碧ちゃんの話
4
途中で千恵理がこちらに身を預けて来たのは、やはり体調がよろしくないからだろう。自分で歩いたのではないとはいえ、揺られて移動させられるのは体にいいとは言い難い。それともこちらの負担を軽くしようとしてくれたのだろうか。
いやむしろ、落ちそうになって体を安定させようとしたのかもしれない。掛け声を掛けなければ女性一人抱え上げる事も出来ない非力さでは、身を任せるのが不安になってしまっても仕方がない。
「ありがとう……重かったでしょ?」
「いや、そんなことはないよ」
流石に人ひとり分の体重だ。軽かったとは言えないが、非力な自分でも抱き上げて運ぶことが出来たのだ。重いという程ではない。
口の中の気持ち悪さに体調を押して歯を磨くことを選んだ千恵理だが、それは我慢できなくなったからであって、それだけ体力が回復したからではない。
いや気持ち悪いと感じるくらいに回復したということではあるが、むしろ無理に移動した分、歯磨きくらいは出来るかもしれないというところまで回復した体力が、その前よりも更に落ち込んでしまったように見えた。
つい先ほどまでは起き上がって水を飲むことも出来なかったのだ。当然と言える。
「一旦戻って寝るか?」
「ここまで……運んで貰ったんだもん。やり遂げて見せる……」
そんなに気にすることはないのに。
だがしかし、休んでからとはいえまた同じことをやるのは大変だろうし、もう一往復することになれば無駄に大変な思いをしただけになってしまう。
そしてなによりも、その間気持ち悪さを我慢しなければならなくなる。
ここまで来てしまった以上、無理を押してでも一度で終わらせたい、というのも無理からぬことだ。
「どうしても無理そうなら言って」
とりあえず、体を支えられずに椅子から落ちたりしないように気を配って置こう。女性が歯を磨いている姿を見ることになるのは気が引けるが、そんなことを言っていられる場合ではない。
あまりそちらに視線を向けないように横目で千恵理の様子に気を配りながら、まず冷凍庫から刻み葱を取り出し、千恵理へ匂いが届かないだろう離れたところへ置いておく。夏の気温に、食べる頃にはちょうどいい具合に自然解凍出来ている筈だ。
その他、食事に必要なものを準備しておく。とは言っても重い物は食べられないし、食べ物の匂いをさせるのも不味いだろうと、火は使わないので本当にある物を用意するだけだ。
千恵理はやはり普通に座っているだけでもつらいのだろう、流しの縁に肘をついてもそもそと歯ブラシを動かしている。肘と言うか、もう脇まで付いて顎を乗せている。
大変そうではあるが、まだ限界というところまで行っている様には見えない。もう少し、様子を見る事にした。
結局、手を出す必要もなく自力で歯を磨き終えた千恵理だが、それで体力を使い果たしてしまったのだろう。口を漱いだ水を流しへと吐き出すと、その縁に突っ伏した姿勢のまま、身動きしなくなった。
「……少し、そのまま休むか?」
下手に動かしても不味いかもしれない。そう考えて聞いてみる。
「これはこれで、つらい」
それはそうだろう。無理な態勢で、安定しているわけでもないから体を支えるのにまた体力を使う。休めているようには見えない。
「歩くのは無理……だよな」
「……お願いします」
それは質問ではなく独り言だったのだが、千恵理はそう返事をした。
まぁ、そうだろう。そうなると抱き起さなければいけないのだが、そこで困った。
千恵理は突っ伏しているので、抱き上げるには先ず体を起こす為に触らないわけにはいかない。肩を掴んで起こそうとしたのだが、腰が据わっていない為に、支え起こすどころかずり落としそうになるだけだった。かと言って脇から肩に手を入れようにも、流しに付いているので入れようがない。
「……ごめん」
他にどうしようもないので、お腹に手を入れて身を起こし、抱え上げた。
先程ので要領を得たのだろう。千恵理は最初からこちらに身を預けてくれたので、随分と運びやすかった。
掛布団を捲ったままだった布団の上へとその千恵理の体を静かに降ろし、横にさせてから布団をかけなおす。
「やっぱりバケツ借りとくべきだった……ごめん」
「いいから休んで」
女性の心理としては仕方のない事だと思う。そのせいで男に体に触れられる羽目になったのは、本末転倒かもしれないが。
いやむしろ、落ちそうになって体を安定させようとしたのかもしれない。掛け声を掛けなければ女性一人抱え上げる事も出来ない非力さでは、身を任せるのが不安になってしまっても仕方がない。
「ありがとう……重かったでしょ?」
「いや、そんなことはないよ」
流石に人ひとり分の体重だ。軽かったとは言えないが、非力な自分でも抱き上げて運ぶことが出来たのだ。重いという程ではない。
口の中の気持ち悪さに体調を押して歯を磨くことを選んだ千恵理だが、それは我慢できなくなったからであって、それだけ体力が回復したからではない。
いや気持ち悪いと感じるくらいに回復したということではあるが、むしろ無理に移動した分、歯磨きくらいは出来るかもしれないというところまで回復した体力が、その前よりも更に落ち込んでしまったように見えた。
つい先ほどまでは起き上がって水を飲むことも出来なかったのだ。当然と言える。
「一旦戻って寝るか?」
「ここまで……運んで貰ったんだもん。やり遂げて見せる……」
そんなに気にすることはないのに。
だがしかし、休んでからとはいえまた同じことをやるのは大変だろうし、もう一往復することになれば無駄に大変な思いをしただけになってしまう。
そしてなによりも、その間気持ち悪さを我慢しなければならなくなる。
ここまで来てしまった以上、無理を押してでも一度で終わらせたい、というのも無理からぬことだ。
「どうしても無理そうなら言って」
とりあえず、体を支えられずに椅子から落ちたりしないように気を配って置こう。女性が歯を磨いている姿を見ることになるのは気が引けるが、そんなことを言っていられる場合ではない。
あまりそちらに視線を向けないように横目で千恵理の様子に気を配りながら、まず冷凍庫から刻み葱を取り出し、千恵理へ匂いが届かないだろう離れたところへ置いておく。夏の気温に、食べる頃にはちょうどいい具合に自然解凍出来ている筈だ。
その他、食事に必要なものを準備しておく。とは言っても重い物は食べられないし、食べ物の匂いをさせるのも不味いだろうと、火は使わないので本当にある物を用意するだけだ。
千恵理はやはり普通に座っているだけでもつらいのだろう、流しの縁に肘をついてもそもそと歯ブラシを動かしている。肘と言うか、もう脇まで付いて顎を乗せている。
大変そうではあるが、まだ限界というところまで行っている様には見えない。もう少し、様子を見る事にした。
結局、手を出す必要もなく自力で歯を磨き終えた千恵理だが、それで体力を使い果たしてしまったのだろう。口を漱いだ水を流しへと吐き出すと、その縁に突っ伏した姿勢のまま、身動きしなくなった。
「……少し、そのまま休むか?」
下手に動かしても不味いかもしれない。そう考えて聞いてみる。
「これはこれで、つらい」
それはそうだろう。無理な態勢で、安定しているわけでもないから体を支えるのにまた体力を使う。休めているようには見えない。
「歩くのは無理……だよな」
「……お願いします」
それは質問ではなく独り言だったのだが、千恵理はそう返事をした。
まぁ、そうだろう。そうなると抱き起さなければいけないのだが、そこで困った。
千恵理は突っ伏しているので、抱き上げるには先ず体を起こす為に触らないわけにはいかない。肩を掴んで起こそうとしたのだが、腰が据わっていない為に、支え起こすどころかずり落としそうになるだけだった。かと言って脇から肩に手を入れようにも、流しに付いているので入れようがない。
「……ごめん」
他にどうしようもないので、お腹に手を入れて身を起こし、抱え上げた。
先程ので要領を得たのだろう。千恵理は最初からこちらに身を預けてくれたので、随分と運びやすかった。
掛布団を捲ったままだった布団の上へとその千恵理の体を静かに降ろし、横にさせてから布団をかけなおす。
「やっぱりバケツ借りとくべきだった……ごめん」
「いいから休んで」
女性の心理としては仕方のない事だと思う。そのせいで男に体に触れられる羽目になったのは、本末転倒かもしれないが。
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プロフィール
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- 未田 尚(まだ なお)
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- にゃー
- お仕事募集ちう。
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