碧ちゃんの話
6
「……お米の匂いがする」
そう言って千恵理が目を覚ましたのと同時に、炊飯器のスイッチが音を立てて保温に切り替わった。
食べ物の匂いを嗅いでも気分が悪くなったりはしないらしい。僅かな時間だったが、それでも寝ている間に大分回復したように見える。
「おはよう」
そう答えながら、炊飯器の蓋を開けた。おかゆがきちんと炊けているのを確認した後、レンゲで掬い味を見る。僅かに舌に感じる米その物の甘さと、塩味。
必要以上にしょっぱい物を美味しいとは言わない。これが二日酔いの朝である今に必要な塩の濃さだ。朝と言うにはすっかり日が昇ってしまっているが。
「うん、おはよう……」
無理をすると逆に大変な思いをすることになると身に染みたのだろう。千恵理は身を起こそうとはせずに、そのまま返事を返して来た。
「食べられる?」
短くそう聞く。
「大分よくなったから……大丈夫だと思う」
その返事を確認してから、おかゆをお椀によそった。
丁度良い塩加減、ではあるが人には好みというものがある。好きに調節できるように、盆に乗せたお椀の横に、小皿に塩を盛って添える。
他には解凍した刻み葱と、深めの小皿に乗せた削り節と醤油の瓶、それと梅干をひとつ添える。
梅干しは、嫌いではないが常備して置く程好きでもない。これも今買って来たものだ。
それからシジミの味噌汁。本当はシジミを買ってこようと思ったのだが、シジミは完全に砂を抜くのは無理だし、その時間もない。
砂を噛むガリという感覚は、ただでさえ心地の良い物ではないのに、体調が悪い時には殊の外つらい物がある。
それくらいなら、手抜きでしかなくてもインスタントの方が良い。
昨日の食事風景を見るに、千恵理も濃い味の方を好むようだが、見たのは定食屋の決まったメニューだけだ。その細かい好みの加減まではわからないし、そうでなくても体調の悪い時には味覚が変わる物だ。
もしもう少し味が濃い方がいいなら、これらの薬味と味噌汁で自分の好きなように調整して貰う方がいいだろう。
箸とスプーンを添えて、食事の支度が整ったのを確認してから、押し入れを開けて冬用の布団を取り出し、畳む。
「起きられる?」
「頑張る……」
よろよろと起き上がろうとする千恵理の背中を、もう今更なので断らずに抱き起こす。
少しの間だけ自分で身を起こして貰っている間に、畳んだ布団を背中を預けられるように宛がった。
この辺りは寒さが厳しいので、冬用の布団は多めに用意してある。千恵理に布団を貸しても、その分くらいはまだ残っていた。
布団にもたれかかった千恵理の体が安定しているのを確認してから、普段座卓替わりに使っている炬燵をその前に置く。
上に乗っていた昨日の飲みの名残は、千恵理が寝ている間に片付けてある。と言っても、洗い物の音で起こしてしまってはいけないので、ただ流しに運んだだけだが。
「どうぞ」
その炬燵の上におかゆの盆を置く。
見た限り、千恵理は歯を磨いていた時よりも随分と回復したようだった。多分、自分でスプーンを持つくらいは出来るだろう。
「ありがとう……いただきます」
千恵理が頭を下げた。
昨日と違って手を合わせないのは、気分的な問題もあるのだろうが、それ以上にそれだけの体力すら惜しいからだろう。
スプーンを持ち、まずはおかゆをそのまま掬い、口へ運ぶ。
気分が悪くなったりはしないかと様子を窺うが、千恵理はほっとしたように息を吐いた。
「優しい味がする……」
だとしたら、それは電源を兼ねたダイヤル式タイマーの他には炊飯と保温とおかゆの切り替えスイッチしかない、三年前には既に型落ちで特売だった炊飯器のお蔭だ。
そのまま二口程おかゆを口に運んだ後、次に味噌汁の椀に手を伸ばす。
一口啜って、
「あー、二日酔いにシジミのお味噌汁……そっかこういうことか……」
何やら納得したように頷いた。
人間、食べたいものがその時体が欲している物だという。
汗をかいた時の塩分然り、体力を使った時の糖分然り。それをその身をもって知ったという事なのだろう。自分にも覚えがある。
そう言って千恵理が目を覚ましたのと同時に、炊飯器のスイッチが音を立てて保温に切り替わった。
食べ物の匂いを嗅いでも気分が悪くなったりはしないらしい。僅かな時間だったが、それでも寝ている間に大分回復したように見える。
「おはよう」
そう答えながら、炊飯器の蓋を開けた。おかゆがきちんと炊けているのを確認した後、レンゲで掬い味を見る。僅かに舌に感じる米その物の甘さと、塩味。
必要以上にしょっぱい物を美味しいとは言わない。これが二日酔いの朝である今に必要な塩の濃さだ。朝と言うにはすっかり日が昇ってしまっているが。
「うん、おはよう……」
無理をすると逆に大変な思いをすることになると身に染みたのだろう。千恵理は身を起こそうとはせずに、そのまま返事を返して来た。
「食べられる?」
短くそう聞く。
「大分よくなったから……大丈夫だと思う」
その返事を確認してから、おかゆをお椀によそった。
丁度良い塩加減、ではあるが人には好みというものがある。好きに調節できるように、盆に乗せたお椀の横に、小皿に塩を盛って添える。
他には解凍した刻み葱と、深めの小皿に乗せた削り節と醤油の瓶、それと梅干をひとつ添える。
梅干しは、嫌いではないが常備して置く程好きでもない。これも今買って来たものだ。
それからシジミの味噌汁。本当はシジミを買ってこようと思ったのだが、シジミは完全に砂を抜くのは無理だし、その時間もない。
砂を噛むガリという感覚は、ただでさえ心地の良い物ではないのに、体調が悪い時には殊の外つらい物がある。
それくらいなら、手抜きでしかなくてもインスタントの方が良い。
昨日の食事風景を見るに、千恵理も濃い味の方を好むようだが、見たのは定食屋の決まったメニューだけだ。その細かい好みの加減まではわからないし、そうでなくても体調の悪い時には味覚が変わる物だ。
もしもう少し味が濃い方がいいなら、これらの薬味と味噌汁で自分の好きなように調整して貰う方がいいだろう。
箸とスプーンを添えて、食事の支度が整ったのを確認してから、押し入れを開けて冬用の布団を取り出し、畳む。
「起きられる?」
「頑張る……」
よろよろと起き上がろうとする千恵理の背中を、もう今更なので断らずに抱き起こす。
少しの間だけ自分で身を起こして貰っている間に、畳んだ布団を背中を預けられるように宛がった。
この辺りは寒さが厳しいので、冬用の布団は多めに用意してある。千恵理に布団を貸しても、その分くらいはまだ残っていた。
布団にもたれかかった千恵理の体が安定しているのを確認してから、普段座卓替わりに使っている炬燵をその前に置く。
上に乗っていた昨日の飲みの名残は、千恵理が寝ている間に片付けてある。と言っても、洗い物の音で起こしてしまってはいけないので、ただ流しに運んだだけだが。
「どうぞ」
その炬燵の上におかゆの盆を置く。
見た限り、千恵理は歯を磨いていた時よりも随分と回復したようだった。多分、自分でスプーンを持つくらいは出来るだろう。
「ありがとう……いただきます」
千恵理が頭を下げた。
昨日と違って手を合わせないのは、気分的な問題もあるのだろうが、それ以上にそれだけの体力すら惜しいからだろう。
スプーンを持ち、まずはおかゆをそのまま掬い、口へ運ぶ。
気分が悪くなったりはしないかと様子を窺うが、千恵理はほっとしたように息を吐いた。
「優しい味がする……」
だとしたら、それは電源を兼ねたダイヤル式タイマーの他には炊飯と保温とおかゆの切り替えスイッチしかない、三年前には既に型落ちで特売だった炊飯器のお蔭だ。
そのまま二口程おかゆを口に運んだ後、次に味噌汁の椀に手を伸ばす。
一口啜って、
「あー、二日酔いにシジミのお味噌汁……そっかこういうことか……」
何やら納得したように頷いた。
人間、食べたいものがその時体が欲している物だという。
汗をかいた時の塩分然り、体力を使った時の糖分然り。それをその身をもって知ったという事なのだろう。自分にも覚えがある。
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プロフィール
- 名前
- 未田 尚(まだ なお)
- 通称
- にゃー
- お仕事募集ちう。
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