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1.俺の嫁はお姫様

第八幕

先生とは厳しいものなんだ

 俺が教室に戻ってドアを開けようとして、手を窪みにかけたところ、右の方から声がした。
「葉山君ではないか。三分の遅刻だぞ」
 俺に遅刻と言ってきたのは我がクラスの担任――島谷麗華先生だ。艶やかな髪は指を入れれば何の抵抗もなくすけるだろう。瞳の色は紅花で色だしをしたような赤色だ。全学年共通で多大な人気力を誇っている。年は聞いたことがないけど、二十代だとみんなで予想を立てている。この人が三十代なら、俺の母さんなんて五十代だよ。
「えっと、これには色々と諸事情がありまして……」
 ドアからは手を放し、迫力負けしてつい弱弱しく答えてしまう。
 こんな俺の大人しく衰弱した姿を見て情けを掛けてくれるのかと少しは期待したのだが、島谷先生にとってこんな小細工は気にするにも値しないようだった。
「何があったか知らないが、遅刻は遅刻だ。転校生もいることだしさっさと教室に入ってくれ」
 この通り。問答無用と言わんばかりの剣幕に一網打尽。
 とここで俺は何か聞き洩らしたことに気づく。今、転校生がいるとか言ったか? 転校生と言えばさっきも随分と俺に迷惑を掛けてくれた奴に心当たりがある。
 別に転校生がいることは知ってる。だが、この場合のいるというのはこのクラスに来るということ。すなわち今この場にいるということ。さて、姿が見えない。どうしたことか。
 ぐるぐると模索しているのあれなので、確認がてら訊いてみることに。
「転校生ってうちのクラスにくるんですか?」
「そうだが。何か問題があるのか?」
 おいおい聞いてねーよ。よりによって何でこのクラスなんだよ。俺はからかわれるために学校に来ているんじゃない!
 はぁ……今日はもう家に帰ろうかな。
 そうだ、それが良い。頭の中ですばやく決断を下した俺は帰るために、
「はい――」
 色々と問題があるから帰らせて下さい、と続けようとした。だが、言葉は続けられることなく、知った声の持ち主に遮られることに。
「問題なんてなんもないよね?」
「……さくら」
 ……帰ろうかと思っていた矢先にはこれだ。まったく、何でお前が俺と同じクラスなんだよ。
 そこにはいつからいたのか、先生の背中に隠れるようにしてさくらが顔を出していたのだ。
「む? 知り合いだったのか? なら話は早い。縷縷川は葉山の隣ってことで。ちゃんと面倒みてあげてくれ」
「いや、ちょっとそれなんすけど――」
「ガラガラッ」
 俺が弁解するのを拒むように教室のドアが開く。先生もさくらも扉を開けてはいない。残る俺は開けるはずもない。
 そう、スライド式の扉は内側にいる者によって開けられたのだ。扉が開いて姿が見えたかと思えばそこに立っていたのは峰っちだった。
峰っちは俺らの方を見てにぃと笑うと教室へ向き直り、でかでかと号外した。
「みんなー、葉山が帰ってきたわよ! しかも転校生も一緒!」
「まじで?」「てかマジ話だったのかよ!」「うそー葉山君ってなにもの?」
 次々と増殖していく誤解。もう手遅れだよな……。その間に先生は目を点にしながら教室を眺め呟いた。
「もう転校生のこと知ってたのか?」
「はい、もちろんですよ! 当然、葉山とできていることも」と、峰っち。
「いや、別にできてるとかそういうんじゃないから! たまたま一緒に学校来ただけだから!」
 俺も負けじと抵抗。
「えー、たまたま一緒に来るっていったって、彼女は転校生よ? 遠距離恋愛してたとかじゃないの?」
 峰っちのありえそうでありえない憶測は本当に勘弁してほしい。誰かがそうだと思ったらどうすんだよ! 否定の意味も込めて俺は力いっぱい抗言する。
「んなわけないだろ! さくらからも何か言ってくれよ!」
 俺がさくらの方に向くと、さくらはどーしよーかなーという表情をする。こんなとこでふざけたらさくらにもデメリットがでてくるんだよ。だから真面目に頼むって。
 しかしここでさくらに何か公言して貰おうとしたことを激しく後悔することになる。
 それは、さくらの口から出た言葉が最悪の展開に繋がるものであったからだ……。
「今日初めて会ったのにいきなり告白されちゃって、私、勢いに負けてオーケーだしちゃって」
 ……おい、今言った内容は一つも当たりがないぞ。
「えー、葉山にそんな度胸があったなんて初耳ね。結構根暗なやつで幼馴染とも最近うまくいってない鈍くて冴えない男ってメモしてあったのに。要訂正ね。ふむふむ、こうね。それで?」
 何? 俺は峰っちの情報内ではそんな風に書かれてたのか? なんだかもう今すぐにここから立ち去りたくなったんですけど。とにかく弁明しないと。
「それで? じゃないから! 今さくらが言ったことは全部ウソ! 俺の落し物をさくらが拾って、さくらがただじゃ返してくれないって言うから学校まで――」
「あなたの話はいいわ。私は転校生に話を聞いてるの」
 ばっさり話を切られてしまった。何なんだよこの人。
 迎撃されてしまいなすすべを無くしてしまった俺はその場にうずくまる始末に。
 だが、時間は俺の味方だった。
 そして、救いの一言が先生から発せられた。
「峰、悪いが先生も時間がおしていてだな、そろそろ教室に入って彼女の自己紹介をさせたいのだが」
 た、助かった……。
「あ、はい。そういうことなら……あとで話聞かせてね! さくらさん!」
 俺の会話も少しは聞いてくれていたのなら良いんだが……そんなことは微塵もなさそうだな。
 いつまでもうずくまっていても使用がないので、のそのそと立ち上がることに。
 ふらふらと教室に入るとほぼ全員席に着いていたので、俺も多少慌てて自分の席に座ることにした。
 今の流れでいくと自己紹介が始まるはずだが、先生がさくらの机と椅子を持ってくるのを忘れたので、さくらとともに空き教室に向かったため、もう少しばかりかかりそうだ。
 机の横にある鞄掛けに鞄を掛けていると、いつ来たのか亮と翔が話しかけてきた。
「なあ、光司。転校生との話詳しく聞かせろよ」と亮。
「そうだよー、あんな美人とどこで知り合ったんだよ! こんど俺にも紹介しろよ」これは翔だ。
「だから、さくらと俺はそんな仲じゃなくて――」
「んなこと言ってる割には名前で呼んでるよな」
 亮が俺の肩に手を回してくるので、俺はそれを振りほどきながら話を続ける。
「ちゃんと話すから、まじめに聞けよ」
「わーってるって! で、どうなの? 付き合ってるの?」翔はみんなと同じことしか言えないのか? それなら少し黙っててくれ。
 まったく、もうちょっと親友ってものを信じてくれてもいいと思うんだが。こいつらにはとことん失望するよ。
「それじゃあ話すぞ」
 俺はこれまでの経緯を多少省略して話した。省略した部分は主に詩織さんとのコンタクトの部分だ。話が大ごとになると困るし、もしかしたらもう会えないかもしれないので話す必要性を感じなかったからだ。
「……だいたい分かった。そうか。二人で歩いているところを峰っちに見られてこんなことになったんだな。峰っちも困った奴だ。大人しくしてれば学年の人気な女子の部類に入れるっていうのに、毎日毎日スクープスクープだもんな。よし、俺からみんなを説得しといてやるよ」
「サンキュー、亮! 俺のために悪いね。助かるよ」
「いや、別にお前のためじゃないぞ。ここで誤解を解いておけば転校生も俺らの彼女候補になるってことだろ? 俺は男子たち皆のためにやるんだ」
 別にそこは俺のためってことでスルーしても良くないか。
「うわー、亮の偽善者発言ひさびさに聞いたよ。俺も次のターゲットは転校生にすることにしたよ。光司、もし今までの話が嘘だったら絶好だかんな」
 翔は俺の頭をポンポンしながらご機嫌のようだった。俺とさくらが何の関係もなかったから嬉しいのだろう。でも、さくらを彼女にって結構しんどいと思うぜ。
 翔は次しくったら百連敗だしな。なにか賭けでもしておくか。ふふ、wiiでも買って貰おうかな。そう考えると失いかけていたテンションも次第に上がってくるというものだ。
「ガラガラッ」
 どうやら先生とさくらが戻ってきたみたいだな。
 運び込まれた机と椅子はさくらがこれから使用するものだ。早めにお近づきになろうとしている輩が何人か手を貸しに席を立っている。その中に翔がいたのは言うまでもない。
「おい、転校生の席を確保するから葉山の隣を一つ空けてくれ!」
 先生も先生で、無茶苦茶やってるし……。手筈通りなのだろうが、納得はいかない。これからずっとこいつの隣というのはすごく面倒な気もする。まあ、面倒なのは後々分かることだと思うが……。
 俺がぶつくさ言っても何も変わることはなく、最終的もくそもなく、俺の隣にさくらが座ることになった。
 ここからは予想通り何だが、転校生ってもんは初日が一番人気があるんだ。だから当然休み時間もクラスの連中に囲まれてわいわい。授業中に話でもすれば貫くような目線がずびずびと刺さりいたたまれない。
 結局、これといった会話もしないで放課後を迎えたのだった。

プロフィール

凍空 瑛
最近時間がなくて書けていませんでしたが、また時間ができたので、再開しました。どうぞ、よろしくお願いします。
ブログもやってるので、暇ならどぞ、寄っててください。
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