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碧ちゃんの話


4

「ヘイ彼氏ぃ、ひとり? こんなとこで何やってんの? 俺とお茶しない?」
 緑が差し出して来た紙コップを反射的に受けとり、中を覗き込む。
 炭酸がはじける、緑色の液体。メロンソーダだ。自分で買って飲むことはないけれど、こういうところで無料飲み放題、と言われると何となく手が出てしまう物。
 いつもそうであるように、自分で選んでもこれを飲んだだろう。
 勿論、緑がそんな事を知っている筈がないから、ただ単純に自分の名前の色の物を選んだというだけなのだろうけれど。
「うん、ありがとう」
 そう言って、ひとくち含む。
 光を透けさせて鮮やかに輝く緑色と口の中で爽やかにはじける炭酸。考えて見れば、このメロンソーダは、太陽を一杯に浴びてうちの辺りを元気に駆け回っている、いつもの緑の姿に似ている。
 自分では気付いていなかったけれど、屋外の真夏の日差しに相当喉が渇いていたのだろう。残りを一気に喉に流し込んでいた。
 氷が入って程よく冷えたメロンソーダが、火照った体を冷ましてくれるのが実感できた。
「お、良い飲みっぷりじゃん。おかわりいる?」
「うん、ありがとう。でも……」
 自分でやるから、と言う前に緑は飲み物のディスペンサーに向かって走っていた。
 よく言えば活動的、悪く言えば落ち着きがない。
 もしかしたら自分のやりたいようにやるというだけで、元よりこちらの意志は気にしていないだけかもしれないが。
「おかわりどうぞぉ」
「ありがとう」
 と受け取って、一瞬止まる。
 黒い。それも本来そうあるべきという黒さではない。色々な物を、規則性なく混ぜ合わせた混沌とした黒。多分、ドリンクバーにある色々なものを掛け合わせて作ったのだろう。
 最早、ベースになったのが何かすらわからない。というか、何がベースだ、といえる程の規則性で作った物ではないのだろう。
「さ、どうぞ」
 緑がそう言って、笑う。
 暫し悩んだが、一口、口に含んだ。元は市販の飲み物なのだ。どれだけ混沌としていようと、毒でだけはないだろう。
 と意を決して飲み込んだところで、そのままでは害は無いのに「混ぜるな危険!」と書かれた洗剤の事を思い出した。
 だからと言って吐き出す事も出来ずに、飲み込む。
「……不味くは、ない?」
 自分で飲んでおきながら、疑問形になってしまったのは仕方がないだろう。緊張……というよりも、覚悟のせいで味はよくわからないが、少なくとも吐き出す程不味くはない事はわかる。
 勿論、混ぜていない元の方が美味しい……元が何かもわからないけれど、少なくとも飲めない……我慢しなければ飲めない、という程でもない。
「え、マジで?」
 ちょっと聞き捨てならない事を言うと、自分が持っていた紙コップを奪って、緑が一口飲んだ。
「……うん、飲めないという程じゃない、けど……いや普通に不味いと思うよ、コレ」
 もしかして、緑は自分では不味いに違いないと思う様な物を飲ませたのだろうか。
 だとしても、飲めないわけではない以上、捨ててしまうのも勿体ない。一口飲んでから手を付けようとしない緑からコップを受け取ると、残りも一気に喉に流し込んだ。
 だからと言って味わって飲みたい物でもない。
「で、緑はどうしてこんなところに?」
 うわマジか、と言いたげな顔の緑を無視してそう聞く。
 自分がここにいるのは言うまでもなく献血の為だ。緑もそれがわかった上で軽口で聞いたのだろう。
 だが、緑にそれはあり得ない。
「ここはガキの来るようなところじゃねぇぜ、って?」
 緑はそう言って笑った。
「いや、そういうことじゃないけど……」
 献血が出来るのは18歳になってからだ。緑の年齢はわからないけれど、少なくとも18歳を超えているようには見えない。
「千恵理と妙から、あの碧に男が出来たって聞いてさ。どんな物好きかって見に来たんだ」
 そういう緑の顔は、どこか呆れ顔だった。
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未田 尚(まだ なお)
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