1.俺の嫁はお姫様
第六幕
宙に浮かせる小学生
「ドスッ!」
「きゃうっ!」
やばっ、死んじゃってないよな?
どうやら前の方を歩いていた何かにぶつかってしまったらしい。
……うん、大丈夫そうだ。でもこれ人間かな。小動物みたいな声が聞こえ たからもしかしたら猫か猿の類かもしれん。
だがぶつかった時に感じた質量からすれば人間のはず……。
まあいい、この際小動物でも構わない。なるたけ早く謝って学校へ行こう。
「すみません、大丈夫ですか――」
俺が謝罪の言葉をかけると同時に、何かの力によって俺は宙に浮いた……。
どうして浮いているのだろう? というか人間の体ってこうも簡単に飛んだりするもんなのか。ついでに言うとお腹がもの凄くいたいんだが……。
おそるおそるお腹の部分に目線を向けると――――ボフッ、と地面に落ちた。俺がそのまま地面で腹を押さえ倒れていると、頭上から不機嫌な声がした。
「朝からこの杏ちゃんに決闘を申し込んでくるからどんな奴と思ったら、大したこと無いの」
声のする方を向こうと首だけを上に向けると、
「あ、縞パン――」
再び猛攻撃に。やめろっ、これ以上続けられたら死んじまう。
「う、え、あ、ご、ごめん、ごめんなさい!」
これ以上はできないんじゃないかってぐらいボコボコにされる俺。
「まぁいいですなの。で? こんなに弱いのにどうして決闘なんて申し込んできたんですなの?」
でもってボコした後は意味不明なことを言いやがる。
この杏って名乗る少女は小柄で小学生みたいだった。ロリ属性といったものをお持ちの方にはさぞ人気が出ることだろう。制服からすると高校生らしいけど。
ふむ……高校生って言うともっとこう、出るとこがでてだな。見とれてしまうようなオーラというか雰囲気があってもいいと思うんだが……駄目だ。まったく感じられん。
きっと小学生がコスプレしてるんだな。
「別に決闘だなんて大それたことはしようとしてないから。俺はただ学校に遅刻しそうで走っていたら君にぶつかっちゃっただけだ」
「え? それ本当なの?」
ポカーんとした顔つきになったかと思えば、杏は急にしおらしい表情になってしまった。コスプレ小学生も大変なんだな。
「うん、本当」
「はぁー、またやっちゃたなの……最近よく間違えちゃうなの。わたし背が小さいからよく人にぶつかられるなの。きっと私が上手に見えないなの。それで決闘しに来たんだと勘違いしちゃうなの……」
なのなのうるせぇが、相手は小学生だ。抑えろ光司。
いらいらする気持ちを抑えて、自分の気持ちとは裏腹に杏という少女に優しさを与えてやることに。
優しさあげるってのはだな……何かこいつ、苦労してそうだからな。
俺は今時の小学生がここまで気負う必要はないということで、少しフォローしてやることに。
「いや、途中までは普通の会話に聞こえたんだが、どうしてそれが決闘に結び付く? それにお前さんが小さいのも未熟なのも仕方がないことだろう」
「ふぇ? わたしそんなこと言ってないよ? それに見ての通りの高校生なんだけどなの」
いやいや、何でそんなびっくりした顔するかな。小学生相手って大変なんだな。会話もできやしねえじゃねぇか。何が高校生だ。どうみても小学生にしか見えねえのに。
俺が杏さんの対応に困っていると、遠目で見ていたのかさくらがやってきた。
「光司いま空飛んでたよね? この子がやったの? ねぇ、すごくない?」
「だぁー、もう話がややこしくなるからさくらは黙ってろ!」
だがこのタイミングは絶妙だ。さっさとこの奇妙な小学生から離れたいからな。
「えーひどーーい。困ってたみたいだから助けてあげようと思ったのに」
おい、腕を胸の前に寄せてぶりぶりするのもやめてくれ。が、言葉には出さない。今は俺にとって有利なことをしてくれてるんだ。
これくらいのことは心の広い俺が許してやる。
「おう、サンキュー」
「お二方、痴話げんかはよくないの」
「してねぇよ!」「あなたのせいでしょ!」
駄目だ。さくらをこいつに絡ませてはいけない。そう思ったんだが――、
「じゃあ私はこれで失礼するの」
何とあっさりと引き上げてくれた。それがあまりにもあっさりすぎたので、俺は何となく引き止めてしまった。
「ちょっと待てよ」
杏はちょいっとこちらに顔を向ける。
「あのさ、お前飛び級でもしてきたのか?」唐突に出た言葉はこれだった。
彼女は俺に顔を近づけて大きな声ではっきりと言った。
「普通の高校生なんですけど、まだいいますかなの!」
え……?
いやいやいや、気を取り直して次は別の質問に。
「んなわけねぇだろ。姉ちゃんとかの代わりに学校来てるのか?」
「むむむむむ、それ以上馬鹿いうと怒っちゃうなの」
すごい怒りようだ。もしかしたらさっきみたいに……。
さっき? さっき俺はどうなったんだ? 確か何かに腹をへこまされて、それで……。
思い出した。というより何で忘れてたんだ。むしろこの杏とかいう奴に吹っ飛ばされたのが出会いだったはず。
ん……ボコボコにされた時に記憶がロストしたか、ありえないことに順応したくなかったんだな、きっと。
「なあ、お前さっき俺のことふっ飛ばしたか?」
事実は確認しておこうと本人に訊いてみるのだが、宙に浮いた感覚が戻ってきてしまい、少し震えながらになってしまった。
「そうですよなの。でもぶつかってきたのはあなたの方が先なの」
さっき怒ってたのが嘘のようにすがすがしく答えてきやがった。俺としては良いことなんだけどな。
「そうだったな……すんません」
「うむなの、よろしいなの」
「あんた、名前は?」
後で名簿を確認してやろうと思って訊いてみたのだが、
「そういうのは自分から名乗るものですの」
どうやら変な意地があるらしい。俺は大人だからこんなことは気にしない。
「分かったよ。俺は光司。改めて聞くよ。君の名前は?」
「桜井杏なの、でももう会う機会もないと思うので覚えておかなくていいなの」
「うん、分かった」
よしっ、これで確認ができる。
「それと、呼び捨ては気持ち悪いの! 『様』か『殿』かどっちでもいいからつけるの!」
こいつ……絶対に餓鬼だろ。今ので確信が持てた。学校に着いてからやることができちまったな。
俺が思っていることなんてこれっぽちも分かっていないであろう杏は、堂々とした姿勢を保ち学校方面へ歩いていってしまった。
隣に視線を戻すと顔から五センチぐらいの所にさくらの顔があった。何故だか俺の顔をじーっと見詰めている。あまりその手のことに慣れていない俺は思わず体を遠くへ反らしてしまう。
「近い、近いから!」深呼吸、深呼吸。
そんな俺を他所にさくらは頬を膨らませてプンスカ怒っていた。
「光司は出会った女の子みんなに名前を聞くのかな?」
「……」
「エロざる」
俺は何も言い返せなかった。確かに今日は少し調子に乗りすぎていたのかもしれない。詩織さんといい、さくらといい、杏いい、俺は今日三人も知り合いができてしまった。でも、さくらの時はさくらから聞いてきたよな……。
言い返す気にもならないから何も言わないが、言ってもどうせ無駄だしな。でも言い返えせないのも癪だしな。などと考えを巡らせていると、ちょうどというか運良く予令のチャイムが聞こえた。俺はこの好機を逃すものかと、
「じゃあ、またあとで!」
と告げ、走って教室に向かった。後ろから「ちょ、待ちなさいよ」などと聞こえるが構っていられるものか。でもまさか、この後あんなことになるなんて思いもしなかった。
「きゃうっ!」
やばっ、死んじゃってないよな?
どうやら前の方を歩いていた何かにぶつかってしまったらしい。
……うん、大丈夫そうだ。でもこれ人間かな。小動物みたいな声が聞こえ たからもしかしたら猫か猿の類かもしれん。
だがぶつかった時に感じた質量からすれば人間のはず……。
まあいい、この際小動物でも構わない。なるたけ早く謝って学校へ行こう。
「すみません、大丈夫ですか――」
俺が謝罪の言葉をかけると同時に、何かの力によって俺は宙に浮いた……。
どうして浮いているのだろう? というか人間の体ってこうも簡単に飛んだりするもんなのか。ついでに言うとお腹がもの凄くいたいんだが……。
おそるおそるお腹の部分に目線を向けると――――ボフッ、と地面に落ちた。俺がそのまま地面で腹を押さえ倒れていると、頭上から不機嫌な声がした。
「朝からこの杏ちゃんに決闘を申し込んでくるからどんな奴と思ったら、大したこと無いの」
声のする方を向こうと首だけを上に向けると、
「あ、縞パン――」
再び猛攻撃に。やめろっ、これ以上続けられたら死んじまう。
「う、え、あ、ご、ごめん、ごめんなさい!」
これ以上はできないんじゃないかってぐらいボコボコにされる俺。
「まぁいいですなの。で? こんなに弱いのにどうして決闘なんて申し込んできたんですなの?」
でもってボコした後は意味不明なことを言いやがる。
この杏って名乗る少女は小柄で小学生みたいだった。ロリ属性といったものをお持ちの方にはさぞ人気が出ることだろう。制服からすると高校生らしいけど。
ふむ……高校生って言うともっとこう、出るとこがでてだな。見とれてしまうようなオーラというか雰囲気があってもいいと思うんだが……駄目だ。まったく感じられん。
きっと小学生がコスプレしてるんだな。
「別に決闘だなんて大それたことはしようとしてないから。俺はただ学校に遅刻しそうで走っていたら君にぶつかっちゃっただけだ」
「え? それ本当なの?」
ポカーんとした顔つきになったかと思えば、杏は急にしおらしい表情になってしまった。コスプレ小学生も大変なんだな。
「うん、本当」
「はぁー、またやっちゃたなの……最近よく間違えちゃうなの。わたし背が小さいからよく人にぶつかられるなの。きっと私が上手に見えないなの。それで決闘しに来たんだと勘違いしちゃうなの……」
なのなのうるせぇが、相手は小学生だ。抑えろ光司。
いらいらする気持ちを抑えて、自分の気持ちとは裏腹に杏という少女に優しさを与えてやることに。
優しさあげるってのはだな……何かこいつ、苦労してそうだからな。
俺は今時の小学生がここまで気負う必要はないということで、少しフォローしてやることに。
「いや、途中までは普通の会話に聞こえたんだが、どうしてそれが決闘に結び付く? それにお前さんが小さいのも未熟なのも仕方がないことだろう」
「ふぇ? わたしそんなこと言ってないよ? それに見ての通りの高校生なんだけどなの」
いやいや、何でそんなびっくりした顔するかな。小学生相手って大変なんだな。会話もできやしねえじゃねぇか。何が高校生だ。どうみても小学生にしか見えねえのに。
俺が杏さんの対応に困っていると、遠目で見ていたのかさくらがやってきた。
「光司いま空飛んでたよね? この子がやったの? ねぇ、すごくない?」
「だぁー、もう話がややこしくなるからさくらは黙ってろ!」
だがこのタイミングは絶妙だ。さっさとこの奇妙な小学生から離れたいからな。
「えーひどーーい。困ってたみたいだから助けてあげようと思ったのに」
おい、腕を胸の前に寄せてぶりぶりするのもやめてくれ。が、言葉には出さない。今は俺にとって有利なことをしてくれてるんだ。
これくらいのことは心の広い俺が許してやる。
「おう、サンキュー」
「お二方、痴話げんかはよくないの」
「してねぇよ!」「あなたのせいでしょ!」
駄目だ。さくらをこいつに絡ませてはいけない。そう思ったんだが――、
「じゃあ私はこれで失礼するの」
何とあっさりと引き上げてくれた。それがあまりにもあっさりすぎたので、俺は何となく引き止めてしまった。
「ちょっと待てよ」
杏はちょいっとこちらに顔を向ける。
「あのさ、お前飛び級でもしてきたのか?」唐突に出た言葉はこれだった。
彼女は俺に顔を近づけて大きな声ではっきりと言った。
「普通の高校生なんですけど、まだいいますかなの!」
え……?
いやいやいや、気を取り直して次は別の質問に。
「んなわけねぇだろ。姉ちゃんとかの代わりに学校来てるのか?」
「むむむむむ、それ以上馬鹿いうと怒っちゃうなの」
すごい怒りようだ。もしかしたらさっきみたいに……。
さっき? さっき俺はどうなったんだ? 確か何かに腹をへこまされて、それで……。
思い出した。というより何で忘れてたんだ。むしろこの杏とかいう奴に吹っ飛ばされたのが出会いだったはず。
ん……ボコボコにされた時に記憶がロストしたか、ありえないことに順応したくなかったんだな、きっと。
「なあ、お前さっき俺のことふっ飛ばしたか?」
事実は確認しておこうと本人に訊いてみるのだが、宙に浮いた感覚が戻ってきてしまい、少し震えながらになってしまった。
「そうですよなの。でもぶつかってきたのはあなたの方が先なの」
さっき怒ってたのが嘘のようにすがすがしく答えてきやがった。俺としては良いことなんだけどな。
「そうだったな……すんません」
「うむなの、よろしいなの」
「あんた、名前は?」
後で名簿を確認してやろうと思って訊いてみたのだが、
「そういうのは自分から名乗るものですの」
どうやら変な意地があるらしい。俺は大人だからこんなことは気にしない。
「分かったよ。俺は光司。改めて聞くよ。君の名前は?」
「桜井杏なの、でももう会う機会もないと思うので覚えておかなくていいなの」
「うん、分かった」
よしっ、これで確認ができる。
「それと、呼び捨ては気持ち悪いの! 『様』か『殿』かどっちでもいいからつけるの!」
こいつ……絶対に餓鬼だろ。今ので確信が持てた。学校に着いてからやることができちまったな。
俺が思っていることなんてこれっぽちも分かっていないであろう杏は、堂々とした姿勢を保ち学校方面へ歩いていってしまった。
隣に視線を戻すと顔から五センチぐらいの所にさくらの顔があった。何故だか俺の顔をじーっと見詰めている。あまりその手のことに慣れていない俺は思わず体を遠くへ反らしてしまう。
「近い、近いから!」深呼吸、深呼吸。
そんな俺を他所にさくらは頬を膨らませてプンスカ怒っていた。
「光司は出会った女の子みんなに名前を聞くのかな?」
「……」
「エロざる」
俺は何も言い返せなかった。確かに今日は少し調子に乗りすぎていたのかもしれない。詩織さんといい、さくらといい、杏いい、俺は今日三人も知り合いができてしまった。でも、さくらの時はさくらから聞いてきたよな……。
言い返す気にもならないから何も言わないが、言ってもどうせ無駄だしな。でも言い返えせないのも癪だしな。などと考えを巡らせていると、ちょうどというか運良く予令のチャイムが聞こえた。俺はこの好機を逃すものかと、
「じゃあ、またあとで!」
と告げ、走って教室に向かった。後ろから「ちょ、待ちなさいよ」などと聞こえるが構っていられるものか。でもまさか、この後あんなことになるなんて思いもしなかった。
プロフィール
- 凍空 瑛
- 最近時間がなくて書けていませんでしたが、また時間ができたので、再開しました。どうぞ、よろしくお願いします。
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