碧ちゃんの話
8
そうか。このメイドさんの印象からするとよく考えたと思ったのだが、あの少女の入れ知恵だったらしい。
「だからSPとしてだけじゃなくメイドとしても一流になって、そういう奴らの目を欺けるようにならないといけないんだよ」
それはまた茨の道を行くものだ。
ちらと見た印象に過ぎないが、この人はメイドとしての外観は既に整えられている。SPとしての動きを見せないように出来るようになりさえすれば、ただ護衛対象の背後でメイドに見せかけるだけならば今すぐにでもできるだろう。
だがメイドとして当然の仕事があってもそれをせず、ただ背後に付いているだけ……ではメイドではないことに気付かれる可能性があるし、それをしたとしても拙ければやはり疑われる。
最低限のことが出来ているということに甘んじることなく、より完全を、『お嬢様』の安全の為に努力を惜しまない。見上げた忠誠心だ。
「ってお嬢様が」
あー……うん、成程。
ということは、つまりお嬢様の口車に乗せられたのだろう。この人をメイドにする為の。
それが自分の価値を証明したいというこの人の為に、SPに加えてメイドとしての価値を上乗せさせようとしてなのか、単にメイドとしても使えると便利だというだけなのか、それともメイドとして働かせれば少しでも危険な事から遠ざけられるということなのかはわからないけれど。
或いはその全て……いやその程度は勿論、加えてまだ更に思惑があるのかもしれない。
「本当に、『お嬢様』を信頼してるんだね」
あの少女がこのメイドさんをただ利用しているだけではないことは、昨日のあの姿を見ればわかる。
他の何にも頼る事のなく、そして他人の意志を尊重するというあの態度。
その意志を誘導することはあっても、結局は自分の意志で決めさせるということに変わりはないだろう。
「なんてったって、お嬢様は命の恩人だからな。それに、アタシじゃ見えない物を見せてくれるスゲェ人なんだ」
その表情には自慢のお嬢様に対する敬意と誇らしさが見える。
昨日垣間見たそのままの関係だったらしい、と何故か自分も微笑ましい気持ちになった。
「あ、でもひとつだけ不満があってさ」
そう言って、メイドさんは声を潜めた。
「もう死ぬしかねぇってところを助けて貰ってそれは恩に思ってるんだけどよ、そん時に、アタシと同じ立場になって、本当にもうどうにも出来ないってなったらどうするかって聞いたんだよ。なんて答えたと思う?」
想像してみる。
だが、それが眩しいくらい真っ直ぐな答えだろうという事だけはわかったが、ただ一瞬垣間見ただけで深く理解出来ている筈のない彼女の答えの、正確なところまでの予測などは出来るわけもなかった。
だから、わからないと正直に首を振る。
それを見て、メイドさんはそうだろうとばかりに得意げな顔を見せた。
「舌を噛んで死にますわ、だってさ。他人のことを偉そうに説教しておいて、自分はあっさり死ぬって。しかも終いには、この世界は理不尽に出来ているもんだから覚えとけ、ってさ。ま、正直に答えてくれたのは誠意だったんだろうし、多分、そんなもんだから死ぬとか肩肘張らずに楽に生きろって意味だったんだろうって、今は感謝してるんだけどな」
いや、多分、それは違うと思う。
昨日の、あの真っ直ぐと前だけを見詰めていたあの眼差し。あの瞳でそう言ったのならば、それは舌を噛む以外の方法では死なないということ。少なくとも、そのつもりはないということ。
舌を噛んだからといって死にはしない。
舌の筋肉繊維を噛み切る事で舌が収縮し、それが喉を詰まらせることで窒息死するのだ。
窒息死だから時間が掛かる。その間苦しい思いをすることになるし、その時間で助けられて失敗することもある。
何よりも、死ねるほど強く舌を噛み切るのは覚悟と思い切りが必要で、まして昨日見たあの小さく華奢な顎では、それがあったからといって出来るかどうかは怪しい。
もっと簡単で、楽で確実に死ねる方法など幾らでもあるというのに、それで死ぬという事は、多分。
それ以外の方法では、死ぬ事すら出来なくなる程に追い詰められるまで諦めないと、足掻き続けるという事だろう。
捕らえられ、四肢を押さえつけられ、口以外に自分の自由に出来る部分はない。その時になるまでは。
だが、それを告げる気はなかった。それを知ったこの忠誠心溢れるメイドさんが、どうするのか予想が付かなかったから。
「だからSPとしてだけじゃなくメイドとしても一流になって、そういう奴らの目を欺けるようにならないといけないんだよ」
それはまた茨の道を行くものだ。
ちらと見た印象に過ぎないが、この人はメイドとしての外観は既に整えられている。SPとしての動きを見せないように出来るようになりさえすれば、ただ護衛対象の背後でメイドに見せかけるだけならば今すぐにでもできるだろう。
だがメイドとして当然の仕事があってもそれをせず、ただ背後に付いているだけ……ではメイドではないことに気付かれる可能性があるし、それをしたとしても拙ければやはり疑われる。
最低限のことが出来ているということに甘んじることなく、より完全を、『お嬢様』の安全の為に努力を惜しまない。見上げた忠誠心だ。
「ってお嬢様が」
あー……うん、成程。
ということは、つまりお嬢様の口車に乗せられたのだろう。この人をメイドにする為の。
それが自分の価値を証明したいというこの人の為に、SPに加えてメイドとしての価値を上乗せさせようとしてなのか、単にメイドとしても使えると便利だというだけなのか、それともメイドとして働かせれば少しでも危険な事から遠ざけられるということなのかはわからないけれど。
或いはその全て……いやその程度は勿論、加えてまだ更に思惑があるのかもしれない。
「本当に、『お嬢様』を信頼してるんだね」
あの少女がこのメイドさんをただ利用しているだけではないことは、昨日のあの姿を見ればわかる。
他の何にも頼る事のなく、そして他人の意志を尊重するというあの態度。
その意志を誘導することはあっても、結局は自分の意志で決めさせるということに変わりはないだろう。
「なんてったって、お嬢様は命の恩人だからな。それに、アタシじゃ見えない物を見せてくれるスゲェ人なんだ」
その表情には自慢のお嬢様に対する敬意と誇らしさが見える。
昨日垣間見たそのままの関係だったらしい、と何故か自分も微笑ましい気持ちになった。
「あ、でもひとつだけ不満があってさ」
そう言って、メイドさんは声を潜めた。
「もう死ぬしかねぇってところを助けて貰ってそれは恩に思ってるんだけどよ、そん時に、アタシと同じ立場になって、本当にもうどうにも出来ないってなったらどうするかって聞いたんだよ。なんて答えたと思う?」
想像してみる。
だが、それが眩しいくらい真っ直ぐな答えだろうという事だけはわかったが、ただ一瞬垣間見ただけで深く理解出来ている筈のない彼女の答えの、正確なところまでの予測などは出来るわけもなかった。
だから、わからないと正直に首を振る。
それを見て、メイドさんはそうだろうとばかりに得意げな顔を見せた。
「舌を噛んで死にますわ、だってさ。他人のことを偉そうに説教しておいて、自分はあっさり死ぬって。しかも終いには、この世界は理不尽に出来ているもんだから覚えとけ、ってさ。ま、正直に答えてくれたのは誠意だったんだろうし、多分、そんなもんだから死ぬとか肩肘張らずに楽に生きろって意味だったんだろうって、今は感謝してるんだけどな」
いや、多分、それは違うと思う。
昨日の、あの真っ直ぐと前だけを見詰めていたあの眼差し。あの瞳でそう言ったのならば、それは舌を噛む以外の方法では死なないということ。少なくとも、そのつもりはないということ。
舌を噛んだからといって死にはしない。
舌の筋肉繊維を噛み切る事で舌が収縮し、それが喉を詰まらせることで窒息死するのだ。
窒息死だから時間が掛かる。その間苦しい思いをすることになるし、その時間で助けられて失敗することもある。
何よりも、死ねるほど強く舌を噛み切るのは覚悟と思い切りが必要で、まして昨日見たあの小さく華奢な顎では、それがあったからといって出来るかどうかは怪しい。
もっと簡単で、楽で確実に死ねる方法など幾らでもあるというのに、それで死ぬという事は、多分。
それ以外の方法では、死ぬ事すら出来なくなる程に追い詰められるまで諦めないと、足掻き続けるという事だろう。
捕らえられ、四肢を押さえつけられ、口以外に自分の自由に出来る部分はない。その時になるまでは。
だが、それを告げる気はなかった。それを知ったこの忠誠心溢れるメイドさんが、どうするのか予想が付かなかったから。
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プロフィール
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- 未田 尚(まだ なお)
- 通称
- にゃー
- お仕事募集ちう。
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