碧ちゃんの話
10
自分と同じ顔の人間がいるという事は、どんな気持ちになるのだろうか。
そんな経験のない自分にはそんなことはわからない。わからないけれど、双子の片割れではなく、自分というひとりの人間になりたい……そう思う気持ちは何となくわかる。
こうして男の子のような服装をしているのもその一環なのだろう。女の子らしい碧ちゃんに出来るだけ似ないように、出来るだけ対極になろうとして、この姿を選んだ。
尤も、凛とした碧ちゃんに対してふんわりとした柔らかい女の子らしい女の子になる、など方向性は幾らでもあるのにこの姿を選んだという事は、緑にとってはこの姿が一番自然だという事なのだろう。
「ほら、やっぱり似てないじゃないか」
重ねてそう言われて、緑は何も知らない愚か者を白眼視する様に、真顔になって目を細めた。
この表情になると、確かに碧ちゃんに似ている気がする。
こうしてみると、碧ちゃんはつり目の印象があったけれど、違うとわかる。その凛とした印象と表情から、そう見えているだけなのだと。
「……一卵性って、顔どころか脳の作りも同じってことなんだよ」
だから、同じ事が出来る筈だ。何故出来ないのか。直接言われはしなかったとしても、言外にそういう視線を向けられてきたのだろう。
完全記憶を持つと言われ、妙さんやお嬢様からあの態度を向けられる碧ちゃんと比較されて育ったのならば、とりわけそれを多く感じてきたはずだ。
別の人間と同じ顔をしていること、同じ顔をした相手と同じになれないこと……そのどちらもが緑を苛むものであったことは想像に難くない。
碧ちゃんのふりをする……そしてそれを何度か繰り返しているのだろうことも、その複雑な気持ちに圧されての物なのだろう。
同じ姿をして、同じ言動をしていても違う人間なのだと、誰かに証明して欲しかったのだ。
「人間の遺伝子なんてそんなに違いはしないし、そもそも同じ人間でも強烈な経験ひとつで全然違う人間になっちゃうものだし。まして育ちや教育が違えばね。本人ですらない外側の作りが同じなだけの人間が、それも中に入ってるものがこれだけ違ったら別物以外の何物でもないと思うけどね?」
「わかったようなこと言いやがって」
そう言って頬を膨らませるけれど、その表情は怒っているようではなかった。
多分、今までこんな当たり前のことは言われ慣れているのだろうし、この短い付き合いだけでも緑が考えが回る方なのはわかっているから、自分でもそういう結論に至っているのだろうと思う。
ただ、碧ちゃんと似ているどころかふりをしていたことにも気付かなかった鈍い自分にそう言われた事に、何か感じることがあったのだろう。
特に何か考えがあって言った事ではないけれど、緑にとって何かいい影響があったのならば良かった。
「ああ全く、気が抜けるわ」
溜息を吐くようにそう言い捨てると、緑は積み上げてあった資材の袋の上にどっかりと座り込んだ。
服が汚れるのではないか、と思うけれど、子供たちに交じって外を駆け回る緑にとっては今更なのだろう。
「でも、碧ちゃんに似たくないならその髪の毛は切った方が良いんじゃないの?」
この綺麗な髪を切ってしまうのは勿体ないけれど、緑にとってその方が良いなら引き換えにするほどの理由でもない。
勿体ないけれど。
「実際うっとおしいし、切りたいんだけどさ。実際、一回ブチ切れて婆の見てる前で切って投げつけてやったし」
これそん時の、と緑は付け毛をぶんぶんと振り回して見せた。
緑の綺麗な黒髪に付け足してみても違和感がない、と思っていたが、自分の髪なのならば当然だ。
「そん時の話し合いで、自由にしていい代わりに年末年始とかの行事時だけは女らしくしろってさ。これもその内。破ってまた窮屈になるのもごめんだしな。嫌んなるけど」
そう言いつつも、約束はきちんと守るのは、やはり緑の根が良い子だからだろう。
そんな経験のない自分にはそんなことはわからない。わからないけれど、双子の片割れではなく、自分というひとりの人間になりたい……そう思う気持ちは何となくわかる。
こうして男の子のような服装をしているのもその一環なのだろう。女の子らしい碧ちゃんに出来るだけ似ないように、出来るだけ対極になろうとして、この姿を選んだ。
尤も、凛とした碧ちゃんに対してふんわりとした柔らかい女の子らしい女の子になる、など方向性は幾らでもあるのにこの姿を選んだという事は、緑にとってはこの姿が一番自然だという事なのだろう。
「ほら、やっぱり似てないじゃないか」
重ねてそう言われて、緑は何も知らない愚か者を白眼視する様に、真顔になって目を細めた。
この表情になると、確かに碧ちゃんに似ている気がする。
こうしてみると、碧ちゃんはつり目の印象があったけれど、違うとわかる。その凛とした印象と表情から、そう見えているだけなのだと。
「……一卵性って、顔どころか脳の作りも同じってことなんだよ」
だから、同じ事が出来る筈だ。何故出来ないのか。直接言われはしなかったとしても、言外にそういう視線を向けられてきたのだろう。
完全記憶を持つと言われ、妙さんやお嬢様からあの態度を向けられる碧ちゃんと比較されて育ったのならば、とりわけそれを多く感じてきたはずだ。
別の人間と同じ顔をしていること、同じ顔をした相手と同じになれないこと……そのどちらもが緑を苛むものであったことは想像に難くない。
碧ちゃんのふりをする……そしてそれを何度か繰り返しているのだろうことも、その複雑な気持ちに圧されての物なのだろう。
同じ姿をして、同じ言動をしていても違う人間なのだと、誰かに証明して欲しかったのだ。
「人間の遺伝子なんてそんなに違いはしないし、そもそも同じ人間でも強烈な経験ひとつで全然違う人間になっちゃうものだし。まして育ちや教育が違えばね。本人ですらない外側の作りが同じなだけの人間が、それも中に入ってるものがこれだけ違ったら別物以外の何物でもないと思うけどね?」
「わかったようなこと言いやがって」
そう言って頬を膨らませるけれど、その表情は怒っているようではなかった。
多分、今までこんな当たり前のことは言われ慣れているのだろうし、この短い付き合いだけでも緑が考えが回る方なのはわかっているから、自分でもそういう結論に至っているのだろうと思う。
ただ、碧ちゃんと似ているどころかふりをしていたことにも気付かなかった鈍い自分にそう言われた事に、何か感じることがあったのだろう。
特に何か考えがあって言った事ではないけれど、緑にとって何かいい影響があったのならば良かった。
「ああ全く、気が抜けるわ」
溜息を吐くようにそう言い捨てると、緑は積み上げてあった資材の袋の上にどっかりと座り込んだ。
服が汚れるのではないか、と思うけれど、子供たちに交じって外を駆け回る緑にとっては今更なのだろう。
「でも、碧ちゃんに似たくないならその髪の毛は切った方が良いんじゃないの?」
この綺麗な髪を切ってしまうのは勿体ないけれど、緑にとってその方が良いなら引き換えにするほどの理由でもない。
勿体ないけれど。
「実際うっとおしいし、切りたいんだけどさ。実際、一回ブチ切れて婆の見てる前で切って投げつけてやったし」
これそん時の、と緑は付け毛をぶんぶんと振り回して見せた。
緑の綺麗な黒髪に付け足してみても違和感がない、と思っていたが、自分の髪なのならば当然だ。
「そん時の話し合いで、自由にしていい代わりに年末年始とかの行事時だけは女らしくしろってさ。これもその内。破ってまた窮屈になるのもごめんだしな。嫌んなるけど」
そう言いつつも、約束はきちんと守るのは、やはり緑の根が良い子だからだろう。
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プロフィール
- 名前
- 未田 尚(まだ なお)
- 通称
- にゃー
- お仕事募集ちう。
- 文章を書く関係ならなんでも。
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