなんてないのかもしれない。
ま、このもやもやした気持ちにはしばらくの間眠っておいてもらうことにしよう。
「ところで縷縷川は俺が来なかったらどうしたんだよ?」
会話が切れて静かなムードになっていたところで奇襲に出る。
さっきの仕返しだ。ちょっとぐらい意地悪をしてやらないと不公平というものだ。
「え? そんなこと無いでしょ? 現に今ここにいるわけだし? それとも何? 光司くんが来なかったら怖くて入れなかったのぉ。 とか言って欲しいわけ?」
さぁ反撃の狼煙を上げる時だ!
「ああ、言って欲しい」
自分で言っててとても恥ずかしいが、堪えろ。何とか平静を装っていたがそろそろ限界か――――あ、先に縷縷川が赤くなったみたいだ。よしっ、この勝負もらった。
「ちょ、何いってんの? 光司くんのくせに……生意気なんだから!」
「で、言ってくれないのか?」
かぁぁっと彼女の顔が赤くなっていくのが見えたので、そろそろ勘弁してあげるか。俺もそれほどSではない。
「ははっ、冗談だよ、冗談。さっきの仕返し」
縷縷川は今度は頭から湯気がでているみたいだった。何もそこまで怒んなくても……、あちゃーこれは結構まずいかもしれない。
「ふん、もう光司くんなんて知らない! あたし一人で学校行くから!」
「ちょっと待てよ! ゴメンってば、言い過ぎた!」
「ほんとにそう思う?」
縷縷川が真剣な面持ちで俺を見つめる。俺はそんな彼女の顔をしっかりと見つめて答える。
「ああ、本当だよ」
「じゃあ信じてあげる。でももう一つ条件!」
「また条件かよ?」
こいつは本当に条件って言葉が好きだな。そもそもこの場合は条件っていうよりもお願いという言葉の方が近い気がする。
さてどんな条件がくるのやら。
そして彼女の口からでた条件とやらは意外なものだった。
「うん……私のことちゃんとさくらって呼ぶこと! いい?」
訊いた週間は何を言われたか理解できなかった。
しばらく硬直した後にだんだんと脳の理解力が復旧していく。
そしてようやく整理ができた。
「名前で呼べと? そんなの普通にやってやるって。えっと…………さくら?……」
うわっ結構恥ずかしいな。聞こえないくらい小さい声で言っちまったよ。
「何? 聞こえないんだけど」
仕方なしに俺は大きく息をすって再チャレンジしてみる。
「さくら」
「うーん、まだちょっと小さい気がするけど……これ以上やっても変わらなそうだからこれでいいわ」
何とか合格点をもらえたようだ。よしっ。って、あれ? 何でこんなことで喜んでるんだ?
詩織さんのことは自然に名前で呼んでた気がする。いや、間違いなく呼べていただろう。それなのにさくらに対してはどうして名前で呼べないんだ?
駄目だ。いつの間にか向こうにペースを握られてる。
「それじゃいこっか。学校」とさくら。
「そうだな。もうそろそろいかないと初日から遅刻になっちまうしな」
「えーそれだけはいやっ、あーでもーいきなり二人で入ってたら怪しまれるかな?」
何でそういう話する時にすげー意地悪そうな顔するんだよ。普通の顔してくれ。
「はぁ……、先行くから」
俺はそういうと校門めがけてもうダッシュしてみた。
「待って! 一緒に行くって約束!」
さくらが走って追っかけてくる。女子にしては結構速いな。
だが俺だって足には自信がある。そうやすやすと追いつかれはしないのさ。俺はまだまだ余裕があることを確認したところで後ろ向きに走ってみせる。
しかし、その軽はずみな行動がこの後予期せぬ出来事を招く要因として充分なものであったことが明らかになるのだった。
予期せぬ出来事が起こるのはほんの数十秒後のことだった……。
プロフィール
- 凍空 瑛
- 最近時間がなくて書けていませんでしたが、また時間ができたので、再開しました。どうぞ、よろしくお願いします。
ブログもやってるので、暇ならどぞ、寄っててください。
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