1.俺の嫁はお姫様
第七幕
情報って恐い
教室につくと俺は、笠野と前原をさがす。
俺は運がよくて、高二のクラス替えで仲の良かった友達とはぐれずにすんだ。友達の名前は笠野翔に前原亮。二人とも高一から仲良くなった友達だ。
「翔~、亮~……おっかしいな、何処行ったんだあいつら」
今日の朝の出来事を話してやろうと思ったんだが、見つからない。人がせっかく転校生の情報を持ってきてやったというのに、失礼なやつらだ。
二人を捜していると、クラスに騒がしい竜巻がやってきた。
「お~い! 大ニュース、大ニュース」
「何? どうしたって?」
クラスの誰かが反応したようだ。俺も便乗してみる。どうせ今日の転校生のことだろう。
もちろん俺にはそのことについてよく知っている。何せ朝学校を一緒に来たからだ。これで知らないとか言ったら脳の作りが間違っているのだろう。
だから便乗なんてそんなことをする必要はないのだが、知っているような素 振りは見せない方がいいだろう。何を言われるか分かったもんじゃないからな。それを見越しての行動だ。
皆どんな知らせがあるのか聞きたいらしく、教室は急に静かになっていた。
「いや、その、そんなに静まりかえられると緊張しちゃうんだけど」
静まり返った教室の中で一人ポツンと教卓付近に立っているのは、新聞部のエース峰綾乃こと峰っちだ。そんなに親しい仲ではないが皆がそう呼ぶので『峰っち』と呼んでいる。
髪は一つに結ってポニーテールにしている。これが一番動きやすいらしい。新聞部は情報収集のために学校にいる間は忙しなく動き回っている。彼女の話によると放課後も情報収集をしているらしい。
内緒にしてくれとのことだが、見つかったらストーカーだの痴漢だの、さまざまな汚名を被せられるに違いないだろう。
一番の売りは彼女の持ってくるネタは外れがないということだ。今のところ五十の情報のうち五十の情報が的確なものであったとのこと。
いつもいつもお疲れ様。
でも今回のスクープだけは俺が先に知っちゃたんだよな。何だか優越感に浸っちまうよな。
「おいおい、じらすなって早く教えろよ」
情報欲しさに自棄になる生徒も多数。そろそろ限界なんじゃねーの?
しかし峰っちは、ニヤッと笑ってみせて、
「今回のネタはすごいよ!」
などと、まだ皆をはぐらかしていた。
「分かったから早くしろ~」
野次が飛ぶ。いつもこれくらい焦らしてるのか。ミリオネアでも見てる気分になってきたぜ。
焦らせまくったからにはそれ相応のリスクがある。峰っちのことだからその辺りはちゃんと噛み熟し(かみこなし)ていると思うが、果たして大丈夫なのだろうか。
クラスメイトをやきもきさせておちょくるのに飽きたのか、峰っちはいよいよ本題に入ろうとしていた。
「なんと……」
クラス全員が注目してくれたことを確認しているようだ。瞳が目の両端を行ったり来たりしてる。
「なんと?」
一同が峰っちに集まってハモっていた。緊張の中峰っちは言い聞かせるようにして約言した。
「転校生が来るそうなのよ! しかも女の子! プラス……」
続きがあるようだ。
「プラス?」
また皆して聞き返してるし……。峰っち嬉しそうだな。
教室の隅の方で一連の流れを聞いていた俺の方を峰っちがちらっとだけ見た気がした。
ん? 今目が合ったような気がしたんだが……。何でまだこっち見てるんだろ? そんな目で見るなよ。
「ふふ、見るなよと言われましてもな。まぁいいわ」
――ッ! 俺の心、読まれないか? あいつ、こんな特技も持ってたのかよ……。
いたたまれない気持ちになったので、取り敢えず俺が口を挟んでみる。
「あのさ、プラス何?」
もちろん俺は知っているのだがね。
しかし、峰っちの口から出てきた号外は爆弾仕込みの特ダネだった……。
「うん、それはね……プラス、もう彼氏がいるようなの、この学校に!」
「……は?」
クラスの皆様は唖然だ。もちろん俺も口をポカンと開けたままになっていた。
そりゃそうだろ。その反応が今の場面では一番自然かつ的確だと思うぜ。俺の人生経験だと中学、高校で同じクラスに転校してきた子に同じ学校の彼氏がいるなんてそんな馬鹿な………………?
あれ? 何か峰っち俺のことずっと見てない? そんな、俺は別に、そう、ただ一緒に来ただけ。彼氏って間違えられたら嬉しいけど、いやいや馬鹿なことを考えるな。他に彼氏がいたんだ。そうに違いない。ま、まさか朝一緒に来たからってそんな……。
いや待てよ、結構会話も弾んでたよな? 峰っちはそういうの勘違いだと知ってても面白いからっていう理由で…………駄目だ。逃げるしかない。
俺がそっと席を立ってドアの方へとすり足で移動している途中で――――――、
「ねぇ? 葉山光司く~ん?」
はい、もうダッシュ。俺は急いで教室の出入り口であるスライド式のドアをガッと手で開けバンッと足で閉める。その後は屋上を目がけて一目散に走った。
屋上の鍵をしめて閉じこもる寸法だ。
後ろを振り向いて追尾人数を確認。追っ手は十人ほどだろうか。これなら巻けるな。そう思って俺はスピードを上げて階上にあがり次の階の階段は登らずに、廊下を走る。そのまま別館へと続く連絡通路を一目散に走る。
角は一カ所しかないので逃げ道はほぼ直線。後ろから凄まじい勢いで追いかけてくる奴らの顔がよく見える。
だが俺は脚だけは自信がある。例えこの中に陸上部がいようがいまいが、必ず逃げ切ってみせる。角を曲がると温存していた体力を一気に消耗させる。ここで巻けなければ俺の負けだ。
俺は運動不足で鈍った足を必死に動かす。チーターには敵わないが、そこそこのスピードは出ているはず……。
最終加速をしてからは、後ろなど見なかった。というか加速したはずなのに逆に追っ手との距離が縮まっていたらそれにショックを受けて色々と大変なことになる。
速く、速く。気付けば俺は別館の階段を登り終えていた。先程までいたチェイサーも姿が見えない。
俺は考えた。そもそも俺は何で逃げてしまったんだろう? 教室に残っていれば言い訳ぐらいできたんじゃないか。冷静になってみるとなんだか今の自分の行動が馬鹿バカしく思えてくる。絵美にも勘違いされたかな?
いや、絵美にも好きな人がいるみたいだし、ちょうど良い機会かもしれない。それよりもさくらの調子に乗った顔が頭に浮かんできてちょっとした敗北感が芽を出してきた。
「……戻るか」
追っ手が来ている内は鬱陶しいと思うのだが、いざ誰もいなくなってしまうと何だか見捨てられた気分になる。これは初めての経験だ。良い教訓になったと受け取って前向きに捉えよう。
そして俺は疲れ切った足を引き摺る様にして、何だかどうでもよくなりながら心寂(うらさび)れた教室へと続く道を折り返すことにした。
俺は運がよくて、高二のクラス替えで仲の良かった友達とはぐれずにすんだ。友達の名前は笠野翔に前原亮。二人とも高一から仲良くなった友達だ。
「翔~、亮~……おっかしいな、何処行ったんだあいつら」
今日の朝の出来事を話してやろうと思ったんだが、見つからない。人がせっかく転校生の情報を持ってきてやったというのに、失礼なやつらだ。
二人を捜していると、クラスに騒がしい竜巻がやってきた。
「お~い! 大ニュース、大ニュース」
「何? どうしたって?」
クラスの誰かが反応したようだ。俺も便乗してみる。どうせ今日の転校生のことだろう。
もちろん俺にはそのことについてよく知っている。何せ朝学校を一緒に来たからだ。これで知らないとか言ったら脳の作りが間違っているのだろう。
だから便乗なんてそんなことをする必要はないのだが、知っているような素 振りは見せない方がいいだろう。何を言われるか分かったもんじゃないからな。それを見越しての行動だ。
皆どんな知らせがあるのか聞きたいらしく、教室は急に静かになっていた。
「いや、その、そんなに静まりかえられると緊張しちゃうんだけど」
静まり返った教室の中で一人ポツンと教卓付近に立っているのは、新聞部のエース峰綾乃こと峰っちだ。そんなに親しい仲ではないが皆がそう呼ぶので『峰っち』と呼んでいる。
髪は一つに結ってポニーテールにしている。これが一番動きやすいらしい。新聞部は情報収集のために学校にいる間は忙しなく動き回っている。彼女の話によると放課後も情報収集をしているらしい。
内緒にしてくれとのことだが、見つかったらストーカーだの痴漢だの、さまざまな汚名を被せられるに違いないだろう。
一番の売りは彼女の持ってくるネタは外れがないということだ。今のところ五十の情報のうち五十の情報が的確なものであったとのこと。
いつもいつもお疲れ様。
でも今回のスクープだけは俺が先に知っちゃたんだよな。何だか優越感に浸っちまうよな。
「おいおい、じらすなって早く教えろよ」
情報欲しさに自棄になる生徒も多数。そろそろ限界なんじゃねーの?
しかし峰っちは、ニヤッと笑ってみせて、
「今回のネタはすごいよ!」
などと、まだ皆をはぐらかしていた。
「分かったから早くしろ~」
野次が飛ぶ。いつもこれくらい焦らしてるのか。ミリオネアでも見てる気分になってきたぜ。
焦らせまくったからにはそれ相応のリスクがある。峰っちのことだからその辺りはちゃんと噛み熟し(かみこなし)ていると思うが、果たして大丈夫なのだろうか。
クラスメイトをやきもきさせておちょくるのに飽きたのか、峰っちはいよいよ本題に入ろうとしていた。
「なんと……」
クラス全員が注目してくれたことを確認しているようだ。瞳が目の両端を行ったり来たりしてる。
「なんと?」
一同が峰っちに集まってハモっていた。緊張の中峰っちは言い聞かせるようにして約言した。
「転校生が来るそうなのよ! しかも女の子! プラス……」
続きがあるようだ。
「プラス?」
また皆して聞き返してるし……。峰っち嬉しそうだな。
教室の隅の方で一連の流れを聞いていた俺の方を峰っちがちらっとだけ見た気がした。
ん? 今目が合ったような気がしたんだが……。何でまだこっち見てるんだろ? そんな目で見るなよ。
「ふふ、見るなよと言われましてもな。まぁいいわ」
――ッ! 俺の心、読まれないか? あいつ、こんな特技も持ってたのかよ……。
いたたまれない気持ちになったので、取り敢えず俺が口を挟んでみる。
「あのさ、プラス何?」
もちろん俺は知っているのだがね。
しかし、峰っちの口から出てきた号外は爆弾仕込みの特ダネだった……。
「うん、それはね……プラス、もう彼氏がいるようなの、この学校に!」
「……は?」
クラスの皆様は唖然だ。もちろん俺も口をポカンと開けたままになっていた。
そりゃそうだろ。その反応が今の場面では一番自然かつ的確だと思うぜ。俺の人生経験だと中学、高校で同じクラスに転校してきた子に同じ学校の彼氏がいるなんてそんな馬鹿な………………?
あれ? 何か峰っち俺のことずっと見てない? そんな、俺は別に、そう、ただ一緒に来ただけ。彼氏って間違えられたら嬉しいけど、いやいや馬鹿なことを考えるな。他に彼氏がいたんだ。そうに違いない。ま、まさか朝一緒に来たからってそんな……。
いや待てよ、結構会話も弾んでたよな? 峰っちはそういうの勘違いだと知ってても面白いからっていう理由で…………駄目だ。逃げるしかない。
俺がそっと席を立ってドアの方へとすり足で移動している途中で――――――、
「ねぇ? 葉山光司く~ん?」
はい、もうダッシュ。俺は急いで教室の出入り口であるスライド式のドアをガッと手で開けバンッと足で閉める。その後は屋上を目がけて一目散に走った。
屋上の鍵をしめて閉じこもる寸法だ。
後ろを振り向いて追尾人数を確認。追っ手は十人ほどだろうか。これなら巻けるな。そう思って俺はスピードを上げて階上にあがり次の階の階段は登らずに、廊下を走る。そのまま別館へと続く連絡通路を一目散に走る。
角は一カ所しかないので逃げ道はほぼ直線。後ろから凄まじい勢いで追いかけてくる奴らの顔がよく見える。
だが俺は脚だけは自信がある。例えこの中に陸上部がいようがいまいが、必ず逃げ切ってみせる。角を曲がると温存していた体力を一気に消耗させる。ここで巻けなければ俺の負けだ。
俺は運動不足で鈍った足を必死に動かす。チーターには敵わないが、そこそこのスピードは出ているはず……。
最終加速をしてからは、後ろなど見なかった。というか加速したはずなのに逆に追っ手との距離が縮まっていたらそれにショックを受けて色々と大変なことになる。
速く、速く。気付けば俺は別館の階段を登り終えていた。先程までいたチェイサーも姿が見えない。
俺は考えた。そもそも俺は何で逃げてしまったんだろう? 教室に残っていれば言い訳ぐらいできたんじゃないか。冷静になってみるとなんだか今の自分の行動が馬鹿バカしく思えてくる。絵美にも勘違いされたかな?
いや、絵美にも好きな人がいるみたいだし、ちょうど良い機会かもしれない。それよりもさくらの調子に乗った顔が頭に浮かんできてちょっとした敗北感が芽を出してきた。
「……戻るか」
追っ手が来ている内は鬱陶しいと思うのだが、いざ誰もいなくなってしまうと何だか見捨てられた気分になる。これは初めての経験だ。良い教訓になったと受け取って前向きに捉えよう。
そして俺は疲れ切った足を引き摺る様にして、何だかどうでもよくなりながら心寂(うらさび)れた教室へと続く道を折り返すことにした。
プロフィール
- 凍空 瑛
- 最近時間がなくて書けていませんでしたが、また時間ができたので、再開しました。どうぞ、よろしくお願いします。
ブログもやってるので、暇ならどぞ、寄っててください。
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