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碧ちゃんの話


9

「で。結局さぁ、なんでわかったん?」
 緑はその話はもういいだろ、と言いたげに話を戻して来た。
「なんでも何も、緑と碧ちゃんって、あまり似てないでしょ?」
 こちらからすると、何故それを疑問に思うのかの方がわからない。
 だからそう答えると、緑はまた変な顔をした。
「いや、家族でも間違える程度には似てるはずなんだよ」
「そう言われても……」
 実のところ、自分はあまり他人を顔で見分けてはいない。他人のことに興味がないから顔を良く見ようとなどしないし、そもそも良く見ようにも、結局はノイズ混じりの画面越しでしかないのだ。
 わかるのは全体的な大凡の印象、くらいでしかない。それと体格や、この時間にこの場所にいるならこの人だろう、という推測でこの人は誰かというあたりを付けているだけだ。
 だから顔が似ている、と言われても、そう言われてみればそうかも、としか思わない。
 もう一度、緑の顔をまじまじと見て確認してみた。
 急に見詰められて照れたのか、緑が微妙に頬を膨らませてそっぽを向いた。
「うん、やっぱり全然違う……いや、顔は似てるんだろうけど、間違える程じゃないし、それ以外が全然違う」
 そう。碧ちゃんと緑では、全然違う。
 碧ちゃんが孤空の碧だとすれば、緑は自然の緑だろう。それも人を寄せ付けない深い山奥の緑ではない。街中の、人に寄り添う公園の緑だ。人々が癒しを求めて集い訪れる、憩いの場としての公園の緑。
 子供たちが駆け回って遊び、大人たちは木陰で静かに休む。
 たまに落ち葉を撒き散らしたり虫を大量に発生させたり。まるで炭酸が強すぎるメロンソーダの様に人々を困らせたりもするけれど、人はそれを眉を顰めながらも笑って許す。そんな緑。
「どちらかというと、緑は碧ちゃんよりも千恵理の方に似てると思うよ。それに、碧ちゃんも緑より千恵理の方に似てるし」
 勿論、それだってあくまで姉妹が似ていて当たり前という程度で、見間違える程のものではないのだけれど。
「まぁ、だとしてもさ、」
 そう言って誤魔化す様に咳払いした緑は、なんだか嬉しそうに見えた。
「碧のフリしてんじゃなかったら、なんで俺が女装までしてこんなカッコしてると思ってんだよ」
 そう言うと、緑はスカートを誇示する様に裾を腰の辺りにまで持ち上げて見せた。
 正面から見ると、太股の半ばあたりまでが露になる。
 普段の半ズボン姿の方が素肌の見えている面積は大きい筈なのに、こうしてスカート越しに見える太股は、なんだかいけない物を見ている気分にさせた。
「いや、姉妹なんだから服の趣味も似ているのかなと思ってた」
 微妙に視線を逸らしながらそう答えると、緑がまた変な顔をした。
 多分、自分にはこんな女の子らしい服は似合わないと思っているのだろう。
 確かに、献血ルームで会った時も妙さんと一緒にいる時に会った時も、緑は半袖半ズボンの活動的な格好をしていた。それが急にスカートなど履けば、恥ずかしくても仕方ない。
 自分からすれば、手足も首筋も大きく露出している普段の姿の方が、恥ずかしいのではないかと思うのだけれど。
「普段の男の子っぽい格好も似合ってるけど、そういう女の子らしい服も似合っていると思うよ」
 とは言ったけれど、似合っているのは女の子らしい服、であって、この服ではない。
 この服はあくまで碧ちゃんに似合う服であって、緑に似合うのはもっと違う服だと思う。
 活発で竹を割ったような緑に似合うのは、もっとシンプルでオーソドックスで……そう、例えば白いワンピースに麦わら帽子とかはどうだろう。それで緑の草原に立って、走り回るというのが、緑のイメージに合っている気がする。
「いや俺は……」
 と緑は何かを言おうと口を開いて、またそのまま動きを止め、しばらくしてからはぁと息を吐いた。
「……まぁ、別に隠しているわけじゃないけどさ」
 そう言い捨てると、緑は髪の縛ったところを解き、その先の部分を取り外した。どうやらカツラではなく付け毛だったらしい。
 それからジャケットとスカートを脱ぎ捨ててその下に着ていた普段の半袖半ズボン姿になると、背中まで伸びた髪を慣れた手つきでまとめて帽子に押し込み、それをそのまま被った。
 成程、屋内でも帽子を脱がないのは、長い髪が邪魔だからなのだろう。
 流石に碧ちゃんまでではないとはいえ、長く美しい髪をこうして隠してしまっているのは勿体ない気がするけれど。
「ふー。やっぱこの方が涼しいぜ。っていうかさ、碧も絶対我慢してあの格好してるよな。汗ひとつかいてねぇけど」
 そう言われて、一度だけ見た碧ちゃんの服装を思い出す。
 体のラインを見せない、しっかりとした長いスカートと、夏物ではあるのだろうけれど、気軽さを感じさせない、そのまま公式の場にでも出られそうな、しっかりとしたジャケット。
 多分、夏用の涼しい素材を使っているのだろうとは思うのだけれど、それでもあの格好はどう考えても暑いに違いない。
「まぁ、そういうわけでさ。俺達は一卵性の双子なんだよ。だから顔も全くおんなじの筈でさ。なんでかおにぃさんには通じなかったみたいだけど」
 双子という事は同じ年齢なのだろう。タイプが全然違うから、近い年齢だろうとは思っても同じ年には思えなかったけれど。
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未田 尚(まだ なお)
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